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ジュエル!  作者: asobito
バスティア学園編
32/67

昔話 村を作るきっかけと大樹の言葉

2012/6/3 誤字が見つかったので修正しておきました。

[森の最深部 大樹のある広場]





「さ、いい加減これで観念してくれるかい?」


 オルタスはやれやれといった顔で相手を見る。相手である灰猿は悔しそうな顔をしてオルタスを睨むが、諦めた顔をする。


「くぅ~・・・わかった、ワシの負けじゃ小僧。だからさっさとこの剣を引かせてくれんかの」


 灰猿は首に突き付けられた剣の切っ先を指差す。剣を握る女性、クラウが隣にいるオルタスの方を見る。オルタスが頷くのを確認してクラウが剣を鞘に納めると、灰猿から溜息が出た。


「はぁ、まさか魔人族とは思いもせなんだわ。おまけにそこの奴と馬は核人じゃな。どおりでワシが本体と分かった訳じゃ。それに気付かなんだとは、同じ核人というのにモウロクしたかのう」


 灰猿はオルタスの後ろに立つラウとクロを見る。するとラウは丁寧にお辞儀を、クロはプイっとそっぽを向いてしまった。


「・・・可愛げの無い奴じゃのう」

「ハッハッハ! クロは気に入った奴にしか懐かないからなぁ」

「フン、まあいいわい。それよりあちらも離してくれんかの」


 灰猿が指す方には<軍団(レギオン)>が15人掛かりで灰猿の影である黒い大猿を縛り上げていた。体中を縄で何重にも巻かれている。


「ああ、そうだね。そちらも解いておくよ」


 オルタスがそう言うと<軍団(レギオン)>は大猿の縄を解いて姿を消す。


「お主、そんなに簡単にワシを信用していいのか? また暴れるかもしれぬぞ?」

「ん~、爺さんがそんなに悪そうに見えないのと・・・」


 オルタスはニコっと笑いクラウを指差す。


「この距離なら大猿が襲い掛かる前にクラウが爺さんの核を串刺しにするだろうしね」

「お、恐ろしい嬢ちゃんじゃのう」

「でも美人だろ?」

「な、何言ってるんですか!」

「だって本当の事じゃないか。オレは自信を持って言えるけど」

「言わなくていいです!」


 顔を赤くして狼狽するクラウとお構い無しのオルタス。そしてそんな2人を見て噴き出す灰猿。


「クッ・・・カッカッカ! 面白い奴等じゃのう。わかった、もう暴れたりはせん。・・・じゃが木の伐採は許すわけにはいかんのう」

「オルバスタ・・・この国の王様も全部伐採しようってわけじゃないって言ってるよ。街の建物を作るのに必要な分だけだってさ」

「今はそう言っておるかもしれんがこの先はどうじゃ? 人間は欲深いからのう。満足できなくなって更に欲しがるんじゃないかの?」

「う~ん。そんな人間ならオレも何度か見てるから否定ができない所が悲しいな・・・」


 オルタスはしばらく考え込んでいたが、パッと灰猿を見て笑顔になる。


「よし! じゃあ必要な分切り取った後、森の端にオレ達が住む事にしよう。それ以上伐採しないように」

「なんじゃと!?」

「オ、オルタス!?」


 オルタスの提案に驚く一同。


「この国も平定されてこれから平和になるだろうし、そろそろどこかに落ち着こうと思ってたんだ。な? クラウ」

「え、たしかにそう言ってましたが・・・」

「オルバスタはきっといい国にしてくれるだろうし、オレ達に子供が出来たらこういう自然に囲まれた場所でのびのび育って欲しいしさ」

「こ、子供だなんて! まだ気が早すぎます! まだ夫婦になって間もないわけですし・・・」


 クラウは真っ赤な顔で両手をブンブンと振る。しばらくして落ち着いたのかコホンと咳をして話を戻す。


「と、とにかく子供の件は置いといて・・・。オルタスがそうするなら私はそれに従います」

「私も主の意見に異論はございません」

「ヒヒィン」


 ラウとクロもオルタスに賛同する。それを黙って見ていた灰猿が呆れた様子で口を開く。


「本当に変わった連中じゃのう。しかしお主らが住んだところで伐採しに来ないとは限らんじゃろ?」

