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ジュエル!  作者: asobito
バスティア学園編
31/67

第26話 大樹への道程と森のヌシ

2012/5/24 指摘のあった部分を修正しました。誤字、読点、改行ミスなのでストーリーの変化点はありません。

2012/07/20 ご指摘のあった誤字を修正しました。

2012/08/19 ご指摘のあった誤字を修正しました。

 森へ入り黙々と先へ行くハジメ。今居る地点は昔ドルガン達と来た事がある範囲だったのが、1人で森に入るのが初めてのハジメは周りで物音がする度に少しずつ緊張感が高まっていた。


「ふう、ここからこんなに気張ってたら最後までもたないよな。リラックスリラックス・・・」


 そう自分に言い聞かせながら森の奥深くへ進んでいく。この辺りに出てくる動物は昔狩っていたものがほとんどで今のハジメなら問題なく倒せたが、今回は狩りが目的ではないのとあまり無益に殺したくないという思いから火の玉で脅かしたりして追い払っていた。先程襲い掛かって来た小型の狼を追い払ったのを思い出し「ヒルナンなら皆なぎ倒すんだろうな」と苦笑を浮かべた。

 この世界に生を受けてからハジメの中で生き物を殺すことへの躊躇いはだいぶ緩和されていた。それでもこの世界の人々に比べたらかなり甘い考えなのだろうなと自覚している。オルタスやヨークソン、ノマージを見るとこの世界では人が人を殺す事が前世よりも身近にある。もし自分が冒険者となってそういう状況になった時躊躇わずに殺せるのか、ハジメは心の隅でずっと悩んでいた。特訓を始めた頃にその事をオルタスに相談するとすぐに答えが返ってきた。


「じゃあ、どんな相手でも対処できるくらい強くなるしかないね。そうすれば殺さずに戦闘不能にできるよ」


 「簡単に言わないで下さい」とハジメは思ったが、それが一番確実かと思い特訓も必死にやって実力を数段上げることができた。現に今も全く苦も無くスタスタと森を歩いている。動物の対処にも慣れて最初の緊張感もだいぶ薄れてきていた。





 途中休憩を挟みひたすら歩いていたが、差し込む日の光から日が沈み始めている事を感じてハジメは近くにある背の高そうな木を<魔法の縄(ロープ)>を使って登り始める。上まで登り、周りを見渡すと遠くの方に周りに比べて一際大きい樹が見えた。


「まだだいぶありそうだな。とりあえずどこか開けた所探さないと・・・。できれば河辺がいいな」


 村と大樹の間を川が通っている事を思い出しながら周囲を見渡すと大樹への直線から少し逸れるが、開けた河辺を見つけることができた。


「よし、今晩はあそこで過ごそう」


 ハジメは<魔法の縄(ロープ)>でスルスルと木を降りると川辺に向かって歩き出す。途中食糧を調達する事もできた。川辺に着くと周囲を調べて問題ないか確認する。それが済むと周りから枯れ木を集めて火を起こした。


「<魔法印(スタンプ)>でもいいけどやっぱりこういうのは焚き火の方がいいよな」


 長時間発動するようにすれば<魔法印(スタンプ)>でも焚き火の代用はできる。同じ火なのだがハジメの中では違いがあった。気分の問題とも言えたが。

 来る途中で獲った獲物と木の実などで晩御飯を済ませていると森の中からガサガサと物音が聞こえた。ハジメはすぐに食事の手を止め、火の玉を作り音のする方を凝視する。すると出てきたのは小さな灰色のサルだった。


「なんだ、子ザルか・・・」


 子ザルはハジメを興味深そうにじっと見ている。敵意も感じないのでハジメは火の玉を消した。


「親ザルはいないのか。あ、ひょっとして腹減ってんのか?」


 ハジメが木の実を数個手に取ると子ザルはピクリと反応する。子ザルの目が木の実を凝視しているのはすぐに分かった。


「アタリみたいだな。ほらっ、やるよ」


 ハジメは木の実を子ザルの近くに投げる。近くに落ちて転がる木の実を子ザルは素早く拾い集めると森の中へと消えて行った。


「よっぽど腹減ってたのかな」


 それから子ザルが現れる様子はなかったので自分の食事を済ませ寝る準備をする。


「さて、寝こみを襲われるのも困るし<魔法印(スタンプ)>の出番かな」


 ハジメは右の掌に魔法陣を作ると焚き火の周囲にペタペタと<魔法印(スタンプ)>を付けていく。今回は"フレタラモエル”だがあくまで追い払うのが目的なので威力弱めにしておいた。


