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ジュエル!  作者: asobito
マシュメ王国編
51/67

第43話 新たな目的地

毎度毎度遅れて申し訳ないです。

総合PV500万、ユニークアクセス70万を突破する事が出来ました。読んでくれた皆様、本当にありがとうございます。


2013/4/1 指摘のあった誤字を修正しました。

 気が付くとハジメは暗闇の中に居た。意識はいつもよりぼんやりしていて、力もあまり入らない。体は重力から解放されたようにふわふわと浮いている様に感じた。


(ここはどこだ?)


 ゆっくりと辺りを見渡すが、只々暗闇が続いている。何もない事を確認して再び真正面に視線を戻すと、遠くの方に白い点が見えた。


(何かあるな…なんだあれ)


 ハジメは目を凝らしてその点を見つめていると、点は次第に近付いてくる。点だと思ったそれは靄のかかった映像だった。テレビ画面の様に四角だが縁は掠れてぼんやりとしている。そんな平面の映像がハジメに近づいて来ていた。そしてその中の映像が判断できる距離まで来た所でハジメの鼓動が早まる。


(こ…これ…これって…)


 映っていたのは自動車の後部座席から見る車内だった。だが車は上下逆様になっていて窓も割れている。そして窓の外には炎が上がっていた。映像が目前まで来ると、物の燃える音や臭いまで伝わってくる。ハジメはその映像が自分の記憶、自分の視界だと気付いた。そしてこの後に自分が見たものを思い出し、体が震え汗が噴き出す。


(や、やめろ…やめ…)


 映像は車の側面から前方の運転席と助手席へと移る。席には血が飛び散っていて、ぐったりとした人影が見えた。


「やめろぉぉぉぉぉっ!!!!」


 人影が写った瞬間、ハジメは手で映像を振り払う。映像は煙の様に散って消えた。


「はぁ…はぁ…」


 呼吸が乱れて震えも止まらず、ハジメは頭を抱えて丸くなる。


(くそっ! なんで今更こんなの思い出すんだよっ!!)


 目を瞑り必死に忘れようとしていると、先ほど振り払った手に暖かさを感じた。見るとぼんやりと光る何かが手に触れている。何かは分からないが不快感は無く、逆に心地よいと感じた。その心地よさは全身に伝わり、体の震えが治まって行く。ハジメは落ち着きを取り戻し、ゆっくりと瞼を閉じた。





 目を覚ますと、〔岩熊のねぐら〕の自分の部屋だった。窓から入る薄らとした日の光と静寂から早朝だと分かる。


「…夢、か…」


 重い体を起こすと、こめかみのあたりが酷く痛む。


「イタタタ…なんだこれ…。というかオレいつの間に部屋に帰って来てたんだ? たしかハーンさんに酒場に連れられて…酒飲んじゃったんだっけ」


 頭を押さえ唸りながら思い出そうとする。


「あぁ、ダメだ…。酒を飲んじゃった所までしか覚えてないな。服もそのままだし飲んで寝ちゃったのか。じゃあ、これは二日酔いって奴か…イタタ。と、とりあえず顔洗って、何か飲もう」


 ゆっくりと起き上がり部屋を出る。宿の裏庭にある井戸へ向かうと、足音と風を切る音が聞こえてきた。


(誰かいるのかな?)


 ハジメが裏庭に出ると、兵衛が刀を構えて立っていた。ピクリともしない兵衛の表情からは普段の笑みは無く、剣を振る事に徹している様子だった。


「ふっ!」


 息を吐くと同時に真上に振り上げ素早く振り下ろす。そこから前へと移動すると共に様々な剣撃を繰り出す。一連の動きには無駄が無く、流れるように動くのを見て以前に兵衛が戦った時の事を思い出した。


(こんなに綺麗に動き続けるってどれだけ練習したんだろう……)