「ああ、それなら」


 オルタスは「フッフッフ」と悪そうな顔をして見せる。


「オルバスタにこの森を立ち入り禁止区域にしてもらうよ。国から指定されればまず人が来なくなるだろう。それでも来る奴は多少痛い目にあってもらおうかな」

「そんな事、王が許すかの?」

「ああ、オレ達がここに住むって言えばたぶん許可出るよ。この国に引き留めたがってたしね。まぁ、今後国の手伝いをする気は無いけど」

「小僧、結構ワルじゃのう」

「これくらい冒険者なら当然さ」


 灰猿とオルタスが2人して「フッフッフ」と笑う姿を見て苦笑いをするクラウ。


「それじゃオレ達はそろそろ行くよ。またな爺さん」

「気が向いたら会ってやるわい」


 オルタス達が森に入って行くのを見送っていた灰猿だったが、オルタスだけがこちらに戻ってきた。


「ん? 何じゃ、忘れ物か?」

「まぁ、そんなところ。記念にこの大樹にオレの決意を書いておこうと思ってね」

「・・・? 構わんがあまり傷つけるでないぞ」

「わかってるって」


 そう言うとオルタスは大樹にナイフで文字を刻んでいく。文字が分からない灰猿は後ろで首を傾げている。


「よし! できた」

「何と書いておるかわからんが、満足したのならさっさと帰れ」

「ああ、それじゃ今度こそ。またな爺さん!」


 オルタスは待っているクラウ達の元へ走って行き、そのまま森の中へ消えて行った。


「本当に変な奴じゃのう」


 灰猿は大樹に刻まれた文字を眺めながら呟いた。





[現在 オルタスの家]





「―――と、いう訳さ」


 オルタスはウンウンと昔を懐かしむ様に頷いている。


「それで、肝心な所がまだですけど?」

「ん? 何だい?」


 クラウの疑問にオルタスは首を傾げる。


「大樹に何と書いたのですか?」

「ああ、それね」


 オルタスがニコッと笑う。内容を知っているハジメはクラウの反応を見逃さないようにジッと見つめるが、その口元は緩んでいる。


「オルタス・アメジスト、絶世の美女である最愛の妻クラウとこの地で末永く暮らす」

「!!!」


 見る見るうちに顔が真っ赤になったかと思ったら、クラウはスッと立ち上がり玄関へ向かった。


「は、母上?」

「どこへ行くんだい?」

「大樹へ行って消してきます」

「「え!」」


 オルタスとハジメは慌ててクラウを止める。


「母上! 別に消しに行かなくてもあんな場所誰も見に行きませんよ!」

「そ、そうだよ! それにもう何百年も経ってるわけだし。今更消しに行かなくたって」

「そう言う問題じゃありません!」


 恥ずかしさで赤くなっていたものが怒りによるものに変わっていく。


「そもそも、なんでそんな事書くんですか? 絶世の美女だなんて・・・」

「いや、実際にそう思―――」

「思っても書かないで下さい!!」

「あ、えっと・・・すみませんでした」

「あと、ハジメ!」

「え? オレですか?」

「ハジメもさっき、分かってて私の顔伺ってたわね! 顔がニヤニヤしてたわ!」

「あ、それは・・・えっと」

「ハジメも同罪だわ!」

「ええっ!?」


 反論しようとしたが、クラウの「言い訳は認めない」という強い意志の籠った目に圧倒され謝るしかなかった。


「す、すみませんでした」

「それとラウ! アナタは知っていたの?」

「いえ、まったくもって存じ上げませんでした。おっと、そろそろ私は夕食の支度をして参ります」

((くっ、自分だけ逃げたなラウ!))


 台所へ行くラウを恨めし気に見つめるオルタスとハジメ。

 その後、2人は夕食までクラウの説教を受け、クラウの機嫌を直すのには10日程掛かった。

オルタス達がここに住む事になった発端でした。

クラウさんは美人と言われると怒りますが、実際に美人です。・・・おっと、誰か来たようだ。

それでは次回もよろしくお願いします。

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