第45話 エルフガイの悪夢
ちょっとふざけたタイトルですが幼少期編のあたりから使おうと思っていたものなのでそのまま使わせてもらいます。
2013/7/15 指摘のあった誤字脱字等を修正しました。
「えっと……婚約者を?」
「はい、家から出してほしいんです」
「どういう事ですか?」
「婚約者フロックスは私と同じ劇団に所属しているのですが―――」
「劇団? オラリアさんは役者さんなんですか?」
クーネがグイッと食いつく。オラリアは少し驚いた表情をする。
「え? ええ」
「どうした? 興味津々んだなクーネ」
「だって劇って素敵じゃない! 私大好きなの」
「芝居でござるか。某も一度観てみたいのう」
「サニーも観てみたい!」
「えっと……」
クーネに続き兵衛とサニーも興味を示す。話の腰を折られ困っているオラリアを見てハジメが苦笑いを浮かべる。
「はいはい皆、依頼の話に戻るぞ。オラリアさん続きを」
「はい、フロックスは劇団でやる芝居の脚本と演出を担当しているんですが、7日程前からどうも様子がおかしくて。最近は家から出て来なくなってしまって、フロックスのご両親と相談してギルドに頼んでみようと……」
「様子がおかしいというのは?」
「いつも辺りをキョロキョロして、何かに怯えてる様でした。元々気が小さいというか怖がりな人でしたからオドオドした所はあったんですけど、最近は度を超えてたというか……」
「何かに怯えてる……か」
「私が聞いても曖昧な事しか言わなくて……」
「フロックスさんに会う事は?」
「それは出来ます。家から出ようとしないだけなので」
「う~ん、本人に事情を聞かなきゃ始まらないかな」
「お願いします」
オラリアは丁寧に頭を下げる。そこへベグルが書類と読書筒を持ってやって来た。
「依頼内容はお分かりになりましたか?」
「ええ、とりあえず本人に事情を聞いてみようと思います」
「なるほど。今回の場合本人の思い込みかもしれませんが、何かに巻き込まれたのかもしれません。くれぐれもご注意下さい。それでは皆様の情報を読み取りますので紋章を見せて下さい」
「はい」
読書筒で紋章からハジメ達の情報を読み取り、書類を記入していく。その後ハジメが書類に記入をすると、ベグルがもう一つの書類を取り出す。
「それでこちらは商人護衛の書類ですね。依頼内容ですが……」
ベグルがちらりとオラリアを見る。オラリアは察したのか「入り口の方で待ってますね」と言い席を立った。「すみません」とお辞儀をしてオラリアを見送ったベグルは話を再開する。
「日時は3日後の朝。北東の商業区門近くにあるハズク商会へ行ってもらいます。トラフさんという方が依頼主ですね。その方をお尋ね下さい」
「ハズク商会?」
商会の名を聞いてクーネが反応する。
「クーネ知ってるのか?」
「え? ええ、有名な商会よ。結構大きな商会だったと思う」
「仰る通り、東ディアヴェント大陸に本店を置く大商会ですね。今回は西ディアヴェント大陸で仕入れた品物の運搬だそうです」
「そんな大きな商会の依頼をオレ達が受けれるんですか?」
「最近は船による運送が主流でしたが、例のヴェリカーキンの件で船が使えないらしく、急遽陸路を使うそうです。相当な量の荷物ですからね。2級を中心に募集はしていたのですが、中々集まらなくてですね。それなりに実力があれば3級の方々でもいいと依頼主から許可をいただきました」
「大移動になりそうですね」
「ええ、ですからオラリアさんの依頼もありますが、こちらの準備も怠らぬ様にお願いします」
「はい、わかりました」
そう言うとハジメは先程と同じ様にベグルから書類を受け取り記入をする。ベグルは書類を確認すると、心配そうな表情になり口を開く。
「あと、先ほどの闘斧団の事なんですが……」
「はい」
「あの連中がまた因縁を付けてくる確率が高いです。そちらも気を付けてください」
「あれくらいなら大丈夫ですよ」
先程のやり取りで大体の実力がわかったハジメはそれ程気にする事は無いと考えていた。だがベグルの心配はまた別の所にあった。
「彼等は3級の中でも下の部類ですから恐らくハジメさん達なら問題は無いでしょう。問題は団長なんです……」
「団長でござるか?」
「ええ、団長のバータルは2級冒険者でして、実力も相当なものです」
「2級……」
ハジメ達は今まで2級冒険者との接点がなかった為、どれ程の強いのか分からなかった。
「どれくらいなのかピンと来ないわね」
クーネもハジメと同様で首を捻る。
