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ジュエル!  作者: asobito
マシュメ王国編
60/67

第51話 ハズク商会の若旦那

説明と会話の回になっちゃいました。

「ゴホン!」

「っと、ハジメ君どうしたの?」


 喜び合うハジメとラニアンだったが、積み込みをしていた者からの咳払いを聞き、ラニアンは気持ちを落ち着けてハジメに聞く。ハジメもラニアンが仕事中だと気付き申し訳なさそうに答える。


「仕事中悪いな。ハズク商会の護衛依頼で来たんだけど、依頼主のトラフ・ハズクさんっているかな?」

「護衛してくれる冒険者ってハジメ君だったんだね! 若旦那様なら店の中にいるよ」


 ラニアンは積荷をしていた人達に一言断った後、ハジメ達に手招きをして店内に入っていく。ハジメ達はその後に続いて行くが、クーネがハジメの袖をクイクイと引っ張った。


「ハジメ、今の人知り合い?」

「ん? ああ、故郷の友達なんだ。商人になる為に修行中だったと思うけど、ハズク商会に来てたとはな」


 ハジメは嬉しそうに話す。


「同郷の友との再会なら納得の喜び様でござるな」


 兵衛が納得といった顔で頷いた。


「う、ちょっと浮かれ過ぎたかな」

「ハジメ、すごく嬉しそうだった!」

「いやいや、あれくらいでござろう」

「そうね。でもあんなに嬉しそうなハジメ、珍しいかも」

「ぐっ」


 珍しいモノが見れたてニヤリとするクーネ。ハジメは恥ずかしくなり前に向き直る。クスクスとクーネ達が笑うのが分かったが聞かない事にした。

 運搬のの為か、開けっ広げた大きな両開きの扉を通り店内に入る。店内は所狭しと商品が並んでおり、一角には商談に使うのかソファーが並べてあった。奥には大きなカウンターと螺旋階段があり、二階は個室と思われる扉がいくつか並んでいる。カウンターと階段の間に更に奥へと続く扉があるが、そこから大きな荷物を持った者が外の馬車へと荷を運んでいるので恐らく倉庫があるのだろうとハジメは推測した。ハジメ達は荷を運ぶ人達の邪魔にならない様にラニアンの後をついて行く。


「すみません」

「ん? どうしたラニアン」


 ラニアンが声を掛けた中年の男は持っていた書類から目を離し、ラニアンを見る。


「護衛依頼の冒険者の方がお見えになりました」

「おお、そうか。では私が案内しよう。ラニアンは引き続き準備を頼む」

「はい」


 会話が終わるとラニアンが振り返り、ハジメを見る。


「ごめん。まだ仕事の途中だから、僕は戻るね」

「ああ、ありがとうな。また時間ある時に話しよう」

「うん。それじゃあね」


 ラニアンはハジメにそう言うと、後ろにいたクーネ達にもお辞儀をして外へと歩いて行った。すかさず中年の男が声を掛ける。


「皆様、此度は護衛を引き受けて頂きありがとうございます。早速、若旦那様の元へご案内させていただきますね。こちらでございます」

「よろしくおねがいします」


 男は笑顔で頭を下げると螺旋階段へと向かう。ハジメ達もその後に続き二階へと登る。廊下の一番奥の扉の前に行くと男はノックをした。


「若旦那様、護衛の件で冒険者の方々がお見えになっております」

「入ってもらって下さい」


 中からの了承を得た男は扉を開け、ハジメ達を部屋の中へと促す。落ち着いた雰囲気の室内には応接用のソファーとテーブル、奥には机と椅子と必要最低限と思われる物しか置いてなかった。高級な美術品が並んだ社長室をイメージしていたハジメは少し意外に思いながら部屋を見渡し、椅子から立ち上がった男を見る。小柄で恰幅のいい中年らしき男だった。中年らしきと判断が曖昧になったのは彼の顔が梟そのもので、羽に覆われた丸顔と、丸い目をパチパチとさせる姿は中々愛嬌のあり実年齢が分かりにくかった。体格と先程聞こえた声で年上だろうと思われた。男はハジメを見ると満面の笑顔を見せる。


