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ジュエル!  作者: asobito
マシュメ王国編
39/67

第33話 琥珀色の首飾り

総アクセス230万、PV16万、お気に入り登録5700件を突破してました。ありがとうございます。今後もよろしくおねがいします。


2012/07/29 指摘のあった誤字を修正しました。

 ハーン達と別れ王都マシュメに戻る途中、後ろに乗っていたクーネがハジメに話し掛ける。


「パルって巨大化して大丈夫なの? 制限があるって言ってたけど」

「ああ、オレが触れてる間は、ずっと魔力送ってるから大丈夫なんだ」

「グァルル!」

「ずっとって……。魔力切れにならないの?」

「ん? ん~、今までなった事無いな」


 過去の記憶を遡りながら首を傾げるハジメに、呆れ気味な視線を送るクーネ。

 突然、ハジメはパルに着地するように指示を出した。


「どうしたの?」

「しまった……アレ」

「あ~……そうなるわね」


 低い城壁に囲まれた下級住民地区に住む一部の人々が、こちらに気付き騒ぎ出していた。見た事も無い生き物が王都目掛けて飛んで来れば、住民や衛兵は大騒ぎになるのは当然なのだが、ハジメ達は失念していた。


「はぁ…手間だけど、正門に居る衛兵に許可取ってくるよ」


 クーネとパルをその場に残し、ハジメは正門に向かって歩いて行く。そんなハジメを警戒するように衛兵も集まって来ていた。先頭に立つ隊長らしき男が口を開く。


「止まれ! 何の用だ!」

「冒険者ですが、依頼の途中で岩熊と出くわしまして。退治して岩熊を持ち帰ってきた所です」


 ハジメは出来るだけ刺激しないように丁寧に答える。


「何!? 岩熊を?」

「はい、街で台車を借りたいので、しばらく岩熊を正門の近くに置かせてもらえないでしょうか?」

「……先程の生き物はなんだ?」

「あれは核人です。危害を加える事は絶対に無いです」

「ふむ…」


 少し考えた後、男は口を開く。


「悪いが、その核人でここまで運んで来る事は許可できない。住民達の混乱を招くからな。台車はこちらで用意しよう」


 男は他の衛兵に指示を出し、台車を持って来させる。


「それで、岩熊をどこに持っていくんだ? 依頼とは無関係ならギルドに持っていけないだろう?」

「とりあえず、〔岩熊のねぐら〕に持っていこうかと。解体してくれる店を紹介してもらいます」

「なんだ、ゲンマー爺さんの所の客か」


 〔岩熊のねぐら〕の名を聞いた途端、衛兵達の警戒心が緩まった。一様に「なぁんだ」といった顔をしている。


「ゲンマーさんを知ってるんですか?」

「この街で育った男共は、大概ゲンマー爺さんに怒鳴られて育ったクチだからな」

「そうなんですか」


 面倒事になると思ったハジメもホッとした表情になる。

 その後、用意された台車を衛兵数人と一緒にクーネ達の元へ持って行く。クーネに事情を話した後、衛兵たちに手伝ってもらい岩熊を台車に乗せ、王都へ入って行く。隊長の計らいで衛兵2人に〔岩熊のねぐら〕まで台車を引くのを手伝って貰えたが、優遇の理由を聞くと「ここで手を貸してないと、後でゲンマー爺さんが説教をしに来る」と言う理由だった。

 台車を運ぶ一行は正門からずっと注目の的で、〔岩熊のねぐら〕に着くとその騒がしさからハクマーとゲンマーも店の外に出ていた。


「うおっ! 岩熊じゃねぇか!」

「どうしたんじゃ!?」

「薬草を取りに行ったら出くわしちゃいまして…」

「出くわしちゃいましてって…それで倒しちまったのか」

「まぁ、そう言う事です。それで解体をしたいのですが、どこかいい店知りませんか?」

「それならワシに任せなされ! おい、灯台通りの方に精肉店あるじゃろ。あそこに持っていけ」


 言われた衛兵2人は「え? オレ達が?」と言う顔をする。その瞬間ゲンマーから怒声が飛ぶ。


「お客様を待たせるでないわ! 早う行かんか!」


 周りの人全員が「そんな理不尽な」と思ったが、街の人はそれがゲンマー爺さんと理解しているので、衛兵達もやれやれといった表情で運んで行った。精肉店に着き、ハジメとクーネは衛兵2人にお礼をすると、「いつもの事だから」と笑顔で応えてくれたので安心する。一緒に来ていたゲンマーに「早く仕事に戻らんか!」と怒られ苦笑いで持ち場に戻って行った。


