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ジュエル!  作者: asobito
バスティア学園編
34/67

第28話 初めての海と旅立ちの船出

2012/6/24 総合PV20万アクセス、ユニーク3万アクセスを突破しました! 読んでくれた皆様、ありがとうございます。

 王都から村に戻って来たハジメは自室で旅立ちの準備をしていた。


「・・・よし、これでいいかな」


 ハジメは手にした革のベルトを見て頷く。村に着いてすぐヒルダ、トナイ、レットンがやって来てハジメに革のベルトと革の袋を3つ渡してきた。トナイとレットンが狩りで手に入れた皮を3人で加工して作った物で、この日の為に用意しておいてくれていた。中々手に入らない皮らしく、丈夫で触り心地も良くハジメもとても気に入った。そのベルトにナイフや剣を装着出来る様にして、その出来に納得した所で扉を叩く音がした。


「ハジメ、ちょっといいかい?」

「はい、どうぞ」


 ハジメが返事をすると扉が開きオルタス、クラウ、ラウが入ってくる。


「どうしたんですか?」

「ハジメに渡したい物があってね!」


 オルタスはそう言うと、後ろに居たラウに合図を送る。ハジメの前に来たラウの手には、黒い布と黒革のスーツケースだった。


「なんですか?」


 黒い布の方を手に取り広げると、それはフードの付いたマントだった。裏地には鮮やかな緑の刺繍がビッシリと入っていた。


「旅の役に立つと思ってね。オレが昔使ってたものなんだけど」

「父上が?」

「その外套は裏に精霊文字の刺繍が入っていてね。中の温度を一定に保つんだ。どんなに暑い所でも寒い所でもそれを着てればまず問題無いね。あと生地がとても丈夫だから、ハジメの<魔力塗装(コーティング)>もあればまず破れる事は無いよ」

「温度を一定って凄いですね。それじゃこちらは・・・」


 ハジメはスーツケースを持ってみる。長方形の箱に取っ手が付いただけのシンプルな作りだが、持った瞬間違和感を感じた。


「なんか・・・軽くないですか? コレ」

「そう! その鞄は重さが変わらない鞄。中に何を入れても重さはそのままっていう代物なんだ。旅にはもってこいだろ? それも中に精霊文字が刺繍してあるよ」


 ケースを開けると下地と同じ系統の色の糸で一面に文字が書かれていた。模様の様にも見えるので「どこかのブランドものみたいだな」とふと思った。


「たしかに重い物を持って旅するのは大変ですよね。ありがとうございます。でも・・・」

「でも?」


 オルタス達が首を傾げる。


「これ真っ黒になっちゃいますけど・・・」


 黒いマントを羽織り、黒いカバンを持つとたしかに黒ずくめと言っていいくらいだった。


「目立っちゃいませんかね?」

「ハッハッハ! 何言ってるんだい? 冒険者なんて目立ってナンボだよ」

「そうなんですか?」

「冒険者として仕事を増やすなら、まずは人々に自分の事を知ってもらう事からだよ。人々の噂になるには実力と見た目! 印象的な見た目の方が皆に覚えてもらいやすいからね」

「なるほど」

「ハジメは今魔人族って言う事を隠してるみたいだけど、それもどんどん言っちゃっていいんじゃないかな」

「え? でも、不味くないですかね?」

「え? そうかな?」

「どうなんでしょう?」


 オルタスとクラウはお互いに首を傾げている。


「ほぼ不老不死な種族がいるって分かったら世間は大騒ぎになったりしませんか?」

「300年前から絶滅しかかってるから伝説上の生き物扱いかもね」


 オルタスは「ハッハッハ」と笑って見せる。しかし、真顔になって話し始める。


「でも、世間が騒ぐだろうからってこちらがコソコソするのはちょっと違うと思うんだ。人は皆違うのだし、種族が変われば見た目も違う、外見の特徴や性格も入れたらそれこそ千差万別だからね。そんな事を気にする奴は無視して、ハジメには堂々と魔人族として胸を張って生きてい欲しいとオレは思うよ」

「父上もそうだったんですか?」

「オレ? オレは気にした事なかったなぁ。歳取らないって点なら核人だってそうだし、周りの仲間もそう言う事は気にしてなかったよ。色んな種族が居たしね」

「そうですか」

「だからハジメにもそんな冒険仲間が見つかる事を祈るよ」

「そうですね。そんな仲間に会いたいです」

「仲間が出来たら仲間と一緒にたまには帰って来てね?」

「はい!」


 クラウからのお願いに笑顔で応えるハジメ。オルタスはニッコリと微笑みハジメの肩をポンポンと叩いた。

 それから家族で少し話をし、早朝出発という事で皆早めに寝る事にした。





 次の日、村の入り口にはハジメを見送る為に村人全員が集まっていた。


「おお、様になってるじゃねぇかハジメ」


 ドルガンがハジメの恰好を見て感心する。上は長袖のシャツにベスト、下はスボンに革のブーツは普段の恰好だが、薄手の革の手袋とヒルダ達がくれたベルト、そのベルトの左右にシヤン達がくれたナイフと、貨幣や薬をいれる袋が付けられている。後ろにはハジメが普段使っている剣が固定されていた。そして黒いマントを羽織り、手には黒革のスーツケースを持っている。