「いやいや、ようこそお越しいただきました。どうぞどうぞ」


 男はハジメ達をソファーへと促し対面に座る。ハジメ達は「失礼します」とソファーに座った。案内してきた男は「お茶をお持ちします」と言って扉を閉めて行った。


「私、ハズク商会支部統括をしておりますトラフと申します」

「ハジメ・アメジストです」

「クーネです」

「サニーです! こっちはパルです!」

「キュィィ!」

「二藤部兵衛と申す」


 トラフに応じてハジメ達も挨拶をする。


「これはご丁寧にありがとうございます。ではハジメ様―――」

「様なんてつけなくてもいいですよ」

「いえいえ、今後大事なお客様になるかもしれませんからね。これは商人の癖の様なものだとお考え下さい」

「そうですか。そういう事なら」


 愛想良く話すトラフにハジメ達も好感を持って応える。


「ハジメ様のパマウィンでのご活躍も聞き及んでおりますよ。私共としても興味深い方だと思っておりました」

「活躍ですか……闘斧団の事ですかね?」

「ええ、いやぁまさか3つ星が2つ星を倒してしまうとは。西ディアヴェントでそんな話を聞くとは思いもしませんでしたよ」


 ハジメはトラフの言葉に疑問が浮かぶ。


「東ディアヴェントではよくあるんですかね?」

「おっと、西を悪く言うつもりは無いんですよ。ただ、東は少々特殊と言いますか、西に比べると色々と違ってましてね」

「そうなんですか。西側しか知らないもので……」

「なるほど。ディアヴェント大陸というのは西と東で文化に少々差がありましてね。まぁ原因の殆どが山脈を越えた先にある都市国家群のせいなのですが」

「都市国家群?」


 ハジメは初めて聞く言葉だった。


「ええ、山脈を越えた先、光の国ジュリエティアまでの一帯にいくつか都市があるのですが、その一帯は国という概念がありません。それぞれの都市が独自の統治をしているので色々と個性が強くなり、集まる人々も個性的な方が増えるというわけですね。そうなると"とんでもない事件"なども頻繁におきまして」

「なるほど……」


 これから向かう先は一筋縄ではいかない地域だと理解したハジメ。光の国ジュリエティアの名前が出た途端居心地が悪そうにしているクーネだったが、他の者達が気付くことはなかった。


「まぁ、そんな所だからこそこれまで様々な恩恵もあるわけですけどね。ハジメ様達にも是非ご自身の目で確認していただきたいものです」

「それは楽しみですね」


 ハジメが笑顔で答えるとトラフも笑顔で頷く。すると扉をノックする音がし、先程出て行った男が紅茶を持って入ってきた。全員の前に紅茶を並べると、一礼して部屋を出ていく。トラフに「どうぞ」と勧められ、ハジメ達は紅茶で喉を潤す。普段口にするような紅茶とは違い、風味豊かな味わいだった。


(大商会になると出す紅茶も違うな。オレでも分かるくらいだ)


 紅茶に詳しくないハジメでも高いのだろうと推測できる旨さだった。


「ふむ、では依頼の話をしましょうかね」


 紅茶を一口飲んだトラフは立ち上がり、机にあった書類を手にして戻ってくる。


「ハジメ様方にお願いするのは鉱山都市ゴルダシュまでの護衛です」

「ゴルダシュ……」

「鉱山都市でござるか」

「おや、初めて聞きますかな?」


 ハジメと兵衛が呟くのを聞いてトラフは2人を見る。


「いえ、鉱山都市ってのは聞いた事あったんですけど名前までは聞いた事無くて」

「ああ、そういう事でしたか。鉱山都市といえばゴルダシュしかありませんから、西ディアヴェントでは鉱山都市で通ってしまいますし、しょうがないですね」

(という事は鍛冶屋で聞いた鉱山都市の事でごさるかな。これは渡りに船でござるな)