「おーい! 客じゃぞ! ちょっと出てこんかい」


 店の前でゲンマーが叫ぶと、中から小太りの男が出てきた。そして台車の上に載っている岩熊を見て驚く。


「うわぁ! どうしたんだこれ」

「こちらの方が狩ったんじゃよ。それでこれをお主に解体して欲しくての」

「あぁ、それはいいけど。具体的にどうすんだい? 肉はこっちで買い取るけど」

「む…ハジメ殿、どうしますかの?」


 店主とゲンマーの視線がハジメに向く。


「肉以外って骨と毛皮ですよね?」

「ん~、そうなるね。骨と毛皮は工房に持って行った方がいいな。それ以外は特に価値も無いし、こちらで処理するよ」

「それじゃ骨と毛皮以外は買い取りでお願いします」

「肉はいくらか貰っておくといいですぞ。ウチで料理しましょう。岩熊のシチューは最高ですぞ」

「そうなんですか。それじゃ肉も少し下さい」

「はいよ。それじゃ……骨と毛皮と、肉の買い取り料から解体費用を差っ引いた銀貨25枚。あと肉を30人前ってとこか」

「銀貨25枚!?」

「30人前!?」


 ハジメとクーネは耳を疑う。だが、店主はうんうんと頷く。


「岩熊の肉ってのは美味くて有名でな。その初物なんてのは飛ぶように売れるんだ。銀貨25枚払ってもウチとしては全然問題無い。この大きさならおそらく500人前は取れるから30人前ってのも妥当だな」

「高級料理店や貴族なんかに吹っかければ大儲けじゃな」

「人聞きの悪い事言うなよ爺さん。商売なんだから」

「わかっとるわい。それでハジメ殿。骨と毛皮なんじゃが、ワシの知り合いの工房でどうですかな? 腕は確かですし、いい値で買い取ってもくれますぞ」

「それじゃお言葉に甘えて、そこでお願いします」

「では早速そちらに向かいますかの。という訳じゃ、骨と毛皮は中央通りの工房へ持って行ってくれ」

「わかった。明日中には持って行くと工房に伝えておいてくれ」


 店主はそう言うと店員を呼び、台車を裏手の方へ持って行った。ハジメ達はゲンマーの案内で中央通りの工房へ向かった。

 中央通りの南側に並ぶ小店舗の中に工房はあった。こじんまりとした店内に入ると、ドワーフの男がいた。体格はゲンマーと同じくらいで、背はハジメの胸くらいしかない。ボサボサの髪と立派な髭のおかげで実年齢は分からなかった。


「おお、ゲンマーか。今日は何の用じゃ」

「こちらの客人がの、岩熊を狩って来たのじゃ」

「ほう?」


 店主はハジメを全身を1通り見ると「なるほどのう」と言って話を戻す。


「で? 加工の依頼か? モノが無いようじゃが?」

「モノは解体中での。明日にでもこちらに持ってくるように頼んどる。それで内容じゃが…」


 ゲンマーはハジメに目配せをする。それを見てハジメが店主に話を始める。


「骨は買い取って貰っていいんですが、毛皮は飾れるようにしてほしいんです。〔岩熊のねぐら〕にあるやつみたいに」

「なんですと?」

「ほう?」


 ゲンマーと店主は驚きの表情を浮かべる。


「せっかくなんで宿に飾ってもらえたらなぁなんて。もちろん迷惑じゃなければですが」

「迷惑なんてとんでもないですぞ!」

「ガァッハッハ! せっかくの毛皮をあげちまうか。面白い坊主じゃのう。まぁ、モノが来なければこれ以上の話は出来んが、ええじゃろう、引き受けてやるわい。また明日来い。その時続きの話じゃ」