 ハジメが感心して見ていると、兵衛の動きがピタリと止まり大きく息を吐く。そして構えを解いて刀を鞘へと戻した。


「ふぅ。ハジメ殿、おはよう」


 兵衛はハジメの方を向きニコリと笑顔で挨拶をする。


「おはようございます。っ! イタタタ……」


 ハジメも挨拶するが、頭痛が再び襲ってきた。


「大丈夫でござるか?」

「ええ、たぶん二日酔いだと思います」

「ああ、あれは某のせいでござる。申し訳ない」

「いえ、気にしないで下さい。まさか一口飲んだだけでこうなるとは……。そうだ、あの後どうなりました?」

「あの後でござるか。ハジメ殿が倒れた後、他の客人が因縁を吹っかけてきましたな」

「え?」

「ハーン殿が仲裁に入ったのでござるが、乱闘に発展して某とハジメ殿、クーネ殿、サニー殿は宿に帰った次第でござる」

「ハ、ハーンさん達は?」

「チュカ殿がいつもの事と言っていたので心配ござるまい」

「それなら安心? ……かな」

「それより、ハジメ殿顔を洗ってはいかがか? 幾分楽になりましょう」

「あ、そうだった」


 ハジメは井戸から水を汲むと顔を洗い、喉を潤した。


「ふう、ちょっとは良くなったかな」

「それはよかったでござるな」

「それにしても兵衛さんの剣術凄いですね。あんな動き初めて見ました」

「いやはや、お恥ずかしい。まだまだ修行中でござる」


 兵衛は頭を掻いて照れてみせる。


「やっぱり流派とかあるんですか?」

「"如水(じょすい)流"でござる。この流派を使うのは某と師のみなので知名度は無いに等しいでござるが……」

「如水……水の如くって事ですか?」

「おお、よく御存じでござるな。"上善如水"、理想の生き方を説いた老子の言葉でござる。それを剣術に応用したのが如水流。変幻自在な技、奢らず慢心をしない心、いざとなれば激流となりすべてを薙ぎ倒す。そう言った流派でござる。全部我が師の受け売りでござるが」

「凄いじゃないですか。カッコイイです」

「某はまだまだその境地には程遠いでござるよ」


 兵衛は少し遠くを見つめ、微笑んでいる。ふとハジメは疑問が浮かんだので聞く事にした。


「やっぱり家族の元に早く帰りたいですか?」

「いや、某家族はおらぬ」

「え?」

「亡くなった訳ではない……いや、どうなっているかは知らぬというのが正しいか」

「どういう事ですか?」

「某、元の名は五兵衛と申しましてな。山奥の小さな村の農民の息子でござる」


 兵衛は苦笑いをしながら話を続けた。


「とにかく貧しい村で生きていくのがやっとの者共の集まりでござった。五兵衛の名の通り兄弟の多い某の家族は特に酷かった。そこで親が出した答えが"捨てる"でござった」

「そんな……」

「兄弟達が捨てられるくらいなら。某はそう思って自分が家を出る事にしたのでござる」

「皆を守る為に、ですか」

「それで本当に守れたのかは分からぬが……ふふ、子供の浅はかな考えでござった。とにかく村を出て必死で山を抜けようとしたが子供の体力ではすぐに力尽きてしまって……山の中で力尽きかけた所を我が師二藤部一信に助けられたのでござる。そして兵衛と名を変え剣術修行に明け暮れたわけじゃが、ある日"もう教える事は無い"と言われ武者修行の旅に出ることになって今に至るという所でござるか」

「師匠って感じですね」


 ハジメは「テレビなんかで見た師匠像の通りだな」と思った。すると兵衛は確信をしたように頷きハジメをじっと見つめた。


「ハジメ殿」

「何ですか?」

「ハジメ殿は某に起こった事について何か知っているのではござらぬか? 侍の事、京の事、先程の如水も……こちらの生まれと言っておったが、某の居た場所の事についてあまりに詳しい」

