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ジュエル!  作者: asobito
マシュメ王国編
48/67

第41話 冒険者の心得

大変長らくお待たせしました。申し訳ありません。

新年1話目の投稿と言う事で言わせてください。

あけましておめでとうございます。今後もよろしくお願いします。

 広間には数軒の小屋があったが、フィータ達が既に居ないのでハジメ達は手分けして探した。目的の小屋はすぐに見つかった。


「皆! こっちにきて!」


 クーネの呼ぶ声に全員が小屋の入り口に集まる。


「あったか?」

「これじゃないかしら」


 小屋の中を指差すクーネ。ハーン達は小屋の中に入って行く。小屋の中には大きな木箱が十数個と机があり、机の上には木箱が3つと、長さ20cm程の細い筒が置いてあった。各々が部屋にある物を調べる。


「ねぇ、クーネ。この大きい箱はなに入ってるの?」

「えっとね、これは~……」


 箱の蓋を開けようとしたが、釘が打ちつけられていて開きそうも無かった。


「う~ん。開けられそうもないわね」

「よし、オレがやるよ」


 その様子を見たハジメが剣を使って蓋をこじ開ける。中にはパンパンに膨らんだ麻袋や布袋が詰まっていた。ハジメは麻袋を開け、中身を確認するとジャガイモが入っていた。


「ジャガイモ?」

「おイモ?」


 首を傾げるハジメとサニー。クーネも布袋を開けて首を傾げる。


「こっちは小麦ね。この木箱全部食糧って事?」

「おい! こっち見てみろ」


 机の上を調べていたハーンがハジメ達を呼ぶ。ハジメ達が行くと、ハーンは木箱の中を指差した。


「見ろよ」

「これって…金ですか?」


 木箱の中には延べ棒状の金塊が詰まっていた。ハーンは金塊の1つを手に取り、一通り調べると納得した顔をする。


「なんとなく見えて来たな」

「ハーン殿、こちらの筒は何でござろう」

「こりゃ、書簡だな。貴族連中なんかが使うやつだ」


 ハーンは皮で出来た筒の蓋を外し、中から1枚の紙を取り出す。机の上に広げ、ハジメ達にも見せた。


「こりゃ、注文書か」

「注文書?」

「あの領主、定期的にヴェリカーキンと取引をしてるみてぇだな。え~っと、内容は…食糧と金の交換、次回から量を増やして欲しい、か。ほら、ここ見てみろ」


 ハーンが指す場所には領主ギュデス・メソンの名前があった。ハジメは目に留まったもう一つの名前を指差しハーンに質問する。


「こっちの名前の人がヴェリカーキンの人ですか?」

「ああ、恐らくな。何処の誰かは知らんが、この刻印見てみな」


 そう言うと先程見ていた金塊の刻印を指す。金塊には雷を模した紋章が付いていた。


「ヴェリカーキンで取れて精製された金には必ず国の印が付くようになってんだ。それがこれに付いてるって事は、この取引相手が横流ししてるか、国からの指示でやってるかってとこだろうな。とにかく、これを村まで持って行かなきゃいけねぇな」


 ハーンは積まれた食糧を見て溜息を吐く。


「どうすっかな…」

「パルに運んでもらうにしても数往復しなきゃ無理ですね」

「キュィィ…」


 ハジメ達が悩んでいると、ハーンが仕方ないという顔で口を開く。


「面倒くせぇからこのまま置いておくか」

「え?」

「村からの依頼は盗賊を追い払う事、領主の依頼は…取引の内容から察するに、この金の方だろうな。盗賊の捕縛は無理だったが。村長に食糧が置いてあるって言えば解決だ。後は向こうで勝手に回収してくれるだろ」

「でも、いいんですか? オレ達で持って行かなくて…」

「持って行けば村の人達も取りに来なくていいじゃない」

「あのな、オレ達は奉仕活動してんじゃねぇ。依頼をこなしてそれに見合った報酬を貰う。それが冒険者って奴だ。余計な事して時間掛かりましたなんて依頼主が納得しねぇだろ」

「…そうですね」


 何処か納得していないハジメとクーネを見てハーンは呆れた顔をしたが、溜息を一つ吐いて話を続ける。


「まぁ若い時はオレもそんなだったか…。とにかく! 村長には食糧の事を教えるんだから十分だろ。金持って村に戻るぞ!」


 ハーン、ハジメ、兵衛が金塊の入った箱を持ち、全員外へと出る。来た道を戻り、村へと戻る頃には日が暮れていた。





 村へ到着した後、村長の家でアジトであった事をチュカ、テシン、トウン、リバに報告し、その後の事を話し合っていた。アジトにあった食糧は後日村人達で回収し、近隣の村で分け合うという事になった。


