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ジュエル!  作者: asobito
マシュメ王国編
42/67

第36話 クーネとサニー救出作戦

約1ヶ月も空けてしまって本当に申し訳ありませんでした。

待ってくれていた皆様、ありがとうございます!

「クーネ! サニー!」


 勢いよくパルから降りたハジメは焼けた家の中を探し回る。だが2人の姿は何処にもなかった。自分の予想が現実味を増して焦り始める。


「落ち着け…何か手掛かりは…」


 辺りを良く見渡すと、1冊の本が落ちているのに気が付く。焼け焦げた床の上に開かれた状態で置かれた本に違和感を覚える。


「床の真ん中に本…」


 本に近づくと、周辺の床にわずかながら何かが暴れたような跡と、土が落ちていた。土はパラパラと家の外に向かって続いている。


「靴に付いてた土か…これだけ落ちてるって事は複数だな。くそっ! 予想的中か」


 落ちている土を追って家の外まで出ると、しゃがみ込んで地面を見る。真新しい足跡は東の森の中へ続いていた。


「狩りの経験がこんな時に役立つとはな。パルに乗って行くと気付かれるかもしれない。走って追うか」


 ハジメはパルを肩に乗せたまま全速力で森の中へ入って行った。





 森の東、岩山の麓に小さな洞穴があった。中は物置程の広さしかなく、入り口には木製の扉が付いていた。男達に連れられて来たクーネとサニーはその洞窟に放り込まれ、閉じ込められてしまっていた。


「サニー? 大丈夫?」


 頭に袋を被せられたままのサニーを気遣うクーネ。2人とも両手両足を縛られていたので身動きが取れない。


「うん、真っ暗だけど大丈夫だよ。クーネは大丈夫?」

「私は全然平気よ。すぐにハジメが助けに来てくれるからもうちょっとガマンしてね」


 不安がらせないようにするクーネだが、内心は不安と恐怖で押しつぶされそうだった。小さい頃から杖術や魔法を学び、その辺の男になら負けないという自負があったが、実際に襲われた時、体が硬直して全く反応できなかった。

 ふと「街の外には恐ろしい輩が沢山いるのです。絶対に外には行ってはなりませんぞ!」と小さな頃から散々言われた事を思い出す。


(爺やの言う事、真面目に聞いておけばよかったかな…)


 船を抜け出して冒険者になった事を後悔しかけ、頭を振るクーネ。


(ううん、それとこれは関係ないよね。私が選んだのだもの…)


 扉の外から笑い声が聞こえ、そちらを見つめる。


「早く助けに来て…ハジメ」





「それにしてもうまくいったな!」

「ああ、まさか女とガキ残してどっか行っちまうんだもんな」

「戻ってきて早々、幸先良いなこりゃ」


 4人の男は焚き火の跡を囲う様に座り、酒を飲んでいる。

 男達は半年前にヴァルの家を襲撃した盗賊で、ほとぼりが冷めるまで別の場所で身を潜めていた。そしてまた活動拠点だった森の西端のアジトへ戻って来た時、ヴァルの家の方から煙が見え、そこへ行くとハジメ達が居たのだった。男達はハジメが村へ行った隙をついてクーネとサニーを攫った。そして西端にあるアジトの家はすぐばれると考え、東側にあるこの洞穴にやって来ていた。


「匿ってくれたのはありがてぇけど、あっちの堅苦しさにはウンザリしてたしな。誰も殺すな、女子供は攫うな、金や食料は半分残してやれとかよ。何が義賊だっての」

「盗賊は盗賊らしく、全部盗っちまえばいいんだよ」

「ちげぇねぇ」

「んでよ、ケロコグ。あの女とガキはどうすんだ?」


 男達がケロコグと呼ばれた男に注目する。ケロコグはこの盗賊団のリーダーだった。


「ガキはどっかに売っちまうか。女は身なりと持ってた杖からして教団関係だろうな。街で探りいれて、身代金ふんだくるってのもアリだな。応じなきゃこっちも売っちまうか。高く売れるだろうぜ」