「……」


 ハジメは急な追求に言葉を失ってしまった。


「もしやすると帰る手掛かりになるやもしれぬ。知っている事があれば教えて下さらぬか」


 兵衛は深々と頭を下げた。ハジメはそれを見て真剣に悩む。そして深く息を吐いた。


「わかりました。オレの知ってる事でよければ」

「ハジメ殿!」


 兵衛はバッと顔を上げ、ハジメを見る。ハジメは覚悟を決めて話すことにした。


「オレも元は一条初と言って、兵衛さんと同じ世界に居た人間です。オレの場合は向こうで死んじゃってこっちに来ちゃったみたいですけど」

「なんと……」


 兵衛も予想外な話に呆気にとられる。


「前世って事になるんですかね。その記憶を持ったまま生まれちゃったみたいです」

「生まれ変わりでござるか……。いや、こちらに来る前なら信じがたい話じゃが、こうも摩訶不思議な事を体験した今なら信じられる」

「向こうから来た人に会うのは兵衛さんが初めてですが、疑わしい人の話は聞いた事あります。もう亡くなってるようですけどね」


 ハジメは冒険者ノマージの師匠の事を思い出す。おそらく中国の武人だろうとハジメは考えていた。


「時々向こうでの言葉を聞いたりするし、他にも同じ境遇の人がいるんじゃないかなと思ってます」

「なるほど……。ハジメ殿の前世は某と同じ国という訳でござるか」

「はい。兵衛さんより生きていた時代が数百年くらい未来になりますけどね」

「数百!?」

「歴史の授業で習った時代の人に会うとは夢にも思ってなかったです」


 驚愕する兵衛を見て微笑むハジメ。


「……予想以上に驚かされたが、これで納得し申した。ハジメ殿話してくれてありがとう」

「いえ、いいんですよ。オレも黙っていてすみません」


 前世の記憶があるなど信じてもらえないという考えは、今まで一度も話さなかった理由の一つだった。肉体ごととはいえ、自分と同じ境遇の兵衛と出会い、兵衛の為人がハジメの口を開かせた。


「もし戻れるなら、ハジメ殿は元の世界に戻りたいと思っておられるか?」

「オレは……」


 ハジメは言葉に詰まってしまった。生まれてすぐの頃はどうすれば元の世界に戻れるかをよく考えていたが、今はあまり考える事が無くなっていた。前世の記憶があるとはいえ、血の繋がった両親がいて友人もいる。断ち切る事が躊躇われるほど強い繋がりが出来ていた。

 困った様子のハジメを見て、兵衛は申し訳ないと言った顔をする。


「いや、ハジメ殿は某とはまた少し境遇が違うのであったな。簡単に答えを出せるものでもなかろう。今の問いは忘れて下され」

「すみません……」


 兵衛が頭を下げるのを見て、申し訳なく感じハジメも頭を下げる。その後お互いの顔を見て笑い合う。

 その様子を宿の中から伺っている人物がいた。ハジメ同様に顔を洗おうと裏庭に来たクーネだった。裏庭に出ようとした彼女はハジメと兵衛が話しているのを見て思わず隠れてしまっていた。


「なんか……とんでもない事聞いちゃった」


 覗き込むのをやめて、壁に寄りかかり俯くクーネ。


「……ハジメ、居なくなっちゃうのかな」


 ポツリと呟くとハジメ達に気付かれないように静かに自室へと戻って行った。





「おはよう」

「みんなおはよう!」

「おはようクーネ、サニー」

「おはようでござる。クーネ殿、サニー殿」

「キュィィ!」


 食堂で寛いでいたハジメ、パル、兵衛の元にクーネとサニーがやってきた。


「………」


 クーネはじっとハジメを見つめる。ハジメもそれに気づく。


「どうした? クーネ」

「ううん、なんでもない! 今日もいい天気ね!」

「? ああ、そうだな。サニーも今日は寝起きいいしな」

「うん!」


 サニーは核人だが日が沈むと魔力の節約の為か寝始めるようになっていた。1人で暮らしていた時はそうでもなかったようだが、ハジメ達と色々な場所へ行く事が多くなり魔力を消費するようになったのと、ハジメ達の生活サイクルに合わせてそうなった様で、夜にウトウトとしだすのを見てハジメ達も「子供らしくなった」と笑っていた。そして日が昇り日光に当たると目を覚ます。晴れた日は寝起きがいいが、曇りや雨の日はなかなか起きなかった。

