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ジュエル!  作者: asobito
バスティア学園編
25/67

第20話 闘技大会と悪党達の結末

2012/04/1 誤字修正しました。「地点」→「時点」

2012/04/4 総合PV10万突破! お気に入り登録も目標の200件を突破することができました。本当にありがとうございます。これからもよろしくおねがいします。

2012/08/7 ご指摘のあった誤字を修正しました。

勝手にランキングさんのリンクを目次と各ページ下部に貼らせてもらいました。気に入って頂けましたら投票してもらえるとありがたいです。

 次の日、ハジメ達は学園中央の広場に集合した。シヨナとスカリーも合流すると一緒に貴族席に向かった。


「さて、もうすぐ始まるわね」

「昨日の予選からするとヨークソンさんが優勝候補ですかね」

「まだ実力を出してない選手もいるだろうし、勝負はやってみないとわからないぜ!」

「ヒルナン君の言うとおりね。何事も実際にやってみると意外な結果になったりするものよ」

「経験者は語る、ですか?」

「ふふふ、それはどうかしら」


 シヨナが上品に笑っているとアナウンスが聞こえてくる。


『皆様、長らくお待たせいたしました。これより闘技大会一般部門本選を始めます。勝ち抜き戦の組み合わせは事前にクジ引きで決めさせていただきました。対戦表は各入口で係が配っておりますのでそちらでお求めください。それでは第1試合を始めます。選手は入場して下さい』


 選手が入場すると闘技場は観客達の歓声に包まれた。白熱した試合にハジメ達も声を出して応援した。そして数試合が終わり次がヨークソンの試合となった時、シヨナがスカリーに何かを耳打ちする。するとスカリーがアナウンス席の方へ行き、しばらく何か話をして戻ってきた。ハジメが不思議そうに見ているのに気付いたシヨナが笑顔で話しかける。


「あら、気になる? せっかくだから一層頑張ってもらう為の演出をちょっとね」

「演出・・・ですか?」


 まったく見当がつかないハジメ。そうこうしているうちにヨークソンが入場してきた。歓声に包まれる中アナウンスが響き渡る。


『さぁ、今入場されたヨークソン選手。今日は愛しの女性ヒルエ嬢も応援に駆け付けて来てくれているという事です! ヒルエ嬢の為にも是非頑張って下さい』


 アナウンスが終わると歓声はさらに大きくなる。試合の応援というより2人を祝福する声がほとんどだった。


「はっはっはっは! これは負けらんねぇなヨークソンさん」

「うん、たしかにね」

「愛の為に戦う騎士様、かっこいいね」

「素敵よねぇ」


 突然のサプライズ演出にヒルナン達も大盛り上がりだった。


「演出ってこれですか?」

「どう? これだけ盛り上がったら負けるわけにはいかないでしょう?」

「あの、かなり動揺しているようですけど・・・」


 ハジメが指摘した通り突然のアナウンスによりヨークソンはかなり動揺しているようだった。動揺したヨークソンは無意識なのかついヒルエのいる方を見てしまう。それによって他の観客もヒルエがどこにいるかわかってしまいさらに盛り上がる。


「うう・・・ヨークソン様こっち見ないで!」


 ヒルエは顔を真っ赤にして俯いてしまっていた。


「ま、まぁほとんど街中が知ってる事なんだしいいんじゃね?」

「そういう問題じゃないの!」

「いてっ!」


 ヒルナンがなんとかフォローしようとするが、ヒルエには通用せず頭を小突かれた。そんな姉弟のやりとりを見て冷静さを取り戻したのかヨークソンはすぐ落ち着きを取り戻し対戦相手の方を向く。それを見てハジメは感心する。


「おお、立ち直り早い。さすが騎士だな」

「立ち直りって時点でこの演出失敗してないか?」


 ハジメは冷静なヒルナンのツッコミを軽くスルーして始まった試合を観る。結果はヨークソンの勝利。会場全体がヨークソンを応援していたのでハジメは完全にアウェーになった相手選手が少し可哀そうになった。

