第35話 核人少女の能力
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2012/9/10 指摘のあった誤字脱字を修正しました。
「核人なら一人でここに住んでる事に納得できる。体を形成したのが最近なんだろうな。それで外に出るようになって、村人が幽霊だと勘違いしたってとこか」
「なるほどね」
上機嫌な少女を見ながら2人は今回の騒動を推理する。
「他にも気になる所はあるけど…」
「気になる所?」
「ああ、なんで日が落ちた時しか遭遇しなかったのか。この焼けた家は何なのか。この家に住んでいた人はどうしたのか。村からそれほど離れてないし、家の事は村で聞けば分かるかもな」
ハジメは思いつく疑問を口にする。クーネは話を聞きながら倉庫を見渡す。
「倉庫の中も調べてみましょうか。何か分かるかもしれない」
「ああ、そうだな」
倉庫にある物を調べ出す2人。飛び跳ねていた少女も何をしているのか気になり、調べている様子を興味深げに見つめている。
「ハジメ」
クーネがハジメを呼ぶ。呼ぶと言っても狭い倉庫の中、すぐ後ろにいるハジメは振り返りクーネを見る。
「これ」
クーネが手にしていた物は1冊の本。クーネが見ていた場所には小さな子供が遊ぶ玩具や、絵本などが置いてあった。クーネは手にした本を開き、中を確かめる。
「日記、みたい。……50年近く前だわ」
日記からここに住んでいたのは3人の家族だと分かった。日記を書いたのは夫の様で、主に娘の事が書かれている。
「娘のサミちゃん、生まれた時から病弱だったみたい。………10歳で亡くなってる」
日記には不治の病にかかったサミの為、自然に囲まれたこの家に引っ越して来た事、3人で幸せに暮らした事、弱っていく娘をどうにかしてやりたいという両親の苦悩、そしてサミが亡くなった事が書かれていた。
「…サミちゃんの病気。治せなかったのかな」
「両親は必死に治す方法探したんだろうな」
暗くなる2人を見て、何があったのかと不安になる少女。少女のそんな顔を見て笑顔に戻るクーネ。
「さっきの人形もこのサミちゃんの物って事ね」
「ああ、そうだろうな。サミって子が亡くなって保持していた魔力が空気中に拡散、それを近くにいたこの子が吸ったって所か」
人は誰でも少なからず魔力を持っている。保持する量とそれを使いこなせるかで、魔法を使える人と使えない人に別れる。そして死ぬ瞬間保持していた魔力は器を無くし、拡散する。
「ここで分かるのはそれくらいか。あとは朝を待って焼跡を調べるかな。何か残ってるかもしれない」
「そうね」
クーネは日記を元に戻し、隣に置いてある絵本を手に取ると少女に話しかける。
「ねぇ、本は読める?」
「ほん?」
「うん、これの事」
クーネは手に取った絵本を見せる。
「ううん、よめないよ」
「そっか、じゃあ読んであげよっか」
「うん!」
クーネは2人程腰掛けられる木箱に腰掛け、隣に少女を座らせる。そして本を見せながら読み聞かせる。ハジメは階段に腰を下ろし、微笑ましい光景に顔を緩めるが、ある疑問が浮かんでいた。
(名前や本の意味すら知らない。体を形成したのは最近でも自我が目覚めたのはずっと前のはず。住んでいた人達の会話を聞いていればもっと物事を知っていてもいいはずだが…)
少女についても疑問がいくつか残っている。自我が目覚めたのはいつなのか、体を形成する魔力をどうやって貯めたのか。「その手がかりも焼跡から見つかれば」そう考えつつ、ハジメはクーネ達を見つめていた。
それから数時間、倉庫にあった絵本もほとんど読んでしまった頃、クーネは大きな欠伸をする。
「もう深夜になってるだろ。寝ておいたらどうだ? 横になる程広くないけど」
「ハジメは?」
「オレは眠くなったらこのまま寝るさ。この子は…眠くならないか」
少女を見るが、まったく眠そうな様子はない。核人は睡眠を必要としない。それは故郷で一緒に居たラウ、クロ、そして今も一緒にいるパルがそうだったので知っていた。もしかしたら例外があるのかもしれないと思ったが、少女を見る限りやはり必要ではなさそうだった。
「オレも寝ちゃったら退屈しそうだな。パル、相手してやってくれるか?」
「キュィイイ」
ハジメがパルに話しかけると、少女もパルに興味を持ったのかこちらにやって来る。
「パル?」
