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ジュエル!  作者: asobito
マシュメ王国編
61/67

第52話 小さな便乗者

思っていたより長くなってしまいました。


2014/2/3 要望があったのでノマージとウェーナの簡単な紹介を載せておきます。前に登場したのが昔過ぎました。

・ノマージ

拳法着っぽい服を着た冒険者。偃月刀使い。バスティア学園編の闘技大会時にハジメ達と知り合う。

・ウェーナ

ノマージの相棒。短剣使い。ノマージの自由な行動に頭を悩ませる苦労人。【美人】


2014/2/22 指摘のあった誤字脱字を修正しました。

「いやぁ、こんな所でハジメに会えるなんてなぁ。しかもホントに冒険者になってるとは」

「元気そうでなによりだわ。そっちのパルちゃんもね」

「キュィイ!」


 ウェーナがパルに手を振るとパルは嬉しそうに鳴いて見せた。


「お二人もお元気そうで」

「元気元気、それにしても―――」


 ノマージ達とハジメは嬉しそうに話を始めようとする。だが周りの視線を感じ、会話を中断した。


「で、ノマージ達はこっちの若いのと知り合いなのか?」


 話を中断したのを確認して冒険者の男がノマージに聞く。大柄で筋肉隆々、その上ガッチリと甲冑を身に纏っている。リーダーらしい堂々とした立ち振る舞いと、よく通る声から頼りがいのあるように感じた。


「おう、そっちも会った事あるよな?」


 ノマージはラニアンに聞く。


「は、はい!」


 ラニアンは慌てて答えると、ノマージはニカっと笑う。


「パッと見た感じ二人以外……二人と1匹か。他は初対面って感じだな。よし、自己紹介しよう」


 ノマージはハジメ達を含む全員に向かって改めて挨拶をする。


「オレはノマージ。冒険者だ。で、こっちが……」

「同じく冒険者のウェーナよ。よろしくね」

「オレ達もここで立ち往生してたんだけど、そこにいる昔馴染みのおっさんに出くわしてさ。どうせなら一緒に渡ろうって事になったんで、どうぞよろしく!」

「人を熊かなんかみたいに言うな。それと誰がおっさんだ!」


 おっさん呼ばわりされた男はノマージを怒鳴るが、ノマージは「だっておっさんじゃん」といった感じで気にした様子はない。よく見ると男の方もそれほど怒っている感じでもなく。ハジメはこれがいつものやり取りなのかなと感じた。


「まったく……。まぁコイツ等はたまたま合流した知り合いだ。それでオレ達はお前達と同じハズク商会の護衛依頼を受けた"アーエン護衛隊"。隊長のモースンだ。で、右からアルミナ、ジッペ、コピタル、ガートリールだ」


 モースンは後ろにいる他の隊員も紹介する。隊員達はハジメ達に丁寧にお辞儀をする。


「ハジメ・アメジストです。まだ新人ですが、よろしくお願いします」


 ハジメも丁寧にお辞儀をする。続いてクーネ達も挨拶をし、全員が挨拶を終えた。


「新人って事は山道を渡るのは初めてか?」

「はい、オレ達は今回が初めてです」

「そうか。それじゃあ、ちゃんと道中の説明をしておいた方がいいな。ちょっと時間取らせてもらっていいか?」


 モースンはトラフに確認をする。


「ええ、大丈夫です。山道が通れるまでまだ時間はあると思うので」

「すまんな。それじゃハジメ達はこっちに来てくれ」


 トラフの許可が下り、モースンはハジメ達を宿屋へと案内した。ノマージとウェーナも後に続くが、アーエン護衛隊の隊員達は馬車の見張りの為、その場に残った。

 質素な造りの宿屋の食堂に集まり、モースンはテーブルに地図を広げた。


「これが山道の地図だ」


 そこには簡略化された道と所々に注意書きが書かれていた。


「山道は所々に休憩する為の場所がいくつかある。といっても道が広くなってるってだけだが。そこで野営をしながら渡る事になる。それと雨のせいでもあるが、所々足場の悪い所などもある。土砂崩れの危険もな。馬の負担も考えて馬車を降りて行かなきゃいけない場合もあるって事も覚えてくれ。その辺は随時こちらが指示する。ここまではいいか?」