 その後もヨークソンは順調に勝ち進み、ついに決勝戦になった。


「予想通り勝ち進んだな」

「おう、でも次の相手は強いと思うぞ」

「ノマージって人だよね。あの人も全然苦戦してなかったもんね」


 決勝戦の相手は予選でハジメが気になった男ノマージだった。


『それではこれより決勝戦を開始します。選手、入場して下さい』


 アナウンスと共にリングに上がるヨークソンとノマージ。向かい合うヨークソンにノマージが話しかけてきた。


「よぅ、ヨークソンさんだっけ。今までの試合見させてもらったけどなかなか強いな」

「そう言う君もかなりの実力だと思うがな。冒険者か?」

「ああ、大会があるって聞いてね。小さい国だし大したことないかなと思ったらアンタみたいに強い人がいて嬉しい限りさ」

「戦闘好きという訳か。この国にいる間は問題を起こすなよ。この国は争い事とは無縁の平和な国なのでね」

「ふ~ん、平和主義って訳だ」

「当然だ。国の平和を守る事こそが騎士の務めだろう」

「う~~~ん・・・」

「なんだ?」

「聞いてた話と違うからさ。どうしたもんかなぁと」

「聞いてた話?」

「あ、こっちの話。それじゃそろそろやりますか」


 ノマージは持っていた槍を頭上でクルクルと回した後、腰を落として構える。


「?。まぁいい・・・それでは、正々堂々勝負」


 ヨークソンは剣を持つ両手に力を入れ背筋を伸ばし構える。2人とも話をしていた時とは違い鋭い眼つきで相手の動きを読み合ってる。

 最初に動いたのはノマージだった。素早く近づくとヨークソンの膝目掛けて槍を振り払う。ヨークソンは後ろに飛び退き槍を躱したのと同時に斬りかかる。ノマージは槍を振った体勢からそのままクルリと回り、攻撃を躱した。二人は距離を取りまた構え直す。


「服装も変わってるが闘い方も変わっているな。そんな槍の使い方見たことがない」

「あ~、オレが普段使っているのは槍とはちょっと違うからな」

「ほう、どんな武器を使うのか少し興味があるな」

「ま、機会があったら見せる・・・よっ!」


 言うと同時に振り上げつつ飛び込み頭上に振り下ろす。ヨークソンは剣で受けるが、ノマージの蹴りが腹に直撃する。


「グッ!」


 咄嗟に剣で薙ぎ払い牽制する。ノマージもすぐ後ろに下がり距離を取るとトントンと軽くジャンプしていた。


「蹴り喰らってすぐ反撃できるかぁ」

「ふん、グァロキフスの騎士を舐めてもらっては困る。次はこちらから行くぞ」


 ヨークソンの連続して繰り出される攻撃を槍で受け、時に躱すノマージの表情は真剣そのものだった。ノマージも負けじとやり返す。2人の攻撃の応酬に観客達も2人の戦いを息を飲んで見守っていた。そしてそんな攻防がしばらく続いていたが、決着は意外とアッサリと着く事になる。

 脇腹へ薙ぎ払われた剣を槍で受け止めるノマージ。だが受けたと同時にヨークソンが体ごとぶつかってきて体勢を崩す。


「うおっ!」


 後ろによろめいたところに渾身の一撃が襲い掛かってくる。ノマージはすぐに槍で攻撃を防いだ。


 バキィ!