「2級冒険者は本部のある東ディアベントを拠点にしている冒険者が多いですからね。こちらを拠点にする方は珍しいです。おまけに最近東西の大陸間行き来の主流になっていた海路が使えなくなり、陸路を使う商人が増えたのでそちらに駆り出されるようになりましてね。我々の様な支部としては熟練冒険者である2級の方が滞在してくれるのは大変ありがたいのですが……」
ベグルは溜息を吐くと話を続ける。
「富裕層の方々の中には3級で十分な依頼を2級冒険者にという方がいるんです。失敗の確率が減るし、お金に余裕がある分そうなってしまうのでしょうね。ですが2級冒険者が元々少ないこちらとしては、持て余してしまう依頼でしてね。頭を悩ませていたところに彼等が来たわけで」
「バータルって人が依頼を受けるようになったんですね」
「ええ、先ほども言った通り実力はあるので。我々も最初のうちは喜んでいましたが、次第にその富裕層の方々との繋がりが強くなった……といいますか。噂では弱みを握られている方もいるとか。そして闘斧団も次第に本性を表して、今では我が物顔で街を歩いています」
「追い出せないんですか?」
「2級などの報酬の高い依頼は確実に達成しているので、ギルドとしての利益も問題無いんです。ただ、一般の方々からの評判がすこぶる悪い」
「追い出せば貴重な収入源の富裕層の依頼を頼める者が減る。追い出さないと民からの信頼が減って行くという訳でござるな」
「どっちもどっち……なのかしら」
クーネは納得いかない様子だった。ハジメも同じではあったが、損得を無視できないギルドの考えも分からないわけでも無かった。
「我々がギルドの損となる事を直接するわけにはいかず、傍観する形になってしまっています。一番いいのは何処かの誰かがギルドとは関係ない所で闘斧団を懲らしめてもらえればいいんですけどね」
ベグルはそう言うと申し訳なさそうな顔でハジメをチラチラ見る。
「オレを見られても困りますよ。オレ3級なんですから」
「そ、そうですよねぇ。……ハァ」
溜息を吐くベグルを見てクーネがハジメに話しかける。
「別にいいじゃない。一発ガツンとやっちゃえば」
グッと握った拳を見せてニコっと笑うクーネ。今度はハジメが溜息を吐く。
「やっちゃわないよ。オラリアさんの依頼もあるんだからさ」
「ふむ、そうでござるな。引き受けた以上そちらを優先するべきでござる。ただ……」
兵衛は顎に手を当て唸る。
「某の経験上、ああいう輩は必ず頭を連れて仕返しにくるものでござる」
それを聞いてクーネとベグルの顔が晴れやかになる。
「そうなったらガツンとやっちゃいましょ!」
「そりゃ、また来たらそれなりに対処するけどさ」
「十分気を付けてください」
「なんかもうやる事決まったみたいになってますね……」
クーネとベグルの期待の眼差しを軽くスルーして、話を変える。
「それじゃ商人護衛の依頼の話はこれで終わりですね?」
「え? あ、そうですね。手続きは完了です」
「それじゃオラリアさん待たせてるし、行こうか」
「そうね」
ハジメ達が席を立つと、ベグルも合わせて席を立つ。
「それでは皆さん、お気をつけて」
「ありがとうございます」
ベグルにお辞儀をしてハジメ達は出入口へと向かう。オラリアは出入口の外で待っていた。
「お待たせしました」
「いえ、もういいのですか?」
「ええ、それじゃフロックスさんの家に行ってみましょう」
「はい、こちらです」
オラリアを先頭にハジメ達はフロックスの家へと向かって行った。
[闘斧団の根城]
闘斧団は街の北側、川沿いにある廃墟になっていた屋敷を根城にしていた。この辺りは元々人気の少ない場所だったが、闘斧団がそこに住みついてからは更に街の人々はこの周辺には寄りつこうとしない。
「ギャアァァァァァァッ!!」
屋敷の外まで聞こえる男の悲鳴。だが、それを聞いて駆けつける者は誰もいない。屋敷のロビー中央にハジメ達に絡んできた男達が集まっていた。悲鳴の主はその先頭に居る男で、脂汗を浮かべながら歪に折れた腕を抱えて蹲っている。その様子を見ながら他の男達はブルブルと震えあがっている。逃げ出したいと全員が考えていたが、彼らは既に取り囲まれていて逃げ出せなかった。取り囲む男達はヘラヘラと笑いながら男達を見ている。
「悪い悪い、あまりに耳を疑う事言われて思わず殴っちまった」