「わかりました」

「それとこれが一番の注意点だが、四日目あたりに渡る事になるこの河の先からが問題だ」


 モースンは山道と河と思しき線の交差点を差す。


「危険な生き物は河の手前からいるにはいるが、この人数なら出くわしても特に問題無いだろう。だが、この橋から先は魔物が出る」

「魔物ですか?」

「ああ、鉄甲蟻っていうでけぇ蟻だ」


 モースンは手で大まかな大きさを表す。全長50cm程ある蟻。そんな蟻をハジメは見た事がなかった。ハジメは改めてここが異世界なんだと思い知らされる。


「そのような蟻が居るとは……恐ろしい世界でござるな」

「おっきいね!」

「そ、そんな蟻がいるのね……」


 兵衛やサニーはもちろんの事だが、クーネも驚いていた。


「この山脈にしか生息してないらしいな。とにかく名前の通りこいつは凄く硬い。普通に斬りかかってたらこっちの武器がイカレちまうだろうな。だがそれより面倒な事がある。コイツ等は必ず集団行動を取ってるって事だ。目の前に1匹しかいなくても無暗に手を出すな。すぐに仲間を呼んであっという間に囲まれる」

「出会っても逃げろって事ですね?」

「可能な限りな。コイツ等は山脈内にいくつも集団がいてそれぞれ縄張りを持ってる。縄張りの違う蟻同士が会えば喧嘩しだすしな。例え追っかけて来ても別の集団の縄張りに入ると諦めてくれる事が多い。だから逃げ切れば問題無い」

「気を付けます」

「出来れば会いたくはないわね……」

「鉄甲蟻の活動が活発になるのは土煌期だから今はまだ大丈夫だろう。だが、この手のもんに確実な事なんて一つもねぇ。会わない様に祈りながら行くしかねぇな」


 モースンは笑いながら言う。以前首都マシュメに滞在していた時に魔獣の岩熊と遭遇したハジメは、モースンの言う事に深く頷いた。


「もし戦わなきゃいけない時は甲殻の隙間を狙うといいぜ。そこは固くないから。あと甲殻ってなかなか高値だぞ」


 ノマージがニヤリとして付け足した。すかさずモースンが再び怒り出す。


「ノマージ、テメェ! 今極力逃げるって話してんだろ。金になるとか言うんじゃねぇ! そういうのは数十匹相手でも平気な奴が考える事なんだよ」

「金になるってのは予備知識だっての。ちゃんと手を出すのは強くなってからって言うつもりだったのにおっさんが止めるからなぁ」


 「まいっちゃうなぁ」とわざとらしく呆れてみせるノマージ。モースンは肩を震わせる。


「ああ言えばこう言いやがって、ガキのままかテメェはっ! お前みたいに湧いてくる蟻片っ端から狩れるや奴なんざ稀なんだぞ!」

「す、すごいんですね。ノマージさん」

「おうよ!」


 ハジメが呟くとすかさずノマージがドヤ顔で応える。


「でもハジメ達は真似するなよ。何よりハジメ達がやるべきは護衛だ。目的の忘れるんじゃないぜ?」

「はい」


 真剣に言うノマージにハジメも気を引き締めて返事をする。それを見てモースンは頭を抱えて溜息を吐く。ハジメの返事を聞いて「ウンウン」頷くノマージの後頭部をウェーナの平手が襲った。


「いってぇ!!」

「何偉そうに先輩面してんのよ。モースンさんの邪魔してないでノマージも出発の準備するわよ」

「い!? イタタタタタタ、ちょっと!?」


 ウェーナに耳を掴まれ、そのままノマージはウェーナと共に宿の外に出て行った。


「……とにかく、鉄甲蟻には極力手を出すなって事だ」

「「「……わかりました」」」

(そしてお疲れ様です。モースンさん)


 疲れた様子のモースンをハジメは心の中で労った。

 その後いくつか注意点を教えてもらっていると、トラフがやって来る。


「関所が通れるようになった様です。出発したいのですが、よろしいですかな?」

「そうか。それじゃ行くとするか」


 モースンは広げた地図を片付け宿を出る。ハジメ達も後を追って宿を出た。

 関所の前に行くと、トラフが山道入口に立つ兵士とやり取りをする。通行料を渡すだけで、荷物検査などは無かった。後で聞いたところ、関所といっても人の出入りを取り締まるというより、天候悪化や魔物等の非常事態時に通行止めにする事が主な役割だと言う事だった。

 山道に入ると早速上り坂が続く。ハジメ達は馬車を降りて歩いて行くが、アーエン護衛隊は各自馬を用意しており、ハジメ達に合わせて進んでいる。2台並ぶ馬車を、アーエン護衛隊が先頭と中央に位置取り、ハジメ達とノマージ達は後方からついて行く形だった。山道は周囲が岩だらけで、数mに及ぶ大きな岩が並んでいたり、崖になった部分もあり、時折モースンの良く通る声でハジメ達に道中の注意するべき箇所を細かく教えてくれる。ハジメ達は注意深く辺りを見回しながら歩いて行った。


