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ジュエル!  作者: asobito
マシュメ王国編
62/67

第53話 先輩冒険者の説教

毎度お待たせしてすみません。


2014/2/22 指摘のあった誤字を修正しました。

 足元が崩れ、落下した先は水だった。勢いよく流れる水の中へ落ちたハジメは体勢を整える間も無く、流されていく。


「っ!?」


 自分達が落下した穴から差す光は直ぐに見えなくなり、暗闇に包まれる。


(これはまずいっ!!)


 既にノマージ達を見失っているハジメ。どうしようかと考えるが、水の音が変化していく事に気付く。反響していた水の音が次第に小さくなる。つまり開けた場所へと出るという事。


(やばっ―――)


 ハジメの体は宙へと放り出された。水と一緒に落下していく中、ハジメは腰の剣に右手を掛ける。そして左手の中に炎を出して視界を確保する。放り出されてからハジメは物凄くゆっくり落下しているように感じた。「こういう時スローになるって本当なんだな」と事故に遭った人の体験談などを思い出す。


(って呑気な事考えてる場合じゃない。これを壁にっ!)


 ハジメは横に見える壁に剣を突き立てようとするが、壁が水や苔で滑りやすい上に、落下中の体勢ではうまく力が籠められずに上手く刺さらない。


(くっ、もう一回!)

「キュィィイイ!」


 剣を突き立てようとするハジメの耳に聞き慣れた声が聞こえた。上を見ると小さな白い物体がこちらに向かって飛んでくる。


「パル!」


 ハジメは咄嗟に持っていた剣をパルへと投げつける。剣の柄には<魔法の縄(ロープ)>を付け、パルに当たらない様に真横を狙って投げる。


「パル、掴んでくれ!」

「グァルル!」


 一瞬にしてパルは可能な限り巨大化し、横を掠めた剣の柄をパクリと咥えた。そして翼を大きく羽ばたかせ、その場を維持するとハジメの体もガクンと落下をやめる。


「ふう……」


 ハジメは安堵の声を漏らしながら、<魔法の縄(ロープ)>を引き寄せる。<魔法の縄(ロープ)>の繋がれた剣はパルが固定しているので自動的にハジメはパルの元へと引き上げられた。


「助かったよ。ありがとうパル」


 パルによじ登り背中に乗ったハジメはパルの頭を撫でた。


「グァルルル!!」


 嬉しそうな鳴き声を上げるパルを見た後、手にした炎を掲げて一帯を見渡す。ハジメがいる場所は直径10m程の円柱状に広がった洞窟だった。壁の所々から水が流れて下へと落ちていく。見下ろすとかなり深い様で、底が未だに確認できなかった。


「ノマージさん達を探さなきゃ。パル、下に降りて行ってみてくれ」

「グァル」


 ハジメに言われ、パルがゆっくり下降して行くと、下の方から声が聞こえてきた。


「お~~い! ハジメ~~~! ここだぁ!」

「ノマージさん!」


 ノマージは壁に偃月刀を突き刺し、掴まっていた。片手には少年を抱えた状態で。


「た、助かった!」

「無事で良かったです。パル、二人を」

「グァルル!」


 パルは偃月刀を咥え引き抜くと、ぶら下がっていたノマージと少年を両手で掴む。


「はぁ~~~……しんどかったぁ」


 片手でぶら下がっていたノマージはその手が解放され安堵の声を上げる。


「ノマージさん、このまま下に降りればいいですかね?」

「ん? ああ、とりあえず何処か降りられそうな場所探そう」


 ノマージの了承を得て、ハジメはパルに指示を出す。先程と同じ様に注意しながら降りていくと、途中の壁に大きな横穴があった。穴の先の様子を伺ったが、ずっと先に延びていて奥までは確認出来なかった。横穴は縦横共に幅が2m程で、ハジメ達は問題無く穴に入ることが出来た。パルも少年をノマージに渡すと、元の大きさに戻りハジメの肩に乗っている。


「こりゃ……鉄甲蟻の掘った穴かもな」


 ノマージは横穴の先を覗きながら呟く。


「……って事はやばいですか?」

「いや、アイツ等湿気を嫌うから寄り付かないだろうぜ。錆びちまうしな。掘り進んでいたら水の流れるこっちの洞窟にぶち当たっちまって放置したって所か」


 ノマージは自分達が入って来た方向を指さしながら言う。


「とりあえずここで一旦休もう。服を乾かしたいし、チビ助が気が付くのを待たなきゃな」

「そうですね。とりあえず奥から何か来るかもしれないですから罠だけ仕掛けておきます」

「罠?」


 ノマージが首を傾げ聞くのに笑顔で応えつつ、ハジメは横穴を数mだけ進むと、<魔法印(スタンプ)>"フレタラカミナリ"を上下左右に押して行った。


(壁とか天井を来たりしても困るしな。大量に来てもいいように、出力を強めにしておこう)