 乾いた音と共に槍が真っ二つに折れてしまった。


「げっ! 折れちまったか」

「さぁ、まだやれるか?」


 ヨークソンが構え直すのを見てノマージは両手をプラプラと振り降参の仕草をする。その瞬間静まり返った場内から割れんばかりの歓声が響く。


『ノマージ選手降参のようです! 決着がつきました!! 優勝はヨークソン選手です!』


 アナウンスの後も鳴り止まない拍手と歓声の中ヨークソンがノマージに近づく。ノマージは苦笑を浮かべている。


「いやぁ、アンタ意外と力あるんだなぁ。折られるとは思わなかった」

「ふ、いい勝負だった。また大会の時は是非出場してくれ」

「へへ、まぁ気が向いたら出るかな」


 ヨークソンから出された手に応えて握手をするノマージ。拍手と歓声はしばらく鳴り止まなかった。


「すげぇ戦いだったなぁ。この国の騎士の実力ってやつかぁ」

「目標はまだ先みたいだな」

「それぐらいの方がやりがいがあるってもんだぜ!」


 試合を観てハジメとヒルナンが話をしているとアナウンスが聞こえてきた。


『これより表彰式の準備に入ります。受賞者は直ちにお集まりください』


「お! オレ行かなきゃ」

「オレ達はここから祝うからな」

「わかった! じゃ、行ってくる!」


 ヒルナンが手を振りながら走って行った。

 しばらくすると表彰式が始まった。学生部門の上位3人、一般部門の上位3人が表彰され暖かい拍手に包まれた。試合ではまったく緊張していなかったヒルナンだったが表彰式になると一変。カチカチに固まってハジメ達の笑いを誘っていた。





 大会終了後、カシルの計らいで〔黄天亭〕で祝勝会をする事となった。ヨークソンはもちろん騎士団仲間やシヨナ、スカリー、そして街の住民が集まり大騒ぎになっていた。


「ヨークソン様、疲れてないですか?」

「ああ、大丈夫だ。せっかく開いてくれたのだから今日はとことん付きあわせてもらおう」


 大会での疲れを心配するヒルエに笑顔で応えるヨークソン。最初こそ次から次へと話しかけてきていたが一段落して2人の邪魔をする者はいなかった。ヒルエとの会話を楽しんでいたヨークソンだったが、ふと手元に2つに折られた紙を見つける。広げて中を確認するヨークソンの顔がみるみる真剣になっていった。それを横で見ていたヒルエが心配をする。


「ヨークソン様、どうしたのですか?」

「ん、ああ。・・・すまない、少し席を外させてもらおう」


 そう言うとヨークソンは女将に一声掛けて外に出て行ってしまった。それを見送ったヒルエだったが、やはり心配になり外へ出ていく。街の広場の所まで行くと後ろから声を掛けられた。





「あれ? ヨークソンさんと姉ちゃんどこ行った?」


 2人が居ない事に気付いたヒルナンが周りに聞く。


「え? さっきまでそこに居たけど・・・」

「あれ? どこいったんだろ」

「どうしたんだい?」


 ハジメ達がキョロキョロしていると女将のカシルが声を掛けてきた。


「ヨークソンさん達どこ行ったか知りません?」

「ああ、ヨークソンさんだったらちょっと用事があるって出て行ったけどねぇ。その後ヒルエちゃんも出て行ったと思ったけど・・・そう言えば遅いねぇ」

「どうしたんだろ・・・オレちょっと外見てくる」

「じゃあオレも行こう」

「じゃあ私も行く」

「僕も行くよ」

「私も行こうっと」

「私も」


 ヒルナンに続いてハジメ、エルレア、ラニアン、ラミィ、リニスが行く事になった。


「おいおい、ちょっと見に行くのになんでこんな大勢で行くんだよ」

「夜の街ってあまり出歩けないから」

「ちょっとドキドキするね!」


 それぞれ思い思いの理由を述べるのをハジメは苦笑しながら聞いていた。ハジメもかなり出来上がってきた大人達の騒ぎに疲れてきたところだったという理由からだった。





(やっぱり、あの依頼人の話デマのようね・・・)


 ウェーナは東側の住宅区から学園に向かって歩いて行くところだった。今回の依頼を不審に思ったウェーナは一人で街を回り情報収集をしていた。


(あの話がデマなら危うく面倒事に巻き込まれるところだわ。まったくノマージが考えなしに依頼を受けるから。早く伝えないと・・・あら?)