「モースンさん達って山道に詳しいのね」


 クーネが感心するように言うとウェーナがそれに応える。


「アーエン護衛隊はゴルダシュに拠点を置くチームで、護衛依頼を主にやってるのよ。山道の護衛も頻繁にやってるから、マシュメからゴルダシュまでの道ならその辺の冒険者より全然詳しいわね」

「そうなんですか」

「なるほどのう」


 ハジメと兵衛も納得する。


「アーエン護衛隊の隊員は全員2級1つ星以上、おっさんは2つ星だしな。おっさん達がいれば、まず安心だ」

「皆2級……」

「すごいわね」


 ノマージの言った事にハジメ達は驚く。


(確かにベテランって感じな人達だよなぁ)


 ハジメは前を行くモースン達を見る。今まで出会った冒険者よりも格段に実力が上だと見て取れる。彼らは今も雑談こそしているが、それぞれが決められた方向を気にしているのが分かった。


(同じ2級1つ星のバータルと全然違う感じするもんな。こっちが本当の2級って事か)

「ノマージさんとウェーナさんも2級なんですか?」


 ハジメが感心しながらモースン達を見ていると、クーネがノマージ達の階級を聞いていた。


「ええ、私は2級2つ星ね」

「わぁ、すごい」


 ウェーナが言うとクーネが驚く。


「2つ星と言ってもモースンさんに比べたら全然よ? 2級になると各星の実力幅も結構広いから」


 苦笑いを浮かべ首を横に振る。ハジメは「ああ、やっぱり」と納得した。


「でも、凄いですよ。ノマージさんも2つ星なんですか?」


 クーネがノマージに聞くと、ノマージは「いや」と否定した。


「オレは2級3つ星」

「「「えっ」」」


 ハジメ達が一斉に驚く。それを見てウェーナがクスクスと笑い出す。


「やっぱり見えないわよね」

「なっ、心外な!」

「す、すみません」

「ごめんなさい」


 異議を唱えるノマージに素直に謝るハジメ達。それは「見えない」という事を肯定している訳なのだが、ノマージは笑って「ま、いいや」と気にしている様子は無かった。実のところ、ノマージ自身階級にあまり興味が無いという事だった。


「まぁ、ノマージだものしょうがないわよね。でも、アレでも"1級に一番近い男"って言われてるのよ」


 ウェーナがフォローする形でハジメ達に教える。


「い、1級……」

「未知の領域過ぎてわからないや」


 ハジメ達は漠然に凄いとしかわからなかった。

 山道の移動は問題なく進み、野営や道中の会話を重ね、全員が打ち解けて行った。そして4日目を迎えた朝、問題が発生する。


「っ!? お前、何をしてるっ!」


 野営の片付けを終え、これから出発という時にアーエン護衛隊のジッペが先頭の馬車の中で怒鳴り声をあげた。


「は、離しやがれっ!」


 馬車の中から子供の声が聞こえ、全員が馬車に集まる。するとジッペに捕えられた少年が居た。掴んでいる手を振り解こうとジタバタと暴れている。


「……なんでガキがいるんだ?」

「奥の麻袋に隠れてやがった。たぶん関所にいた時に潜り込んだんだろう」


 ジッペの言葉に呆れるモースン。 ジッペに手を離すように合図を送ると少年はバッと手を振り払ってモースンを睨みつける。だがモースンがギロリと睨むと、すぐに目を逸らしてしまった。


