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ジュエル!  作者: asobito
マシュメ王国編
55/67

第47話 大通りでの襲撃と意外な終結

2013/8/15 指摘のあった誤字脱字を修正しました。

「待って! フロックス!」


 フレントスト一座の会場から飛び出したフロックスを追うオラリア。そしてその後ろをハジメ達も追う。


「フロックスさん!」

「ふむ、フロックス殿、思いの外足が速いでござるな」

「ですね。でも体力ある様では無かったから……。あ、速度落ちて来たみたいですよ」


 フロックスの家が近付くにつれ、フロックスの走り方が変わってきたことに気付く。左右にフラフラして呼吸も荒い様子だった。徐々に速度も落ち、オラリアが追いつく。


「ハァ、ハァ……フロックス、待ってってば!」


 ガシっとフロックスの腕を掴むオラリア。


「ヒィッ…フィッ……ッ、ゴホッゴホッ!」


 呼吸が乱れて咳き込むフロックス。どうやら限界だったようで、オラリアの方を向く余裕も無く今にも崩れ落ちそうだった。


「やっと、追いついた。結構走れますねフロックスさん」

「うむ、じゃが持久力が足りぬでござるな」

「…………」


 ハジメと兵衛は息を乱すことなく平然としている。これにもフロックスは返事をする余裕が無い。


「ハァ、ハァ、ハジメや兵衛さんと比較しちゃ可哀そうよ」


 クーネも肩で呼吸しながら追いつく。サニーは皆で全力疾走したのが楽しかったのかニコニコとしていた。パルはサニーの頭に乗ったままだったので同じように様子を伺っている。


「大丈夫ですか?」

「スゥ~……ハァ、スゥ~……ハァ。だいぶ落ち着きました」


 深呼吸を繰り返し徐々に回復したフロックスは汗だくな苦笑いを浮かべ応える。


「どうして急に走り出すのよ」

「うっ……あ、アイツなんだ」

「アイツ?」


 一同が首を傾げる。


「あの仮面を付けてた女が僕に付きまとってた奴です! あの目は忘れようがない!」

「ええっ!?」

「あの人が!?」


 フロックスの発言に皆が驚く。オラリアが最初に思った疑問を口にする。


「で、でも、なんであの人がフロックスを付け回す様な事するのよ」

「し、知らないよ」

「あの人で間違いないんですか?」

「絶対……いやきっと……たぶんですが……」


 次第に自信がなくなって来たのか曖昧な答えに変わる。これにはオラリアも少し口調を強める。


「自信無くなってどうするのよ! どうなの? あの人で間違いないの?」

「えっ、そうだと思う……はずで……おそらく」


 それでもはっきりしない様子のフロックスにイライラしだしたのか、オラリアはフロックスの腕をガシリと掴む。


「!! オ、オラリア?」

「本人に確認しましょう。それが手っ取り早いわ」

「ええっ! いやいやいやいや無理無理無理無理!!」


 フロックスはブンブンと頭を振りながら腕を振り払おうとする。だがもう片方の腕もガシリと掴まれる。掴んだのはクーネだった。


「っ!!」

「クーネ?」

「クーネ殿?」


 これにはハジメと兵衛も驚く。


「私もそう思うわ! 直接問い質しに行きましょう!」


 慌ててハジメが止めに入る。


「ま、待った! 本人が”はい、私がやりました”なんていう訳無いだろ?」

「そんなの聞いてみなきゃわからないわ! ハッキリさせるべきよ! ねっ? オラリアさん」

「はい、私もそう思います」


 いつの間にかクーネとオラリアは一致団結しておりハジメの説得は聞き入れられない。フロックスは両手を捕まれズルズルと引き摺られていく。傍から見れば両手に花の羨ましい状態だが、当の本人は死刑執行寸前の囚人の様な絶望を浮かべた顔をして必死で抵抗している。


「兵衛さん、足を持って!」

「えっ? いや、しかしハジメ殿の言い分も―――」

「兵衛さん!!」

「しょ、承知したッ」


 クーネの気迫に押されて言うとおりにする兵衛。そんな兵衛に対してハジメは何も言えなかった。クーネとオラリアの気迫を目の当りにしたら自分だってそうすると思ったからだった。