腕を折られた男の正面に立つ男が、悪びれもせずに言い放つ。190cmはある巨体で、下半身は鉄製の鎧で固め上半身は分厚い胸当てのみ、晒された筋肉の量から力自慢という感じが見て取れた。手には柄の太さが通常の2倍程の大きな両手斧を持っている。その斧を肩に担ぎ男の前にしゃがみ込む。
「3級を追い払うなんて下っ端の仕事だと思って任せたんだが、荷が重かったか?」
「い、いえ…グッ……そんな事は……ただその冒険者が強くて……ですね」
折れた腕の痛みを必死で堪えながら答える男。
「へぇ、この人数を軽くあしらう連中か」
「お、おまけに魔法使いなんですよ!」
固まって様子を伺っていた男達の1人が必死な形相で訴える。その発言を聞いて斧を持っていた男はスッと立ち上がりその男に近づいて行く。周りの男達は避けるように離れて行った。
「誰がお前に喋れって言った?」
「え?」
次の瞬間男の腹に拳がのめり込む。
「グガッ!?」
男は数メートル吹き飛びそのまま倒れ込む。その様子を鼻で笑い、斧の男は腕の折れた男の前に戻りしゃがみ込む。
「で、その魔法使いの冒険者はまだ街に居るのか?」
「は……はい、依頼を受けていた様子なので……しばらく街にいると……」
「そうかそうか」
ニヤリと笑うと男の肩をポンポン叩く。その振動が折れた腕に響き、男は声にならない声を上げる。
「喜べ、お前達の尻拭いはオレがしてやるからよ」
「あ、ありがとうございます……」
男は脂汗をにじませながら頭を下げる。
「よし、それじゃ―――」
斧の男が立ち上がると同時に屋敷の扉が開く。全員がそちらに注目すると仲間の1人が中に入ってきた。
「バータルさん」
「あ? なんだよ。これからコイツ等の敵討ちに―――」
「そろそろ時間ですよ」
それを聞いたバータルと呼ばれた斧の男はピタリと動きが止まる。そしてうっかりしてたという表情を浮かべる。
「あ~、そうだった。こんな事してる場合じゃねぇな。あまりにムカつく事言うからすっかり頭から飛んじまった」
バータルはそう言うと外へと向かう。茫然とする男達の目線に気付いたのか、バータルは扉の前で立ち止まり振り返る。
「お前等の尻拭いも後でちゃんとしておいてやるから安心しろ。おい、お前等はその冒険者探しておけ」
「分かりました。バータルさん」
そう言って周りを囲んでいた男達に命令すると、バータルは外へ出る。
「へっへっへ。今日こそはちゃんといい返事聞かせてもらうぜ」
ニタニタと笑みを浮かべながら数人の手下を連れて目的の場所へと向かった。
[フロックスの家の前]
フロックスの家は大通りと川の交差する街の中央を少し南に行った川沿いにあった。家の前はそれなりに大きな通りになっており、人通りも多い。
「ここがフロックスの家です」
オラリアが家の前に来るとハジメ達に家を指して言う。そして扉の前へ行き、ノックすると中からエルフの女性が出てきた。背が低く、全体に丸い印象の中年女性はオラリアを見ると満面の笑みを浮かべる。
「あらぁ、オラリアちゃんおかえり!」
「ただいま戻りました。あの、冒険者さん達に来てもらって……」
「まぁまぁ! これはこれは」
中年女性は後ろに居るハジメ達に目をやるとニコニコと笑いかけてくる。
「皆さん、こちらはフロックスのお母さんでフィラさんです」
「皆さんわざわざ息子の為にありがとうございます」
ぺこぺこと頭を下げられ、ハジメ達は慌てて止めさせる。
「いえ、そんなに頭を下げないで下さい。オレはハジメ・アメジストといいます」
「私はクーネです。はじめまして」
「二藤部兵衛と申す」
「こんにちわ、サニーだよっ! こっちはパル!」
「キュィィィ!」
「まぁまぁ、最近の冒険者さんは若い子が多いのかい?」
楽しそうに言うフィラに苦笑いを浮かべるオラリア。オラリア自身もこんなに若い冒険者に頼むことになるとは考えてなかった。
「立ち話もなんだから、どうぞ入って入って」
「それじゃ、お邪魔します」
フィラに招き入れられ、ハジメ達は家の中に入る。中へ入ると居間の椅子に座っていたエルフの男性が立ち上がってこちらにやって来る。
「お客さんか?」
「フロックスを外に連れ出してくれる冒険者さん。ほら、オラリアちゃんに頼んでいたでしょ?」
「ああ、そうだったな」
「あ、皆さんこっちはウチの旦那のネモです」
「皆さんよろしくお願いします」
「こちらこそお邪魔します」
フィラとは対照的に物静かな細身の中年男性で、ゆったりした物腰で頭を下げる。
「私は書斎にいるからな」
「はいはい。ご飯用意出来たら呼びますからね」
ネモは頷くと書斎へ行ってしまった。
