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ジュエル!  作者: asobito
マシュメ王国編
40/67

第34話 北の森の幽霊

ユニーク20万アクセス、お気に入り登録6300件突破しました。本当にありがとうございます。


2012/8/6 指摘のあった誤字を修正しました。

2012/8/19 岩熊退治以降のハジメ達の行動が説明不足だったので補足しました。ストーリーに変化はありません。

2012/12/12 指摘のあった誤字を修正しました。

 新たな岩熊の毛皮が飾られた〔岩熊のねぐら〕は宿泊客も食事のみの客も増え、連日ハクマー達は嬉しい悲鳴を上げている。

 狩った本人であるハジメは、商業地区を中心にちょっとした有名人になっていた。噂を聞きつけた冒険者や、街の住民などがやって来るので、顔見知りも何人か出来き、"黒の兄ちゃん"や"白黒の黒い方"、"岩熊殺し"など様々な呼び方をされている。クーネは教団の支部に自分の存在が気付かれないかと内心ヒヤヒヤしていたが、噂は貴族区の方までは広まってはいない様だった。

 岩熊退治という派手なデビューをしたハジメ達だったが、その後は仲良くなった冒険者から「街での雑用も商人なんかと顔見知りになるチャンス」や「王都近辺の安全な狩場はココだ!」など様々なアドバイスを受け、街での雑用依頼や、王都近辺での狩りなどの依頼を受けていた。その間に薬草収集のリベンジも無事達成していた。

 そして王都に来てから7日程経った日の昼、食堂で食事をするハジメ達の元へゲンマーがやって来る。


「ちょいとよろしいですかな?」


 ゲンマーに声を掛けられ、ハジメ達は食事の手を止める。


「どうしました? ゲンマーさん」

「実はお二人に折り入ってお願いしたい事がありましてな」

「オレ達に出来る事なら何でも言ってください」


 ゲンマーが申し訳なさそうな顔をするので2人は笑顔を見せる。


「実は王都の東にコクメー村というのがあるんじゃが、そこの村長とは昔からの知り合いでしてな。その村からの依頼を受けてほしいのですじゃ」

「依頼、ですか?」

「依頼と言っても、大した依頼では無いんですじゃ…いや、大した依頼では無いから受けてくれる冒険者がいないと言った方がいいか…」


 どうにも歯切れの悪いゲンマーを見て、不思議に思う2人。ハジメは詳細を聞く事にした。


「どんな依頼なんですか?」

「それが…コクメー村の北にある森に出るという幽霊の正体を突き止めてほしい。と、いう依頼でしてな」

「幽霊……ですか」

「ゆ、幽霊……」


 クーネの顔が少し引き攣るのを見たハジメだったが、そのままゲンマーの話を聞く。


「詳しい事はコクメー村に行ってもらえれば村長が説明してくれるはずじゃが、どうですかの?」

「オレは全然問題無いですよ。クーネは?」

「え? ぜ、全然問題無いわよ。幽霊なんているわけないでしょ!」


 ちょっと怒り出すクーネに首を傾げつつ、ゲンマーの頼みを快諾する。ゲンマーもホッとした表情になる。


「いやはや、助かりました。ギルドに行けば掲示板の1つ星の所に貼ってますでの」


 ゲンマーは深々と頭を下げると受付の奥に戻って行った。


「クーネ」

「何?」

「もしかして幽霊とか苦手?」

「に、苦手じゃないわよ! っていうかそんなものいるわけないじゃない! 私が正体見破ってやるわ!」


 そう言うとクーネは席を立ち、外に出て行く。その様子に苦笑するハジメも後を追って宿を出た。





 ギルドに行き、掲示板を探すと、端の方にゲンマーの言っていた依頼が張ってあった。依頼書を取り窓口を見ると、あいにくパラミノはいなかった。仕方なく他の職員のいる窓口で手続きを済ませ、ギルドを出る。


「さて、それじゃ宿に戻って準備したら、コクメー村に行こうか」

「日帰りって訳にはいかないから、ちゃんと準備しないとね」


 宿に戻り、ゲンマーに依頼を受けた事を伝え、しばらく留守になる事を伝える。そして部屋で荷物を纏め、受付まで戻ってくると、ゲンマーが何やら荷物を持って待っていた。


「ハジメ殿、これを持って行って下され」

「なんですか?」

「弁当ですじゃ。道中にでも食べて下され」

「お、助かります」


 ハジメはお礼をして2人分の弁当を受け取ると、鞄に入れた。ゲンマーと話をしていると、クーネが来たので弁当の説明をした後、ゲンマーとハクマーに挨拶して、東門へと向かう。