「おい坊主、なんで馬車に乗ってる?」

「ぎ、ギルド本部に行きたいだけだ!」

「へぇ~、ギルド本部いってどうすんだ?」


 ノマージが興味深そうに割って入った。すると少年はキッとノマージを見る。短髪につり目。先程からの態度も踏まえて生意気そうな子供だなとハジメ達は思った。


「オレが子供だからってマシュメのギルドは冒険者登録してくれなかった! だから本部に行って冒険者になるんだ!」


 その場にいた全員が「どういう理屈だよ」と思ったがノマージは声を上げて笑い出す。


「ハッハッハッハ! 面白いチビ助だな」

「チビじゃねぇ! ヘンテコな服着やがって!」


 小柄な事を気にしていたのか、少年は腰に差した小剣に手を掛ける。するとモースンが少年の服の襟首を掴んで持ち上げる。


「こ、この! 下しやがれ!! たたっ斬ってやる!」


 そう言いながら少年はバタバタと暴れている。暴れる少年にノマージはいつもの調子で話し掛ける。


「本部行ったって同じ事だと思うぞ? ちゃんと実力つけてからなればいいだろ」

「子供でもオレはちゃんと実力あるんだ! 戦えるんだ!」

「その格好で言われてもなぁ」

「くそっ! オレと勝負しろ!!」


 そう言って暴れ続ける少年。ノマージが「あ~はいはい」と軽くあしらうと余計に暴れだす。


「いい大人がおちょくるような事してんじゃねぇよ」


 少年とノマージのやり取りにモースンは溜息を吐く。


「さて、ここに置いて行く訳にもいかねぇし。とりあえず関所までは乗せていくって事でいいか?」


 モースンがトラフに聞く。


「ええ、戻るわけにもいきませんし、そうするしかないでしょうね」


 トラフの許可が下りると、少年は再び馬車に乗せられる。


「いいか坊主、特別に関所までは乗せてやる。その代りそこで大人しくしてろ。邪魔すんじゃねぇぞ」


 モースンが釘を刺すと、少年はプイっと顔を逸らす。


「かわいくねぇガキだな!」


 そう言うとモースンは先頭に行き、出発した。


「あの子関所からどうするのかしら」


 クーネが馬車に乗った少年を見ながら言う。


「うむ、マシュメに行く人々に便乗して戻るのでござろう」

「それが一番ですかね。ギルド本部がどこにあるか知らないけど、そこまで子供1人で行くのは無理があると思うし」

「サニー、お話ししてみる!」


 同年代の子供に興味津々なのかサニーは少年の元に走って行った。だが話し掛けてもそっぽを向かれ、あえなく撃沈。ガッカリしながらサニーが戻って来た。


「ダメだった……」

「今は機嫌悪いみたいだからまた今度挑戦しような」

「……うん、がんばる」


 サニーを励ましつつ、山道を進んでいった。

 しばらくすると大きな橋が見えた。


「大きな橋ね」

「ああ、これは凄い景色だな」


 渓谷に架かる橋の中央からの景色は絶景だった。広がる青い空と深い谷。橋の上に立つと自分が空中に浮いているような気分がした。長い年月をかけて出来たと思われる深い側壁の下には河が流れていた。下を覗きこんだハジメは「落ちたら助からないな」と思いブルリと身を震わせる。


「よし、ここから鉄甲蟻共が出るからお前等も気をつけろよ!」


 モースンの良く通る声が聞こえ、ハジメ達も身を引き締めて周囲を警戒しながら再び進み始めた。しばらく進むと突然地面が揺れた。


「何? 地震!?」


 一行はその場で停止し、様子を伺う。山の斜面から石が転がって来るが、揺れはすぐに収まった。


「大雨の影響かもしれねぇな。その辺も注意して行くぞ」

「わかりました」


 周りには急な斜面なども多く土砂崩れが起きる危険もあった。だがそれ以降は地震も起きず、土砂崩れに遭遇する事も無かった。鉄甲蟻も活動が活発な時期では無かったのが幸いしてか、4日目は出くわす事は無かった。

 そして野営を終え5日目、関所までもう少しという所でモースンの声が聞こえる。


「出たぞ! 鉄甲蟻だっ!」


 開けた場所に入った時、1匹の蟻を発見した。50cm程の巨大な蟻で体全体が黒くくすんだ金属の様になっている。


「あれが鉄甲蟻……」

「なんと……あれほど大きな蟻が居るのでござるか……」


 ハジメ達は驚きが隠せなかった。だが鉄甲蟻は山道を妨げる位置では無かった上にこちらを向いていない。事前の打ち合わせ通り警戒しながら通り過ぎる事にする。鉄甲蟻もこちらを襲ってくる様子はない。


