間話 その頃のそれぞれ
間話入れる事をすっかり忘れてました。活動報告で書いた予告とは違う内容です。すみません。
〔岩熊のねぐら〕の食堂、ハジメは窓際の席に座りぼんやりと外を眺めている。
「どうしたの? ボーっとして」
食堂にやって来たクーネが声を掛ける。
「ん? ああ、窓の外をこうやって眺めてると、学生の頃思い出してな。友達は今頃何やってるかなぁって考えてた」
「へぇ、ハジメの学生時代とか興味あるなぁ。色々聞かせてよ。友達の事とか」
「別にオレは普通の学生だったよ。でも友達はすごくいい奴ばかりだな。入学してすぐの頃………」
ハジメが楽しそうに話すのを見て、クーネも自然と笑顔になった。
[港町ナディーユ]
「それじゃ、気を付けてな。向こうに着いたらよろしくと伝えておいてくれ」
「はい、御爺ちゃんも体に気を付けてね」
「ふん、お前が一人前になるまでは死なんわ」
ラニアンは祖父の言葉を笑顔で受ける。
「それじゃ、そろそろ時間だし。行ってきます」
「ああ、死ぬ気でやって来い」
船に乗り込んで振り返り、祖父に向かって手を振る。祖父はそっけない感じで手を振りかえす。ラニアンはそれを確認すると、船内の中へ入って行った。
ラニアンが乗ったのはグァロキフス王国とマシュメ王国を行き来する定期船で、ラニアンはこれからマシュメのある街へ向かう事になっていた。学園を卒業後、村へ帰ってきたラニアンは祖父から商売の事を学ぶと思っていた。だが「実際に店で働いた方が何十倍もいい」と言われ、祖父の知り合いという商人への紹介状を渡された。
相部屋になっている部屋の片隅に大きな荷物を置き、一息つくラニアン。これから行くまだ見ぬ地への期待と不安、王都で自分の事を待ってくれている人の事、そしてもしかしたら向こうの国で会えるかもしれない友人の事を考えていた。
「ハジメ君に会えるといいなぁ」
そんな事を考えていると、定期船の出発の鐘が鳴り響いた。
[村長オルタスの家]
のんびりとした雰囲気の中、勢い良く扉が開き、1組の男女が入ってくる。
「村長! こんちわっ!」
「こんにちわ」
「やぁ、ヒルナンにエルレア。よく来てくれたね!」
「2人ともこんにちわ」
ヒルナンとエルレアを笑顔で迎えるオルタスとクラウ。その後ろに立つラウもお辞儀をする。
「話ってなんですか村長?」
「まぁまぁ、とりあえず座って座って」
オルタスは2人を席に座らせる。
学園卒業後、ヒルナンは騎士団へ、エルレアは学園内の研究室へ行っていた。その2人にオルタスから「時間が空いた時にでも村へ来てほしい」と伝言があり、2人で村へ戻ってきた。
「実は2人に卒業祝いを渡そうと思ってね!」
「え!? マジですか!」
「マジだとも!」
一気にテンションがあがるヒルナン。それに合わせてオルタスもテンションがあがる。クラウとエルレアから「まぁまぁ」と落ち着かされ、話は先へ進んだ。
「ハジメには外套とか鞄をあげたしね。2人にも今後役立ちそうなものを贈らせてもらうよ」
そういってオルタスはラウに合図を送ると、ラウが1冊の本を取り出してオルタスに渡す。
「まずはエルレアにはコレ」
「本、ですか?」
「ああ、開いてみてごらん」
エルレアは本を受け取り、開いてみる。中は何も書かれていない白紙だった。だが、内容とは別の所に違和感を覚える。適当に開いたはずなのに綺麗に本の中央を開いていた。試しにページをいくつか捲る。どんなに捲っても左右のページの量が均等なままだった。
「村長、これは?」
「びっくりしたかい?」
オルタスは嬉しそうに聞き返す。エルレアが頷くと、満足したように種明かしをする。
「それは"無限の本"って言うんだ。実際は10万枚くらいだったかな。ずっと捲ると一周して最初に戻る」
それを聞いたエルレアは注意深くページを捲る。すると捲った枚数分、端から表紙の裏に消えているのが分かった。そして反対側の裏表紙の裏から消えた分のページが出てきて、常に左右が均等になっている。
「実はそれを作った人の私物だった物だから新品ってわけじゃないんだ。でも"殆ど何も書いてない"って言ってたから全然使えると思うよ。かさ張らないし、エルレアの役に立つと思うよ」
「ありがとうございます。でも、どうやって作ったんですか?」
「さぁ?」
オルタスはサッパリと言った顔で首を傾げる。
「昔の知り合いにそう言うのを作る天才が居てね。ハジメにあげた外套や鞄も彼の作品なんだ。原理とかはサッパリだけどスゴイよね」
「仕組みが全然わかりません」
エルレアは手にした本をじっくり観察している。それを見ていたヒルナンが待ちきれずに手を上げる。
「はい! はい! オレは何が貰えるんですか、村長!」
「ああ、そうだったね!」
オルタスは再びラウに合図を送る。すると何処からか大きな包みを取り出した。ヒルナンは席を立ち、白い布で包まれた2m程ある長い包みをラウから受け取る。
「ぐおっ!」