「ゲンマーさんの話じゃ、半日も掛からないらしいよ」

「結構近い村なのね」

「パルに乗って行けば夕方前には着くかな。村長に話を聞いて、夜には森に行けるだろ」

「キュィイ!」

「はぁ…今晩からなのね」

「ん? どうかしたか?」

「何でもない」


 王都から離れた所でパルに乗り、コクメー村を目指す。

 街道沿いに東へ飛んでいくと、街道から少し離れた所に小さな村が見えた。間近で降りて村人を驚かせない為、少し離れた所で降り、街道から村へと続く道を歩いて村に入る。話に聞いていた通り小さな村で、数軒の家と小屋、村の周りには柵で仕切られた畑が広がっていた。


「おや、アンタら、こんなとこに何の用だ?」


 村に入ると、村人らしき男が声を掛けてきた。


「依頼を受けてきた冒険者ですが、村長はいらっしゃいますか?」

「おお! あの依頼を受けてくれた人たちか。村長はあの家にいるよ」


 男は中央にある井戸の先にある家を指差す。


「ありがとうございます」


 2人はお辞儀をして村長の家へ歩いて行く。村長の家の扉をノックすると、中からは白髪の老人が現れる。歳はゲンマーと同じくらいで、杖を突いた小柄な老人だった。


「おや、何か御用ですかな?」

「ゲンマーさんから依頼を受けて来たのですが」

「おお、依頼を受けて下さった冒険者でしたか。ささ、どうぞ入って下され」


 クシャっとシワの寄った笑みを浮かべ、ハジメ達を家に招き入れる。2人は「お邪魔します」と家に入って行った。


「大したもてなしはできませんが…」

「いえ、お構いなく」


 出された飲み物にお礼をして、ハジメは村長に依頼の話を聞く。


「それで、北の森の幽霊って事なんですけど」

「はい、北の森は村から近いという事もあり、昔から山菜や薪を取りによく行ってたのですが。ここ10日程ですかな。日が暮れた頃、村に帰って来る途中に見かけたとか、白い人影が薄暗い森の中を歩いていたとか、森の中から笑い声が聞こえたとか…。村の者もすっかり怖がってしまって」

「なるほど…。その幽霊の具体的な特徴ってありますか?」

「しっかりと見た者はいないのですが、どうも子供の様ですな。分かっている事はそれぐらいでして…」

「子供ですか…。とにかく、一度森へ行ってみないと分からないですね」

「おお、行ってくれますか」

「日も暮れてくるだろうし、これから森に行ってみます。いいよな? クーネ」

「え? ええ」

「ありがとうございます。必要な物があれば何でも言って下され。あと危険な生き物や盗賊がいるかもしれません。そちらも十分注意を」

「わかりました」

「ありがとうございます」


 現状特に必要な物は無かったので、ハジメ達は村長の家を出ると、そのまま村を出て北の森へ向かう。森は村から1km程しかなかったので、すぐに森に着いた。森の規模はそれほど大きくは無く、故郷の広大な森を知っているハジメにとっては林と言ってもいい程だった。目的地があるわけでもなかったので、とりあえず真っ直ぐ森に入っていくハジメ。クーネもその後を付いて行く。


「動物が襲って来たりしないかしら?」

「木がそんなに密集してないから来たら直ぐ分かるよ。村の人達も頻繁に来てるみたいだし、たぶん心配無いだろうけど」


 ハジメはそう言いながら辺りを警戒しつつ歩いて行く。そして進んだ先で、少し開けた場所に出た。


「よし、今日はここで夜を待ってみるか」

「ここで泊まるの?」

「当てもなく歩き回るのは疲れるだろ? とりあえずここで様子見だな」


 周りをキョロキョロ見るクーネを余所に、ハジメは地面に<魔法印(スタンプ)>を押す。魔法陣には"オンデモエル"と書かれている。その様子を見つけたクーネは、ハジメに聞く。


「それは何? 魔法陣?」

「ああ、魔人魔法で<魔法印(スタンプ)>って言うんだ。作ったのはオレだけど、こんな感じで使う」


 ハジメは魔法陣に向かって指を鳴らし、「オン」と言う。すると魔法陣の上に炎が出る。ハジメは故郷での特訓の中で魔人魔法の改良をしていた。<魔法印(スタンプ)>は発動条件を相手が触れる以外に、スイッチ式にも出来るようになっていて、指を鳴らさず声を出さなくても「オン」と念じれば発動できる。ただし魔法陣を目視出来ないと発動しない。


「こんな事も出来るんだ。…この魔法陣精霊文字じゃないのね。見た事無い文字だわ」

「あ~…。オレが自分で作った暗号みたいな感じかな。精霊文字で書くと、どんな効果があるか敵なんかにバレちゃうからな」


 前世の世界の言葉とは言えなかったので、別の理由を言うハジメ。クーネも「なるほど」と納得する。

 その後、日も沈みあたりは暗くなっていく。火を囲い、2人はゲンマーから貰っていた弁当を食べ始める。弁当の中身はパンと干し肉、チーズ、数種類の野菜の入ったサラダだった。