「よし、このままやり過ごすぞ」


 モースンが控えめの声で全員に言う。その時だった。


「あんな蟻、オレが倒してやるっ!」


 そう言って馬車から少年が小剣片手に飛び出していった。


「なっ!」

「おい! 馬鹿やめろっ!!」


 一瞬何が起きたか分からなかったモースン達が慌てて止めるが、少年はそのまま蟻へと駈け出す。


「オレの実力見せてやる! これでもくらえ!」


 少年は小剣で鉄甲蟻を斬りつける。だが金属音を響かせ甲殻に弾かれてしまった。


「う、うそ……」


 弾かれると思ってなかった少年は動揺する。そして攻撃された鉄甲蟻はギロリと少年を見る。


「うっ……」


 すると鉄甲蟻は金属を擦り付ける様な音を鳴らした。


「マズイっ! 仲間を呼ぶ気だ!」


 モースンが叫ぶと、斜面に並ぶ大きな岩の影からゾロゾロと鉄甲蟻が現れ、呼んだ鉄甲蟻の元へとやって来る。


「これはまずいな。おっさん達はこのまま逃げろ。あのチビ助はオレが連れ戻す。ウェーナも馬車をよろしくっ」

「おいっ、ノマージ!」

「ノマージ!」


 ノマージはモースンとウェーナにそう言うと少年に向かって走り出す。


「オレも行きます!」


 ノマージを手伝おうとハジメもその後を追おうとする。


「ハジメ!」


 クーネが呼び止めると、ハジメは振り返って指示を出す。


「クーネ達は馬車を頼む!」


 そう言うとハジメはノマージの後を追った。


「う、うぁ……」


 少年の前には既に数匹の鉄甲蟻が集まって威嚇をしてる。少年は恐怖から身動きが取れないでいた。ガタガタと小剣を突き出すように構えるが鉄甲蟻の1匹が素早く小剣を咥え奪い取った。


「あっ!!」


 奪い取られた小剣はバキバキと音を立て噛み砕かれてしまった。


「た、たすけ……」


 涙目になって震える少年に鉄甲蟻が襲いかかろうとした時、蟻の首がスパンと斬り飛ばされた。


「大丈夫かチビ助」

「えっ?」


 少年の前に現れたのは偃月刀を構えるノマージだった。ノマージに驚いていると横でガキンと金属音がした。そちらを見るとハジメが蟻を殴り飛ばしている。殴り飛ばされた蟻はかなりの重量があるのか、飛ばずにゴロゴロと転がっていく。だがすぐに体勢を整えた。


「か、硬いなやっぱり。それに重い」


 ハジメは<魔力籠手(ガントレット)>で固めた手をブンブンと振る。


「おお、面白い魔法使うんだなハジメ。だけどコイツ等やるなら関節部分を斬るのがいいぞ」

「そ、そうでした……」

「とりあえず……」


 ノマージは少年を小脇に抱える。


「なっ!」

「おっと暴れるなよ。死にたくなかったらな」


 驚く少年に忠告するノマージ。少年はそれを聞いて大人しくなる。


「ノマージさん、どうしますかコレ」


 ハジメは辺りを見渡しながら言う。既に十数匹の鉄甲蟻が周囲を囲んでいた。


「まぁ、強行突破しか無い……かな」


 ノマージは笑顔のまま片手で偃月刀を構える。


「わかりました」


 ハジメも腰の剣を引き抜こうとした、その時だった。


「うおっ!?」

「なっ、なんだ!?」


 突然地面が揺れ出した。急な事に驚くハジメ達。鉄甲蟻達は何かを察知したのか散らばるようにその場から逃げて行った。


「蟻が……」


 蟻の行動を疑問に思ったが揺れは更に激しくなる。立っているのがやっとの状態のハジメ達の足元にピキピキとヒビが入っている事に気付く。


「なんか嫌な予感が……」

「ノマージさん! この場を離れ―――」


 ハジメが言うよりも早く、大きな音を立て足元の地面が崩れ去る。


「なっ!?」


 突然開いた穴に少年を抱えたノマージとハジメは飲まれてしまった。


「ノマージ!」

「ハジメ君!」

「ハジメッ!」


 指示通り馬車と共に逃げ出そうとしていたクーネが穴に消えるハジメに駆け寄ろうとする。


「いかん! クーネ殿!」


 兵衛は慌ててクーネを引き留める。


「離して! ハジメがっ!!」

「危険でござる! 行ってはいかん!」

「キュィィィイイ!!」


 クーネ達の頭上を勢いよくパルが飛んでいく。そのままハジメ達が落ちた穴へと入っていった。


「パル!!」

「おい! ここは危ねぇ。とりあえず避難するぞ!」


 モースンがクーネ達に叫ぶ。


「クーネ殿、ここはパル殿に任せてひとまず避難するでござる。サニー殿も来るでござる」

「う、うん」

「ハジメ……」


 兵衛に言われクーネ達は馬車に乗り込む。揺れが収まらない中、馬車は急いでその場を後にした。

山越え編と思わせておいて地底探検編だったり。

冒険っぽさが出ればと思います。


次回もよろしくお願いします。

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