 サニーは元気に返事をしながら椅子に座る。


「もうご飯食べた?」

「いや、まだだよ。クーネとサニーも起きたし、朝食にしようか」

「それではハクマー殿に頼んで来るでござる」

「サニー、その間に顔洗ってきたら?」

「うん、わかった!」


 サニーは元気よく返事をすると椅子から降りて走って行った。


「今日もサニーは元気ね」

「ああ、こっちも元気になるな」


 走って行くサニーを見てハジメとクーネは微笑んだ。

 そして用意された朝食を食べていると、ゲンマーがやって来た。


「ハジメ殿、冒険者ギルドから手紙が来ましたぞ」


 そう言うとゲンマーは1枚の紙を渡してきた。紙には"先日の件にて報告がありますのでギルドまでお越しください パラミノ"と書かれていた。


「なんて書かれてたの?」

「昨日の件の話し合いが終わったみたい。報告があるからギルドに来いってさ」

「おお、それでは食べ終わったら早速行くでござるか?」

「そうですね」

「いそがなきゃね!」

「キュィイ!」

「サニー、よく噛んで食べなきゃダメよ」

「うん!」


 慌てて頬張ろうとするサニーを見てパルとクーネが注意をする。実際はサニーに消化器官があるわけではないので丸飲みしても問題なく体内で分解するのだが、ハジメ達はサニーを普通の少女として接してした。





 朝食後、ハジメ達は冒険者ギルドへとやって来た。中へ入ると、パラミノが迎えてくれて前日同様に応接室へと通された。その後すぐにハーン達もやって来たが、青アザだらけのハーンを見てハジメは酷く驚いた。クーネ達は何が原因かは知っていたが、立ち去った後の事をチュカから聞いて呆れていた。

 ハジメ達が話しているとフォードンがやってくる。室内にいる全員の顔を見渡し、ハーンの顔を見て大げさに驚く。


「うわぁ! ハーンさん、凄い事になってますね」

「んぁ? 大した事ねぇよ」

「まぁ、酒の席とはいえ暴れすぎないようにお願いしますよ」

「チッ、知ってやがるのかよ」

「そりゃ管轄内の出来事は把握してますよ」


 そう言ってフォードンはニッコリと笑う。実際には職員全員がそこまで把握している訳ではない。後ろに居るパラミノは当然だと言わんばかりのフォードンの発言を聞いて「え? そういうものなの!?」と内心驚いている。


「さて、皆さんにご報告をするべく集まってもらったわけですが、マシュメ支部で話し合った結果皆さんは一段昇級という事になりました」

「?」

「え?」


 サラリと本題に入り、ハジメ達は呆気にとられる。すぐに口を開いたのはハーンだった。


「ちょ、ちょっと待て。理由はなんだ?」

「それって口止めって事ですか?」


 ハーンに続きチュカが質問する。それを聞いてウンウンと頷くフォードン。


「そうですね。まずは議論の結果どうなったかという点から話しましょう。今回の領主メソンの不正取引はマシュメ王国へと報告しました。あくまで内密にですが」

「そりゃ、こんな事公表するわけにもいかねぇしな」

「そうですね。そんなわけでギルドとしては王国に恩を売ったという事になります。何か困った時に使える手札が増えたわけですからね。これはギルドにとっては十分すぎる利益なわけです。ですから皆さんの昇級は"感謝の気持ち"と"他言無用"の2つの意味がありますね」

