第22話 衣装合わせとシャワルの誕生会
闘技大会の会場も解体され大いに盛り上がった国民達もすっかり普段の生活に戻ってしばらくしたある日、ハジメはシヨナから家に招待された。ヒルナン、エルレア、ラニアンも同じく招待されたので疑問に思いつつもシヨナの家に向かった。
「いらっしゃい。さぁ座って」
執事のスカリーに応接間に案内され部屋に入るとシヨナが笑顔で迎えてくれた。4人は勧められたソファーに座る。
「あの、シヨナ様。今日はどんな用事で?」
4人を代表してハジメが聞く。
「あら、言ってなかったわね。もうすぐお城でシャワル王子の誕生会が開かれるのよ」
「誕生会?」
「ええ、毎年ある事なのだけど今年は特別なのよ。今年はオルティダ王から正式に次期国王をシャワル王子にするという発表があるの」
「なるほど、それは特別ですね。で、それと今日呼ばれた事とどんな関係が?」
「シャワル王子が貴方達4人を招待したいと仰られたのよ」
「え?」
「まじで!?」
4人の驚く表情を見て「ふふふ」と笑うシヨナ。
「今までシャワル王子から誰かを招待したいと仰られた事はなかったのでオルティダ王も嬉しかったのね。それで私からハジメ君達に伝えるように頼まれたのよ」
「な、なぁハジメ、オレ達貴族でも何でもないし行ってもいいもんなのか?」
ヒルナンがハジメに話しかける。それに対してシヨナが答えた。
「それは問題ないわよ。なんたってシャワル王子とオルティダ王直々の招待ですもの」
「あ、あの・・・」
ラニアンがオドオドと手を上げる。
「僕そういう会に出た事ないので服がないのですが・・・」
「オレもそうだな」
「あ、オレもだ!」
「私も・・・」
4人とも当然のことながら普段着ている服しか持ち合わせてなかった。
「それも大丈夫。私が用意してあげるわ。その為に今日呼んだのですもの」
そう言うとスカリーに合図をする。スカリーが部屋の外に出てしばらくすると沢山の衣装を持った男女を数人引き連れて戻ってきた。ハジメ達は呆気にとられている。
「えっと・・・シヨナ様、これは?」
「1から仕立てるのも良かったのだけど皆まだ成長期でしょう? 私の子供達が昔来ていた服や孫の服が沢山あるからそれから選んでもらおうと思って。気に入ったものが見つかればいいのだけど・・・」
ズラリと並んだ数十着の衣装を見ながら困った顔をするシヨナ。
「いえ、十分過ぎますよ! というか貸してもらってもいいんですか?」
「あら、差し上げるつもりよ? これだけあるんですもの気に入ったのがあればいくつでも」
「いや、それはさすがに申し訳ないですよ。なぁ、ヒルナン?」
横を見るとヒルナンはすでに並んでいる衣装を見に行っていた。
「おお、この赤いやつかっこいいな。あ、でもこっちの青も・・・」
「・・・何してんだヒルナン」
「え? せっかくくれるって言うんだから遠慮しちゃ失礼だろ」
ヒルナンは両手に衣装を持ちながら答える。
「ヒルナン君の言うとおり。遠慮なんてしなくていいわよ。衣装もただ仕舞い込んでおくのもかわいそうだから」
「・・・わかりました。それじゃお言葉に甘えます」
「あ、ありがとうございます!」
様子を伺っていたラニアンとエルレアも一緒に頭を下げる。ヒルナンも衣装を持ったまま頭を下げていた。そしてまた衣装を見ていたヒルナンが何かに気付いた。
「あれ? これ全部男物じゃないか?」
「あ、ホントだ」
並べられた衣装は全部男物だった。それを聞いたシヨナが答える。
「ああ、エルレアちゃんの衣装はまた別なのよ。試着もあるしエルレアちゃんは私と隣の部屋に行きましょう」
「あ・・・はい」
シヨナは衣装を持ってきた女性達とエルレアを連れて部屋を出て行ってしまった。
「女物も沢山用意されてんのかな」
ヒルナンの独り言のような疑問にスカリーが笑顔で応える。
「今回用意された衣装の3分の2は女性のお召しになる衣装ですのでここの倍と考えていただければ」
「これの倍・・・」
「ま、まぁエルレア普段あまり着飾ったりしないしいい機会じゃないか?」
ハジメ達3人は苦笑を浮かべながら自分の衣装を選んで行った。
