第24話 意思伝達とオルタスによる特訓
その後オルティダとシャワルを襲撃したルビカスと負傷したルビカスを連れ去ったシーケックの行方は結局分からなかった。王都や港町でルビカスと関わりがある場所を調べたが手がかりもなく、国外へ逃亡したとの結論が出た。
王都地下で見つかった通路は騎士団と学者による調査の後に出入口をすべて封鎖された。
シャワルを次期国王にするという発表は後日城内にて行われ、数日の間街ではお祭り騒ぎになった。
そして魔法科4年目に突入したハジメは今パルに乗って村へ向かっている。
「はぁ、なんか緊張するな。こういうもんなのかなぁ・・・」
「グァルル?」
パルは普段より少し緊張した面持ちのハジメの顔を覗き込む。それに気づいてハジメはパルの首を撫でた。
「なんとなくは伝わってるはずだし、きっとうまくいくさ」
自分に言い聞かせるようにパルに言う。パルも励ますように鳴き声を上げる。
ハジメは両親に冒険者になりたいとちゃんと伝える為に村へ向かっていた。ノマージ達と話をしてからすぐ行こうと思ったがどう伝えるか、反対されるのかなど考えれば考えるほど不安になり先へ伸ばしてしまっていた。4年生になりやっと決心がついたのだった。
「我ながら時間かけすぎだよな」
そんな独り言を言っていると村が見えてきた。村の入り口手前で降りるとこちらに気付いたドルガンが手を振って迎えてくれた。
「よう! ハジメじゃないか。今日はどうした?」
「こんにちわ師匠。今日は父上達に用があって」
「おう、村長なら今は家にいると思うぞ」
「ありがとうございます」
ドルガンと別れ、村の奥にある家に向かう。途中すれ違う人々の声に応えつつ家の前まで来るとちょうどラウが家から出てきた。
「これは坊ちゃん。今日は如何なさいました?」
「やぁラウ。父上と母上はいる?」
「はい、いらっしゃいますよ」
そう言うとラウは扉を開きハジメを招き入れる。居間に行くとオルタスとクラウが座っていた。
「おや、ハジメじゃないか。どうしたんだい?」
「何かあった? ハジメ」
突然の訪問に少し驚いた様子の2人。そんな2人の顔を見てハジメは緊張して言葉が詰まる。
「あ、あの、父上と母上にお話があって・・・ですね・・・」
「あら、何かしら改まって」
「まぁ、席に着いたらどうだい?」
オルタスに促され席に着くハジメ。ラウが3人の前にお茶を置く。
(あ~~・・・親に自分のしたい事を伝えるのがこんなに緊張するなんてなぁ)
ハジメはお茶を一口飲んでから勇気を振り絞って口を開いた。
「オレ、卒業したら冒険者になろうと思ってます!」
ハジメの発言に2人はキョトンとしている。
(驚いてる! は、反対されるかな・・・)
不安になってくるハジメだったがオルタスの一言でその気持ちは吹き飛ぶ。
「うん、いいんじゃない?」
「へ?」
「いや、冒険者でしょ? いいと思うよ。ね? クラウ」
「私もいいと思いますよ。ハジメがしたい事ですし反対はしません」
「え? でも心配じゃ?」
「そりゃ心配さ。でもオレ達の息子だしうまくやれるよ。そう信じる気持ちの方が強いね」
ニッコリと微笑む2人。ハジメは胸が熱くなり少し泣きそうになったが恥ずかしいのでグッと堪えた。だがそんな感動もオルタスの一言で再び吹き飛ばされた。
「でも心配な事は変わりないし、その心配を少しでも減らす為には特訓が必要だよね!」
「そうですね。今時の冒険者の基準がちょっとわかりませんが鍛えておいて損はありませんもの」
「どうせなら一流になってほしいしね! よし、それじゃ卒業までビシバシ鍛えていこう! それでいいね? ハジメ」
「え? あ~・・・え?」
2人の間でどんどん話が進むなか当の本人は完全に置いてけぼりになり、状況を整理して理解するのに15分ほどかかった。
卒業後の進路を決めてその自主勉強がメインとなる4年生は授業時間が今までに比べたら半分以下になるのと、パルのおかげで村と王都の往復時間がかなり短縮できるので授業がある日以外はほとんど村で特訓をする事になった。
「さて、こんなところかな。何か質問はあるかい?」
「・・・話を聞いてる間に自分の中で整理はできたので大丈夫です」
「よし、それじゃ次の休日からやっていこう!」
「がんばりましょうねハジメ」
ニッコリと微笑む2人に笑顔が引きつるハジメだった。
「それじゃオレは王都に戻ります」
「ああ、気を付けて」
「パルちゃんもまたね」
「グァルル!」
パルに乗って飛んでいくハジメを見送るオルタスとクラウ。
「やっぱり冒険者になるかぁ」
「村に居た頃から言っていたみたいでしたから。・・・心配ですか?」
「そりゃね。でも、この国にずっといるって事はないんじゃないかなとは思ってたよ」
「あら、何故です?」
「だってオレ達の子だからさ!」
「フフフ、確かにそうですね」