「ああ、こいつの名前はパル。仲良くしてやってくれな」
「キュィイ!」
「きゅいい?」
少女は面白そうにパルの真似のする。ハジメはパルを少女に抱かせると大事そうに抱きしめた。
「パル! いっしょにほんよもう」
「キュイ!」
絵本の置いてある場所に座り込み、本を広げ読みだす。少女が読み間違えると、パルが首を横に振りながら鳴いていた。パルはずっとハジメの傍にいたので、言葉を理解したり、難しい単語でなければ文字を理解できる。ただ、喋る事が出来ないので少女に正しい読み方を教える事が出来ない。だが、核人同士だからか、意思の疎通は出来ているらしい。
「パルの方がお姉さんみたいだな」
最初パルが生まれた時は性別がわからなかったが、以前に本人に聞いたところどうやらメスらしい。
ラウ曰く、どんな核人も自我が目覚めた時に男女どちらかになるらしく、生物の体を形成する場合はその自我の性別による所が大きい。余談だが、人型の場合服も体の一部なので核人は服を脱ぐという事は無い。動くフィギュアと考えた方がいいかもしれない。いい例えかは怪しいが……。
少女とパルが楽しそうに本を読んでいる姿を見ながらハジメもウトウトと眠りについた。
「ハジメ、起きて」
「ん?」
クーネに肩を叩かれ、ハジメは目を覚ます。座って寝ていたせいで体が所々痛む。大きく伸びをすると、扉から光が差し込んでいるのが分かった。
「お、もう日が出てるのか」
「ええ、一度外に出てみましょう」
「ああ、そうだな。で、あの子達は?」
ハジメがそう聞くと、クーネが後ろを指差す。少女達は絵本をまだ読んでいた。
「……一晩中読んでたのか?」
「どうもそうみたい。置いてある絵本をひたすら読んでたみたいよ。それよりすごいのが…」
「あ! ハジメおはよう!」
「キュィイ!」
「ああ、おはよう。ずっと絵本読んでたのか?」
「うん! 絵本面白かったよ!」
「そうか…ん?」
少女の話し方に違和感を覚えるハジメ。
「もっと幼い感じじゃなかったっけ?」
「でしょ?」
クーネが相槌をうつ。
「どうも絵本の言葉を全部覚えちゃってるみたい。起きたら全部読めてるんだもん、びっくりしちゃったわ」
「一晩でか…。すごいな」
「あれくらいの子は物覚えの吸収力凄いって言うし。それとパルの教え方がよかったのかしら」
2人がパルを見るとドヤッと言う顔をしている。
「そう言う事らしい」
「ふふ。それじゃ、外に出ましょう」
パルを肩に乗せ、ハジメとクーネが外に出ようとすると、少女が慌てて止めようとする。
「ダメ!」
「どうした?」
「お外、危ないよ!」
「あぶない?」
「うん、お日様出てる時にお外に出ると、前がぶわぁってなってぼわぁってなるの!」
「「???」」
ジェスチャーを付けて説明をしてくれるが、何を言っているのかさっぱり分からないハジメ達。
「ん~、何か心配事があるみたいだけど大丈夫だよ。森の中は確かに危ないけど、オレ達が居るから」
「そうよ。私達が安全か確認してきてあげるからね」
クーネは少女の頭を優しく撫でる。
「うん…」
少女が納得したのを確認してハジメ達は外に出る。一応外を警戒しながら開けたが、特に問題は無さそうだった。
「何も…無さそうだな」
「そうみたいね」
周りを確認して、倉庫に居る少女に声を掛ける。
「ほら、大丈夫だから出ておいで」
「ホント?」
「うん、危ないものは無いよ」
クーネに言われ、少女は恐る恐る階段を上る。そして扉を潜り、日の下に出た時に異変が起きた。少女の体が日に当たった途端、彼女の髪だけ重力が軽くなった様にふわりと浮き始めた。そして光を浴びた髪はキラキラと光り、それに合わせて体も、体の中を光が駆け巡るように光り出す。そして黒かった瞳が中心からオレンジ、そしてに白色になっていく。瞳全体が白くなった瞬間、目から光が照射された。光は一直線に少女の目の前にある墨となった柱に当たる。そして一瞬にして燃え出した。
「なっ!」
「えっ、何?」
「え?」
少女はハジメの方を向く。目から光線が出た状態なので、光線も軌道上にある物を焼きながらハジメの顔へ向かってくる。
「うおっ!」
ハジメは咄嗟にしゃがみ回避する。ハジメの後ろにあった壁に穴が開いていた。
「ハジメっ!」
「え?」
少女はクーネの声に反応し、ハジメの横に居たクーネの方を向く。光線がクーネの顔に迫っていた。
「くっ!」