「さて、幽霊は出てくるかな」


 パンを頬張りながらハジメが言う。クーネはゲンナリしながらハジメに質問をする。


「ハジメって幽霊とか平気なの?」

「平気というか、見た事無いからなぁ。そう言う話はいくつか知ってるけど…」


 ハジメは前世で聞いた事のある怪談や都市伝説を思い出す。それほどそう言う話に関心があったわけでは無いので、有名な話をザックリと覚えているだけだったが。


「た、例えば?」

「う~~ん。皿屋敷とか口裂け女とか…」

「く、口裂け…」

「…クーネって本当は苦手だろ? そういうの」

「な! 何言ってるのよ全然平気よ! なんなら知ってる話順番に……」


 そこでクーネの動きがピタリと止まる。向かい合うハジメの後ろに立つ木の陰から一人の少女が顔を覗かせていた。木に隠れて顔しか見えないが10歳に満たない子供の様だった。髪も顔も白く、背景が暗いせいかぼんやりと光っているように見える。少女は興味深そうにこちらを見つめていた。


「ハ、ハジメ……うううしろ」


 クーネはゆっくりハジメの後ろを指差す。


「ん?」


 ハジメが振り返ると少女は慌てて木に隠れる。だが、タイミングが遅く、ハジメは見逃さなかった。そのままジッと見ていると木の陰から少女がゆっくり顔を出す。だが、ハジメがまだ見ている事に気付き、すぐに隠れる。


「…なんだあれ」


 少女に困惑するハジメ。その様子を見ていたクーネも、どうも様子がおかしい事に気付き、落ち着きを取り戻す。


「幽霊…っぽくなさそうだけど」

「う~ん。とりあえず声を掛けてみるか。お~い」


 ハジメが声を掛けると、少女がヒョコッと顔を出す。


「こんばんは」

「!」


 話し掛けられビクリとするが、少女はこちらを見たまま隠れようとはしなかった。


「こんばんは」


 少女は可愛らしい声でハジメの挨拶に応える。その声を聴いたクーネも微笑みながら手招きをする。


「こんばんは。こっちに来ない?」


 少女はゆっくり木の陰から出てくる。腰のあたりまである白い髪、瞳は黒だが、肌も着ているワンピースも真っ白の裸足の少女は、ゆっくりこちらに歩いてくる。怖がっているのかと思ったが、顔は何かワクワクしている様子だった。


「あなたお名前は?」

「おなまえ?」

「うん、私はクーネ。こっちはハジメっていうの」

「クーネ。ハジメ」


 少女は2人を交互に見ながら名前を復唱する。そして何か考え、答えを出す。


「おなまえない」

「え?」

「おなまえないよ」


 少女は残念そうにそう呟く。


「名前が無いってどういうことだ?」

「う~ん…。あなたお家はどこ? この近く?」

「おうちあるよ! こっち!」


 そう言うと少女は走って行く。


「ちょ、ちょっと!」

「…元気な幽霊だな」


 ハジメ達は慌てて魔法陣を消し、荷物を纏め後を追う。真っ暗な森の中は見え難かったが、ハジメが手に炎を作り、照らしていたので、何とか見失わずに済んだ。

 元気に走って行く少女に追いつくと、開けた場所に出る。先程の場所より広く、中央には焼け崩れた家があった。全焼しており、壁が一面だけ残っている以外他はすべて真っ黒に焼け焦げ、崩れ落ちている。


「家ってこれか?」

「うん! こっち!」


 嬉しそうに焼け跡の中に入って行く。ハジメ達も付いて行くと、地下へ続く扉があった。少女はそこを開けて中に入る。ハジメ達も中に入ると、そこは物置だった。5平方m程の小さな部屋に古い様々な日用品が置かれ、大人1人が寝るのも無理があった。


「これが家ってどういう事かしら」

「両親はいないみたいだな。なぁ、ずっとここに住んでるのか?」

「ずっとまえからここにいるよ。さいしょはずっとここにいたの」


 少女は嬉しそうに部屋の片隅から30cm程の大きさの人形を取り出し、ハジメ達に見せる。少女そっくりな姿をした人形の胸元には窪みがあった。


「ここって、この窪み?」

「くぼみ?」

「この凹んでいる所」


 クーネは窪みを指差す。


「うん! ここにいたの!」


 少女は満面の笑顔で応える。どういう事かサッパリ分からず、困り果てるクーネ。ハジメはしばらく考え込むと、少女の顔の前に指を出し、その指の先にパルに与えるように魔力の塊を出す。その塊を見た少女はじぃーっとその塊を見つめ、次の瞬間パクリと食いついた。


「え!?」

「あ~…」


 驚くクーネと「やっぱり」と言った表情をするハジメ。


「ん~~~!」


 少女は両手で頬を抑えて、狭い部屋の中を飛び跳ねている。


「やっぱりだ」

「どういう事?」

「彼女、核人だよ」


 唖然とするクーネを尻目に、少女は全身で嬉しさを表現していた。

そんなわけで幽霊の正体は核人の女の子でした。

次の投稿は盆休み(12日~)になると思われます。

次回もよろしくお願いします。

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