「サニーも持つね!」


 見ていて楽しそうだったサニーは仰向けに持ち上げられたフロックスの下にスッと入り、背中を持ち上げる。


「ありがとう、サニー。さ、行くわよ」

「た、助けてぇ~~!」

「なんだこれ……ん?」


 呆れるハジメだったが、ふと視線を感じる。そしてこちらを見つめる人物に気付く。30m程離れた道の真ん中でこちらをじっと見つめている。周りにはそれなりに通行人がいたが、一般的とは言えないあまりに目立つ服装の為、周りの人も距離を置いている様だった。ハジメはその人物に見覚えがった。


(あれって、さっきの仮面の……)


 先程まで見ていたフレントスト一座の仮面の女性、クチナだった。仮面はしていなかったが、レオタードをベースに装飾を施した衣装はあの時のままだった。ジッとこちらを見ていたクチナは肩の辺りを抱きながら少し前屈みになったかと思うと、物凄い速さでこちらに突進してきた。その途中肩から手を離す。その手には金属の煌きが見えた。直進する先にはクーネがいた。


(っ!!!)


 尋常ではない速さで迫るクチナを見て、慌ててクーネを押しのけるように前に飛び出るハジメ。


「キャッ!」

「むっ!!」


 兵衛もこちらに突進してくる人物に気付き、フロックスの脚を離すと横に回り込み腰を片腕で抱え、更にもう片方の腕でオラリアを抱え横へ飛び退く。


「キャアッ!」

「ヒィッ!!」

「グァルッ」

「わっ!!」


 残されたサニーは少し大きくなったパルによって同じ様にその場を離れる。それぞれが行動に移ってる中、金属音が響き渡る。


「ちょっと、ハジメ! あぶな……って、な、何よっ! コレ!」


 押し退けられたクーネはハジメに文句を言おうとするが、ハジメの状況を見てそれどころではないと気付く。


「あ、あっぶねぇ」


 ハジメの胸元で<魔力籠手(ガントレット)>と刃物がギチギチと音を立てて均衡している。喋る余裕があるとはいえ、細身の女性とは思えない力で刃物を突き刺そうとする事に疑問が浮かぶハジメ。そしてその刃物にも疑問が浮かぶ。


「ほ、包丁?」


 クチナが持っていたのは先程の舞台で見た短剣では無く、包丁だった。よく見ると腰に巻いていたベルトは外れている。


「…………」


 クチナは言葉を発せず、無表情のままジッとハジメを見ている。


「とりあえず危ないから、それ離してもらおうか」


 ハジメは空いている手で包丁を持つ手に手刀を放つ。その瞬間クチナは包丁を持つ手を素早く引き、後ろへと飛ぶ。数回バク転をして距離を取ると構え直す。通行人達も何事かと集まってハジメ達の周囲には人だかりが出来ている。


「どうやら、フロックスさんの言ってた事が正しかったみたいね」

「何もないって訳じゃないな。とりあえずクーネは兵衛さん達の所へ行って出来るだけ離れていてくれ」

「うん」


 そう言うとクーネは兵衛達の方へと移動する。


「さて、アンタは何が目的だ?」

「…………」


 ハジメはクチナへ話しかけるが、返事は帰ってこなかった。クチナの視線はハジメと兵衛達の方を交互に移っている。


「話す気ゼロですか……」

(どうしたものかな……)


 相手の正体が分からない以上、どう対策するべきが悩むところだった。だが、そんな事を考える暇も無くクチナが行動に移る。包丁を前に突き出した状態でハジメへと再び突進してきた。


「さすがに同じ手は喰らわないよ」


 ハジメは包丁を持つ手を掴もうとするが、クチナのもう片方の手が肩の後ろに回っている事に気付く。そして握った拳から飛び出す柄が見えた。


「ッ!!」


 ハジメは掴もうとしていた手を慌てて引っ込める。クチナは突き出した包丁を引っ込めると同時に反対の手に持った包丁を振り下ろす。こちらは動物の解体に使われる鉈の様な分厚い四角の刃だった。ハジメは慌てて後ろに飛び退く。あのまま手を出していれば、<魔力籠手(ガントレット)>の無い二の腕辺りから切り落とされていたかもしれない。


(どこから出した!? あんなモノッ!)