ハジメは腕を全力の<魔力塗装>で固めるとクーネの顔の前に伸ばす。ギリギリ間に合ったが、光線はハジメの手を焼き付ける。<魔力塗装>された手から煙が上がり、革の焼ける匂いが辺りに広がる。そして手にも直接熱が伝わり、熱さと痛みが伝わってくる。
「ぐぅっ! …早く倉庫に戻るんだ!」
少女にそう叫ぶと、少女は慌てて目を瞑り、倉庫に駆け込んでいった。光線が無くなった事を確認して腕を下ろす。
「ハジメ!」
クーネが腕を見ると革の手袋には穴が開き、掌と手首のあたりに熱した鉄の棒の先端を押し付けた様に酷い火傷を負っていた。
「…痛ってぇ。い、今までこんな怪我した事無いぞ」
脂汗をにじませながら苦笑いをするハジメ。
「すぐ治すから! 手を出して!」
クーネは杖の先を火傷の部分にかざし、魔力を送る。杖が輝き、火傷はジワジワと治って行く。跡が少し残るものの、痛みは無くなりホッと息を付くハジメ。
「フゥ…ありがとうクーネ」
「ううん、こちらこそありがとう。…でもあれはいったい何なの?」
「たぶん、あれが彼女の能力なんだろうな。昼間に外に出ない理由はこれか…」
光線が当たっていた柱や壁はまだ火が燻り、モクモクと煙が上がっている。
「もしかして、この家が燃えた原因って…」
「…かもしれないな」
ハジメは自分の手を見ながら苦笑する。
「まさか全力で<魔力塗装>しても防ぎ切れないなんてな。あのまま当たってたら手に穴空いてたか…」
「とりあえず倉庫に戻りましょう。あの子不安がってるわ」
「ああ、そうだな」
倉庫に戻ると、少女が泣きそうな顔をしてこちらを見ていた。ハジメ達は安心させるように笑顔で歩み寄る。
「あ、あの、ごめんなさい」
謝る少女の頭をポンポンに触れ、ハジメは明るく応える。
「謝らなくていいさ。オレ達もちゃんと話を聞かずに外に出るように言ったんだしな」
「あの光が出てる時って、周りは見えてるの?」
「うん、少し白くなるけど見えるよ」
「まぁ、自分の目から光線出てるとは思わないよな」
少女からすれば突然目の前が白くなり、物が燃え出すのだから訳が分からないだろう。ハジメは少女が自分の能力を理解してないと考える。
「さっきので分かった事はこの子の能力は虫眼鏡みたいな感じって事かな」
「虫眼鏡って、あの虫眼鏡?」
「ああ、日の光を集中させると物が燃えたりするだろ? あれの強化版みたいな感じだな。どういう理屈で強化されてるかは分からないけど」
ハジメは少女の体、特に髪の毛が光を吸収し、体の中で増幅させて目から照射されると考えた。
「光を吸収する事か、体の中で増幅する事を操作出来れば…日に当たっても光線が出ない様になるかもしれないな」
「そうすればこの子も外に出られる?」
「断言はできないけど、やってみる価値はあるだろ。この子の感覚のみが頼りだけどな」
核人の能力の操作をハジメ達が知っている訳も無く、手探りでやっていくしかなかった。
まず試しにハジメはマントを広げ日陰を作る。少女がそこに入ると髪や体が光るものの、光線の強さは弱まっていて、すぐに燃える程ではなくなった。長く当たれば火傷をしそうなので、視線に気を付けるように少女には言っておく。日陰なら怪我をする事もなさそうだという事で、木陰の方へ行き、そこでコントロールの練習をする事にした。
「さて、まずは…」
「ねぇ、ハジメ」
「ん?」
練習を始めようとした矢先、クーネに止められる。
「まずはこの子の名前決めてあげましょうよ。いつまでもあなたとかじゃかわいそう」
「名前!?」
少女は嬉しそうに2人を見つめている。キラキラした目(実際に若干光っている)で見つめられると期待に応えざるを得ないとハジメも考える。
「名前ねぇ…」
「何がいいかしら」
2人は真剣に悩む。少女は待ち遠しいのかちょっと前のめりで揺れている。ハジメはふと木を見上げる。生い茂った葉の隙間から太陽の光が差し込んでいる。
「太陽…サニーってのはどうかな?」
「サニー?」
「たしか日が当たるとか明るいとかそんな意味だった気がする」
「へぇ…。いいんじゃない? あなたはどう?」
クーネが少女に聞くと、少女は何度か名前を口にして、嬉しそうに頷く。
「うん、サニーがいい!」
「じゃあ、今日からあなたの名前はサニーね」
「よろしくなサニー」
「キュィイ!」
「よろしくハジメ! クーネ! パル!」
挨拶を交わし、改めて練習を始める。