「ちぇっ、じゃあ手を付ける訳にはいかねぇか」

「売る事考えるとな。金が手に入ったら娼館にでも行こうや」

「そんなに待てっかよ。あ~、どっかで攫ってくるかぁ」


 男達はニヤニヤしながら好き放題に喋る。


「それより、空の方気にしとけよ。木で見えにくいとは言っても、あの化け物がいつ飛んでくるか分からねぇからな」

「人質盾にしてどうにかすりゃいいだろ」

「男の方はともかくあの化け物は言う事聞かねぇだろ」

「男に化け物殺させるか」

「お、いいねぇ!」

「とりあえず、もうしばらくここで待機してアジトに向かうぞ」


 ケロコグが言うと男達は頷いた。





「さて、どうするか」


 ハジメは盗賊達が話し合っている様子を木陰から伺っていた。森の中にも複数の足跡や通った痕跡が残っており、ここまで来るのに迷う事はほとんど無かった。


「会話の内容からしてコイツ等が犯人だな。クーネ達は扉の中か…あれで全員なら行っちゃうけど、扉の中が分からないしな」


 洞穴の中が狭く、クーネ達しかいないと分からないハジメはどうするか迷っていた。

 すると、盗賊の1人が立ち上がる。


「ちょっと飲み過ぎたみてぇだ。小便してくる」

「あんま近くですんなよ。森の中行ってやれ」

「わかってるってぇの」


 そう言うと男は森の中へ入って行った。


「チャンス!」


 ハジメは男の方へと素早く移動する。

 男はある程度森に入ると、木の前に立ち、ベルトを外し始める。完全に油断していた男は、後ろから忍び寄るハジメにはまったく気付かなかった。


「動くな」

「!」


 ハジメは男の後ろからナイフを突きつけ、肩に手を掛ける。


「両手を上げろ」

「た、助けてくれ」


 男はすぐに両手を上げる。


「オレの質問にちゃんと答えれば殺しはしない。あそこにいるのが全員か?」

「あ、ああ。オレを含めて4人だ」

「扉の中に攫った人達がいるんだな? 中はどうなっている?」

「あそこは只の小さい洞穴だ。女とガキ以外は入ってねぇ」

「そうか」

「た、たのむ。助け…デッ」


 ハジメは肩に掛けた手から電気を流す。男はその場に崩れ落ちた。


「殺しはしないさ。その後どうなるかは国の判断だけどな」


 ナイフをしまうと、男を<魔法の縄(ロープ)>で縛り上げる。


「ウソを言ってる感じはしなかったな。でも中に仲間が居ないとは限らない。それじゃパル、お前は扉の傍に移動しててくれ。アイツ等がクーネ達を出そうとしたり、中に声を掛けて仲間がクーネ達を連れて外に出てきたらよろしく頼むよ」

「キュイ!」


 パルは森の中を縫うように素早く移動した。それを見送ってハジメも行動に移す。


「お前っ!」


 森から出てきたハジメを見て、盗賊の3人は素早く立ち上がる。


「攫った人達を返してもらいに来た。素直に返せば痛い目には合わないけどどうする?」

「返せと言われて返す馬鹿がいると思うか? おい! アイツ等連れて来い!」

「お、おう!」


 ケロコグが隣の男に命令する。男は洞穴に向かって走り出すが、目の前に巨大化したパルが立ちはだかる。


「グァアアアア!!」

「ひっ!」


 男は短い悲鳴を上げ、後退る。それを見てハジメはホッと安心する。


(連れて来させようとしたって事は、中に仲間はいないって事だな)

「チッ!」

「さぁ、どうする? と、言ってもアンタ達を逃がす気は無いんだけどね。アンタ達あの家襲った盗賊だろ?」

「あ? だったらなんだってんだ!」

「なんでヴァルさんを殺した?」

「ヴァル? あのジジイか? ガキのおもちゃを大事そうに飾ってたから取ったら掴み掛って来たんだよ。大人しくしてりゃ死ななくて済んだのにな! バカなジジイだぜ」


 そう吐き捨てるとケロコグは仲間の2人に叫ぶ。


「おい、コイツ殺って森に逃げるぞ! お前等はその化け物を見てろ!」

「お、おう!」

「わかった!」

「抵抗するなら多少痛い目に遭ってもらうよ。クーネ達やヴァルさんの件もあるし、結構ムカついてるからな」


 ハジメは左手で大きさ10cm程度の<魔法印(スタンプ)>"フレタラフキトブ"を作ると、右拳にポンと当てた。

 ケロコグは剣を構え、ハジメに襲い掛かる。


「死ねぇっ!」


ガキィン!