自分の身長より長い包みを受け取った瞬間、あまりの重さにバランスを崩しかける。だが、鍛えていた甲斐あってか、何とか踏みとどまるヒルナン。
「そ、村長…これはなに?」
「それは剣だよ」
「け、剣? なんか無茶苦茶重いですよ!」
これ程の大きさの剣は普通に扱えるヒルナンだったが、この剣はずっと持っているのが辛い程だった。オルタスは「やっぱり」という顔をしながら答える。
「あ~…まぁ、慣れれば軽くなるはずだから」
「?」
「あと、その剣の注意点を…」
「ちゅ、注意点?」
「包みを開けるのは王都に帰ってから。あと、粗末に扱わない様にね。まぁ、使ってたら分かって来るよ」
「は、はぁ…」
抱えているのは辛くなってきたので、肩に背負って話を聞き、怪訝な顔をするヒルナン。それを見てオルタスが彼にやる気を起こさせる一言を言う。
「それ一応、初代国王のオルバスタが使ってた剣だよ。その剣を使いこなせるようになったら、魔法有りのハジメとも互角な勝負できるくらい強くなると思うよ」
「マジですか!!」
それを聞いてフラフラしていた体をピンと伸ばす。ヒルナンの中では、オルバスタが使っていたという点よりハジメと全力勝負で勝てるかもしれないという点が頭に入っていた。卒業直前の頃は、剣術ではヒルナンが圧倒的に強かったが、魔法有りの勝負だとどうしてもハジメの方が有利で、勝つ事が難しかった。
「よーし! これでハジメをあっと驚かせてやるぜ!! 村長! ありがとう!」
そう言うと、ヒルナンは剣を背負ったまま玄関の方へ走って行く。エルレアは「やれやれ」と言って顔で席を立ち、オルタス達に頭を下げる。
「村長、クラウさん、ラウさん、ありがとうございました。大事に使わせて頂きます」
「ああ、気を付けて帰るんだよ。ヒルナンにもそう伝えておいてくれ」
「はい」
そう言ってエルレアもオルタスの家を後にした。
2人が立ち去った後、クラウがオルタスに話しかける。
「あげちゃってよかったんですか?」
「ああ、オレが持っていても使う事は無いしね。あの2人なら有効利用してくれるさ」
「本の方はエルレアちゃんだから心配無いですけど。ヒルナン君は…ちょっと心配だわ」
「ヒルナンなら大丈夫さ! 彼ならきっと気に入って……いや、気に入られると思うよ」
「ヒルナン君、大変な目に遭いそうね」
オルタスはニヤリと笑う。それを見て苦笑を浮かべるクラウだった。
[岩熊のねぐら]
「他に色々面白い奴いるな。鍛冶屋目指してる奴等や、教師目指してる子に、さっき話したラニアンを待ってる子とかな。そのうちクーネにも紹介するよ。良い奴等だからすぐ友達になれるぞ」
「うん、ありがとう」
笑顔で応えながら、クーネはふとマシュメに来た時同行していた3人の事を思い出した。クーネが故郷の人達で真っ先に思いつくのは、家族とその3人だった。
(爺や達、まだ船に乗ってる頃かな。…カンカンに怒ってるだろうなぁ)
[豪華客船"白金鳥"船内]
客室の一室に2人の男女がいた。一人は椅子に座り、暗い顔で俯いている若い女性。もう一人は扉の近くでイライラしながら同じ所を行ったり来たりしている背の低い老人だった。
「まだか! まだ連絡はこんのか! こんなことをしている間にクーネディアお嬢様に何かあったらどうする!」
「ダステイ様、お嬢様ならきっと大丈夫ですよ。落ち着いてください」
「ウサマ! そんな呑気な事言っとる場合か!」
「す、すみません」
クーネが船を抜け出した事をダステイ達が気付いたのは出発してしばらくした後だった。慌てて船を引き返すように船長に直訴したが、乗っているのは各国の要人や大金持ち。引き返す事など出来るはずも無かった。だが、船長が気を利かせ、船にある連絡手段"手紙鳥"を使ってマシュメと教団に連絡を取れるように取り計らってくれた。手紙鳥は2か所の巣を行き来する特徴をもった鳥で、それぞれの地域に巣を持つ手紙鳥を船の中で飼っていた。ダステイ達はその手紙鳥が持ってくるマシュメと教団からの返信を待っていたのだった。
しばらくして重い空気の部屋を勢い良く開けて、若い男が入ってきた。ウサマとそっくりな顔をしていて兄妹だとすぐに分かる。
「ダステイ様!」
「おお、返信が来たか! ダキマ!」
「はい、教団から返信が来ました!」
ダキマは手にした紙をダステイに渡す。奪うように紙を取り、食い入るように書かれた内容を読む。そして読み終わると、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。その様子に一層不安感が高まるダキマとウサマ。
「ダ、ダステイ様…教団は何と?」
「ルアマール様から、"連れ帰るまで戻ってこなくて結構"だそうだ…」
頭を抱えるダステイ。同じようにダキマとウサマも頭を抱えたまましばらく動く事は無かった。
久しぶりのヒルナン達。今回出てこなかった人達も今後の間話で登場する予定。
次回は新しい依頼の話になります。