第38話 怪しい雲行き
毎度遅くなって申し訳ありません。
2012/10/29 ご指摘のあった誤字を修正しました。
「クェーメン村ってまだかなー」
「キュィイ」
王都マシュメを出てすぐに先頭を歩くサニーがそんな事を言い出す。麦わら帽子に白のワンピース、背中の背負い袋からは、サニーが大切にしている人形が顔を出している。パルはサニーの頭の上にペタリと乗っていた。
「今出発したばかりだろ。まだまだこれからだ」
ハーンが前を歩くサニーに呆れながら言うと、「そっか!」とガッカリするわけでもなく楽しそうに歩いて行く。
「リバさん、クェーメン村ってどんな所なんですか?」
ハジメはこれから向かう村の事を聞く事にした。
「小さな漁村ですよ。魚が旨いってくらいしか自慢できる事も無いですかね」
「オレ達3級の冒険者を雇うくらいだから裕福ってわけじゃないだろ。っていうか領主は金出してくれなかったのか?」
後ろに居たチュカが話に入ってくる。ハジメも気になったのでリバの答えを待った。
「領主様はこの事にあまり関心が無いようでして…。村の事は村でやれと言った感じですね」
「なんだそりゃ。それでも領主かよ」
「あはは…。あ、村に行く途中に領主様の居る町があるので報告しに寄ってもいいですか?」
「別にいいと思いますけど、皆はどうかな?」
ハジメが周りに目配せすると、皆問題ないという様子だった。
「特に問題は無いな。でも、そんな領主相手に律儀な事だな」
「無関心ですけど、勝手にやると後で何言われるか分からないので」
「あ~、それだけで何となくどんな領主かわかるな」
「まったくだな」
「あまり関わりたくないなぁ」
「「?」」
ハーンとチュカとテシンが納得したような顔をする。不思議そうな顔をするハジメとクーネに気付いて、チュカが理由を話す。
「この手のお山の大将はやたらと身分の下の奴を馬鹿にするし、ぞんざいに扱われるのを嫌う。たぶん会ったら高確率で気分を害するから覚悟しとくといいぞ」
「ハハハ…」
それを聞いたリバも否定せずに苦笑いをする。
その後も様々な会話をしながら目的地へ向こう一行。そして話は盗賊達の話になった。
「盗賊ってやっぱり強いのかな。リバさん、どんな感じの人達なんですか?」
「私達を襲ってきたのはガラの悪そうな見るからに盗賊と言った感じでしたね。でもそれまで来ていた人達は海賊と言った方がいいかもしれません。村の漁師達と同じように真っ黒に日焼けしていたし、なんとなく海と繋がりがある感じがしました。なんとなくですけど。あと持って行く食糧から見て十数人いるんだと思います」
「海賊ねぇ。別に船で村に来てたわけじゃねぇんだろ?」
「はい。歩きで2,3人が来るくらいですね」
「海賊なら何で船使わねぇんだろうな。それに歩きで来るならどっか近くにアジトがあるんだな」
「いざとなったらアジトに乗り込みますか」
「お前結構大胆な事サラッというな」
ハジメの発言に驚くハーン。ハジメの横で話を聞いていたクーネは思っていた疑問を口にする。
「ずっと思ってたのだけどこういうのって国がどうにかするんじゃないの? 領主が国に掛けあうとか」
「ああ、オレもそれは思ってたけどどうなんですか?」
「お前等ヴェリカーキンの内乱の話知らねぇのか?」
首を傾げる2人を見て溜息を吐きながらハーンが説明を始める。
「しょうがねぇ、オレが特別にお前達に教えてやろう。今オレ達が居る大陸…ディア…ディアヴィ…」
「ディアヴェントな」
チュカからフォローが入り、「そうそれ」と指を指すハーン。
「そのディアヴェント大陸を東西で分断する大山脈があそこに見える奴だ」
ハーンは東側に見える山々を指差す。
「でもって西ディアヴェント地方の北がマシュメ王国、南がヴェリカーキン帝国ってわけだな。大山脈から流れるマシュヴェリ河って大河が南北を分けててそこが国境ってわけだ。で、最近ヴェリカーキンで内乱が起きてるって話だな」
「ヴェリカーキンで内乱が起きるとどうしてマシュメは動かないんですか?」
「そりゃマシュメがヴェリカーキンとの関係を悪化させたくないからだ。マシュメが他国と取引しようとするとまず船が必要だ。昔は大山脈の険しい山道を通って東側と貿易するのが主流だったらしいが。で、船を使うとなると南のヴェリカーキンの港が色々とありがたいわけだ」
「寄港して補給とか出来ますしね」
「マシュメの北は山脈に囲まれてて途中で寄る所なんて無いし、南を通るの航路しかない。そうなるとヴェリカーキンの立場が上になっちまう」
「あれ? でも今ヴェリカーキンの港って閉鎖されてるって聞いたけど」
クーネがマシュメに来る時に聞いた事を思い出した。東側まで補給せずに行ける船しか運航していないと考えていた。
