第4話 5歳児が聴く核人についてと明日からの話
「さて、自分達がどんな種族かというのはこれくらいかな。他にも色々あるけどその辺は追々話すとして。」
オルタスが一度話を区切り次の話を切り出す。ハジメはまだ自分の事で知らない事があるのかと気を引き締めるがふとオルタスの斜め後ろにラウが立っていることに気付く。こちらの視線に気づきラウは笑顔で軽く頭を下げてきたのでどうしたんだろうと首を傾げる。オルタスはそのやり取りを見た後口を開く。
「そう、ラウの事だね。ラウも人間とは違うんだ。」
「魔人なのですか?」
「いやいや、ラウは魔人じゃないよ。核人と言って、うーん、どう説明すればいいか。普通の生き物とは全く別って言えばいいのかなぁ。魔晶石という自我を持つ石があってね。魔晶石は魔力を蓄える性質がある。ある程度蓄えるとその魔力で体を構成して生き物の様になるってわけさ。」
「えっと、じゃあラウのあの姿は魔力の塊ってことですか?」
「そういうことでございます。坊ちゃん。」
そう言うとラウは右手を胸の高さまで上げると指先から蒸発したように消えていった。ハジメの驚いている顔を確認すると反対の手でサッと隠し次の瞬間には消えたはずの指が元通りになっていた。マジックの様な仕草をするせいでどっちなのか混乱しだすとラウは説明を始めた。
「核人の体は魔力そのものですので魔力さえあればいくらでも再生は可能でございます。大まかな外見はそれぞれの核によって決まってますが服などの部分は個人の趣向とお考えくださればよいかと。魔力をどうやって蓄えるかですが、漂う魔力を吸ったり、先ほどの様に食事を取って食べた物を魔力に換える、後は仕える主に魔力を分けてもらう。そうしたことで蓄えております。」
「仕える主?」
「はい、核人は自分の力だけで変化できるほど魔力を蓄える事はほとんどございません。ですので変化できるほど魔力を注いでくれた人物に感謝し仕える事が多くございます。核人と主の相性など様々な理由でそうではない場合もありますが。」
「ラウは父上に感謝して仕えてる?」
「はい、この大恩は返しきれないものと思っております。」
「いやいや、大げさなんだよラウは。」
照れたオルタスは頭を掻きながら手を振る。そんな2人を見て笑顔になるハジメとクラウ。
「ラウも長生きしてるの?」
「そうですね、石ですので歳を取ることはございません。主やクラウ様と同じくらいとお考え下さればよろしいかと。」
そう言われたが見た目は両親が20代後半くらいなのに対してラウは40歳くらいなので同じは無理があるだろうと思ったが見た目が実年齢に全く関係ない事を考えたらなんとも言えないなと考えを改める。
「クロフレイアも同じくらい生きております。彼女も核人でございますよ。」
「え?クロも?馬だけど?」
「核人という名前ですが、変化後にどんな生き物になるかは千差万別でして。馬であったり、中には昆虫のような者もおります。生き物ですらない者もいるとか。私はまだ見た事がございませんが。」
「な、なんでもありなんだね・・・。」
「あと核人にはそれぞれ固有の特技がございまして。」
そう言うとハジメの方へ来て掌を出す。そうすると掌の上に黒い円が出てきてそこからカップが出てきた。赤ん坊の頃から見ているマジックかと思ったが、いつもはサッと反対の手などで隠した瞬間に出てたりしていたので実際掌から出てきているとは思ってなかった。3人分のカップを出して両親とハジメの前にに置くと今度はポットを出す。カップに注がれる紅茶からは湯気が立っていた。注ぎ終わるとポットを掌に載せる。また黒い円がでてポットが中に入った後円が消える。
「こういうことでございますね。」
「え~っと・・・どういうこと?」
「これは失礼しました。では詳しく説明を。私の特技は収納と申しますか、別の空間に物を出し入れできるのでございます。どれだけでも物は入りますが、空間に入れたい物が掌に載る事と生き物以外という条件がございますね。空間に入っている間は時間が止まっているので劣化したり腐ったりすることもございません。」
「だから紅茶も暖かかったんだね。」
「そういう事でございます。」
ラウがニコリと頷く。空間に入れた物を忘れちゃうことはないか聞くと、空間の中に何が入っているかはちゃんと把握しておりいつでも自分の出したい物を出せるということだった。
「クロも特技あるの?」
「あるにはあるのですが、クロフレイアの特技はあまり生活向きではないと申しますか・・・。」
「へぇ、何だろう。教えてよラウ。」
ファンタジー特有の事に子供の様に(実際子供だが)興味津々なハジメに申し訳なさそうにラウは口を開く。
「クロフレイアの特技は自分を中心に周りを火の海に変えることでございます。」
「・・・・・・・・・・・・・」
思いもよらない特技にハジメは笑顔のまま固まってしまう。
「もちろんクロフレイアは大変賢い馬ですので無暗にそんな特技は使いません。坊ちゃんを怖がらす事もしないのでご安心下さい。」
「う、うん。」
ビックリはしたがその特技を聞いてクロが怖いとは思わなかった。クロと今まで接してきたが怖い思いをすることはまったくなかった。話しかけると理解しているように鳴き声を出すし、ハジメを見るクロの目も優しい目をしていたのでハジメはクロの事が好きだった。
「よし、それじゃラウとクロフレイアの話はこの辺にして次の話をしようかな。」
ずっと黙って聞いていたオルタスが口を開いた。ラウはスッとオルタスの後ろに下がる。それを確認するとオルタスは話を始める。
「まだハジメは5歳だし、家と村の中くらいしかいることないけどそれ以外の所はとても危険な所というのはわかるね?。」
「はい。」
これはずっと前から言われいている事だった。家や村の周辺は比較的安全だが、森の中にはモンスターと呼ばれる生き物が沢山いる。実際村人が森に入ってケガをしたというのも聞いていたし、定期的に村人数人で狩りをして食糧や生活用品の材料にしているのも知っていた。狩ってきたモンスターを見たが鋭い牙や爪を持った熊の様なものもいて子供なんて到底勝ち目のないものだった。
「だからハジメには明日から鍛錬を積んでもらおうと思ってるんだ。あ、体を鍛えて強くなろうってことだね。」
「強く?」
「ハジメも男の子だ。みんなを守れるくらい強い方がいいだろう?」
「はい、そう思います。」
転生前は体を鍛えるなんて特に考えてもいなかったがそれは必要のない生活を送っていたせいだ。だがここはそれでは済まない。自分の身にいつ危険が訪れるかわからないし、周りの人々にも同じ事が言える。5歳まで暮らしたが両親はもちろんラウやクロ、村人達もいい人ばかりで愛着があり大切な人達だとハジメは思うようになっていた。
「よし、それじゃ鍛錬の内容だけど魔法と武器の扱いと色々な戦闘技術、あと体力作りかな。それに勉強もしなきゃいけないね。」
「いっぱいありますね・・・。」
「魔人族は魔力はずば抜けてるのだけど体力とかは普通の人間くらいかそれ以下だから武器を使った接近戦はあまり得意じゃないのだけどね。実際オレはそういうのはからっきしだし。」
「そういうものなのですか。」
そう言われたが5歳のハジメにはいまいち実感がなかった。
「たぶんハジメは魔人と人間のハーフだから普通の魔人より体力は付くと思うんだ。それに成長できる間に鍛えておけばそれを維持できるだろうしね。オレは成長期にそんなに鍛えられなかったから。」
オルタスはそう言うと昔を思い出したのか苦笑いをした。
「で、誰が教えるかなんだけど魔人の使う魔法は人間のとはちょっと違っててね。これはオレしか教えられないから魔法担当はオレだね。で武器の扱いなんかは村のドルガンだね。彼は村の子供達にも教えてるからそこで一緒に習うからね。」
ドルガンは村の警護をしている人で30歳くらいの男。肌は日焼けして浅黒く、身長は180cmを超え、一見怖そうだが愛嬌のある顔をしており豪快な笑いがピッタリで村では人気者だった。体は鍛えられていて色々な戦闘技術を知っていることから子供や若者相手に村で道場を開いていた。道場と言っても建物があるわけではなく村の隅の空地でやっているのだが。村の子供達とは村に行ったときよく遊んでいるので一緒にやると知って嬉しかった。
「毎日道場があるわけじゃないからそれ以外の日はラウに鍛えてもらおう。」
「ラウ?」
「私も人並み程度には戦う技術はありますのでご安心ください。」
ラウが戦うイメージはまったくなかったので首を傾げるとラウはそう言って一礼した。
「それで最後の勉強担当はクラウだね。」
がんばりましょうねとクラウが微笑むが、勉強と聞いて高校生時代の勉強を思い出しちょっと敬遠したい気分だったが自分が5歳児だということを思い出し心の中で苦笑した。
道場が3日に1回午前中にあるという事なので父とラウも3日に1回午前中にやることになり、クラウとの勉強は2日に1回午後にやることになった。明日は道場があるので父と一緒に朝村に行くことになった。
家政婦以外人間じゃなかった。という話です。
次回は新しい登場人物が何人かでてきます。詳細はこれから考えるのですが。