「で、これがその金塊か。たしかにこりゃ、ヴェリカーキンの金塊だ」


 チュカが金塊を1つ手に取り、刻印を見ながら言う。


「ヴェリカーキンってそんなに食糧不足なのかしら?」


 クーネが疑問を口にすると、チュカが説明を始めた。


「前にヴェリカーキンで内乱が起きてるって話しただろ?」

「はい」

「ヴェリカーキンってのは山岳地帯が多くて、農業に適した土地が少ない。食糧はほとんど輸入に頼ってるんだ。逆に鉱物資源が豊富だから他の国と対等な力を持ってるんだが。それで内乱が起きて港を一部とはいえ封鎖しだしたら食糧不足になってくるだろう。国軍と反乱軍の物資の潰し合いだってあるだろうしな」

「それでマシュメと取引をしようとしたんですね」

「メソンとの裏取引だけどな。注文書の内容みたが、破格な高値で食糧が売れるんだ。領主も飛びつくだろうさ」

「それで、どうするんですか?」


 ハジメがハーンに質問する。クーネ達もハーンの答えを待った。


「どうするって…。もちろん金を領主に届けるさ」

「え?」


 当然だろという顔をして言うハーン。ハジメ達は耳を疑った。


「そんな! 不正してるじゃない!」

「国に届け出るべきじゃないんですか?」

「あのな…」


 ハーンは呆れた様子で溜息を吐く。チュカとテシンは苦笑いを浮かべていた。


「洞窟でも言ったが、オレ達は冒険者だ。慈善活動家でも正義の味方でもねぇ。依頼を受けてそれをこなす。それがオレ達の仕事だ」

「でもっ…」


 クーネが食い下がる。するとチュカが手で制した。


「冒険者の仕事ってのは、いつもまっとうな依頼って訳じゃない。中には犯罪紛いのものだってある。だが、ギルドっていう組織に入って依頼を受けた以上、自分達の考えで好き勝手やっていいもんじゃない。冒険者ギルドの看板背負ってるって自覚を持たないとな」

「で、でも皆が皆悪い事してるって訳じゃないよ」


 テシンがオドオドとフォローを入れる。


「ああ、職員だって事前に調べて犯罪絡みの依頼は拒否するしな。オレ達だってよく吟味して依頼を受けるように言われてるだろ? 要は依頼を受けた以上、依頼主とギルドの損になる事は出来るだけするなって事だ」

「今回はちょっと例外だけどな。とりあえず、明日の朝領主に金を渡して報酬もらって終わりだ」


 ハーンがそう締めくくると、納得していない様子のハジメやクーネ達に部屋に戻るように言って解散した。





 翌朝、村の入り口にハジメ達は集まっていた。トウンとリバ、村の人々もそこに居た。


「皆様、こんな辺鄙な村までわざわざありがとうございました。おかげで助かりました」

「皆さん、ありがとうございました!」


 トウンが依頼達成の証明書をハーンに渡す。リバや村人達はハーン達に頭を下げていた。


「おう。アジトにある食糧の事は頼んだぜ」

「はい! 今日にでも取りに行きます」

「ちょっと待った!」


 村人達の後ろから呼び止める声と同時に、兵衛が現れた。手甲と脚絆を身に着け、手には旅笠、背中には小さな箱状の物を包んだ風呂敷がたすき掛けされていた。兵衛はハジメの前に行く。