「これでよし。それじゃ寝るか」


 焚き火の近くでマントに包まり眠りに就く。寝る前のハジメの予想では1,2回は動物がやってくるかと思っていたがまったく姿を現せることはなかった。ただ、夜中に森の中からじっと様子を伺うモノが居たがハジメが気付くことはなかった。





 翌朝、日の出と共に目を覚ます。


「くっ・・・体が痛い・・・。砂利だらけの所で寝たのは失敗だったか」


 体の痛みに悶えつつ立ち上がり伸びをする。周囲を見たが何かが来た様子もなく、<魔法印(スタンプ)>も発動した形跡はなかった。


「何も来なかったみたいだな」


 そう言いながら<魔法印(スタンプ)>に近づく。そして魔法陣の円の一部を魔力を込めた指で擦るとその部分から魔法陣がスーッと消えて行った。他の魔法陣も同じ様にして消していく。


「さて、それじゃ出発しますか」


 ハジメは荷物を纏めて再び歩き出した。

 大樹に近づくにつれて木々の密度が増して昼間なのに薄暗く所々差し込む光もまばらになっていた。出てくる動物も大型のものが増え、攻撃的な性格をしたものも多くなる。集団で襲ってくるものもいて火の玉を投げて脅かしても逃げる事がなくなっていた。


「まいったな。殺さずにいきたいんだけど・・・」


 木の上から見下ろしながら呟く。下には黒茶色の狼が10頭以上の集団でハジメに向かって吠えていた。村の近くでも見かけた種類だが、体が2回り以上大きく牙をむき出しにして木によじ登ろうとしている。


「先急ぎたいし、倒しちゃうかな」


 ハジメは隣の木の枝に飛び移りその勢いのまま地面に降りる。着地した瞬間地面に<魔法印(スタンプ)>"フレタラシビレル"を押して止まらずに走り出す。後ろから追いかけてくる気配があったが、バチィッという音と狼の悲鳴がハジメの耳に聞こえた。だが追いかけてくる数はまだ多い。脇目も振らず走り続けるハジメは進行方向頭上に丈夫そうな枝を見つけると右手で腰に下げたナイフを取り出し枝の少し上を目掛けて投げる。ナイフには<魔法の縄(ロープ)>が繋がっており枝にクルクルと巻き付くとピタリと固定される。そして枝の真下に来ると左手で地面に再び<魔法印(スタンプ)>"フレタラシビレル"を今度は直径2m程の大きさにして押す。狼達は目の前まで迫って来ているので<魔法の縄(ロープ)>をすばやく巻き上げ枝につかまる。プラプラと浮いたハジメ目掛けて飛びかかるも空振りしてしまい地面に落ちる狼達。そして着地した瞬間<魔法印(スタンプ)>による電撃でバタバタと倒れていく。後から遅れて駆け付けた狼も獲物であるハジメしか目に入っておらず<魔法印(スタンプ)>に足を踏み入れ「ギャンッ!」と悲鳴を上げて倒れている。枝に上り痙攣を続ける狼達を見下ろすハジメ。


「たぶん死にはしないだろうけど・・・死んじゃったらホントごめんな」


 <魔法印(スタンプ)>はハジメが直接消すか、込めた魔力が尽きるまで発動し続ける。また込めた魔力を一気に使い切るタイプと威力は弱くなるが発動したらしばらく効果が続くタイプを使い分けられるようになっていた。


「今消してすぐ復活されても困るし。このまま先へ急ごう」


 ハジメは隣の木に飛び移ると地面に降りて歩き出した。しばらく進むと木の密度が減って明るくなっているのに気付く。


「お、着いたかな」


 そのまま明るい方へ行くと開けた場所にでた。


「これか・・・近くで見るとでっかいなぁ」


 ハジメの目の前に大樹が姿を現す。大樹は広場の中心にあり周りに他の木が全くないのでその存在感はかなりのものだった。ハジメは根元まで近づき上を見上げる。葉が生い茂っており天辺の方はよく見えなかった。


「これなんて木なのかな。エルレアならわかったかもなぁ。っと、文字探さなきゃな」


 15mほどある幹回りを回りながら文字を探す。半周したあたりで何か刻まれている場所を見つける。


「あ! これか?」


 苔などで見にくくなっているが手で払って文字を読んでいく。読み終わったハジメの顔には苦笑が浮かぶ。


「・・・これで間違いないな。それにしても父上こんなところに何書いてんだか」


 一応残り半周を回って他にも無いか確認したが文字が書かれていたのは1ヵ所のみだった。


「よし、後は村に戻るだけだ」


 ハジメが木から離れようとした瞬間ガサッと頭上から音がした。ハジメが見上げると巨大な黒い塊がハジメ目掛けて落ちてくる。


「なっ!」


 ハジメは慌てて飛び退く。


ドゴォン!