 兵衛が考えているとトラフがこちらを伺っている事に気付く。


「話の腰を折って申し訳ない。続けて下され」


 兵衛が謝るとトラフは「いえいえ」と笑顔で言い、話を続ける。


「日程ですが、まず山脈に手前にある関所までが6日程、山道を通り反対の関所までが5日程、関所からゴルダシュまでが2日程となる予定です」

「結構長旅になるんですね」


 クーネが言われた日程を聞いて呟く。


「馬車での移動ですがやはり掛かってしまいますね。それと荷台は積荷が載ってますので少々狭い思いをしてもらう事になります。よろしいですかな?」

「大丈夫です」

「申し訳ありません。それと、同行者ですが、私と部下の者2名です。御者は私共でやりますので問題ありません」

「わかりました。出発は何時頃になりますか?」

「そうですね。積込みももうすぐ終わると思うので、それが終わり次第となります。何か準備があるのであれば今のうちにしてもらえると助かりますが……」

「いえ、オレ達は大丈夫です」

「では、こちらでお待ちいただいてよろしいですかな?」

「はい、わかりました」


 ハジメ達が頷くのを確認するとトラフは書類を持って一礼すると部屋を後にする。

 特にする事も無く、雑談をしながら待つこと30分程。先程の中年の男が部屋にやって来て準備が整った事を伝える。ハジメ達は男に案内され、店の外に出た。トラフの部下兼御者と思しき人物が馬車の最終点検をしており、トラフとラニアンが旅支度を整えた状態で待っていた。


