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ジュエル!  作者: asobito
マシュメ王国編
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第56話 真夜中の勧誘

2014/4/11 活動報告にも書きましたが、次話以降の更新を不定期とさせて頂きます。


2014/4/11 指摘のあった誤字脱字等を修正しました。

 宿屋に入ったハジメ達は朝も早い事もあり早めに夕食を取る事となった。ハジメ達の無事を祝しての食事会の形となっている。


「それじゃ無事戻って来た事とゴルダシュまで安全な―――」

「っと、その前に」


 モースンの音頭を遮ってノマージが手を上げる。


「何だ? ノマージ」


 不思議そうな顔を見せるモースン。ノマージはニヤリと笑って隣に座るユージスの肩を軽く叩いた。叩かれたユージスは恐る恐る立ち上がると全員の顔を見渡す。


「その……ご、ごめんなさいっ!!」


 ユージスは大きな声で謝ると同時に頭を下げる。勢いよく下げた頭はテーブルに豪快にぶつかり鈍い音を立てた。


「いってぇっ!」


 ユージスが額を抑えて声を上げると、ドッと笑いが起きる。


「???」


 涙目のユージスにモースンが口を開く。


「……まぁ、本当なら拳骨の一つでもお見舞いするところだが、その辺はノマージがしてんだろ?」


 ノマージを見ると「さぁね」と肩を竦めて見せた。


「へっ、まぁいい。坊主はこれからどうするんだ? 帰るならマシュメに行く奴に聞いてみるが?」

「そ、それは……」


 冒険者になる事は諦めていない為、言葉を濁すユージス。するとユージスの肩にノマージがポンと手を置く。


「ユージスはオレが本部まで連れて行くよ」

「「えっ!?」」


 ユージスとウェーナが声を上げる。


「え? 聞いてないんだけど?」

「そりゃ言ってないからな」


 ウェーナの質問に当然といった顔で応える。ユージスは目を丸くしてノマージを見る。


「い、いいのかよ」

「オレは別に構わないさ。元々本部に行くつもりだしな。お前が一緒に行きたいなら連れて行ってやる」

「……つ、連れて行ってくれ!」


 意を決した表情でノマージを見る。ノマージはニカっと笑い頷く。


「おう。そのかわりこっちのいう事は素直に聞けよ」

「わ、わかった!」


 力強く頷くユージス。それを見てノマージはウェーナを見る。


「って訳だから、いいよな?」

「ハァ……。ここまで話決まっちゃったら、今更反対できないわよ」


 ウェーナは頭を抱えながらも賛同した。モースンも話が決まった事を確認して口を開く。


「それじゃよろしく頼む。坊主、これに懲りたら自分勝手な行動で周りに迷惑かけるなよ。冒険者になるならな」

「ああ……じゃなかった。はい!」


 言い直す様子を見てニヤリと笑う。そして周りを見渡してグラスを掲げる。


「よし、それじゃあ改めて。乾杯ッ!」

「「「乾杯ッ!」」」


 各々持っていたグラスを掲げ、食事が始まる。


「ユージス、よかったな」


 ハジメは隣に座るクーネに話し掛ける。


「え?」


 話し掛けられたクーネは慌ててハジメを見る。目が合った瞬間、ボッと顔が赤くなる。


「そ、そうね、よかったわね!」

「だ、だよな」


 慌てて目を逸らすクーネ。ハジメも自分に抱き着いて泣いたクーネを思い出し顔が赤くなった。


「あっ、二人共顔まっかっかだ!」

「はっはっは、初々しいでござるな」


 サニーが楽しそうに二人の顔を指し、兵衛もにこやかに二人を見る。賑やかな食事が夜更けまで続いた。





[とある屋敷]




 廊下を一人の男が歩いている。背が高く細身で長い髪を纏めるわけでも無くダラリと垂らし顔には常に薄ら笑いの様な表情を浮かべている。黒の上下、その上から白衣を着て他には何も身に着けてはいない。手には書類の束を抱え、のんびりとした動きで部屋の扉を開けた。部屋の中は必要最低限の装飾が施されているだけで家具も中央に大きなテーブルと椅子が並ぶだけだった。部屋の奥には扉があり男はその先に用があったが、時間に余裕があったのでここで時間を潰すつもりだった。


「おや、お二人共居るとは珍しい」


 男が部屋に入ると、部屋には二人の人物がいた。銀色の髪に白い肌、青いドレスを着た女と赤い髪に浅黒い肌、赤い革のベストと革のパンツを身に着けた男。この二人がこの部屋に居る事はおかしい事ではなかったが、部屋の状況が異常だった。


「あら、"博士"じゃない。貴方こそ珍しいわね」

「フン、別に居たくてここにいるんじゃねぇんだけどな」


 窓際で椅子に座り爪の手入れをする女は手をヒラヒラ振りながら応え、反対の壁に備え付けられた暖炉の前で寝転がっている男は一瞥すると暖炉へと視線を戻す。


「私はちょっと用がありましてね。……というかこの部屋の状況は何ですか?」


 博士と呼ばれた男は左右にいる女と男を交互に見る。女は窓を全開に開けている。外は大雪で部屋の中にも冷風と共に雪が当然入って来ているが、女はそれを気にする事も無く爪を見ている。冷風も雪も女より部屋の中には入って来ていない。逆に男は暖炉に大量の薪を投入しており、薪も炎も暖炉から大幅にはみ出てしまっている。石造りの部屋でなければとっくに炎上しているだろう。燃え上がった炎は一定の大きさを保ったまま、煙もすべて暖炉の方へと吸い込まれ部屋に煙が充満する事は無かった。


「そっちの寒がり馬鹿に言ってくれない? 部屋が無駄に暑過ぎるのよ」

「はぁ? テメェが無駄に暑がりなんだろうが」

「あ?」

「あぁ?」


 二人がにらみ合うと同時に部屋の空気がピキリと固まる。博士は表情を変える事無く、「やれやれ」と頭を振ると中央にあるテーブルの席に座る。


「まぁ、真ん中は丁度いいんでいいですけどね。暴れるのはやめてくださいよ」

「「フンっ!」」


 博士が言うと二人ともプイっと顔を背ける。博士は笑顔のままテーブルに書類を広げ目を通し始める。しばらく沈黙の時が流れる。


「……ねぇ、博士。私達も何かする事無いかしら?」


 最初に沈黙を破ったのは女だった。


「おう、オレも暇で仕方ねぇんだ。何かねぇか?」


 それに続いて男の方も口を開く。


「お二人共仕事を与えても"やり過ぎる"という事で謹慎中では?」

「「うっ」」


 二人同時に気まずそうに顔を逸らす。


(顔を合わせれば即喧嘩に発展するのは……似た者同士だからなんですかね)


 博士は顔には出さずに二人を考察する。二人は博士と同じ主に仕える言わば同僚と呼べる存在だった。同僚は他にもいるがそれぞれ与えられた仕事を現在進行中なのだが、この二人にはちょっとした問題があった。二人は主に荒事を担当しているのだが、いつもやり過ぎてしまう。例えば"ある人物を消せ"と言う命令を受けたとする。この二人は考えも無くその人物がいる建物ごと消してしまう。実際にそれに近い事を何度もやってもいる。注意したら「ノリで」や「街ごと消してないからいいじゃん」と開き直る始末だったので博士達も頭を抱える羽目になった。その後主から注意を受け謹慎中になっている。


(生憎現在は暴れて良い時期ではないですからねぇ)


 与えられる仕事も思いつかず、どう話を逸らそうかと考えていると勢いよく扉が開いた。


「たっだいま~。ってなんじゃこりゃあ!」


 扉を開けて入って来たのは少年だった。黄色と黒の服と黒の7分丈のズボンを履いており、子供にはとても持てないはずの大きな斧を肩に担いでいた。少年は部屋の状況を見て目を白黒させている。