 爆音と砂埃を起こし黒い塊はハジメが居た場所に落下してきた。飛び退いたハジメも身を構えて凝視する。落下してきたのは3mはありそうな黒い大猿だった。大猿は怒りに満ちた表情でハジメを見ている。


「もしかして・・・これがヌシか!?」


 大猿をよく見ようと思ったがすぐに大猿が飛びかかってくる。


「くっ!」


 巨体が物凄いスピードで突っ込んでくるので大きく飛び退かないと避けられない。こちらが構え直す頃にはまたすぐに飛び掛かってくる。


「でかいくせに速いなコイツ! でもっ」


 大猿の攻撃が突っ込んでくるだけの単調なものだと分かり避けながら腰の剣を逆手で抜く。小さい頃から使っていた剣で、成長した今では片手で使う小剣となっている。その剣を手前で構える。そして再び突進してきた大猿を左に躱しつつ左肩に剣を突き刺しそのまま手を離す。再び向き合うが、大猿は剣が刺さっていることなど微塵も気にしてる様子はなかった。


「頭に血が上りすぎて痛みを感じないのかコイツ。とりあえず剣は返してもらうぞ」


 そう言うと右手を勢いよくグッと引く。剣と繋がった<魔法の縄(ロープ)>が引っ張られ剣が大猿の肩から抜けるとハジメの手に戻って行った。そして肩の傷口を見たハジメは相手の正体に気付く。傷口からは紫がかった煙が上がっていた。


「お前・・・核人か?」


 話しかけるが言葉に反応する気配はなかった。傷口も見る見るうちに塞がり再びハジメに向かって突進してくる。


「くっ!」


 ハジメは攻撃を躱しながら対策を考える。


(核人って事はちょっとやそっと傷つけても意味ないって事だ。核を狙うか魔力切れを狙うか・・・。まだなにか能力あるかもしれないけど、動きの単調さから見てそれほど大きい核じゃないはず。だとすればあんな馬鹿でかいやつの体から核探すなんて至難の業だぞ。アイツには悪いけど魔力切れも踏まえて体ほとんど吹き飛ばすくらいやらないと・・・)


 ハジメは右手で<魔法印(スタンプ)>を準備する。込める魔力は前に樽を飛ばした時よりも強めに。込める魔力が多くなるにしたがって掌の魔法陣も輝きが増してくる。そして大猿を躱した瞬間、自分の足元に<魔法印(スタンプ)>を押す。2m程の魔法陣が出来上がりハジメは後ろに下がって大猿の突進を待つ。突進を躱された大猿はすぐに振り返り、再びハジメ目掛けて突っ込んでくる。そして大猿の右手が魔法陣の上に乗った瞬間込められた魔力を一気に解き放つ。


"フレタラモエル"


 爆発に近い爆炎が真上に向かい噴き出す。そして天高く炎を上げるとすぐに消える。炎が消えるとそこには右半身のほとんどが消し飛んだ大猿が倒れていた。傷口からは大量の煙が舞い上がり、大猿はピクリとも動かない。


「倒せた・・のか?」


 剣を構えつつ近づいて行くが、起き上がる気配がない。


「これって死んでるのか・・・核はどうなったんだろ」


 剣を鞘に納め、大猿を覗き込む。核人が核を失った時どうなるのか知らないハジメは考え込む。


「うーん、核が残ってたとしてもこれじゃすぐ回復しなさそうだし、今の内に村に向かっちゃえばいいか」


 また森の中に向かおうとハジメだが後ろにあった大樹から視線を感じて振り返る。すると灰色の子ザルが枝の上からこちらを見ていた。ハジメは子ザルに近づいて話しかける。


「お前って河原に居た子ザルだよな? こんなとこにいたらは危ないぞ」


 言葉が分かるのか子ザルは嬉しそうにその場で飛び上がる。可愛らしい子ザルの仕草に顔が緩むハジメだったが次の瞬間その顔が固まってしまう。子ザルがニカっと笑いハジメに話しかけてきた。


「カッカッ! 甘いのう小童。核人の何たるかを全然わかっとらん!」

「えっ・・・」


 驚く間もなく後ろでドスンドスンと何か近づいてくる音に気付き慌てて振り返る。そこには消し飛んだ右半身が元通りになっている大猿が立っていた。大猿の左腕が今まさに振り払われようとしている。