「ど、どうしたんですか? 兵衛さん」

「ハジメ殿、某も旅に同行させてくだされ!」


 そう言うと、兵衛は深く頭を下げる。


「え?」

「某、修行の旅を続けるつもりでござるが、恥ずかしながら右も左もわからぬ身。ハジメ殿達は世界を旅するとの事。どうか某も一緒に旅をさせていただきたい」

「は、はぁ…。ど、どうしましょう」


 ハジメはハーンを見るが、手で払いながら面倒臭そうに言う。


「オレ達は関係ねぇだろ。旅をするお前等の仲間になりてぇってんだから、お前等で決めろ」

「…そうですね。クーネとサニー、パルはいいかい?」

「ええ、私はいいわよ。旅は仲間が多い方が楽しいじゃない」

「サニーもいいよ!」

「キュィイイ!」

「じゃあ、兵衛さんこれからよろしくお願いします」

「おおお、忝い! ご一同、よろしくお願い申す」


 兵衛はニッコリと笑いながら一礼した。


「よし、それじゃ、出発するぞ」

「はい。トウンさん、リバさん、皆さんもお元気で!」

「皆様もお気をつけてお戻りください」

「ありがとうございました!」


 お互いが手を振りながら、ハジメ達は領主の居る町へと向かった。





 メソン邸に到着し執事に説明すると、前回同様玄関で待たされる一同。間もなくギュデスが早歩きでやってきた。


「おお! 持って来たか!」


 ギュデスはハーン達をチラリと見ると、すぐに積まれている金塊の入った箱の方へ向かった。箱を開け、金塊を1つ手に取ると、安堵の顔を浮かべる。


「うむ、間違いない」


 金塊を箱に仕舞い、執事に持って行くように手で合図する。執事と使用人らしき男達は箱を持って奥へと消えて行った。


「で、これの他には何もなかったのか?」


 ギュデスはハーンの方を向き、質問をした。


「ええ、これと言ってめぼしいはありませんでしたよ」


 ハーンは食糧の事は伏せた。これは事前に村で話し合った事で、村々で分ければいいという結果になった。ハーンの「運ぶのが面倒臭いから最初から無かったことにしよう」という意見が大きかったし、ハジメ達も、領主より村の人々の方が有効利用してくれると考えたからだった。


「そうか。では盗賊はどうした?」

「あ~、それがですね。あとちょっとの所で逃がしちゃいまして。でも村にはもう来ないでしょう」

「何だと…」


 ギュデスは舌打ちをすると、ハーン達を手で払った。


「ふん、使えない連中だな。もういい、さっさと帰れ」

「え?」


 ハジメ達はキョトンとする。そしてハーンが苦笑いで口を開く。


「あ~…、あの報酬の方は?」

「何?」


 ギュデスは露骨に不愉快そうな顔をする。


「盗賊を捕まえられなかったのだろう? 何故報酬は払わなくてはいかんのだ?」

「なっ…」

「ちょっと! 私達はちゃんと金塊を―――」


 ハジメとクーネが食って掛かろうとするのをチュカとテシンが止める。そしてハーンが苦笑いでギュデスに応える。


「ええ、仰る通りで。それじゃ、オレ達はこれで失礼します」

「ちょ、ちょっとハーンさん!」

「納得いかないわ!」

「うるせぇ! いいから出るぞ!」


 ハーンにドヤされ、ハジメ達は無理矢理外で連れて行かれた。

 ハーン達が出て行った事を確認するとギュデスは執事を呼び寄せる。


「何かご用でしょうか?」

「あの冒険者共に知られたままでは都合が悪い。何とかせよ」


 執事は無言で一礼すると奥へと戻って行った。





 メソン邸のある町を出て、首都マシュメに向かうハジメ達。皆無言のまま重苦しい空気に包まれていた。だが、ハーンが大きなため息を吐いて、ようやく口を開く。


「お前らが納得いかねぇのは分からんでもないがな」

「そりゃ納得いかないですよ」

「私達はちゃんと仕事はしたわ! たしかに盗賊は逃がしちゃったけど…」

「たしかにそうでござるな」

「いや、あれはな…」

「やっぱりもう一度文句を言いに行くべきよ!」

「サニーも行く!」

「まぁまぁ」


 チュカがハジメ達を制し、ハーンを見る。


「ハーン、さっさと説明しろよ。このままだとコイツ等領主の所に乗り込むぞ」

「それはそれで面白そうだがな。まぁしょうがねぇ」


 ハーンはカバンの中から筒と金塊を取り出した。


「あ! それ…」

「注文書の入った…え? 持ってきちゃったんですか?」

「どろぼうだ!」

「バカ! 泥棒じゃねぇよ!」


 ハーンは慌ててサニーの発言を否定する。コホンと咳をして、説明を始める。


「こりゃ、一種の保険だ」

「保険?」

「ああいう奴はいざ支払いになると難癖付けるのが多いのさ。素直に報酬払ってればこれも渡したんだがな。でもアイツは払わなかった。依頼を反故にしたんだからアイツは依頼主でも何でもない」

「それで、それをどうするんですか?」

「そりゃギルドに裏取引を報告するさ。でもってギルドから国に報告するだろうな」

「え! 正義の味方はしないって…」

「別に正義の為じゃねぇよ。依頼主が居なくなった以上、オレ達はギルドにとって最善をするだけだ。ギルドが国から一目置かれるようになりゃ、冒険者の地位も向上するだろ。それに何より、アイツの態度が気に入らなかったしな! ざまぁみろだ!」