自信満々に断言するオルタスを見て嬉しそうに微笑むクラウだった。
[カッコイイ村長No.1のオルタスと最愛の妻クラウによる目指せ!一流冒険者への道」(命名オルタス)
「長すぎませんか? この名前」
「ん、そうかい? 割と皆には好評だったのだけど」
「・・・もしかして村中に聞いて回ったんですか!?」
「うん、皆良いと言ってくれたよ! いやぁ自分でも会心の出来だと思う」
「アッハッハッハ」と笑うオルタス姿を見て頭を抱えるハジメ。
休日の朝、村に来たハジメは早速オルタスと特訓を開始することになった。だが具体的な内容を聞いていなかったのでその説明から始める。
「さて、一流冒険者への道って訳なんだけど、ハジメに一つ謝らなきゃいけないことがある」
「なんですか?」
「実はオレ達は正確には冒険者じゃないんだ」
「?」
「今の冒険者って言うのは何とかって組合に登録してそこから依頼を受けて仕事をするらしい。でもオレ達の時代、つまり300年前の冒険者ってのは組合なんて無く、ただ世界中を旅している者の事だったんだ」
「今の冒険者は旅をしないのですか?」
「ドルガンの話だと世界中を旅する者もいれば、街に住んでその周辺の依頼を中心に受ける何でも屋みたいなのも居て一括りみたいだね。どちらにしても組合に登録しないといけないらしいよ」
「なるほど」
「それで今時の冒険者としての常識なんかはこの際置いといて・・・」
「置いておくんですか?」
「正直なところオレ達もわからないし、ドルガンに聞いたら組合に入った時に説明が受けれるらしいよ。それよりもハジメには世界を旅する上で必要な事を習得してもらおうと思ってね」
「それが特訓ですか?」
「そういうこと。この特訓で目指すのは"どんな事態に陥っても切り抜けられる"ほど強くなる。それを目指してもらうよ」
「は、はい!」
「それじゃ、早速特訓を開始しよう。オレが教えるのはは対人戦。動物や魔物なんて呼ばれる生き物は小さい頃から狩りなんかでやってたと思うけど、武器を持った人間との戦いはあまり経験ないよね?」
「そうですね。道場での訓練くらいです」
「そこで色々な武器を持った人と戦ってもらおうと思う。慣れたら複数の人ともね」
「え? でも父上は武器での戦闘はできないんじゃ? それに複数って・・・」
「フッフッフ。ここでオレの魔人魔法<軍団>の出番というわけさ」
不敵な笑みを浮かべるとオルタスの目が紫色に輝く。すると周りの地面から黒い人型の塊が数人現れた。
「こ、これは・・・」
「あ、ハジメは見たことなかったっけ?」
「はい、初めてです」
昔シャワル達を襲った盗賊を退治した時にオルタスは<軍団>を使ったが周りをクロフレイアの炎の壁で囲んでいた為ハジメは見えていなかった。
「それじゃ説明しようかな。オレの<軍団>は過去に出会った人を複写する魔法。複写するには条件があってその人の事を良く知っている事。その人の体格、性格、特徴なんかね。で、行動もその人の考え方で動くからなんでも言う事を聞いてくれるわけじゃない。今回出てきたのは<軍団>の中でハジメの特訓に付き合ってくれそうな人達ってわけ」
「は、はぁ・・・」
黒い人達を見ると大柄な男や小柄な女性など6人がそれぞれハジメに向かって挨拶している。
「彼等はオレが冒険者をしてた時の仲間で実力は超一流。まぁ、面倒見のいい人達だから安心していいよ。それじゃまずは彼と戦ってみようか」
そう言うと大柄な男が前に出てきた。手には大きな両手斧を持っていて体の形から頑丈そうな鎧を着ているように見えた。
「あ、そうそう一ついい忘れた」
「な、なんですか?」
「<魔力塗装>は忘れないようにね。当たり所が悪いと大怪我するから」
「き、気を付けます」
結果から言うとハジメはコテンパンにされて何度も気を失いそうになった。見た目からは想像もできない素早い攻撃が何度も襲ってきてオルタスの忠告通り<魔力塗装>をしていなければ死んでたんじゃないかとハジメに思わせる攻撃もいくつかあった。それでも相手は手加減している様だったから実力の差に愕然とした。
(大昔の冒険者ってこんななのか・・・)
大の字になって地面に倒れているハジメに向かってオルタスは声を掛ける。
「いや、よく持った方だと思うよ。今のはオレ達が入っていた傭兵団の団長なんだけど規格外な強さだったからね」
「よ、傭兵団の団長・・・。あんな大きい両手斧をあれだけ振り回す人初めて見ました」
「アッハッハ! まず目指すは団長と渡り合えるところかな。明日からは別の人とも対戦してもらうよ」
「別の人・・・ですか?」
「うん、色々な武器の達人がいるからね。彼らと戦い続ければその対処法も身に着くよ」
改めて過酷な訓練だと身を持って知ったハジメだった。
