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ジュエル!  作者: asobito
マシュメ王国編
64/67

第54話 脱出を図る人達と帰りを待つ人達

毎度お待たせしてすみません。


2014/3/9 指摘のあった誤字を修正しました。

「さて、それじゃそろそろ行きますか」

「はい」


 服を乾かしていたノマージが立ち上がる。それに合わせてハジメも立ち上がった。


「ユージスも、もう大丈夫か?」

「お、おう」

「よし、それじゃ行くか」


 少し不貞腐れた感じのユージスだったが、返事を聞いたノマージは気にする事無く歩き出す。少し間を空けてユージスも後をついて行く。ハジメは焚火代わりにしていた<魔法印(スタンプ)>を消し、掌に火の玉を作り明かりにする。


「これ、どうするかね」


 ノマージは罠として設置した<魔法印(スタンプ)>"フレタラカミナリ"を指してハジメに聞く。


「触ると危ないんで、消しますか?」

「だな。また戻って来た時にうっかり踏んじゃいそうだしな」

「戻る?」

「ああ、この先大量に鉄甲蟻が居たら、さすがに逃げるしかないだろう? 水場近くならアイツ等も逃げるだろうしな」

「なるほど。それじゃ消しておきますね」

「ああ、よろしく」


 ハジメは前に行き、設置した<魔法印(スタンプ)>をすべて消した。


「それじゃ、改めて出発」


 ハジメとノマージが並んで歩き、その後ろをユージスが付いて行く。


「ハジメ、少しでも気になる事があればすぐに言えよ」

「はい、わかりました」

「ユージス、お前もな。一本道だからって後ろから何も来ないとは限らないからな」

「わ、わかってる!」


 そう言いながらもユージスは頻りに後ろを気にする様になる。それを見てノマージは笑っていた。


「ここが蟻達の巣なら地上への出口も必ずあるんだが、蟻にまったく会わずに行くのは難しいかな」

「かなり難しいと思いますよ」

「だよなぁ」


 ハジメは前世の蟻の巣を思い出す。理科の授業やテレビなどで見た限り、かなりの蟻がいると予想出来た。

 しばらく歩いていると、分かれ道に差し掛かった。どちらの道も幅、高さは同じで違いがあまり無い。


「う~~~ん…………上に向かってるっぽい道を選ぶか」

「そんな決め方でいいんですか?」

「しょうがねぇだろ? 正しい歩き方なんて分からん!」

「確かに……」

「とりあえず、こっちに行くとしよう。なぁにオレの勘はなかなか侮れないんだぜ?」

「「…………」」


 自信満々に言うノマージだったが、ハジメは苦笑い。ユージスに至っては完全に疑っている。


「あ、信じてねぇな。まぁいいや。それでハジメ、もう片方にはさっきの罠張っといてくれ。そっちから何か来られても困るしな」

「わかりました」


 ハジメは上下左右に<魔法印(スタンプ)>"フレタラカミナリ"を押す。


「ハジメ、その罠って単発か?」


 <魔法印(スタンプ)>を押すハジメに向かってノマージが問う。


「そうなりますね。もし蟻の集団がある程度固まって来たら纏めて倒せると思いますけど、後続は突破するかもしれませんね」

「となると、元の場所に戻れなくなる場合もあるか……。蟻以外にもいるかもしれないしな。思い切ってそのまま突き進むか」

「危なくないですか?」

「正直迷う所だよ。ここの広さも分からないし、勝ち目が無いなら逃げるにしてもあまり長期戦になるのはマズイと思うんだよな。食料も何も持って無いし。なら思い切ってガンガン突き進んだ方がいいかもなぁとね」

「なるほど」

「とりあえず分かれ道では行かない方に罠張っていくか」

「わかりました」


 上下左右に<魔法印(スタンプ)>を張り終わり、ハジメ達は先へと進んだ。

 その後、いくつか分かれ道に差し掛かったが、他の生物に出くわす事無くノマージの勘で選ばれた道を進んでいく。そして3人は広い空間に出た。


「なんだここは……」


 直径10m程のドーム状の空間で、ハジメ達が来た入口とは別に4か所の入り口があった。そして空間の片隅には金色の楕円の球体が乱雑に並んでいる。ハジメは形と大きさからラグビーボールを連想した。


「き、金だ!」


 ユージスが驚きの声を上げる。


「金……にしても変ですよね?」


 球体である事に疑問を感じるハジメ。


「う~~む」


 ノマージは球体に近づき唸る。


「鉄甲蟻の巣で間違いないみたいだな」


 球体を見つめノマージは1つの結論を述べる。


「これ卵だぞ。きっと」

「「え!?」」


 驚くハジメとユージスは改めて球体を見る。


「聞いた話だと、鉄甲蟻の親玉。つまり女王蟻は金の甲殻で覆われているらしい。生む卵も金の殻らしいぞ」

「これが金……」


 ユージスは卵らしい球体を恐る恐る指で突く。確かに動物の卵の殻というより金属の様に感じた。


「まぁ、実際に金というわけじゃなく、金に見えるってだけらしいけどな」

「そりゃそうですよね。金がそんなに都合よく土の中にあるわけないでしょうし」

「そう言うこった。金だったら冒険者の恰好の獲物になってるだろうしな」

「なんだ、金じゃないのか……」


 ユージスは残念そうに卵を指先で軽く弾く。すると卵にピシリと亀裂が入った。


「うわっ!」

「どうした?」


 突然の声にノマージとハジメはユージスを見る。


「た、卵が……」


 そう言われユージスの指す卵を見るとピキピキと亀裂が広がり、中から蟻の幼体が姿を現した。それに合わせて他の卵にも同じ反応が起き始める。


「あぁ~…………これは」

「ああ、マズイな」

「え!? え!?」


 後退りをするハジメとノマージを見て慌ててユージスも卵から離れる。卵から孵った幼体達はハジメ達を確認する。


「「「キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ」」」


 金切音の様な声が空間中に響き渡り、通路へと伝わっていく。


バァァァンッ!