「さ、それじゃ。さっそくフロックスの事をお願いしますね」
そう言うとフィラはスタスタと奥へと進んでいく。ハジメ達もその後を付いて行った。廊下の奥へ行くとフィラは立ち止まり振り返る。
「ここがフロックスの部屋です。何か必要な物とかあったら言って頂戴ね。私これから買い物に行かなきゃいけないのよ。だからオラリアちゃん。後はお願いね」
「あ、はい。わかりました」
「今日は魚の特売日なの! 急がなきゃ!」
笑いながらそう言うとそそくさと行ってしまった。
「……あまり心配してる感じじゃないですね」
「ええ……。お義母さんはあんな感じの方なので、それほど心配してない様です。お義父さんも"そのうち元に戻るだろう"と言ってますね」
「そんなものなのかしら。ウチだったら結構な騒ぎになりそうだわ。特に父親が……」
「そんなに心配性なんだ?」
「え? ええ、そりゃひどいわよ」
(卒倒してなきゃいいけど……)
ハジメに聞かれクーネは苦笑いで応える。
「うーむ、やはり娘と息子だと違うのかのう」
「部屋からは出てくるのでそれほど心配じゃない……のでしょうか。とりあえずフロックス呼びますね」
そう言うとフロックスの部屋の扉をノックする。
「フロックス、オラリアよ。開けて頂戴」
何度か叩くと扉の奥で物音がして鍵が開く。数cm程開けて外を確認するフロックス。
「やあ、オラリア。今日はどうし……ひっ!」
オラリアの後ろにいるハジメ達に気付いて小さな悲鳴を上げる。そしてすぐに扉を閉めようとするが、オラリアが扉のノブを掴んでいて閉める事が出来なかった。
(オラリアさんに力負けしてるよ。この人……)
「落ち着いて、この人達は私が呼んだ冒険者さん達だから」
「え? あ、そうなんだ……」
フロックスは改めてハジメ達を見渡す。そして何かを確認するとホッと安心した様子で扉を開け外へ出てきた。かなり細身のエルフで肌の白さと目にあるクマのせいでかなり不健康な印象を受ける。おまけに先程オラリアに力で負けていたの目の当たりにしていたのでなおさらだった。
「は、はじめまして。フロックスです」
オドオドと挨拶をするフロックス。ハジメ達もそれぞれ挨拶を交わす。
「誰かに狙われているって聞いたのですが?」
「え? ええ、最初は何処からか視線を感じることがあって……そのうち夜中に裏庭を人が通るようになったんです」
「裏庭?」
「は、はい。僕の部屋の外が丁度裏庭です」
「入っていいですか?」
「は、はい。どうぞ」
「失礼します」
フロックスの許可を得て中に入るハジメ達。窓という窓に板が打ちつけられ、部屋の中は昼間だというのに真っ暗だった。
「真っ暗でござるな」
「こっちが裏庭ですか」
ハジメは窓へ近付き、板の隙間から外を覗く。外には確かに庭があった。柵に囲まれており間違えて入ってくるという事は無さそうだった。
「夜中に庭の中を人が通るなんて事は無さそうですね」
「そ、そうなんです! それに……部屋の中を覗き込んできて、目が合った時には死ぬかと思いました」
「お義母さんが駆けつけたら白目を向いて倒れていたそうです」
フロックスの説明にオラリアが付け足す。フロックスは「それは言わなくても」とチラリとオラリアを見るが何も言えずに目を逸らした。
「クーネ……」
サニーがクーネの上着の裾をクイクイと引っ張る。
「どうしたのサニー?」
クーネがサニーを見ると頭をカクンカクンとして今にも寝てしまいそうだった。ハジメ達と生活している間に夜は寝るものだと習慣付いてしまったサニーは暗い所でもすぐ眠くなってしまった。
「あ! サニーが寝そう!」
「え? あ、これだけ暗いと……」
「どうかしましたか?」
「サニーは暗い所だと眠くなっちゃって」
「えっと……とりあえず居間の方へ行きましょうか?」
不思議がりながらもオラリアが居間へと促す。フロックスを含め話の続きは居間でする事になった。転寝状態のサニーはクーネに任せ、話を再開する。
「それで、狙われる心当たりは?」
「い、いえ全然無いです」
「手掛かりが無いとなると、またやって来るのを待たなきゃいけないか」
ハジメはどうしたものかと悩む。
(本人の思い込みって事もあるしな。一緒にずっと家に籠ってるってのもいい解決法だろうか……)
「相手の顔とかは分からないですか?」
「え……いや、どうだったかな……」
フロックスの目がキョロキョロと泳ぐ。そしてオラリアの顔をチラチラと伺っている事にハジメは気付いた。
(フロックスさん、相手の顔を見てるのか?)