「変じゃないですかね?」

「いやいや、それくらい目立った方がいいぜ。それに世界にはそれより奇抜な恰好した奴なんてゴマンといるからな」

(それはコレも奇抜って事なんですね)


 ハジメは自分の恰好を見つめる。それを見たオルタスは笑顔でハジメに言い聞かす。


「ハジメが冒険者として腕を上げれば、”黒ずくめの凄腕の冒険者”とかって言われて、その恰好がみんなの憧れになるはずさ!」

「おう、村長の言うとおりだ! そうなりゃハジメに憧れて真似する奴も出てくるかもな! やったなハジメ!」

「は、はぁ・・・。そうなるようにがんばります」


 「なんか言いくるめられてる気がする」と思ったが、それを振り払っているとクラウが近くにやって来る。そしてハジメをギュッと抱きしめた。


「母上!?」

「辛かったらいつでも戻ってきていいからね。ここはあなたの家なのだから」

「・・・はい。ありがとうございます。でも―――」


 ハジメも抱きしめ返すと離れてクラウに笑顔を見せる。


「そんなヤワじゃないですよ。なんたって2人の子供ですからね」

「フフ、そうね」

「ハッハッハッ! さすがオレ達の息子だな!」


 家族のやり取りを村人達も笑顔で見つめる。そしてハジメはパルに乗り、村人達の方を向いた。


「それじゃ皆、行ってきます!」

「ああ、気を付けて!」

「無理しないでね!」

「行ってらっしゃいませ」

「ヒヒィーーーン!」

「気合い入れて行って来い!!」

「行ってらっしゃい坊ちゃん!」

「お土産よろしくね!」

「がんばれよ!」

「たまには帰って来いよー!」


 皆からの声援に笑顔で応えハジメはナディーユに向かって飛んで行った。





 ハジメの住む村から港町ナディーユはパルに乗って行けばそれほど遠くもなく、午前中に着く事ができた。いきなり町の中に降りる訳にもいかないので町の手前で降りて歩いて入って行く。


「へぇ、ここがナディーユかぁ」


 ハジメは町の入り口で辺りを見渡す。海に向かって少し下り坂になっていて、道沿いには商店らしき建物が並び、その奥の方には民家が並んでいる。


「こっちで海を見るのは初めてだな、そう言えば。ここからでも分かるくらい綺麗な海だ」


 ハジメはTVの旅行番組などで見た澄んだ海を思い出していた。


「船旅楽しみだな。な? パル」

「キュィィ!」

「さて、バトマス家を探さなきゃ・・・」


 町の中へ入り、それらしい建物を探していると後ろから声を掛けられる。


「おや、ハジメ君ではないですか?」

「え?」


 振り返るとそこには学園の教師フォケロが建物から出てくる所だった。


「フォケロ先生? あれ、なんでここに?」

「いやぁ、急用ができてしまいまして。卒業式の後すぐこちらに向かったのですよ」


 フォケロは苦笑いをしながら頭を掻いた。


「それにしても王都からここまで1日で来るなんて・・・」

「え、ああ、それはですね・・・」


 困った様な顔をするフォケロだが、諦めた様子で話し始める。


「1日で来れる手段があるんですよ。教師という立場上あまり堂々と言えないので内緒にしておいて下さい」

「はぁ・・・」

(何か魔法か道具でも使ったのかな)


 と、ハジメが考えているとフォケロは話題をハジメの事に移す。


「それはそうと、その恰好はこれから出発ですか?」

「はい、バトマス家の商船に乗せてもらえる事になってまして、今バトマス家を探しているのですが、迷いそうなので誰かに尋ねようと思っていたところです」

「ハハハ、この辺りは似たような建物が多いですからね。バトマス家なら・・・ほら、あの建物ですよ」


 フォケロは少し離れた場所にある屋敷を指差した。ハジメ達のいる場所からは建物の上半分しか見えないが、港を一望できる位置に建っていた。


「あれですか。ありがとうございますフォケロ先生」

「いいんですよ。あ、そうそう、もう一つ。ちょっと待っていて下さい」


 そう言うとフォケロは出てきた建物に戻って行った。


「?」


 しばらくするとフォケロが戻ってきた。そして手にした手紙をハジメに渡す。


「これは?」

「冒険者となるのならギルド・・・簡単に言えば組合ですかね。それに入ると思うのですが、私の知り合いがマシュメ王国の王都にあるギルドで働いてましてね。私からの紹介だと言って手紙を渡せば、色々相談に乗ってもらえると思います」