「「よろしくお願いします」」


 ハジメとクーネは店主に頭を下げて店を出る。ゲンマーも後に続こうとしたが、店主に呼び止められた。


「いい客を見つけたのう」

「当然じゃ。客を見る目は衰えとらんわい。仕事の方は頼んだでな」

「まかせておけ」


 店主の返事を聞き、「ウム」と頷くとゲンマーは外へ出て行った。


「さて、今日やれる事はこれで全部ですな」

「色々とありがとうございます」

「助かりましたゲンマーさん」


 ハジメとクーネがゲンマーに頭を下げると、ゲンマーは笑って頭を上げさせる。


「これくらい朝飯前ですぞ。毛皮の件も考えればこちらが礼を言わねばならんくらいですじゃ」

「礼なんていいですよ。それじゃあオレ達はギルドに報告に行ってきます」

「わかりました。夕食を用意しておきますでな」


 ハジメ達はゲンマーと別れ、ギルドに向かった。





「岩熊を倒したぁぁ!?」


 ハジメ達から報告を受けたパラミノは思わず大声を出す。周りに居た冒険者や職員の白い目に気付き「すみませんすみません」と頭を下げ、話を戻す。


「それで岩熊をどうしたんですか?」

「街まで持って来て、知り合いの伝手に解体してもらってます」

「なるほど。今年の岩熊出現報告はまだだったので、こちらも助かります」


 岩熊の有無により、依頼の難易度を変更しなければいけないギルドとしても早期発見は有難かった。


「それで岩熊ですが、今回の依頼対象では無いので報酬等は無いのですがよろしいですか?」

「はい、問題ないです」

「それでは依頼の薬草の方をお願いします」

「えっと……」


 ハジメは申し訳なさそうにカウンターに薬草を出す。パラミノもキョトンとした顔で薬草を見る。


「えっと…3つですか?」

「すみません。探し始めてすぐに色々起きちゃって…」

「ああ、そう言う事ですか。わかりました。では、今回は3つ納品ということで」


 パラミノは3つの薬草を受け取ると、銅貨3枚を出す。


「こちらは報酬の銅貨3枚です。薬草集めはいつでも受けられますのでまた挑戦してください。あ、でも土休期は過ぎちゃったのでさらに注意しなければいけませんね」

「土休期?」


 ハジメとクーネは首を傾げる。


「あ、"五煌期(ごこうき)"は知ってますか?」

「聞いた事があるくらいですね」

「私もです」


 世界には5属性の影響を強く受けた地域がある。強い影響を受けている時期を"煌期"と呼び、火煌期、水煌期、雷煌期、土煌期、風煌期と呼んだ。そして日本の四季の様に順番に巡って行き、1年で1周している。


「煌期と反対の属性の地域は影響が低くなるので、この時期を休期と呼びます。マシュメは土属性の地域なので、風煌期の時期を土休期と呼びますね。地元の人間は他の属性を気にしないので、そんな風に呼び方が変わってしまったんですね」

「ちょっとややこしいですね」

「まぁ、冒険者の方は休期の方はあまり使いません。そう言う呼び方があるとだけ知ってもらえれば」

「わかりました」

「魔獣はその煌期に活動が活発になるものが多いので、その事も覚えておくといいですよ」

「なるほど、覚えておきます」


 その後、日も暮れてきたので、薬草集めはまた今度挑戦するという事でギルドをあとにする。

 翌日は工房で話の続きをし、精肉店から届いた素材を工房店主が吟味した結果、毛皮の加工費などを差し引いて銀貨5枚となった。その後、まだ街を散策していなかったのでハジメとクーネ、パルは街をブラブラ歩いて周る。クーネが率先して周ったので街の南側が殆どだったが。

 それから3日後、工房から毛皮が出来上がったと連絡があり、ハジメ達は工房へ向かった。


「「こんにちわ」」

「おお、来たか。ホレ、そこの品じゃ」


 店主はカウンターに置かれた毛皮を指差す。そこには艶のある灰色の毛皮があった。工房に出した時とは別物の様な出来でハジメ達は感嘆の声を上げる。それを聞いた店主も「フン」と言いながらも嬉しそうな顔つきで店の奥へと入って行く。奥から出てきた店主はハジメに持ってきた物を渡す。


「これは?」

「状態のいい岩熊の爪が残っていたからのう。首飾りにしてみた」


 ハジメが手にした首飾りには、琥珀色をした3cm程の勾玉が4つ付いていた。黒いゴツゴツした爪だと記憶していたハジメは首を傾げる。


「これが岩熊の爪ですか?」

「丹念に削るとな、そんな風に綺麗な琥珀色の部分が出てくるんじゃよ。これほどのが4つも出てくるのは稀じゃがな。岩熊が岩を操るための核みたいなもんじゃから、昔から土の精霊の加護があるとして重宝されとるわ」

「貰ってもいいんですか?」

「それほどの物ではないが、あと3つ程あるしの。それは記念にやるわい。毛皮もゲンマーにあげちまったら、お前さん何も手元に残らんじゃろ」


 ハジメはジッと首飾りを見ながら考えると、クーネに差し出した。


「え?」

「クーネにあげるよ。岩熊を殺してその加護を受けるってのも変な感じだしな。初依頼の記念って事で。依頼の薬草集めとは全然関係無いけど」

「いいのかな…」


 受け取ったクーネは困った顔をしていると、店主が声を掛ける。


「素直に貰っておけばいい。可愛い嬢ちゃんに身につけられた方が首飾りも嬉しいじゃろ」

「か、かわいい…。店主さんがそう言うなら貰っておこうかな」


 照れた様子のクーネが首飾りを掛けるのを見て、「よく似合っとる」と頷いた店主は毛皮の話に移る。


「毛皮はそのまま持っていくかの?」

「はい、このまま宿に戻るつもりなんで」

「うむ、それじゃ気を付けてな。また頼みたい仕事があればいつでも来るといい」

「ありがとうございます」

「また来ますね」


 ハジメとクーネを見送ると店主は店の奥に戻って行く。いい仕事ができ、面白い出会いもあった事に自然と顔が綻ぶ店主だった。


「ハジメ」


 毛皮を持って宿に戻る途中、横に居たクーネが声を掛ける。


「ん? どうした?」


 ハジメがクーネの方を向くと、クーネが満面の笑顔で首飾りを摘まんで見せる。


「ありがとう」

「お、おう」


 思わず動揺してしまった事を隠すように、ハジメは正面を向いて足を速めてしまう。首を傾げながらもクーネはその後を付いて行った。

初仕事の後日談的な話でした。

次回、ハジメ達の元に新たな依頼が舞い込みます(予定)

次回もよろしくお願いします。

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