「正確には一部閉鎖だ。ヴェリカーキンの許可が下りてる船なんかは寄港してるみたいだぜ。ま、とにかくヴェリカーキン内の雲行きが怪しいってのは確実なわけだ。小さい争いが頻繁らしいしな。そんなピリピリしてる国との国境沿いにある村に国から兵隊連れて行ってヴェリカーキンに知れたらどうなるか」
「勘違いされかねない」
「そう言うこった。それで関係が悪化するのが怖いから国は動かないってわけさ。我が国ながら情けねぇこった」
「なるほどなぁ。それにしてもハーンさん詳しいですね」
「熟練冒険者って感じだわ」
「ものしりー!」
「お、おう! まぁ冒険者ってのは国の情勢も知ってなきゃな。お前等も情報収集は怠るんじゃねぇぞ」
ハジメ達の尊敬の眼差しに、ハーンもまんざらでもない表情で応えている。その様子を数歩後ろで聞いていたチュカにテシンが声を掛ける。
「あれって…」
「ああ、今朝オレがアイツに教えた話だな」
「やっぱり」
チュカとテシンの呆れた眼差しに気付く事もなく、ハーンの冒険者の心得の話が続いた。
途中特に問題が発生する事もなく、旅は順調に領主ギュデス・メソンが居を構える町まで到着した。予定通り10日目の朝に到着でき、そのまま領主の屋敷へ向かった。海に面した港町で、町自体も小さかったので領主の屋敷もそれほど大きくは無かったが、不釣り合いとも感じる程外観、内装共に豪華だったり、ハジメは何処となく違和感を感じた。
(領主ってそんなに裕福なものなのかな)
応接間に案内される事も無く、しばらく屋敷の玄関で待たされると領主が姿を現した。
「お前はクェーメン村の者か。何か用か?」
「はい、先日お話した冒険者の方々を連れて来ましたのでその報告を」
「ああ、盗賊だか海賊だかの話か。その件はお前達で勝手にしろと言ったはずだ。いちいち来なくても良い」
「も、申し訳ありません」
リバはひたすら頭を下げている。その様子を見てハジメ達も表には出さないが不愉快な気分で一杯になっていく。
「用が済んだらさっさと出て行かんか」
「はっ、失礼します」
リバは後ろに立つハジメ達に出るように促す。一行が外に出ようとすると、執事らしき老人が入ってきた。
「おっと、これは失礼しました」
老人はサッと横に避け、一礼するとすぐに主の元へ向かう。
「ギュデス様」
「何だ騒々しい…」
老人は主であるギュデスの耳元で何かを報告する。すると見る見るうちにギュデスの表情が変わった。だが、ハジメ達は一刻も早く出たかったので構う事無く外へ出ようとする。
「おい、お前達! ちょっと待て!」
ギュデスがハジメ達を呼び止める。全員一様に嫌々感全開で振り返る。そしてリーダーとなっているハーンが口を開く。
「何ですか?」
「お前達に頼み事をしたい」
「は? いや、オレ達は村の護衛を…」
「いや、そんな事はどうでもいい。いや、それとも関係があるかもしれない」
「どういう事ですか?」
「今、私が所有する船が海賊に襲われたという報告があった」
「え? 海賊?」
「うむ、恐らく村を襲った賊と同じであろう。今すぐその賊を倒し、奪われた荷を取り戻せ」
「いや、ですからオレ達はもう依頼を受けてましてね」
「金なら出す! いいか、頼んだぞ!」
ギュデスはそう言うと執事を連れて慌ててどこかへ行ってしまった。
「え? どうすんだこれ…」
「と、とりあえず村へ行きますか」
「あ、ああ。そうだな」
「じゃあ皆さん行きましょう。村はそんなに遠くないので」
町を出て、クェーメン村へ向かう。
「何だったんだろうな。あの領主」
「あの依頼受けるんですか?」
「いや、その海賊ってのが村へ来ている奴等って確信が無いわけだしなぁ」
「どっちみちアジトに行かなきゃいけない訳か」
「そうなるのかな」
「やっぱり面倒臭くなったな」
「思ってた以上にな」
「あ、皆さん村が見えてきましたよ」
リバが指す先に村が見えた。
「おお、やっと着いたか。とりあえず一休みして情報整理だな」
「ああ、そうだな」
「お前達! そこで止まれぃ!」
村に近づいて来たその時、村から1人の男が走ってきた。
「賊共、懲りずにまた来たか。だがこの二藤部兵衛がいる以上、お前たちの好きにはさせん!」
一同が何事かと驚く中、ハジメだけが違う意味で驚き、思わず声に出してしまう。
「さ、侍っ!?」
ハジメ達の目の前に現れたのは、時代劇で見るおなじみの侍の恰好をした男だった。
まさかの侍登場。皆さんの予想を裏切れたでしょうか。いい意味でと言われるように頑張らないといけませんね。もう手遅れか!?
そして新たな地名やら人物やらで作者がいつ間違えるか心配。
次回もよろしくお願いします。