「サニー、今光を吸収してると思うけど、実感あるか?」
「実感?」
「体の中に光が入ってる感じはするか?」
「う~ん、光がキラキラしてる感じ」
「それが目に集まってる感じは?」
「……うん、そんな感じがする」
「目に集まって行かないイメージって出来るかな?」
核人の感覚が分からないので、とりあえずハジメは自分が魔力を操作する感覚でやれないか試すことにした。大事なのは頭でのイメージ。核人もそういう感覚で能力を操作しているように思えたからだった。
「む~……」
眉間にしわを寄せて唸るサニー。すると目から出る光が徐々に少なくなっていった。
「おっ」
「やった!」
ハジメとクーネが喜ぶのも束の間、サニーの体全体がさらに光り出していく。
「……そう来るか」
「そう来るのね」
サニーの中の光は逃げ場を失って、体中を照らし始めていた。増幅する事を抑える事もやってみたが、うまくいかなかった。
「一度体の中に入った光はどうにもできないか…。やはり入ってくる事を止める線で行くか」
サニーは不安そうにハジメを見つめている。
「なに、まだ始まったばかりだ。試行錯誤してみなきゃ成功なんて夢のまた夢だぞ」
「しこうさくご?」
「どうやったらうまくいくか色々試す事よ」
「うん、わかった。しこうさくごする!」
「よし! それじゃ髪の毛から入る光を止める方向で考えよう。サニー、髪の毛から光が入ってくる感じはするか?」
「うん、いっぱいする」
「それを入ってこないようにできるか?」
「う~~ん…」
また難しい顔をして前髪を見つめるサニー。しばらくするとふわりと浮いていた髪がゆっくり降りて、光も弱くなっていく。それに合わせて体も目も光が収まって行く。目の色も黒に戻って行った。
「おお! いいんじゃないか」
「やったわね!」
「できた?」
「ああ、後はその感覚を覚えて、普段からそれを維持すればいい」
「いじ?」
「ずっとそのままでいられるようにする事」
「そうすれば外に出ても平気になるわよ」
「ホント!? やった!」
サニーは嬉しそうに飛び跳ねるが気が緩み次第に髪が光を集め出す。それに気づいてまた座り込み難しい顔をして治める。その様子をハジメ達は笑顔で見つめていた。そしてずっと遠くからその様子を見つめる者がいたが、ハジメ達が気付く事はなかった。
サニーの学習能力は高く、数時間もするとだいぶコントロール出来る様になっていた。日向でもちょっと体が光る程度で済むようになり、周りを燃やす事なく自由に歩き回れている。もっと慣れれば完璧にコントロール出来るだろうとハジメは思った。
「さて、サニーは大丈夫そうだし家の探索でもするか」
「そうね。あ!」
クーネが何か思い出したように声を上げる。
「ん? どうした?」
「村長さんに報告しておいた方がいいんじゃない?」
「あ、そうだな。幽霊じゃなかったわけだしな。それじゃパルに乗ってパパッと行ってくるよ。もしかしたらこの家の事知ってるかもしれないし」
「それじゃ私はサニーとここで何かないか探してるね」
「ああ、分かった。すぐ戻るよ」
「うん」
ハジメはパルに乗ってコクメー村へと飛んで行った。その際に巨大化したパルを見て「すごいすごい!」とサニーが大はしゃぎしていたので後で載せてあげると約束し、サニーは上機嫌になった。
「それじゃサニー、何かこの家の事が分かる手掛かりが無いか手分けして探しましょう」
「うん!」
サニーと分かれ、焼跡を探索するクーネ。入念に探し回っていると、瓦礫の中から本を見つけた。表紙や端の方は燃えてしまっていて中を広げるが、どのページも全体を読む事は出来なかった。だがその一部から本の内容は分かる。
「これ…これも日記の様ね。…サミちゃんが亡くなった後の日記だわ」
そこには娘のサミが亡くなった後の夫婦の事が書かれていた。塞ぎこんでしまった妻を励ます日々、やっと元気を取り戻した妻と暮らした日々、そして歳を取り妻が亡くなった事などが書かれている。
「奥さんも数年前に亡くなっていたのね。旦那さんはどうなったのかしら…」
ページを進めるが、途中から白紙になっていた。そして裏表紙を見る。表紙の様に焦げているように見えていたが、違う事に気付く。
「これ…血?」
ガタッ
クーネが裏表紙を凝視していると離れた所で物音がした。
「サニー?」
「~~~~~~!」