「口止めの昇級っていうのが引っかかるわね」


 クーネが納得いっていないという様子だった。それを聞いたフォードンは「まぁまぁ」と苦笑いをする。


「これは……言い方が悪かったですね。これが公になると国の混乱を招く恐れがあるので内密にとしてくだされば。昇級の条件ではありませんので。あくまで"お願い"です」


 フォードンは「失敗失敗」とパラミノの方を向く、パラミノも苦笑いで応えるしかなかった。


「まぁ、この件を話しちゃいけないのは納得したからいいですけど」

「そう言ってもらえると助かります」


 クーネが渋々頷くと、フォードンも軽く頭を下げた。


「という訳で、ハーンさん、チュカさん、テシンさんは3級2つ星から3級3つ星へ。ハジメさんクーネさんは3級2つ星。兵衛さんはこの依頼を受けてはいらっしゃらないので昇級はありません」

「それはそうでござるな」


 兵衛も納得して頷く。その様子を見てサニーが不安そうにフォードンへ質問する。


「サニーは?」

「え? サニーさんは登録してないのでは?」

「あっ!」


 首を傾げるフォードンの後ろで素っ頓狂な声を上げるパラミノ。


「フォードンさん、すみません。仲間外れにしちゃ可哀そうだと思って、登録はしてないのですが、サニーちゃんにも紋章を入れたんでした」

「ああ、そう言う事ですか。う~ん……まぁ、いいんじゃないですか。サニーさんも3級2つ星で」

「わっ! やった!」

「よかったわね、サニー」

「うん!」


 クーネとサニーが喜ぶ姿を見た後、ハジメは小声でフォードンに話しかける。


「いいんですか?」

「依頼を受けた時点でサニーさんは居たわけですし、仲間外れにしちゃ可哀そうじゃないですか」

「だったら兵衛さんも上げてくれても……」

「ほら、そこは大人と子供の違いですよ」

「そうでござるな。ハジメ殿、某はお気遣い無用でござるぞ」

「はぁ……」


 規則に厳しいのか緩いのか、いまいち釈然としないハジメだった。


「それでは皆さん、こちらからの話は以上です。受付にて昇級手続きを行ってください。パラミノ君、後はよろしくね」

「はい! では、皆さんこちらへどうぞ」


 パラミノに言われ、ハジメ達は応接室から出て行った。部屋にはフォードンだけが残っている。


「ちょっと気になる点はありますが、まだ問題視する程では無いでしょう。今後の展開が気になる所ですが……次はどうなりますかねぇ」


 フォードンは宙を見上げながら、上機嫌に鼻歌を歌いだす。だが何か思い出したのか、苦笑いをしてこめかみを指で叩く。


「そうだ、あっちはちょっと釘を刺さないと……あまり面倒事増やされても困りますね。どうしたものか……」


 困っている口振りだが、何処か楽しそうだった。





 受付で手続きを行い、ハジメ達は3級2つ星へと昇級した。手続きが終わるとハーンがハジメに声を掛ける。


「お前等これからどうするんだ?」

「まだ特に決めてないですね。でも他の国にも行ってみたいかなと思ってます」


 ハジメがそう言うと、ハーンはニヤリと笑った。


「そりゃあ丁度いいぜ。昨日の酒場で知り合った奴に聞いたんだけどよ。ここから東に行った所にパマウィンって街があるんだが、そこで冒険者を募集してるんだとよ。なんでも山脈を通る商人達の護衛だとか。結構名の知れた商人一行らしくて運搬する物の量も相当らしい。募集してる数も多いって言ってたし、よかったら行ってみたらどうだ? 山脈を渡るなら丁度いいと思うぜ」

「たしかに丁度いいかもしれませんね」


 ハジメはクーネ達の方を見る。


「某は異論はござらぬ。ハジメ殿にお任せするでござるよ」

「サニーはいいよ!」

「キュィィ!」


 兵衛、サニー、パルが了解するが、クーネが何か考えている様子だった。


「クーネ?」

「えっ!? あ、もちろんいいわよ」


 声を掛けられ慌てて返事をするクーネ。ハジメは不思議に感じたが、そのまま話を進めた。


「それじゃ、パマウィンに向かう事にします」

「おう! 募集期限はまだだって言ってたから今からでも間に合うだろ。パマウィン見て回るのもありだな。観光に力を入れた街だからよ。楽しめると思うぜ」

「はい」

「それは楽しみでござるな」

「それじゃオレ達は行くぜ。じゃあな」

「はい、また一緒にやりましょう」


 ハーン達と挨拶を交わし、ハジメ達は宿に戻った。宿に戻りハクマーとゲンマーにパマウィンへ行く事を伝える。そのまま山脈を抜けることになるので2日後の朝に宿も引き払う事になった。