「え? 一緒に行く部下ってラニアンなのか?」


 驚いたハジメはラニアンに聞く。


「うん、本部で勉強させてもらう事になったんだ。でも、まさかハジメ君達と一緒に旅をするとは思わなかったよ」


 ラニアンは嬉しそうに話す。二人の様子を見て興味深げにトラフが話し掛けてきた。


「おや、お二人はお知り合いですか?」

「ええ、同郷の友人です」

「おお、それはそれは。ラニアンも友人がいれば心細くは無いでしょう」

「はい!」

「いや、ラニアン。そこは"一人でも大丈夫です!"っていう所だぞ」

「え? そうなの?」


 会話を聞いていたトラフは「フォッフォッフォ」と笑う。ハジメは「あ、やっぱり梟っぽいなぁ」と思ったが失礼だと思い直して自粛した。


「それでは皆さん、店の事はよろしくお願いしますよ」

「はい、お任せください。若旦那様もお気をつけて」


 トラフに言われ、ハジメ達を案内していた男が代表して応える。ラニアンにこっそりと聞くと、彼が支店長という事だった。

 御者とトラフは御者台に乗り、ハジメ達とラニアンは荷台に乗り込みパマウィンを出発した。


「そういえば自己紹介がまだだったね。僕はラニアンです。気軽にラニアンって呼んでください。よろしくお願いします」


 街を出た辺りでラニアンがクーネ達に名乗る。


「私はクーネよ。私も呼び捨てでいいわ。よろしくね」

「某は兵衛と申す。よろしくお願いいたす」

「サニーだよ! よろしくね!」


 ラニアンの挨拶にクーネ達も返す。最後にハジメがクーネ達との関係を説明する。


「皆一緒に旅をしてる仲間なんだ」

「そうなんだ。楽しそうで何よりだよ」

「ラニアンも元気そうでよかった。ハズク商会で商人修行してるのか?」

「うん、お爺さんとハズク商会の会長は古い知り合いで、その伝手で勉強させてもらいに本部に向かう所だったんだ」

「そっか。大商会って言うし、頑張らなきゃな」


 ハジメはラニアンの肩をパシパシと叩く。ラニアンは少しグラつきながらも笑顔で頷いた。仲の良さそうな二人を見てクーネがラニアンに質問をする。


「たしか、ハジメと同じ学園に通っていたんだったわよね?」

「うん。初めて出会ったのが……入学試験の時だっけ?」


 ラニアンは確認するようにハジメ見る。


「ああ、ラニアンすごく緊張してて試験官に名前呼ばれた時、声が裏返ってたよな」

「えっ!? そ、そうだったかなぁ」


 ニヤリとしながらハジメが言うと、ラニアンは恥ずかしそうに視線を逸らす。それを見てクーネ達はクスクスと笑い出した。


「そうだ、ハジメとラニアンの学生時代の話を聞かせてよ。興味あるわ」

「おお、いいでござるな」

「サニーも聞きたい!」


 クーネの発案に兵衛とサニーも賛成する。


「そんな大した事無いけどなぁ」

「でも、ハジメ君は入学当初から有名だったよね?」

「え? そうか?」

「入学式に王子様が直に会いに来たって話題になったりしたんだけど、知らない?」

「いや、全然。それにあれはヒルナンとエルレアも一緒だったしなぁ」


 ハジメは身に覚えがないと首を傾げる。


「さっそく興味深いわね。詳しく教えなさいよハジメ」


 クーネが興味津々と言った目でハジメを見る。ハジメとラニアンは苦笑いをしながら当時の出来事を話した。

 移動中の警戒を怠ってはいけないので常に御者台に1人、荷台から後方と側面を見張る役を交代で行った。周囲は見晴らしのいい風景が続いていたのでそれほど難しくも無く、実際に何も起きなかった。荷台の中では他の者達が思い思いの雑談を展開し、ハジメの昔話や、兵衛の元の世界(日本)の話、時にはトラフが話に加わっていた。商人らしく言葉巧みで話が上手かった。得する買い物の仕方や商いの裏話など「商人が言っちゃっていいのか」と思う事も平気で話していたが、恐らく言っていい事といけない事の線引きはしっかりしているのだろうとハジメは感じた。


「ラニアンも覚えておいてください。商人に大事なのは眼です。世を見て、人を見る。常に何が求められ何をすれば利に繋がるのか、それを知る為にも商人としての眼を鍛えなければいけません」

「は、はい!」

「皆様も冒険者としての眼を大事にして下さい。これは多くの冒険者を見てきた商人からの助言と思って下さい」

「わかりました」


 そしてこういった為になる事をサラリと言い出すので油断できないなと感じた。ラニアンは特にトラフが話し出すと真剣に耳を傾けている。

 関所までの6日間は問題なく進み、一行は関所に到着した。関所は小さな村のようになっており、宿や数件の家あった。


「む、あれは……」


 トラフは宿屋の近くにある厩舎に停まっている馬車を見て首を傾げる。馬車の近くでは人が集まって何かを話し合っていた。その内の一人がこちらに気が付くと、慌てて走って来る。


「わ、若旦那様!」


 トラフをそう呼ぶのを見てハズク商会の者だとハジメ達もすぐに分かった。


「どうしました? あなた達は既に山を越えている頃かと思いましたが……」

「そ、それがですね……」


 男が言いかけると後ろからゾロゾロと人がやって来る。


「山で大雨が降っちまっててな。足止め食らってたんだ」


 冒険者らしき5人組のリーダー格と思われる男がお手上げと言った様子でトラフに説明する。


「そうでしたか」

「まぁ、雨は止んだらしいし、もうすぐ通れる。で、そっちは同業者か?」


 男は後ろから様子を伺っていたハジメ達を指さす。ハジメ達は慌てて外へ出て男の前に行く。


「初めまして」

「おう、よろしくな」


 簡潔な挨拶を済ませるとトラフがハジメに話し掛ける。


「こちらは先行していた方々なのですが、どうやら足止めさせられていた様です。ここからは合流して行きます」

「はい、わかりました」


 ハジメ達が話をしていると男が思い出したようにトラフに話し掛ける。


「おお、そうだ。ちょっと知り合いが一緒に行くんだがいいか? もちろん報酬や飯の追加はいらん。……って、ありゃ? アイツ等は何処行った」


 男は当の本人達が居ない事に気付く。すると宿の方から2人のんびりした足取りでやって来る。刺繍の入った鮮やかな緑の道着、裾の絞った黒いズボン、左側だけに金属の肩当と胸当てを付け、銀色の偃月刀を持った男と、全身を革装備で固た黒髪の細身の女性がやって来る。ハジメとラニアンは見覚えのある2人だった。


「おい! ノマージ! さっさとこっち来い!」

「へいへい、五月蠅いおっさんだな。まったく……」

「ノマージがダラダラと寝てるのが悪いわ。まったく……」


 愚痴る男と窘める女。前にも見た事のある光景だった。


「……ノマージさんとウェーナさん?」

「ん?」

「あら?」


 名前を呼ばれた2人はハジメを見る。


「おっ、あん時の少年か!?」

「ハジメ君?」

「はい!」


 ノマージとウェーナは驚きの声を上げる。ハジメは「覚えててくれたんだ」と嬉しく感じ笑顔で頷いた。

2話連続で懐かしい人登場です。次回山越えスタート致します。


次回もよろしくお願いします。

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