特訓をするようになったある日、ハジメは家の庭で一人で座り込んでいた。手元には魔法陣の教本が広げられている。
「やっぱり・・・魔法陣を描く時間と内容がわかってしまう点・・・だよなぁ」
一人でブツブツと言いながら考え込むハジメ。その日ハジメは新しい魔人魔法開発をしていた。前々から興味があった魔法陣を元に考えているのだが、まずはデメリットを消すことから考えた。一般的なこの世界の魔法陣は精霊文字と呼ばれる文字で描かれた陣に魔力を込めるもので、主に罠に使われる。他には闘技大会でのスピーカーの様な日常生活でも役に立っている。問題としては描くのに時間がかかる点や、長時間効果を持続するには大量の魔力を込めるか定期的に魔力を込めないといけない点、罠として仕掛けても精霊文字を知っている者には見ればすぐ効果がわかってしまう点だった。魔法陣の維持はハジメの魔力の上限がほとんど無いので一度に桁違いの魔力を込めれば問題なかったが、描く時間と精霊文字の問題を考えていた。
「ぶっちゃけ文字いらないけど無いと何の魔法陣か忘れそうだしな。せっかくだから見た目は魔法陣っぽくしたいし。うーん、オレにしか分からない文字というと・・・日本語かな、やっぱり」
魔法陣の表記にこの世界では使われてないと思われる日本語を使う事にした。次に魔法陣をどうやって出すか。
「魔力でそのまま魔法陣を作るか・・・。問題は作り方だよなぁ。指で1つ1つ描くのはめんどくさいし・・・」
指先に魔力を込めて地面に魔法陣を描く。紫色に光る魔法陣が出来上がるとその上に石を投げ入れる。石が魔法陣に触れた瞬間魔法陣の上に炎が舞い上がった。
「うーん。イメージ通りの現象も起こせるし魔法陣自体に問題ないか。もっと早く描くには・・・いや描くんじゃなくてハンコみたいなイメージの方がいいかな」
その後も試行錯誤を繰り返し数日後には完成することができた。
「さて、それじゃ今日も特訓を始めようと思うんだけど。その前にハジメの新しい魔人魔法の披露をしてもらおうかな。クラウやラウもいるしね」
「えっ・・・」
突然言われて驚くハジメ。オルタスは勿論、後ろで見ていたクラウとラウもこちらを見てニコニコしていた。
「わかりました」
「うん、それで新しい魔法はどんなものなんだい?」
「魔法陣なんですけど<魔法印>って名前にしようかなと思ってます」
「おお、今回もまた変わった名前だね。よし、それじゃやってみせて」
「はい」
クラウ達が後ろでパチパチと拍手をするので少し恥ずかしくなったが、一呼吸して右手を前に出す。すると広げていた掌に直径15cm程の魔法陣が浮かび上がる。そしてその手を地面に置くと魔法陣が1m程に拡大して地面に移った。
「へぇ、魔法陣を魔力で直接作ってしまうのかぁ。それなら描く手間が省けるね。ところでここに書かれてる文字はなんだい? 見たことない文字だけど」
「えっと・・・精霊文字だと他の術者に魔法陣の内容がすぐわかってしまうので自分だけに分かる文字にしました。暗号みたいなものですね」
「なるほど! いいんじゃないかな。あとは・・・これは上に乗ったら発動するのかな?」
「ええ、でも危ないですよ?」
「アッハッハ、オレは乗らないよ。ラウ、何か持ってないかな?」
「では、こちらで如何でしょうか?」
そう言うとラウは人1人が入りそうな大きな樽を持ってきた。
「よし、それじゃそれを置いてみて」
ラウは樽をゆっくり魔法陣の上に置く。魔法陣に触れた瞬間ピカッと光り魔法が発動する。発動する内容は魔法陣に書かれた通り。
"フレタラフキトブ"
樽は一瞬にして天高く飛んで行く。そしていつまで経っても樽は落ちてこなかった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
3人とも空を見上げたまま黙ってしまっている。
「あの・・・どうですか?」
「・・・すごいよ! さすが我が息子!」
オルタスは嬉しそうにハジメの肩をバシバシ叩く。クラウもハジメを見て微笑んでおり、ラウも拍手を送っていた。
「よかった。人に見せてなかったのでちょっと心配してました」
ハジメは照れさそうに頭を掻く。
「ただ、気をつけなきゃいけない事はあるね!」
オルタスは笑顔で注意点を上げる。
「何ですか?」
「うん、この魔法って威力の加減できるかい?」
「はい、調整は可能です」
「今の威力だと人間は助からないから人にやるときはもうちょっと弱めのほうがいいね。ハジメも無暗に殺したくはないだろう?」
「・・・そうですね。気を付けます」
「よし、それじゃいつもの特訓を始めようか!」
「はい!」
そして今日も<軍団>を使った特訓が始まった。
新たな魔法を身に着けたハジメ。今までの魔法に比べたらかなり過激な魔法になりました。
そして次回はクラウも特訓に参加! 予定です。
次回もよろしくおねがいします。