「…最後が一番の理由な気がする」

「…私も」

「とにかく! あくまで1に依頼主、2にギルド。それは変わらねぇ。納得したか」

「「はい」」


 「よし!」と頷くと、ハーンを筒と金塊をカバンに戻すと再び口を開いた。


「で、問題が一つある」

「問題?」


 ハジメ達は首を傾げる。


「オレ達は金塊を見ちゃってるわけだ。ヴェリカーキンの刻印入りのな。領主が黙ってオレ達をマシュメに戻らせるとは…」

「ハ、ハーンあれ!」


 テシンが慌てて来た道の方を指差す。馬に乗った人々がこちらに向かって走って来ていた。


「おお、やっぱり来やがったか」

「え? え?」

「どういう事です?」

「なるほど、口封じでござるか」

「そういうこった」


 そんな事を言っていると、すぐに追いつかれ、周りを囲まれてしまう。十数人の男達で、それぞれ武器や防具を身に着けている。薄汚れた感じで、ハジメ達は盗賊の類かと考えていると、男達の一人が隣に居た男に声を掛ける。


「おい、コイツ等か?」

「おう、人数もピッタリだ。間違いねぇだろ」


 男達は武器を手に取り、馬から降りる。ハーンは困った顔をしてリーダーらしき男に質問する。


「見た感じ、傭兵崩れってとこか。一応聞くが、お前等あの領主に頼まれたのか?」

「あ? そんなこと今から死ぬ奴が知ってどうすんだ」


 男達はニヤニヤと笑っている。


「こっちも黙ってやられる気はないがな。しょうがねぇ、ハジメは嬢ちゃん達を守ってろ」

「え、でも…」

「盗賊の時は後れを取ったが、こんな傭兵崩れにやられるかよ」

「ハーン殿」


 ハーン、チュカ、テシンが武器を構えようとすると、兵衛が止めた。


「何だ?」

「ここは某に任せてもらえませぬか?」

「なに?」

「兵衛さん?」


 ハーンやハジメ達が兵衛を見つめる。


「アジトではお役に立てなかったが、今回は某にやらせていただきたい」


 真剣な目でハーンを見る兵衛。


「…チッ、分かったよ。だが、こんな数一人で大丈夫か?」

「お任せあれ」


 兵衛は刀を抜くと、男達に向かい前へ出て正眼に構えた。


「お主等の相手は某がしよう」

「あ? 1人でやるってのか」

「舐めてんのか?」

「死にたいならお前から殺してやらぁ!」


 男の一人が持っていた剣で斬りかかると、兵衛はスルリと横に躱し、同時に相手の腕を斬りつける。男は思わず持っていた武器を落としてしまった。兵衛をすぐに正眼に構え直す。


「殺しはせん。安心するがよい」

「く、クソッ! お前等さっさとぶっ殺せ!」


 男達は一斉に兵衛に襲い掛かるが、兵衛は男達を縫うように躱し、躱す度に相手の手足を斬りつけ戦闘不能にしていった。流れるような身のこなしをハジメ達は呆気にとられながら見入っていた。


「く、くそっ! こんな強いなんて聞いてねぇぞ!」

「後はお主だけだが、どうする?」

「クッ!」


 あっという間にリーダー格の男のみとなった。男はジリジリと後ろに下がると、急いで馬に乗り逃げて行ってしまった。他の男達もそれを見て慌てて馬に飛び乗り逃げていく。


「あらら、逃げちゃったな」

「どうせ、領主の元には戻らないだろ。放っておけばいいぜ」

「それにしても…」


 ハーンは刀を仕舞う兵衛を見て感心する。


「お前やるじゃねぇか。見直したぜ」

「兵衛さん、すごく強いんですね!」

「なんか踊りを踊ってるみたいな身のこなしだったわ」

「かっこよかったね!」

「いやはや、まだまだ未熟者でござる」


 兵衛は照れくさそうに頭を掻いた。


「よし、これで領主からの追手も追っ払ったし、さっさとマシュメに戻るぞ」

「はい」

「マシュメ…どの様な街か、楽しみでござる」

「サニーが案内してあげる!」

「おお、それはありがたい。よろしく頼む」


 ハジメ達はマシュメに向かい再び歩き出した。

敵が弱すぎて兵衛があまり活躍できなかった様な気が…。


次回はマシュメでの打ち上げでの話になると思われます。

次回もよろしくお願いします。

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