「え、ありがとうございます!」

「いえいえ、私がしてやれる事はこれくらいです」

「そんな、十分ですよ」

「そう言ってもらえると助かります。おっと、あまり引き留めるのも悪いですね。それじゃハジメ君、がんばってくださいね」

「ありがとうございます。先生も御達者で」


 ハジメは一礼するとバトマス家の方へ歩いて行った。フォケロもそれを見送ると町の入り口へ向かって行った。

 バトマス家の屋敷の前に来ると屋敷の中から執事らしき男性がこちらにやって来た。


「失礼ですが、ハジメ・アメジスト様でいらっしゃいますか?」

「え、そうですけど・・・」

「ようこそいらっしゃいました。主は港で打ち合わせをしておりますのでご案内致します」

「あ、よろしくおねがいします」


 執事に案内され港に行くと大型の船の前で貴族らしい男が周りの人に指示をしながら話をしていた。男はこちらに気付くと話を中断してこちらに歩いてきた。すると執事が一礼して男に用件を話す。


「コンディ様、ハジメ・アメジスト様をお連れ致しました」

「おお、君がハジメ君か。話は母から聞いている。私がナディーユ領主でバトマス商会の総帥をやっているコンディ・バトマスだ。よろしく」


 コンディは笑顔で挨拶をする。見た目は40歳程の働き盛りという感じで、立ち振る舞いもまさに紳士と言う感じだった。


「はじめまして、ハジメ・アメジストです。此度は本当にありがとうございます」

「いやいや、君にはハンバーガーの件など、色々助けてもらっているからこれくらいは全然構わない。それで君に乗ってもらう予定の船だが、今最終の打ち合わせをしていてね・・・ちょっと待って貰っていいかね?」

「はい、全然大丈夫です」


 ハジメがそう言うと「すまないね」と言い残し、打ち合わせに戻って行った。船長と部下らしき人の持ってくる書類を見ながら話をしている。ハジメは待ってる間、船を見ている事にした。

 商船はキャラベル船と呼ばれる帆船に近い作りだった。もちろんハジメはそんな知識は無いので「おお、カッコイイな。海賊船みたいだ」くらいにしか感じていなかった。木造の船など近くで見た事がなかったので興味津々で見ていると、打ち合わせが終わったコンディが船長と一緒にやってきた。


「いや、待たせたね」

「いえ、こんなカッコイイ船初めて見たので楽しかったです」

「おっ! この坊ちゃんはなかなかわかってるな!」


 自分の船が褒められて船長はニカッと笑った。海の男らしく真っ黒に日焼けした顔に立派な髭を携え、イメージ通りの船長だなとハジメは思った。


「ハッハッハ、船を気に入ってもらえてよかった。紹介しておこう、この商船<バトマス号>の船長のレドンだ」

「よろしくな坊ちゃん」

「ハジメ・アメジストです。よろしくおねがいします」

「それで準備はもう完了しているので出航はいつでも出来るのだが、ハジメ君は準備いいかな?」

「はい、いつでも行けます」

「そうか、それでは船長、彼を客室に案内してくれ」

「了解だ」

「コンディ様、本当にありがとうございます。シヨナ様にもお伝え下さい」

「ああ、わかった。君も気を付けて。マシュメにもバトマス家の店がある。話も通してあるので、何か困った事があればいつでも訪ねなさい」

「はい、分かりました」


 ハジメはコンディに一礼して船に乗り込む。船長に案内された客室で荷物を置き一息つく。しばらくすると外で鐘の音が響き渡り、バタバタと人の動く音がした。


「お、動き出したかな。パル、外に出てみようか」

「キュィイ!」


 パルを肩に乗せ客室から甲板に出ると、すでに船は港を出ていた。見る見るうちに小さくなっていく港を見ていると、旅に出た実感を改めて感じる。


(父上、母上、村と街の皆、行ってきます!)


 小さくなる生まれ故郷に最後の挨拶をしてハジメは前方を向く。


「さぁ、パル。どんな旅になるか楽しみだな」

「キュィィィイ!!」


 期待と不安を胸に抱くハジメを乗せて、船は一路マシュメ王国に向かって進み出した。

今回でバスティア学園編終了です。

次回から新章突入! 旅立ったハジメ同様、気持ちも新たに気を引き締めて書いていこうと思います。

そんなわけで次回もよろしくお願いします。

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