 服装の露出の多さからとてもそんな物を身に着けている様には見えなかったのでハジメは混乱をする。だが、クチナはその隙をついて兵衛達の方へと駆け出す。


「しまった!」

「むっ!」


 こちらに走ってくるクチナに刀を抜こうとする兵衛だったが、"女子供に刃を向けない"を信条としていた為に躊躇ってしまう。ハジメもその事を知っているので、すぐに腰に備えている剣を抜きクチナに投げつける。外して他の人に当てる訳には行かないので、柄には<魔法の縄(ロープ)>を付けた状態にしていた。


「……ッ!」


 斜め後方で何かを投げる動きを視界の端に捉えたクチナは、グッと体を捻り脇腹から背中へと手を回す。そして勢いよく手を斜め上に振り払う。ハジメの投げた剣はガキィンと大きな金属音を立てて弾き飛ばされてしまう。クチナの手には四角の板があった。それを見てハジメ達は更に混乱した。


「ま、まな板!?」


 クチナの持っていたのは何処からどう見てもまな板だった。


「ど、どこから出てきた? それにどう見てもあれ木製だよな……」


 戸惑うハジメを余所にクチナはそのまま兵衛達に向かって行く。走っていく中で持っていたまな板を背中へと宛がう。クチナの衣装は背中が大きく開かれており、まな板はその背中の中へとスッと入って行ってしまった。


「っ!!!」


 それを見たハジメはクチナの正体に気付く。確証は無く直感と言ってもいいが間違いないという自信があった。


「兵衛さん核人です! 刀使わないとマズイッ!」


 今まで核人と戦う事は無かったが、故郷でのラウとの修行などで核人の頑丈さを知っているハジメは慌てて兵衛に告げる。


「なんとっ! くっ……」


 ハジメの声に驚く暇も無く、目の前にクチナが迫る。刀を引き抜くと同時に牽制の意味合いも込めて切り上げる。だがクチナは引く事無く横に体をずらし、そのまま走り込んできた。手には包丁を持っていて突き刺す動きに入っている。


「止む得んッ」


 兵衛は覚悟を決めて切り上げた状態から斜め下に振り下ろす。今度はクチナの首筋を狙っていた。だが刀は振り下ろされる事は無く首筋寸前で止まってしまう。


「な、何ッ!?」


 クチナは空いてる手で刃を直接掴んでいた。出血も無ければ傷も無く、クチナも痛がる様子が無い。クチナは刀の刃を一瞥すると包丁を持った手をグッと振り上げ、包丁の柄を刀へと打ち付けた。パキンと音を立て刀は真っ二つに折られてしまった。


「ッ!!」


 掴んでいた刀の刃をその場で捨て、再び包丁を突き刺そうとするクチナ。刀を折られた驚きで反応が遅れた兵衛は慌てて脇差を引き抜こうとする。だがクチナの包丁は寸前まで迫っていた。


「くっ!」

「あぶないっ!」

「きゃあっ!」

「兵衛さんっ!」


 クーネ達の声も上がり、ハジメも手に火の玉を作り放とうとする。


「クチナッ!!」


 ハジメの後方から女性の大きな声が聞こえた。その声に反応してクチナの動きはピタリと止まる。兵衛はすかさず後ろに飛び退き、脇差を構える。ハジメもいつでも火の玉を放てるように構えたまま声の主に視線を移す。


「アンタこんな道のど真ん中で何やってんのよっ!」

「ク、クチナどうしたのっ!?」


 そこには2人の女性が立っていた。その2人にハジメ達は見覚えがある。


「あ、さっきの……」


 短剣を投げていた黒髪の女性と、動物を操っていた獣人の女性だった。黒髪の女性は目を吊り上げて怒っていて、獣人の女性は心配そうにクチナを見ている。クチナは構えを解く事無く、チラリと後ろを見て2人に応える。


「マフィーさん、コラットさん邪魔しないで下さい。私は彼を救出しなくてはいけません」

「救出って……」

「えっ……どういう事?」

「「「は?」」」


 クチナの発言に2人は勿論、ハジメ達もキョトンとする。


「え~……っと、これはどういう?」


 ハジメがマフィーとコラットと呼ばれた女性に質問する。ハジメ達の状況を把握出来てないという顔を見たマフィーは頭を掻いて少し考えたあと、溜息を吐いてツカツカとクチナの元へと行く。そしてクチナの頭をポカリと殴った。