 大量に押し寄せて突破される事も考慮して多めに魔力を込める。"フレタラシビレル"は触れた者が痙攣して倒れるスタンガン程度だが、今回は雷が直撃する程度。文字通りだった。何かが触れる度に雷並みの電撃が襲いかかる。


「あ、ノマージさんアレには触れないで下さいね。危ないですから」

「おう。なんか面白い魔法使うんだなハジメって。初めて見た、そんなの」

「たぶん、珍しいと思いますね」

(だってオレが作った魔法だし)


 ハジメはノマージの元へと戻り、地面に<魔法印(スタンプ)>"オンデモエル"を押す。大きさは直径30cm程。


「お? 今度は何だ?」

「焚火がわりに……オン」


 ハジメが言うと魔法陣から炎が出る。


「おおっ! こんな事も出来るんだな。便利じゃないか」


 炎を囲う様にハジメとノマージは座る。少年も近くに寝かせている。入って来た側から何か来るかもしれないという事で、ノマージはそちらを警戒できる位置で座っている。ハジメとパルも両側に気にしつつ、服を乾かした。





[東ディアヴェント側関所]




 クーネ達は無事関所に到着し、ひとまず宿屋で待機する事となっていた。


「兵衛さん! 私達もハジメ達を探しに行きましょう!」

「クーネ殿、落ち着くでござる」


 クーネは兵衛に掴みかかる勢いで言う。兵衛は困った顔をしてクーネを落ち着かせていた。


「落ち着いてなんていられないわっ!! 早く助けに行かなきゃっ!」

「鉄甲蟻もまだ潜んでおるかもしれん。危険故―――」

「鉄甲蟻なんてきっと大丈夫よ! 私と兵衛さん、それにサニーの能力があれば鉄甲蟻だって……」

「クーネ殿」

「……っ!」


 兵衛が真剣な顔をしてクーネの顔を見る。それに気づいて自分の言った事にハッとする。横を見るとサニーが心配そうにクーネを見ている。


「クーネ大丈夫?」

「ごめん、サニー……」


 クーネはしゃがみサニーを抱きしめる。ハジメを含め全員がサニーを戦闘に参加させない事に決めていた。太陽光による光線は凄まじい威力を誇るが、サニーはあくまで子供。子供を戦わせる訳にはいかないというのが暗黙のうちに決まっていた。クーネは助けに行く事で頭が一杯になり、そんな少女の力にまで頼ろうとした事を悔やんだ。


(そんな事してもハジメが喜ぶはずないよね……)

「ハジメ殿達の事が心配なのはよくわかる。某もサニー殿も同じ。じゃが、今は落ち着いて行動せねばいかん」

「はい……」


 先程までの勢いは無くなり、一気に落ち込むクーネ。兵衛は笑顔を見せクーネを励ます。


「大丈夫。アーエン護衛隊の皆が探しに行っておる。きっと見つかるでござるよ」


 宿に着いてすぐ、モースンはトラフの許可を得て仲間2人と山道へと戻った。クーネ達も同行しようとしたが、土地勘のある者だけで行った方が良いという事で宿で待機する事になっていた。


「食堂の方に行っておこう。某、何か飲み物を持ってくる故、サニー殿はクーネ殿と一緒に席で待っていてくれぬか?」

「う、うん。わかった。クーネ、行こう?」

「……うん。ありがとう、サニー」


 サニーに手を引かれ、クーネは食堂へと歩いて行く。その後姿を見送った兵衛は窓の外を眺める。


「ハジメ殿、無事に戻って来て下され」






「……うわぁっ!」


 少年は勢い良く体を起こす。そして周りが薄暗い洞窟だと気付いて首を傾げる。


「……ここは?」

「気が付いたかチビ助」


 ノマージに声を掛けられ少年は驚いて立ち上がる。


「お、お前はっ!」

「年上にお前ってどれだけ失礼なんだか」


 ノマージは呆れたような顔をして少年を見た。


「まぁまぁ、とりあえず君も座ったら?」

「え?」


 少年はハジメに声を掛けられ、キョロキョロしながらもその場に座る。


「まぁ、チビ助も起きた事だし……」


 にこやかな表情のノマージは立ち上がると少年に近づく。


「な、なんだよ!」


 少年は近づいて来たノマージを警戒して睨みつけようとするが、ゴッという鈍い音と衝撃が頭を襲った。ノマージの拳骨が少年の頭に直撃した音だった。


「ノ、ノマージさん!?」

「いってぇぇぇっ! 何しやがるっ!!」


 突然の行動に驚くハジメ。頭を抱えてノマージを怒鳴りつける少年だったが、しゃがんでこちらを見るノマージの顔が真剣なものになっている事に息を飲む。


「何しやがる? それはこっちのセリフだ。何してくれてやがる」

「っ!」


 先程までの軽いノリから一変。ノマージから放たれる気迫に圧倒される少年は何も言えずに黙り込む。ハジメも初めて見るノマージを緊張した様子で見ていた。


「あの蟻はな、自分達の領域に入ってこなけりゃ襲って来ないんだよ。自分の実力も分からずに突っ込むなんて馬鹿のする事なんだ」

「あ、あれはたまたま―――」

「そのたまたまのせいで死にかけて、その上周りにいた連中も巻き込むとか最悪だ」

「うっ……」


 少年は言葉に詰まる。


「冒険者でもたまにそういう奴がいるんだ。自分の力を過信して自分勝手に動く奴がな。それで仲間を巻き込んで全滅って話をいくつも知ってる。そういう話聞く度に思うんだ。仲間巻き込まずテメェだけ死んでいればいいのになってさ」