 広場の方を見ると数人の人影が学園の方へ歩いて行く姿が見えた。その中の一人は無理やり歩かされているように見える。


「何かしらあれ・・・。学園の方って今ノマージが・・・」


 広場に差し掛かるのと同時に正門の方から数人の子供達が歩いてくるのに気付く。先頭を歩いていた少年、ヒルナンがウェーナに話しかけてきた。


「お姉さん、この辺で女の人見かけなかった?」

「女の人? いえ、見てないけど・・・」

「見てないかぁ」

「こっち来てないのかな」


 後ろにいるハジメ達が話し合いを始める。


「でもヨークソンさん追って来たなら城の方じゃない?」

「正門の方に用事だったのかな?」

「う~ん、どうだろうね」

「あ、ちょっと! ヨークソンって親衛隊のヨークソン?」


 ヨークソンの名前を聞いて慌てて聞き直すウェーナ。ハジメ達は不思議そうな顔をして見つめる。


「うん、そうだけどそれがどうかした?」

(マズイ・・・すごく嫌な予感がする。さっきの人影がその女性だとしたら)

「お姉さん?」

「あ、ちょっと君達にお願いがあるのだけど、大至急騎士団の人達を闘技場の方へ呼んでくれる?」

「へ?」


 あまりに急な事に皆キョトンとしてる。ウェーナはゆっくり説明をする。


「恐らくだけどその女の人は悪い奴らに連れて行かれちゃったわ。きっとヨークソンを始末するのに人質として使う気ね」

「は? なんだそりゃ!」

「ど、どうしよ・・・」

「えっと、えっと・・・」

「落ち着け」


 状況を理解するにつれ動揺する皆をハジメが落ち着かせる。


「落ち着いてられるかよ! 姉ちゃんがあぶねぇんだぞ!」

「人質に使うならすぐ危害を加えるようなことはしないだろ。ですよね? お姉さん」

「え、ええ・・・そうね」

「とりあえず、ラミィとリニスは急いで〔黄天亭〕に戻って女将に説明して。騎士達を連れて来てくれ」

「う、うん。わかった」

「行こう、ラミィちゃん!」


 ラミィとリニスはすぐに〔黄天亭〕へ走って行った。


「じゃあ、ヒルナンとエルレアとラニアンはオレと一緒に闘技場へ向かうぞ」

「ちょ、ちょっと待ちなさい! 子供が行くなんて危ないわ!」

「オレの姉ちゃんが危ない目にあってんだ! 黙って待ってられっか!」

「そう言ってるしね。それにオレ達その辺の大人よりは強いから」


 そう言うとハジメ達は闘技場へ向かって走り出す。


「ちょっと! ・・・ああもう! もう面倒事に巻き込まれてるじゃない! ノマージ! 後で覚えてなさいよ!!」


 そう愚痴るとハジメ達を追って闘技場へ向かった。





「ふぇっくしょい!!」


 闘技場のリングの上で大きなクシャミをするノマージ。肩には布に包まれ2m程の棒状の物が担がれていた。


「誰かオレの噂でもしてんのかねぇ」

「お前は・・・」


 後ろから声を掛けられ振り返るとヨークソンが選手の入場口からこちらに向かって歩いて来ていた。


「どういう事か説明してもらおうか」

「ん? ああ、そうだったな。実はアンタを始末しろって依頼を受けてさ。なんでもあくどい事やって私腹を肥やしてるわ、王子に取り入って権力握ろうとしてるわ、まぁ色々やってるらしいじゃないの。あ、ちなみに手紙に書いてあった王子の事ってのはウソだから安心してくれ」