「何をするのですか? マフィーさん」


 クチナは殴られても痛がる素振りを見せず、構えたままマフィーの行動に対して問う。


「たぶん、高確率でアンタの勘違いだからとりあえずその危ない物仕舞いな。貴方達ももう構えなくていいわよ。私達がクチナを暴れさせないから」


 マフィーに言われて少し間をおいて構えを解く。クチナも構えを解き、包丁も二の腕に宛がうとスッと中へと入って行った。それを確認するとマフィーはハジメの方へと向く。


「で、貴方達は何者?」

「オレ達は冒険者です。そこのフロックスさんに付きまとっている人を探していて……」


 それを聞いてマフィーと後ろで様子を伺っていたコラットが「あぁ~……」と思い当たる節があるという顔をする。そして苦笑いを浮かべてハジメに話す。


「とりあえず自己紹介だね。私はフレントスト一座の短剣使いマフィー。あっちは獣使いのコラットね。それでこっちがクチナ」


 マフィーはそれぞれを指差し名前を告げる。


「で、その付きまとってるって言うのは、たぶんこのクチナだよ」

「えっ?」

「本当ですか?」


 マフィーとクチナのやり取りをみて余裕が出たのか離れていたクーネ達もハジメの元へと集まる。


「や、やっぱり! 僕が正しかった」

「この人が付きまとっていた犯人……」


 一番後ろでポツリと呟くフロックス。オラリアは改めてクチナをまじまじと見つめる。容姿端麗で一見男を付け回すような女性には見えなかった。そしてマフィーの発言に何故か当の本人であるクチナも首を傾げる。


「私は彼に付きまとった事はありません。陰ながら見守っていただけです」

(なんか典型的なストーカー発言だな)


 ハジメは前世の記憶を思い出し、そんな事を思った。


「だから、それが付きまとってるって思われるから気を付けろと前々から言ってたでしょ?」

「あ、あの……」


 呆れるマフィーと無表情のまま抗議をするクチナ。クーネはクチナに声を掛ける。話しかけられたクチナは先程までとは打って変わって、スッとクーネの方へと向き直る。


「貴方の目的って何なんですか? やっぱりフロックスさんに好意……とか?」


 クーネが恐る恐る聞く。オラリアとしてもそこが一番気になっていたのでクチナの答えをジッと待つ。


「……好意というモノはありません。私は彼を含む家族を守りたいだけです」

「「「?」」」


 クチナの答えに一同は更に混乱する。それを見ていたマフィーは苦笑いを浮かべる。


「まぁ、そうなるわよね。クチナは貴方達を人攫いか何かと勘違いしたのよ。でも悪い娘じゃないから安心して。それで、ちゃんと説明したいのだけど、どこか落ち着いて話せる場所に行かない?」

「え? あ、はい。どこがいいかな」

「あ、あの、僕の家でいいですか?」

「いいの? フロックス」


 フロックスの提案に驚くオラリア。フロックスは今までとは違い、初めて彼女をちゃんと見た。そして何か懐かしさの様なものを感じ、信用してもいいと思った。今まであれほど怯えてた対象にそんな事を思う事が自分でも不思議に思えた。


「う、うん。家族も関わるなら父と母にも聞いてもらいたいし。絶対に襲わないって約束してくれれば……ですけど」


 フロックスはオドオドとしながらも条件を追加する。マフィーはニッコリと笑い頷く。


「約束するよ。いいわねクチナ?」

「? 私が彼の家族に危害を加える事はあり得ません」


 当然という口調で答えが返ってきたが、マフィーは「はいはい」と流して話を続ける。


「それじゃ行きましょう」

「え、ええ」


 未だに疑問符が頭に浮かんだままのハジメ達は、フロックスの家へと向かった。






[フレントスト一座舞台裏]