 次の日、ハジメ達は旅をする為の準備や買い出しをし、ギルドのパラミノにも挨拶を済ませておく。そして一通り用事を済ませて宿の食堂で寛いでいると、ハーン達がやってきた。


「よう」

「あれ? どうしたんですか?」

「ん? ああ、まぁあれだ……」


 ハーンは言い出しづらそうに言葉を濁す。その様子を見てチュカが呆れた様子で声を掛ける。


「ほら、さっさと渡せよ。そんな勿体付けるな」

「う、うるせぇ! ……ほらよ!」


 ハーンは4つに折りたたまれた羊皮紙を渡してきた。


「これは?」


 ハーンから受け取り、広げてみる。羊皮紙は大陸の地図だった。


「これってディアベント大陸の地図ですか?」

「お、おう! そのあれだ! 餞別だな! これからいろいろ旅するなら地図くらいあったほうがいいだろ。それは大陸の大まかな形や山脈とか川しか書いてないからよ。自分で色々書き込めるし便利だと思ってよ」


 ハーンの言うとおり地図は国境線で区切られただけで街などは一切書いてなかった。


「こいつの持ち金じゃちゃんとした地図は買えなかったんだよ。結構値も張るしな。それで許してくれ」

「余計なこと言ってんじゃねぇよ!」

「いえ! 嬉しいです。ありがとうございますハーンさん」

「私達だけの地図が出来るわね」

「おお、それは面白そうでござるな」

「サニーも書きたい!」


 予想以上に喜ぶハジメ達を見て、ハーンも顔が綻ぶ。


「おう、……オレもお前等には感謝してるしな」


 ボソリとこぼすハーン。


「え?」

「な、なんでもねぇよ! オメェ等! つまらねぇ冒険者になるんじゃねぇぞ! それじゃあな!」


 乱暴に挨拶するとハーンはスタスタと行ってしまった。


「おい! ったく……。それじゃ、気を付けてな。無茶するなよ」

「またマシュメにも遊びに来てね」


 そう言うとチュカとテシンも去って行った。


「ありがとうございました!」

「絶対また会いましょう!」

「またね!!」

「御達者で!」

「キュィィイイ!」


 ハジメ達は去っていくハーン達に感謝の気持ちを伝えた。ハーンは振り返らずに手を軽く振って帰って行った。





 出発の日、宿の前でハジメ達はハクマー、ゲンマー達と別れの挨拶をしていた。


「ハジメ、弁当作ったからよ。道中で食べてくれ」

「ありがとうございます。ハクマーさん」

「皆様、マシュメに来た時はまた顔を見せて下され。〔岩熊のねぐら〕はいつでもお待ちしてますぞ」

「もちろんです。また泊めてもらいますよ」

「皆さんもお元気で」

「世話になり申した」

「またね!」

「キュィィイイ!」


 ハクマー達に見送られ、ハジメ達は〔岩熊のねぐら〕を後にする。


「さて、目指すはパマウィンか」

「どんな街かしらね」

「観光の街と言っておったし、また一味違うのでござるかな」

「楽しみだね!」

「キュィイ」


 ハジメ達は東の街パマウィンへと出発した。

これで王都での話は終了です。ハーンのツンデレ(?)も書けたので満足です。

次回からはパマウィンの話になります。


4月は立て込んでいまして、次の投稿は4月下旬頃になると思います。申し訳ないですが、またお待たせすると思います。すみません。

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