本を片手に音のする方へ向かう。焼け残った壁の先に足以外を布袋に包まれたサニーが倒れている。袋の口を締められており、足をバタバタとさせていた。
「サニー!」
慌てて駆け寄り、袋の紐を解こうとした瞬間後ろから掴み掛られ、頭に布袋を被せられた。
少し時間を遡り、クーネと別れたハジメはすぐにコクメー村に到着した。村人と挨拶を交わし、村長の家へ向かう。
「おお、冒険者さん」
「どうも、依頼の報告に来ました」
「おお、そうですかそうですか。では中へどうぞ」
「失礼します」
初めて来た時の様に席へ付き、話を始める。
「で、どうでした? 見つかりましたかな?」
「はい、でも幽霊じゃありませんでした」
「なんと、では…」
「核人の女の子でした」
「核人ですか」
「はい、森の先に家の焼跡があったんですが、そこに住んでいたようです」
「なんですと!」
村長の顔が困惑する。
「あの家は何ですか? 倉庫の中にあった日記から家族が暮らしていたようですが」
「あ~…それはですのう…」
村長は何か気まずそうに眼を泳がせる。だが、観念したのかいきなり頭を下げた。
「申し訳ありません。実は隠し事をしておりました」
「隠し事ですか?」
「実は村の者が少女の幽霊と言った時、ワシはあの家で50年ほど前に亡くなった少女かと思いました」
「…知ってたんですか」
「ワシが若い頃、あの家族とも面識がありまして。少女が亡くなった時は村の者もそれは悲しんだ。娘が亡くなったせいで母親は塞ぎ込んでしまって、夫のヴァルさんと一緒に励ましたもんじゃった。だんだんと元気を取り戻して、それから数十年穏やかに夫婦で暮らしておってですな。奥さんが先立たれ、ヴァルさんは一人になってしもうた。ワシらは何度もヴァルさんに村に来るよう説得したんじゃが、家族で暮らしたあの家を離れたくないと言ってのう…。そして半年ほど前、事件が起きたんじゃ」
「事件ですか?」
「はい、ある夜、森の方で火の手が上がっているのを村の者が見つけましてな。男衆で急いでヴァルさんの所に行ったのですじゃ。だが男衆が行った時は家は炎に包まれ、焼け跡からヴァルさんの遺体が見つかりました。初めは火の不始末が火事の原因かと思ったんじゃが、王国から調べに来た兵の話では盗賊の仕業ではないかと」
「盗賊ですか」
「はい、森での火事にわざわざ王都から調査に来たので話を聞いたところ、王都の北を中心に荒らし回っている盗賊がいるという事でした。火の発生場所が複数あるようでして、おそらく盗賊に襲われ、その後家を燃やされたのだろうと。それを悲しんで娘の霊が現れたのだと思っておりました」
「なんで最初に教えてくれなかったんですか?」
「本当に申し訳ありません。幽霊に思い当たる節があると言えば断られるかもしれないと。それに…」
「それに?」
「実はその盗賊、まだ捕まっておりません。森に出たという話は聞いてませんが、もしかしたらまだ王都の北に住みついているかもしれません。あわよくば盗賊を捕まえてくれればと…」
つまり先に盗賊の事を言ってしまえばそれも依頼になり、料金が発生してしまう。幽霊探しで"偶然"盗賊と出くわし退治してもらえれば村としては大助かりという訳だった。話を聞いたハジメは少し呆れていた。
(せ、せこいというか狡猾と言うか…。村としては出費は出来るだけ減らしたいわけだし仕方がないのか)
「……ん?」
ハジメは一つ疑問が浮かぶ。
「盗賊はまだ捕まってないんですよね?」
「はい、しばらくなりを潜めていたようですが、最近は王都も討伐に兵を割けなくなった様でして。また出るのではないかと…」
それを聞いて物凄く嫌な胸騒ぎを覚える。
(サニーの光線で煙が上がったはずだ。それを盗賊が見ていたら…)
「すみません、この辺で失礼します」
「え?」
ハジメはすぐに立ち上がり玄関へ向かう。村長はキョトンとしたままその場で見送った。
村長の家を出て、駆け足で村の外へ出る。出るとすぐにパルに巨大化してもらい飛び乗る。
「パル、大急ぎで戻ってくれ! 何か嫌な予感がする!」
「グァルル!!」
ハジメの乗せたパルは猛スピードで森へ向かって行った。
盆休みということでちょっとだらけてました。すみません。
サニーの話は次回で一区切りになるかなと思われます。盗賊というフリもあり、予想を立てるまでもないですが、次回はアクションがあるかなと。
次回もよろしくお願いします。