「しまっ・・・!」


 渾身の力を込めた左腕が振り払われる。ハジメは慌てて防御の体勢を取り全身<魔力塗装(コーティング)>で固めるが、大猿の裏拳と言える殴打で大樹に叩きつけられる。


「がはっ!」


 <魔力塗装(コーティング)>で固めていたが完全に防ぎ切れず攻撃を受けた際に左腕がミシリと音を立てた。そして大樹に叩きつけられた際の全身に伝わる衝撃は<魔力塗装(コーティング)>では防ぎきれなかった。地面に崩れ落ち意識が朦朧となるハジメの目の前に子ザルが近付いてくる。


「勝負ありじゃな。まだまだ修行が足りんわい。カカッ!」


 そう言って子ザルの笑顔を最後にハジメは意識を失ってしまった。





「うっ・・・あれ? ここは・・・オレの部屋?」


 意識を取り戻すとハジメは自分の部屋のベッドで寝ていた。


「キュィイイイ!」


 枕元でパルが嬉しそうに鳴き声を上げる。


「パル・・・どうなって・・・ぐっ!」


 起き上がろうとした途端左腕に激痛が走る。左腕を見ると添え木をされ包帯が巻かれていた。


「痛いって事はまだ生きてるって事だよな」


 部屋の天井を見つめながら自分の状況を確認する。とりあえず起き上がろうかと考えているとドアが開いた。


「あら、ハジメ。気が付いた?」

「母上」


 クラウが容器や包帯などを持って入ってきた。ハジメが目を覚ましているを見てニッコリと微笑む。ハジメは上半身だけ起こす。


「あら、起きて大丈夫?」

「ええ、左腕以外は問題なさそうです」

「そう、よかったわ。ここに連れて来られた時はグッタリとしてたから心配したのよ」

「すみません」

「いいのよ、それより包帯替えるから左腕出して」

「あ、はい」


 左腕を出すとクラウが包帯を外して添え木を取る。そして容器から葉などをすり潰したと思われる緑色の物体を取り出す。


「あの、母上それはなんですか?」

「これ? これは薬よ。骨折とかヒビに効くの。ハジメはヒビだけだから3日も塗っていれば治るわよ」

「3日・・・すごいですね」


 地球の医学ではありえない事に、改めて異世界を認識せざる得なかった。


「ラウお手製で効果は保障するわ」


 患部に薬を塗り、添え木をして、清潔な包帯で巻きなおす。


「これでよし。それにしてもヌシ相手にこれだけで済むなんてすごいわよ」

「<魔力塗装(コーティング)>がなかったら死んでいたかもしれませんね。そう言えばさっき連れて来られたって言ってましたが誰が連れて来てくれたんですか?」

「あ、彼ならまだ居間にいるわよ」

「そうなんですか。それじゃ居間に行きます。お礼を言わないと・・・」


 ハジメは左腕を動かさないように注意して立ち上がる。ずっと寝ていたせいか動きにぎこちなさがあったが歩くのに支障はなかった。パルもゆっくりとハジメの肩に乗る。


「大丈夫?」


 クラウが腕を組んで支えようとする。だがハジメは慌てて組まれた腕を解いた。


「だ、大丈夫です! 母上」


 真っ赤になるハジメを見てクラウは「たまには甘えてもいいのに」とつまらなさそうな顔をする。そのせいでさらにシドロモドロになるハジメを見てクスクスと笑うクラウ。「こちらが恥ずかしがるのを楽しんでいる節がある」と常々感じていたハジメはそんなクラウを見て溜息を吐くと一緒に部屋を出て行った。

 居間に行くと3人がテーブルを囲って談笑をしていた。オルタスとラウ、そして灰色の子ザル。子ザルを見た瞬間ハジメは素っ頓狂な声を出す。


「ああああっ! お前! えっ、なんで!?」

「お! ハジメおはよう! もう動いて大丈夫かい?」

「おはようございます坊ちゃん」

「おお、元気そうじゃの小童」


 居間にいる2人と1匹はハジメに気付き声を掛ける。


「あ、おはようございます。それよりなんでコイツがここに!?」

「コイツとはなんじゃ!」


 コイツ呼ばわりされ怒り出す子ザル。向かいに座っているオルタスが「まぁまぁ」と宥めた。


「ハジメ、改めて紹介しておくね。彼が森のヌシ。見た目は子ザルだけどオレよりずっと長生きしてる核人だよ」

「そういう訳じゃ」

「あ、そう言えば爺さんって名前なんて言うんだっけ?」

「知り合って300年近く経つというのに今更聞くか小僧! ・・・と言いたいがワシも名乗った覚えがないのう。森で住んでおれば名前などあってないような物じゃからな。そうじゃな・・・灰猿とでも呼んでくれ」