 遠くの方で破裂音の様な音が聞こえた。


「な、何だよっ!?」


 ユージスはキョロキョロと辺りを見渡す。


「ハジメ、今のは……」

「たぶん罠が発動した……と」


バァァァンッ!


 ハジメが言い終えると同時に再び音がした。先程よりも大きくなっている。


「マズイな」


 ノマージは来た道では無い4つの道の1つへ向かう。少し通路に入り、聞こえてくる音を慎重に聞く。微かに金属音がしていた。


「ここはダメだ」


 そう言うと隣の通路へ。そこからも同じ音が聞こえ、隣の通路へと移る。そこからは音がしなかった。


「よし、ここを行こう。ハジメ、他の通路に同じ罠を張ってくれ。この部屋にも頼む。可能な限り大量に」

「わ、わかりました」


 ハジメは来た道を含めそれぞれの道に罠を設置する。


「ユージスはこっちだ」

「うわっ……ああ」


 茫然としていたユージスは掛けられた声にビクリとさせ、慌ててノマージの後を追い通路へと進む。他の通路へ罠を設置し終えたハジメは2人の後を追って通路へ入り、部屋の中心に大きな<魔法印(スタンプ)>"フレタラカミナリ"を押す。卵を見ると、幼体は殻の中に居たままだったが、動き出した幼体に発動して<魔法印(スタンプ)>が消えてしまっては困るので、一度の出力を減らし、数発発動するように設定する。設置し終えると、通路の入り口にも<魔法印(スタンプ)>を押した。こちらは念入りに上下左右に4つずつ並べておいた。


「これでよし」


 <魔法印(スタンプ)>を確認し、通路で待つノマージ達と合流する。遠くからの落雷の様な音は着実に近づいていた。





[東ディアヴェント側関所・宿屋]




 昼が過ぎ日も傾き始めた頃、クーネは宿屋の食堂で一人窓際の席に座っていた。テーブルに両肘を着き、頭を抱えて溜息を吐く。


「私って最低……」


 クーネはハジメを助ける事に頭が一杯になり、サニーまで当てにしようとした事を後悔していた。


「ハァ~~~~~……」


 再び大きな溜息を吐いてテーブルに突っ伏す。


「大丈夫?」


 声に反応してクーネが顔を上げると、カップを2つ持ったウェーナが立っていた。


「ここいいかしら?」

「は、はい」


 クーネが力なく返事をすると、「ありがとう」と笑顔で隣に座る。そして持っていたカップの片方をクーネの前に置いた。


「葡萄を使った飲み物だそうよ。よかったら」

「ありがとうございます……」


 クーネはカップを手に取り一口飲む。葡萄の仄かな酸味とすっきりとした甘みのする飲み物で、とても美味しかった。


「おいしい……」

「そう、よかった」


 ニッコリと微笑み、ウェーナも一口飲む。


「ハジメ君ならきっと大丈夫よ。ノマージも一緒だと思うし、皆無事に帰ってくると思うわ」

「そう、ですね……」


 返事をして俯くクーネを見てウェーナは少し考え、口を開く。


「クーネちゃんはハジメ君の事が好き?」

「……へぇっ!?」


 突然の質問に素っ頓狂な声を上げるクーネ。


「な、何を突然言い出すんですか!」

「いや、どうなのかなぁと思って」

「い、いや……すすす好き……というか、頼りになるというか、たしかにカッコイイと思うけど、好き……いや、でも友達……として、う、でも……」


 顔を真っ赤にしてモゴモゴ言い出すクーネを見て納得した表情を浮かべるウェーナ。


「初々しいわね。もう好きって言ってるようなものよ、それ」

「ぐっ……」


 断言され否定も出来ず、クーネは顔を見せない様に俯く。


「戻って来た時、ハジメ君の顔を見たら自分の気持ちがハッキリするかもね」


 ウェーナに言われ、バッと顔を上げるクーネ。


「け、経験者の意見ですか?」

「う~~ん、どうかしら」


 はぐらかすウェーナにクーネはさらに追及する。先程の仕返しとばかりに。


「ウェーナさんはノマージさんの事が好きなんですか?」

「え?」


 クーネの直球の質問に多少驚いた顔をするウェーナだったが、少し困った顔をして答える。


「う~ん、どうなのかな。もう長い事一緒にいるけど、恋人……というより兄妹なのかもね」

「兄妹?」

「ノマージにとっては今も妹みたいなものなのかもなぁってね」


 そう言うと、ウェーナは一本の短剣を取り出す。かなり古い代物で所々刃こぼれもしている。だが、手入れはしっかりとされていた。あまり価値のある代物に思えなかったが、ウェーナは大事そうに持っていた。


「その短剣は?」

「これは初めてノマージと会った時に彼がくれた物よ」


 ウェーナは懐かしむように短剣を見つめる。その時のノマージを思い出し、顔が綻ぶ。


「ノマージって昔から全然変わって無いのよ」


 嬉しそうに話すウェーナを見て、クーネは二人の出会いに興味を持った。

次回は再び過去話です。ノマージとウェーナの出会いです。


次回もよろしくお願いします。

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