「なるほど、それで私を呼び出して始末しようという訳だな」

「いやぁそれがどうしたもんかなぁとな」

「どういうことだ?」

「いや、依頼人の言ってた事がでまかせっぽくてさ。今日戦って思ったんだけど、あくどい事してる割には真面目一徹な戦い方だし」

「ふ、面白い奴だな」

「冒険者ってのは自分の勘が頼りだしな。ま、依頼の事は置いといてアンタともう一度勝負したくてさ」


 ノマージは手に持っていた得物の包みを解き床に投げた。


「それがお前の本来の武器か。なるほど突きをしてこない訳だな」

「おう、言っておくがこれはあの槍みたいに折れないからな」


 そう言って柄の部分を軽く小突くと金属音がした。


「さ、そう言う訳で勝負再開と行こうじゃないか」

「ふ、いいだろう正真正銘真剣勝負だ」

「おっと! その必要はねぇぜ」


 第三者の声に2人は声の方を見るとヨークソンが入ってきた入場口に十数人の男達が立っていた。


「あれ? お前等・・・」

「なんだ貴様達」

「悪いがもっと簡単に始末する方法が見つかったんでな。アンタの出番はナシにさせてもらうぜ」


 ニヤニヤ笑うリーダー格の男。その周りの男達も同じような顔をしていた。


「ふん、貴様達など何人いようが私が負けるわけないだろう」

「えらい自信たっぷりじゃねぇか。でもこっちには切り札があるんでな、おい」


 そう言うと後ろに合図を送る。後ろから連れてこられたのは手を後ろに縛られたヒルエだった。


「ヒ、ヒルエ殿!?」

「ヨークソン様!」

「おっと、あまりでかい声だすなよ」


 男はヒルエの前に刃物をチラつかせる。


「ちっ、卑怯者め!」

「へへっ、大会で愛しの女性とか言われてた女がアンタの後を追って歩いてるのを見かけてな。暇つぶしに大会見に行って正解だったぜ。それじゃ持ってる武器を捨ててもらおうか」


 ヨークソンは手にしていた剣を前へ投げ捨てる。するとリーダー格の男とヒルエを捕えている男以外がリングにあがりヨークソンを囲う。ノマージは黙ったまま数歩下がりあたりを見渡していた。





「おい、なんかヤバくないか?」


 男達とは反対の入場口にはこっそりと覗き込むハジメ達がいた。


「ああ、急いだ方がいいだろうな。ラニアン、敵がどのくらいいるか魔法で調べられるか?」

「うん、やってみる」


 ラニアンは地面に手を置き詠唱を始め土魔法の<生体探知>を使う。術者を中心に一定の範囲にいる生物を探知できる魔法だった。土魔法が得意なラニアンは闘技場全体を探知できた。


「えっと、リングに8人、向こうの入り口に2人とヒルエさんかな、あとその上の席の所に2人いるね」

「上の席にいるのは弓かな。それを先にどうにかしたいな」

「それなら私に任せなさい」


 ずっと後ろで見ていたウェーナだった。


「・・・お姉さんアイツ等の仲間じゃないの?」

「私とノマージはまた別でね。犯罪に手を貸す気はないの。上の奴等を始末したら人質を捕えてる奴をやるからその隙に助けなさい」

「私も上に行ってお姉さんが倒した敵から弓奪って援護する」


 弓が得意なエルレアもウェーナに付いて行くことになった。


「じゃあ2人ともちょっと動かないで」


 そう言うとハジメは2人の肩に手を置く。すると2人の服が淡い紫色に光った。<魔力塗装(コーティング)>を掛けたのだった。


「ありがとうハジメ」

「これは?」


 ウェーナは何をされたか分からずハジメを見る。


「防御魔法ってとこですかね。それでだいたいの攻撃なんかは防げますよ」

「す、すごいわね。ありがとう」

「いえいえ。それじゃオレ達は反対側からヒルエさんを助けるぞ」


 ウェーナ、エルレアと別れ、反対の入場口へ向かう。


「で、どうすんだ?」

「とにかくヒルエさん最優先だな。パルに乗ってオレとヒルナンでヒルエさんを闘技場の外に運ぶ。ラニアンはオレ達が向かったら<土の防壁>貼って通路を塞ぐってとこか。捕まえてる奴が倒されたら行くぞ」