「あら、カマルじゃない」

「よぉ」


 部屋の異常の元凶である二人は博士の時と同じように挨拶をする。


「カマル、お帰りなさい。部屋の状況は……まぁ説明する必要もないでしょう」

「まぁ……ね」


 両端にいる二人を見て納得した様子のカマルに博士も苦笑いを浮かべる。


「っと、博士。これ渡しに来たんだよ」


 そう言ってカマルは手に持つ斧を博士に渡す。


「おや? この斧は……」


 その斧は博士も見覚えがあった。正確にはこの斧の設計図だったが。


「偶々マシュメのパマウィンって街行った時にコレ持ってる冒険者がいてさ。貰ってきちゃった」


 カマルはニコッと子供らしい笑顔を見せる。博士はその冒険者の事を知っていたので、"貰って"の意味も正確に理解していた。


「たしかバータルとか言う冒険者でしたか」

「知ってるの?」

「ええ、主が"見ていた"様ですよ。まだ生きている様でして、"使えそうだから"と言って主自ら向いました。ついさっきの話ですが」

「ええーーーっ! そうだったんだぁ」


 カマルはガックリと肩を落とす。


「ちゃんと生存を確認して。使えそうなら連れてくる。そこまで出来れば満点でしたね」

「ぐぅ」


 ガックリと頭を下げるカマル。


「あらっ、こんなお子ちゃまにそんな事言うなんて大人気無いわよ」

「そうだな。お子ちゃまにはまだ早えぇだろ」

「お子ちゃま言うなっ!」


 女と男の言葉にカマルは頬を膨らませて怒る。


「そういう所が子供よねぇ」


 女はクスクスと笑いさらに煽る。


「この~っ!」


 飛び掛ろうとするカマルの襟首を掴み博士は呆れた様子で女を見る。


「アナタも大人げないですがね」

「ふ~ん」


 フイっとそっぽを向く女。面倒臭くなってきた博士は女を放置してカマルを見る。


「カマル。この斧ですが、あなたに差し上げます」

「えっ! いいの?」


 女を睨んでいた目がパッと嬉々とした目に変わり博士を見る。


「ええ、回収のご褒美ですね。主の許可も既に取っているので問題無いですよ。ただ、このままでは使い勝手が悪いですから改良しますが、何か注文はありますか?」

「う~~ん。……斧より槍の方がいいかなぁ。あとは~……」


 少し考えた後、カマルは他に大きさなど細かい点で注文を付けた。博士はそれを紙にメモをして大まかな形を書く。


「……なるほど。これは新しく作った方が早いですね。完成には時間が掛かってしまいますが、また数日したら研究所の方へ来てくださいね」

「うん、分かったありがとう」

「さて、主もそろそろ戻って来るでしょう。出迎えますか」

「お、なら俺も行こう」

「私も」


 博士が書類を纏めて部屋を出ようとすると、男と女も立ち上がる。


「言っておきますけど、直談判なんてしないでくださいね?」

「「う」」


 二人揃って動きが止まる。


「な、何言ってんだか。大事な主様を迎えるのは当然だろうが」

「そそそ、そうよね。当然の行動だわ」


 あからさまに目が泳いでいる二人に溜息を吐きながら博士はカマルを見る。


「あなたはどうしますか?」

「ボクも行くよ」

「では行きましょう」


 博士は3人を引き連れて部屋の奥へと続く扉を開けた。





[パマウィン・診療所]




 街の詰所に隣接した診療所、捕えた者の治療を主にする場所で治療が終わると隣の詰所にある留置所に送られる。治療相手が捕らえられた者なので治療費を払える者も少なく、劣悪な環境で働く者も設備も不足し、満足な治療も出来ないような環境だった。と言っても捕えた側としては犯罪者が助からなくても特に問題では無い場合が多いのであまり問題視もしていない。そんな診療所の一室にベッドに拘束された状態のバータルが居た。部屋にはベッドと小さな椅子しか置かれていない。ベッドは扉から一番遠い位置に、窓には鉄格子が填められている。彼がここに来たのは数日前。ハジメの攻撃で全身を殴打し、カマルの一撃で骨を砕かれ、彼は身動き一つとれない状態で運ばれてきた。ベッドに拘束しなくても身動きが取れないのだが、連れてきた衛兵の指示で拘束されている。彼のパマウィンでの行動からすれば当然なのだが。


「…………っ!」


 深夜であるにも拘らずバータルは誰もいない真っ暗な部屋の中で天井を見つめていた。怪我の痛みで寝ていられないからだった。脇腹一帯の骨を悉く折れており深く呼吸をする事も出来ず、喋るのも困難だった。診察した医者は生きているのが不思議だと言っていた。そしてここの設備では治療も無理だと。だが衛兵達が他の診療所へ移す様子が無い。死ぬのを待っているとバータルにもすぐに分かった。


(くそっ! くそっ! なんでこんな目に……クチナ……それにハジメとあの餓鬼……殺してやるっ!!)


 尋常じゃない痛みでも怒りと殺意だけは溢れてくる。むしろそのおかげで痛みに耐えられているのかもしれない。


(オレの邪魔をする奴はみんな殺す殺す殺す殺す殺―――)


 突然部屋の扉がガチャリと開く。深夜に鍵の掛けられていたはずの扉が開く異常。バータルはビクリと扉の方を見ると一人の男がゆっくりとこちらに近づいてきた。喋る事が出来ないバータルは近づく男を睨みつけるが、それを気にする事無く男は懐から短剣を抜く。


「バータルで間違いないな。こんなの殺すだけの仕事なんてチョロイもんだぜ」

「っ!!」


 バータルは男の目的を知り体を動かそうとするが、拘束具と激痛のせいで動けない。


「っっっ!!!」


 あまりの痛みに意識を失いかけるが何とか堪える。だが男は歩みを止める事は無い。


(くそっ! 死んでたまるかっ!)


 痛みに耐えて体を動かし続けるバータルだったが、あと一歩で胸元に短剣が届くという所で突然目の前にいた男が消えた。


「っ!?」


 目の前から忽然と消えた。正確には落ちて行ったと言っていい。まるで落とし穴に落ちて行くように落下していったのだ。だが、バータルのいる部屋は一階で、地下室など無ければ穴も開いているはずがない。だが、確かに男は下に落下して行った。バータルが現状が理解出来ずにいるとすぐ傍から声が聞こえてくる。


「いやぁ、危なかったね」

「!?」


 声に驚き隣を見ると、傍に別の男が立っていた。


(ど、何処から入ってきた!?)


 部屋には誰もいなかった上に先程の短剣を持った男が部屋に入って来てずっと扉も視界に入っていたが別の人間が入った様子は無かった。バータルが混乱していると、男は笑顔で口を開く。


「さっきの男は誰かに雇われたようだね。君、だいぶ恨まれている様だしね」


 軽い調子で喋る男。見た目は20代前半と言った所で、黒いローブを羽織っている以外顔も体格も特に特徴と呼べるものは無い。男は近くにあった椅子を持ってきてベッドの傍に座る。


「とりあえず先程の男は心配いらない。今頃、遠洋を泳いでるだろうね」


 男の言ってる事が分からず訝しんでいると男は笑顔のまま話を続ける。


「まぁ、それは大した事じゃないんだ。実はバータル君、君を勧誘しに来たんだよ。あ、君づけは気に入らないかな? これでも君よりかなり年上なんだけどね」


 男は楽しそうに話をするのでバータルの表情は次第に険しくなり、男を睨みつける。


「あれ? もしかして信じてない? じゃあこれでどうかな?」


 そう言うと男は自分の顔を指で触れる。するとズブズブと顔の中に指が入って行った。正確には顔の周りを覆っていた膜の様な物があり、その中に指が入って行った。


「!?」


 驚愕するバータルを余所に、男は突っ込んだ指が顔の上を一周する。すると水面が波打つようにグニャリと顔が歪んでいく。そして波紋が静まると先程とは全く別人の顔が現れた。40代の髭面の男だった。


「これでどうだい?」


 若い男の声では無く、低い壮年らしい声に更に驚くバータル。それを見て満足そうに笑う。


「姿形なんてものは今は問題じゃないんだ。本題はこれから。バータル君、我々に協力する気はないかい? もし協力してくれるのなら君の怪我も完治させよう」

「!!」

「それどころか前よりも強力な力を手に入れられる。あの斧なんかよりもね。それに……」


 男はニヤリと笑う。


「その力があれば報復も容易に出来る。もちろんこちらのお願いを叶えてくれた後になるがね」

「っ!」


 男は右手を差し出す。


「どうだい? 協力してくれるかい?」

「…………」


 バータルは少し間を開けた後、右手を上げる。力を籠められず震える手を男は優しく掴む。


「ありがとう。これで君も私の仲間だ」


 そう言われバータルはわずかに口角を上げる。


(こいつが何者かなんてどうでもいい。この怪我を直してくれるなら。力をくれるなら。アイツ等に復讐できるなら。オレを見下すすべてをぶっ潰してやる)


 野心の炎を再燃させたバータルの眼を見て男も笑みを浮かべる。


「それじゃ、私の家へと案内しよう」


 男は立ち上がると、思い出した様に手を叩く。


「そうだ。自己紹介がまだだった。私の名前はオニキス。以後よろしく頼むよバータル君」


 次の日、衛兵達が部屋に向かうと扉が開けられていた。慌てて中を確認するが、バータルの姿は何処のにも無かった。

ゴルダシュへ行く前に入れておきたい話があったのを忘れてました。

次回こそゴルダシュ編スタートです。


次回もよろしくお願いします。

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