 舞台裏はそのまま一座生活の場にもなっていてテントや馬車、檻などがあり舞台に必要な荷物なども大量に置かれていた。その中央で座員達と闘斧団が集まっている。


「おいジジィ。舐めすぎてんじゃねぇか? あ?」

「グッ……」


 バータルは片腕でフレントストの胸ぐらを掴み自分の顔の高さまで持ち上げる。苦しそうな顔をするフレントスト。


「や、やめろっ!」

「あぁ?」

「うっ……」


 座員の1人が止めに入ろうとするが、バータルに睨まれて怯んでしまう。それを見て鼻で笑うと再びフレントストを見る。


「で? "オレのクチナ"は何処に隠してるわけよ」

「だ……だから……こ、ここにはいないと……」

「テメェ、毎回そう言ってるよな。いい加減虱潰しに探してもいいんだぜ?」


 そう言うと後ろに控えていた部下達に合図を送る。部下達は斧を持ちニヤニヤしながら探し始める。邪魔な座員に怒声を浴びせ、邪魔な物は蹴り飛ばし、斧で破壊する。探して回るというより壊して回ると言った方が正しかった。


「や、やめてくれ!」

「じゃあ、さっさとクチナを出せよ」

「団長!」

「あ?」


 外からやってきた団員が息を切らせて走ってきた。


「いました! 大通りのフロックスって野郎の家に向かって行ったそうです」


 それを聞いたバータルはフレントストの胸ぐらを離す。落下したフレントストは尻餅をつくが、すぐにバータルから離れる。バータルはワナワナと体を震わせていた。


「野郎の家だと……オレの求愛を無視して野郎と……」

「ど、どうしますか?」

「そのふざけた野郎をぶっ殺すに決まってんだろうがっ!」

「は、はいっ!」

「案内しろっ! 行くぞテメェ等!」


 そう言うとバータル達は外へと行ってしまった。それを確認して座員達はフレントストに駆け寄る。


「ざ、座長。大丈夫ですか?」

「あ、ああ」

「クチナが危ないですよ。あとそのフロックスって人も……」

「そ、そうだな。嫌な予感がしたんでマフィーとコラットに先に探しに行かせたが、バータルのあの怒り方はマズイな」

「バータルより先に見つけて戻って来てくれるといいんですが……」

「私達も探しに行きましょう」

「そうだな。いいですよね? 座長」

「もちろんだ。私も行こう。くれぐれもバータル達と鉢合わせにならないようにな」

「「「はい」」」


 フレントストを含む座員達も外へと向かって行った。






[フレントスト一座会場前]





 舞台裏から舞台を抜け入り口にやって来た闘斧団。案内をする団員の後ろをイライラした様子のバータルが歩いている。人通りは多かったが、皆バータル達を見て自然と避けて行く。


「殺す。絶対にぶっ殺す。フロックスって野郎……」


 自然と斧を持つ手にも力が籠る。


「うわっ!」


 突然足元に何かがぶつかる感覚が伝わる。バータルが足元を見ると、1人の少年が尻餅をついていた。この辺では見かけない変わった服装の少年は、バータルを見てビクリと体を震わせる。


「ご、ごめんなさい。前を見てなくて……」

「……気を付けろガキがっ!」


 バータルは斧の柄の先で少年を払い除ける。バータルにとっては軽く振り払っただけだが、周りから見れば鉄の棒を思い切り叩きつけられる程だった。


「うあっ!」


 少年は慌てて手で防いだが、そのまま後方へと飛ばされる。転がる少年を見て「フンっ」と鼻を鳴らすと何事も無かった様に歩いて行った。倒れた少年に周りに居た人々が集まる。


「お、おい! 大丈夫か?」

「しっかりしろ!」


 人々が心配して声を掛けると少年はムクリと立ち上がって「ふぅ」と一息つきながら服をパンパンと払う。その様子を見て人々は驚く。


「だ、大丈夫か?」

「あれ? 怪我は?」

「え?」


 少年は声を掛けてきた人達を見るとニッコリと笑う。


「あ~、なんか当たり所よかったみたい。怪我してないよ」

(あんな吹っ飛んだのに?)

(骨折しててもおかしくない感じだったぞ?)

(でも実際平気そうだしな……)

「そ、そうか。よかった」

「これからは気を付けろよ」


 頭に疑問符が浮いたままだったが、皆歩いて行く。少年は「は~い」と皆に手を振りながらバータルの歩いて行った先を見る。


「フロックスって言ってたなぁ。……なんか面白いことになってきた。もうちょっと見物しようかなぁ」


 少年、カマルはニコニコと楽しそうにバータル達の後を追って行った。

久しぶりの戦闘回だったような気がします。次回はクチナの過去の話ですね。

次回もよろしくお願いします。

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