「フロックス、顔を見てるの?」
挙動のおかしさにオラリアも気付いたのかフロックスを問いただす。
「え!? いや、知ってる顔では無いのだけど……えっと…」
「手掛かりになるかもしれません。教えてもらえませんか?」
「え……えっと、その……女性だと思います」
「女性?」
「夜見た影や目が合った時の感じが女性だったと……思います」
「なんで私には言ってくれなかったの?」
「いや、その、女性に付け狙われてるって言ったら君が変な誤解をするんじゃないかと……」
「……そんな事するわけないでしょ!」
「ご、ごめん!」
オラリアに怒られ即座に謝るフロックス。この様子を見るだけで2人の関係が見て取れて、ハジメ達は思わず笑ってしまった。
「相手の顔を知ってるなら家にいるより街に出て見て回った方が早いかもしれませんね」
「うまくいけば捕まえられるかも」
「え!? でも危ないですよ!」
フロックスが首をブンブンと振り拒否をする。
「もしフロックスさんの命を狙ってるならそんなに時間を掛けて付け狙うような事しないと思うんですよ。それこそ相手に警戒されるわけですからね。だから相手の狙いは何か別の事だと思います」
「たしかに……」
「家に籠ってばかりじゃ気が滅入っちゃうわ。私達が護衛するし、外に出て気分転換しましょう!」
「それは私も賛成だわ。ハジメさん達が居れば心強いし」
クーネの提案にオラリアも賛成する。オラリアはフロックスにギルドで起きた事を説明した。
「そ、そんな事があったんだ……。怪我が無くてよかった」
「ええ、ハジメさん達すごく強いのよ。だから外に出ても大丈夫よ」
「いやぁ……でも」
何か言い訳を探すフロックス。丁度その時、玄関が勢いよく開き、フィラが入ってきた。
「ただいまー。あら、皆さんこんな所でお話中?」
「あ、はい」
「フロックス! アンタにいいものがあるわよ!」
「え?」
「じゃーん!」
そう言うと懐からチケットを取り出す。
「なにそれ?」
首を傾げるフロックス。オラリアもハジメ達も首を傾げる。
「今街で人気の曲芸団フレントスト一座の入場券でーす!」
入場券をヒラヒラとさせながらニッコリと笑うフィラ。ハジメ達はピンと来なかったがオラリアは反応する。
「フレントスト!? お義母さんよく手に入りましたね!」
「魚屋さんの奥さんがね。急用が出来て行けなくなっちゃったらしくて譲って貰えたのよ」
「すごいです! なかなか手に入らないんですよ」
「そんなわけだからフロックス、オラリアちゃん連れて行きなさい」
「え?」
「こういうの"脚本の役に立つ"って言ってたじゃない。いつまでも家に籠ってたっていい物書けないでしょ!」
「いや、母さん、外は危険でね……」
「大丈夫よ。それ団体用だから1枚あれば10人は入れるらしいわよ。冒険者さん達も一緒に行くといいわ」
「え?」
これにはハジメ達も驚く。
「いいんですか?」
思わぬ招待にクーネは嬉しそうに聞く。
「いいわよ。こういうのは大人数で見た方が楽しいものだわ」
「フィラさんは行かないんですか?」
「お父さんがこういうのはあまり行きたがらない人だからねぇ。私もお父さんにご飯作らなきゃいけないし、皆さんで行って頂戴」
「ありがとうございます」
ハジメ達は丁寧に頭を下げる。
「さ、フロックス外に出ない訳には行かないわね」
ニッコリと笑うオラリア。
「わ、わかったよ……」
フロックスは観念して席を立つ。
「時間はまだ余裕あるけど、混み合うだろうから早めにいくといいわよ」
「分かりました」
「そ、それじゃ行ってるよ」
「はいはい、いってらっしゃーい」
フィラに見送られ、フロックス、オラリア、ハジメ達はフロックスの家を出た。
フロックス、完全に尻に敷かれるタイプ。
次回の舞台はフレントスト一座になると思います。
次回もよろしくお願いします。