ハジメ達が選び終わってしばらく待っているとやっとエルレアが戻ってきた。げんなりとした顔をしていたのでどうしたのか聞くと、シヨナに用意された衣装をほとんど試着させられたという事だった。1つ着るたびに「きゃー、かわいい!」「こっちも似合うんじゃないかしら」「じゃあ次はこっちにしましょう!」と周りの女性が大盛り上がりになっていたとか。
「た、大変だったな」
「もう懲り懲り・・・」
その後も誕生会で失礼がない様に最低限のマナーなどを教えてもらい。当日の夜を迎えることになった。
「さすが国が主催だと豪華だな」
ハジメの前に前世で想像した「中世の貴族のパーティ」が広がっている。どの貴族達も普段の数倍着飾っており、テーブルには高級そうな料理が並び、楽団が奏でる上品な音楽が大広間の中に響き渡っている。ハジメはその場の雰囲気に圧倒され大広間の隅でその光景を見ていた。
「まさか実際に体験できるなんてなぁ。招待してくれたシャワルに感謝しなけりゃな」
「なに一人でブツブツ言ってんだ?」
「王家の誕生会に圧倒されてな」
「まぁ、その気持ちはわかる。それにしても慣れねぇなこの服。それに髪型もおかしくないか?」
「大丈夫だと思うよ。でも着慣れない物着てると落ち着かないよね」
ヒルナンとラニアンはお互いの恰好を見ている。シヨナから貰った服はいわゆる貴族が着ている服で、白いシャツにベスト、その上にジャケットを羽織り、キュロットを履いている。それぞれ色々な個所に細かい刺繍が入っており高級感が出ていた。色はハジメは紺、ヒルナンは赤、ラニアンは黄を選んでいた。ハジメは「信号機みたいだな」と思ったが言っても伝わらないので黙っていた。髪型もシヨナの所で綺麗に整えてもらい見た目は十分貴族だった。ちなみにパルは貴族達に見つかって何を言われるかわからないので部屋で留守番をしてもらっている。
「でもエルレアはバッチリ決まってるよな。どこから見ても貴族のご令嬢って感じだし」
「なにそれ」
エルレアは少し不満そうな顔をしていた。散々試着させられたエルレアが最終的に選んだのはシンプルな淡い緑のドレスだった。シンプルと言っても淵などには金の刺繍が入っていて袖にはフリルが付いていた。コルセットで腰のラインも細くしており普段使っていないエルレアは少し苦しそうだった。
「それにしてもオレ達完全に浮いてるよな。どっか落ち着くとこねぇかなぁ」
「あ、それならあっちから外に出られるよ」
「お、いいね! 外に出てみようぜ」
バルコニーに出たハジメ達が談笑をしているとシャワルとヨークソンが来た。
「お! シャワル! それにヨークソンさん」
「やぁ、皆来てくれてありがとう」
「シャワル誕生日おめでとう」
「そうだ! おめでとう!」
「おめでとうございます」
「おめでとう」
「皆、ありがとう」
シャワルは少し恥ずかしそうに笑っている。それを見てハジメ達も笑顔になった。
「そうだ、皆闘技大会の後大活躍だったんだって?」
「シャワルにも伝わってるのか」
「大まかにはね。でも詳しくは知らないからハジメ達と会ったら聞こうと思ってたんだ」
「よし! そう言う事ならオレに任せろ!」
ヒルナンは胸をドンと叩いて頷く。
「うん! ありがとう」
「お前だとなんか誇張されそうで怖いな。王子に変な事を言うんじゃないぞ?」
「大丈夫! オレを信じてくれ。ヨークソンさん!」
「ふむ、じゃあ真実と違う場合はすぐ指摘するから気をつけるように」
「なんか監視されてるようで気が重いな。ま、とにかく最初は大会終わって祝勝会やったところからだな」
ヒルナンが身振り手振り付きで話すのをシャワルは真剣にそして楽しそうに聞いていた。間違いがあれば指摘すると言っていたヨークソンも話の腰を折る事もなく笑顔で聞いていた。バルコニーに居た他の貴族も熱の入ったヒルナンの語りに興味を持ったのかギャラリーが次から次へと増えて話が終わると大きな拍手に包まれヒルナンは照れくさそうな顔をしていた。
というわけでシャワルの誕生会前編でした。
このまま「おめでとう」「ありがとう」で終わるわけがありませんね。
そんなわけで次回もよろしくお願いします。