 ケロコグの攻撃はハジメの左腕で防がれる。布製の服しか着ていないハジメの腕からありえない金属音がし、ケロコグは何が起きたのか分からずにいた。


「な、何で…何で斬れねぇ!?」

「それは牢屋でじっくり考えるといい。とりあえず…吹っ飛べ!」

「!?」


 ケロコグの鳩尾に右の正拳突きが放たれる。<魔法印(スタンプ)>が付いている拳が触れた瞬間、ケロコグは一直線に吹き飛び、岩山に叩きつけられる。ドシャリと地面に落ちたケロコグはピクピクと痙攣したまま立ち上がることは無かった。


「手加減したし、死んでは無いはず。…他の奴はまだやるか?」


 ハジメがそう言うと残りの男達は武器を捨て両手を上げた。ハジメは盗賊を全員<魔法の縄(ロープ)>で縛り、洞穴の扉を開ける。


「クーネ、サニー、大丈夫か?」

「ハジメ!」

「ハジメ? どこ?」

「遅くなって悪かったな」

「ううん、助けてくれてありがとう」

「ありがとう! ハジメ!」


 縄と袋を外され、クーネとサニーは外に出る。


「コレ、ハジメがやったの?」


 クーネは縛り上げられた4人の盗賊を指差す。


「ああ、ちょっとやり過ぎた奴もいるけど」

「私達を攫ったんだからこれくらい当然よ!」

「ハ、ハハハ…。それじゃまずは王都の衛兵にコイツ等を引き渡そう」

「わかったわ」

「パルに乗れる!?」

「ああ」

「やったぁ!」


 喜ぶサニーを見て笑顔になるハジメとクーネ。

 盗賊達を吊るした状態で王都前まで飛んで行くと、また以前の衛兵達が出迎えた。衛兵達も2度目という事で説教の一つでもしようかと考えていたが、ハジメ達が盗賊を捕まえて来たと説明すると説教どころではなくなった。盗賊達は半年前の事件で賞金が掛かっており、ハジメ達はそれを後日受け取りに来るように言われた。

 その後、再びコクメー村へ行き、盗賊を捕まえた事を説明した。村長はひたすら謝っていたが、今後こういう事は無いように注意をして依頼の報酬と依頼達成の証明書を貰うと、村の外へ出た。


「サニーはこれからどうする?」

「え?」

「あの家は危ないからこの村に移り住むか王都に住むか…」

「う~ん…」


 ハジメとサニーが悩んでいると、クーネが首を傾げる。


「私達と一緒に行きましょうよ」

「「え?」」

「一人じゃ寂しいじゃない。一緒の方が楽しいわよ」

「いや、楽しいってだけで決められ―――」

「サニーも一緒に行く!」


 サニーは満面の笑顔で嬉しそうに同意する。


「仲間は多い方がいいわよ。ね? ハジメ」

「まぁ、そうだけど…」


 パルと一緒にクルクルと踊り出しているサニーを見て、苦笑いをするハジメ。


「ま、いいか。それじゃ家に戻って荷造りしよう」

「うん!」


 焼け焦げた家の地下へ戻り、持って行く物を決める。だが、古く傷んでしまっている物が殆どだったので、サニーのお気に入りの人形だけ持って行き、必要な物は王都で買う事になった。

 そして外に出てパルに乗り込む。ハジメとクーネに続きパルに乗ろうとするサニーは、振り返り焼けた家を見つめる。


「いってきます!」


 元気な声でそう言うと、パルに乗って王都に向かった。





[約50年前のヴァル家]





 ヴァル家の一室、ベッドの上から窓の外を見つめる少女が居た。少女は近くに座って編み物をしている母親に声を掛ける。


「ねぇ、お母さん」

「何? サミ」

「私、いつになったら外で遊べる?」

「う~ん、もうちょっと良くなれば外に出られるかな」

「もうちょっとかぁ」

「だからがんばって病気治さなきゃね」

「うん」


 サミは手にした人形を抱き上げ、ニッコリと笑う。


「早くこの子と外で遊びたいなぁ」


 抱き上げられた人形の胸元の石が陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。

新たな仲間サニーが加わりました。

そして悪党ケロコグ、出番これで終わりです。でも今後名前だけ出る事になるかもしれません。

次回もよろしくお願いします。

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