 ノマージの目に冷たい物を感じ、背筋がヒヤリとする少年。


「今回チビ助を助けたのだってチビ助が冒険者じゃないからだ。もし同業者であんな馬鹿する奴だったらオレは躊躇無く見捨てる」


 冒険者になろうとしていた自分の行動を完全否定された少年は黙り込んでしまう。それを見ていたノマージはハジメの方を向く。


「ハジメもだぞ」

「えっ?」


 急に話を振られたハジメはビクリと背筋を伸ばす。


「ハジメの受けた依頼は何だ?」

「ト、トラフさん達の護衛です」

「護衛の依頼を受けてる奴が、依頼主ほっぽり出してこっち来ちゃダメだろ?」

「そ……そうですね」


 冒険者として依頼を受けている以上依頼優先でなければいけない。自分が冒険者としての意識が低い事を指摘され、ハジメは反省する。


「すみません」

「ふむ……。と、まぁ冒険者の先輩として一応言いはするけどさ」


 ハジメが謝ると同時にいつもの軽い口調に戻って立ち上がるノマージ。少年とハジメは呆気にとられた表情でノマージを見る。


「正直、ハジメが一緒じゃなかったら死んでたかもしれないしな。マジで助かった。ありがとなハジメ。チビ助も冒険者になる前に大事な事が学べた訳だし、よかったな」

「は、はぁ……」

「……???」


 ニカっと笑って言うノマージに空返事しか出ないハジメ。少年は完全に混乱していた。そんなハジメと少年を見てノマージがニヤリと悪そうな顔をする。


「これが本音と建て前ってやつさ。世の中綺麗に割り切れるもんでもないしな。柔軟に考えて行かなきゃ、やっていけないぜ?」

(どこまでが本気なのかわからない……でも)


 ハジメは笑顔で返事をする。


(やっぱり面白い人だな。ノマージさん)


 改めてノマージに好感を持つハジメだった。


「それで、チビ助」

「な……なんだよ」


 先程まで敵意剥き出しだった少年はばつが悪そうに顔を背けて返事をする。


「名前まだ聞いてなかったよな?」

「えっ?」


 笑顔で聞いてくるノマージに少年は狼狽える。


「ユ……ユージス」


 ユージスと名乗った少年はふてくされる様に呟く。


「そうかユージスか。山道に一人で来たんだろ? 家で親が心配してるんじゃないのか?」


 ノマージがそう言うと一際不快な顔をしてそっぽを向く。


「親なんていないっ」

「え?」


 ユージスの答えに驚くハジメ。ノマージはユージスをジッと見て口を開く。


「ユージスは孤児ってわけだな?」

「わ、悪いかっ!」


 ユージスはキッとノマージを睨みつける。だが、ノマージはいつもの調子で笑顔のままだった。


「いや、全然? オレも孤児だったしな」

「「え?」」


 ノマージの発言にユージスはもちろんハジメも驚いた。そんな二人を見て再び悪そうな笑みを浮かべる。


「こう見えても昔は札付きのワルだったんだぜ? って自分で言っちゃうと説得力無いな」


 そう言って爽やかに笑うと、続きを話す。


「まぁ、どうしようもなかった時に師匠の爺さんに出会ったおかげで、今のオレがあるわけだ。出会ってなかったらとっくに縛り首くらいにはなってたんじゃねぇかな」

「い、意外です」


 ハジメがそう呟くと、「そうか?」と笑顔で返された。


「だから孤児の環境から抜け出そうとするユージスの気持ちは分からないではない。環境を変えるには自分でどうにかするしかないんだからな。今回のあの行動はダメダメだけどな」

「…………」


 ユージスは俯いて何も言おうとはしなかった。


「とりあえず、ここを出たらモースンのおっさん達にちゃんと謝るんだな。まずはそこからだ」


 そう言うとノマージは、ユージスの肩をポンと叩いた。

余所の子を叱れる大人ノマージさんでした。

次回は昔話、ノマージの話になる予定です。

次回もよろしくお願います。



章の区切りと章タイトルを変更しようかなと検討しています。それに伴ってあらすじも変えようかと。本編の内容は変える予定はないです。

ついでに自分のプロフィールもリニューアルしようかな。

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