「爺さんそれは見たまま過ぎだと思うよ」

「うるさいわ!」

「あの・・・」


 オルタスと灰猿の会話にハジメが割って入る。


「それでその灰猿・・・さんは父上とどういう関係なんですか?」

「あ~、それを説明しなきゃいけないね」

「なんじゃ言わずに森に入らせておったのか」

「教えてたら意味ないしさ。っと、説明だね。300年くらい前にちょっとした出来事で知り合った友人ってところかな。それからはたまに会って話したりする間柄だね」

「フン、出会いは最悪だったがの」


 灰猿は苦い顔をしながら呟く。


「アッハッハ。まぁいい思い出じゃない。それと今回の最深部での襲撃はオレが爺さんに事前に頼んでいた事なんだ」

「えっ」

「この世界には闘うとなると厄介な相手が色々いるっていうのは前に言ったね。その代表格が核人ってわけさ。それはハジメも身を持って体験したんじゃないかな?」


 ハジメは森での戦いを思い出して頷く。


「核人というのは核と魔力さえあればいくらでも復活できる。おまけに様々な能力を持っているのがほとんどだ。知性が動物と変わらないならまだマシだけど人間かそれ以上となるとかなり厄介。そこで核人との戦闘を体験してもらう為に爺さんに頼んだって訳。ラウでもいいんだけどそれだときっとお互い遠慮しちゃうしね」

「そういう訳じゃ」

「そうだったんですか・・・あ、オレと戦った黒い大猿はどうしたんですか?」

「これのことかの?」


 そう言うと灰猿が腰を掛けているイスの背もたれに映る影からヌッと大猿の上半身が出てきた。


「うわっ!」


 ハジメは驚いて後ろに1歩下がる。


「そんなに驚かんでもいいじゃろ」


 灰猿が呆れた顔をすると大猿を影の中に戻した。


「さて、今回のお主の主な敗因は核人の事をあまり知らんかったからじゃ。核である魔晶石が壊れると魔力で造った体は塵となって消えるんじゃ。半身が残ってるという事は核は無事。気を許す、ましてや背を向けるなど殺してくださいと言ってるようなもんじゃ」

「なるほど・・・」

「あとお主の身を守る魔法」

「<魔力塗装(コーティング)>ですか?」

「そう、それの強度を上げる事と発動速度をもっと速くした方がいいのう。影の一撃を完璧に防げるくらいにな」

「なるほど、わかりました」

「ふむ、聞き分けのいい小童じゃ! 小僧よりも好感が持てるのう」

「オレよりもって所が気になるけど、たしかにハジメはいい子だからそれには同意するよ!」

「なんじゃ親馬鹿じゃのう」


 オルタスと灰猿が笑い合う中クラウが2人の間に立ち2人の肩に手を置く。


「2人共楽しそうですけど、ハジメがこんな怪我をするのは今回だけにして下さいね」


 顔は満面の笑顔だが、いつもと違う笑顔だとその場に居る全員が分かっていた。


「も、もちろんだよクラウ! 大事な我が子に怪我なんてもうさせないよ。だから・・・その手の力を緩めてくれると・・・嬉しイ・・・イダダダ」

「お、おっかなくなったもんじゃのう。さすが母親というわけじゃな」


 肩に手を置いただけで2人を制するクラウを見て「母上は怒らせないようにしよう」と心に誓ったハジメだった。





「さて、そろそろワシは戻るとするかの」

「そうかい? じゃあ見送るよ」


 玄関へ向かう灰猿にオルタス達も続く。外に出ると灰猿は影から黒い大猿を出す。大猿の肩に乗りこちらを向くとハジメに話しかけてきた。


「小童、また遊びに来い。大体大樹の所にいるからの」

「はい、わかりました」

「それじゃ他の者もまたの」


 そう言うと大猿は森の中へ消えて行った。


「ハジメずいぶん気に入られたみたいだね!」

「そうなんですか?」

「ああ、また会いに行ってあげると爺さんも喜ぶよ」

「はい・・・あ、そうだ」

「ん? どうかしたかい?」

「父上、大樹に書いてあった文字ですけど・・・」

「あ! そうだったね。わかったかい?」

「はい、アレをあそこに書いた経緯を知りたいんですけど」

「アッハッハ! それはまた今度話してあげるよ」


 笑い声を上げるオルタスを見てクラウは首を傾げる。その様子を見て話を聞く事がより一層楽しみになったハジメだった。

いつもよりボリューム多めでした。

お爺さん口調って書いててちょっと楽しいのでまたお爺さんキャラを出したい。


次回もよろしくお願いします。

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