「わかった!」

「キュイイ!」

「詠唱の準備してるね」





 弓を構える男に近づくウェーナを確認したノマージは周りの注目を集めるように喋り出す。


「さて! こうなっちまうとオレの出番がないわけだなぁ」


 ノマージはまた中央に行き、ヨークソンの剣を拾ってブンブンと振り回す。


「で、この男始末したら次どうすんだ?」


 入場口近くにいるリーダー格の男に聞くと男はニヤリと笑って答えた。


「依頼主の話じゃ、もう一仕事あるらしいぜ。ソイツも片づければ更に金が貰えるって訳だ」

「面倒な仕事か?」

「詳しくは聞いてねぇが、コイツを始末しちまえばグッと簡単になるって話だ」

「今回の報酬も結構するのに追加報酬って依頼主金持ってんだな」

「わざわざ他の国にまで来てオレ達雇うんだ。身分の高い金持ちだろうな」


 話をしながらノマージが観客席を見ると弓を構えていた男達の姿が消えていた。そしてウェーナがヒルエを捕まえている男に向かってナイフを構えているのを見つける。それを確認するとノマージはヨークソンの方へ向き直る。


「ま、そういう訳だ。これはどう考えてもコイツ等が悪者だよなぁ」

「・・・テメェ、何言ってやがる」


 ノマージの後ろから怒気の混じった声が聞こえた。ヨークソンも目の前の男が言ってる事が解からなかった。


「お前は何を言っている・・・」

「金が貰えるなら何でもやるのが冒険者だけどな。あいにくオレは悪事に手を染める気はないんだ。と、言うわけでこうさせてもらう・・・よっ!」


 そう言うとノマージはヨークソンに剣を投げ渡すと持っていた得物で後ろに居た男を斬りつける。胸を切られた男は声を出すことなくグシャリとその場に崩れ落ちた。


「テ、テメェ!何やってやがる!」

「いや、だからさ。お前等みたいな悪党の仲間にならないって言ってんだよ」

「ふ、ふざけやがって!こっちには人質が―――」


 言い終わる前にドサッと何かが倒れる音がした。慌てて振り返るとヒルエを捕まえていた男が頭部にナイフを突き刺した状態で倒れている。ヒルエも突然の事に座り込んでしまっていた。


「な、何が起きて・・・!!」


 何が起きたのか分からずにいると今度は入場口の方から大きな火の玉が顔面目掛けて飛んでくる。思考が止まっていた男は避けきれず被弾してしまった。熱さと痛みで男はその場で転げまわる。


「グアァッ!!」

「姉ちゃん!」


 火の玉が男に当たると同時にパルに乗ったハジメとヒルナンがヒルエに駆け寄る。


「ヒルナン!? きゃっ!」

「グァルルルル!!」


 ヒルエを抱えてパルはそのまま闘技場の外へ飛び立つ。


「く、逃がすか・・・グァッ!」


 リーダー格の男が立ち上がろうとすると火の玉が今度は肩に当たる。その後もハジメが放ついくつもの火の玉が飛んでくるので堪らず転がり回避するしかなかった。


「よし! ラニアン!」

「うん!」


 ハジメ達が飛び立ったのを確認してラニアンは地面に手を当てて詠唱を始める。するとラニアンの前に地面から土の壁が出てくる。壁は通路を完全に塞いでしまった。


「よし、これで人質は大丈夫だな」


 一人「よかったよかった」と頷いているノマージ。周りの人間は何が起きたのかさっぱりわかっていなかった。


「今のはヒルナン達か・・・」

「あ~たぶんオレの相方が連れてきたのかな。あの生き物は予想外だったけど。とにかく、これでアンタの憂いはなくなったって訳だ。後はコイツ等をどうにかすりゃいいだけだな」

「なるほどな」


 ノマージに言われ納得した顔で剣を構えるