昔話 少女と守護精霊の像
長い間を空けてしまってすみません。
2013/12/2 ご指摘のあった点を修正しました。
「お父さん、これは何?」
少女は目の前にある木像を指差す。子供でも持ち運べそうな大きさの像だった。
「これはな、エルフ族に伝わる精霊様だ。家族みんなを守ってくれるありがたい精霊様だぞ」
「精霊様かぁ。私も守ってもらえる?」
「ああ、毎日ちゃんとお祈りすれば精霊様がバッチリ守ってくれるぞ。できるか?」
「うん! 私毎日やるよ」
「そうかそうか。じゃあこの像はお前にあげよう。大事にするんだぞ」
「わぁ、やった! 大事にするね。ありがとうお父さん!」
満面の笑顔で喜ぶ娘の頭を撫でる父親。早速少女は両手を組み、目を瞑る。
「家族皆を守ってください」
それは自我が目覚めたクチナが最初に聞いた言葉だった。真っ暗な空間にポッカリと開いた光へ意識を向ける。そこを覗き込むと目の前で少女が祈りを捧げていた。祈りと一緒に僅かな魔力も流れてくる。とても暖かく心地がよかった。
魔晶石のクチナがいたのは木像の中だった。神秘的な女性を模した像で胸元から魔晶石の一部が見えるようになっている。この像を作ったのは祈りを捧げる少女の父で、趣味で彫刻をしていたのだが、掘ってる最中に中に綺麗な石があることに気付いて当初彫る予定だった"威嚇する熊"を取り止め、エルフ族に古くから伝わる守護精霊を掘る事にした。職人と比較すれば不出来といえるかもしれないが、本人の最高傑作になった。そしてそれを一番気に入ったのが彼の娘だった。
それからクチナは像の中から少女と家族を見守る日々を過ごす。少女は毎日欠かさず木像にお祈りをし、その度に微量の魔力をクチナは得ていた。そんな日々の中で"家族"というモノがとても大切なモノだと考えるようになった。やがて少女は成長し、男性と結婚をし子供も授かる。料理が得意な彼女は家族の為に料理を振舞っている時がとても幸せだった。そんな彼女を見ているとクチナも何か満たされる気分になった。
喜怒哀楽を織り交ぜながらの日々は長いようで短く、子供も成長し立派な青年となりやがて家を出て行った。そして更に長い時間が過ぎ、伴侶の男性も亡くなった。そして彼女にも死が迫る。
寝床で最後の時を迎えようとしている彼女。周りには家を出ていた息子とその伴侶、そして小さな女の子が見守っていた。そしてクチナもじっと彼女を見つめる。今までずっと祈られたが、彼女の家族に何もしてやれなった。そして彼女すら死から救えないという悔しさと悲しさで満ちていく。例え自由に動けたとしても老いはどうしようもないと理解はしているが、それでもどうにかしたい。そんな感情を込めて見つめていると、彼女が弱々しく<像>を指差す。
「何? あの像?」
「…………」
息子が聞くと彼女はコクコクと頷く。息子が<像>を持って彼女に持たせる。胸元に抱えられたクチナに彼女から今まで以上に暖かい魔力が伝わってくる。
「これからも家族をお守りください」
ポソリと聞こえたその言葉を最後に彼女は息を引き取った。実際に彼女が言ったのか、魔力に込められた思いだったのかわからなかったが、たしかにクチナには聞こえた。そしてその願いがクチナの奥深くに刻まれる。
それから彼女は埋葬され、クチナも共に墓へと入った。そして時折漂う魔力を吸収しつつとても長い月日を土の中で過ごした。そして魔力によって体を形成した彼女は体の感覚を確かめつつ地上へ出ることを決心する。
[数百年後の墓地]
その日、マフィーとコラットはお世話になった人の墓参りをしていた。エルフ族の老人で彼女達にとっては一座に入るきっかけを与えてくれた恩人だった。興行で近くを通る際にはいつも墓参りをしていた。
「さて、それじゃ行こっか」
「うん、そうだね」
墓の前でしゃがみ祈っていたマフィーが言うと、隣で同じように祈っていたコラットが笑顔で頷く。
「それじゃまた来るね」
マフィーがそう言って立ち上がろうとすると、隣の墓の土が盛り上がった。
「ッ!?」
「えっ!?」
次の瞬間盛り上がった土の中から腕が飛び出してきた。一瞬思考が止まった2人だったが、恐怖の津波が一気に押し寄せる。
「ぎ、ぎゃぁぁあああああああ!!」
マフィーはその場で腰を抜かし倒れこむ。それとは別にバタリと音がしてマフィーは慌ててそちらを見るとコラットが白目を向いて気絶していた。
「コ、コラット、しっかりして!」
マフィーは慌ててコラットを揺さぶるが目覚める様子がない。そして後ろに人の気配を感じ動きが止まる。恐る恐る振り返ると、色白で無表情で半裸の全身土だらけな女性が立っていた。今にも倒れそうにユラユラとしているが視線はじっとマフィー達を見つめている。
「ヒ、ヒィィィ!」
思わず悲鳴を上げると女性の方が口を開いた。
「私はクチナと言います。申し訳ありませんが、私の守るべき家族がどこに居るかわかりますか?」
「えっ?」
パニック状態になりかけていたマフィーはあっけに取られて思考が停止した。
その後、落ち着きを取り戻したマフィーはクチナの事情を聞き、目が覚めてもクチナを見て気絶を繰り返すコラットになんとか説明をし、掘り起こしてしまった墓を直すので数時間を費やしてしまった。その後、近くの集落で調べたところ、クチナの持ち主であった女性の家族は今どこにいるかわからなかった。どうするか思案するクチナにマフィーが声をかける。
「行く当てないならウチにくるかい?」
「ちょ、ちょっとマフィー!?」
「いいじゃん、別に悪いやつじゃなさそうだし、ウチはあちこち周るから家族探しには丁度いいと思うよ」
「そ、それもそうだけど……」
「わかりました。そうします」
クチナは迷うそぶりを見せずに即答した。マフィーはなおさらクチナを気に入る。
「いいね! それじゃ改めて、私はマフィー。よろしくな」
「わ、私はコラット。よ、よろしくね」
「よろしくおねがいします。マフィーさん。コラットさん」
そういうと丁寧にお辞儀をする。スッと体を起こすと2人に質問をする。
「ところで"ウチ"とはなんでしょうか?」
「あ~それは追々説明するよ。最初はビビっちまったけど、美人だし団長たちも即了承するだろうさ。何か特技はあるかい?」
「特技ですか……」
クチナは少し考えると。肩に手を当てる。マフィー達が首をかしげて見ていると肩から包丁を取り出した。指でクルクルと回しながら右へ左へと移動する。あまりの速さに銀色の円盤が体の周りを飛び回っているように見えた。そしてスッと肩へと仕舞う。
「はぁっ!?」
「え? 何々?」
「調理器具の扱いは得意です」
((料理じゃないんだ))
驚きの中思わず心の中でつっこんでしまった2人だった。
集落の近くで野営をしている一座と合流する前にクチナは自分が居た墓の前でしゃがみ土に手を当てる。
「あなたの家族は必ず私が守ります。どんなことがあっても必ず……」
自分に言い聞かせるように呟き、その覚悟を噛み締めるとその場を後にした。
クチナの誕生とマフィー、コラットとの出会いでした。
次回は……いつになるか。出来る限りがんばります^^;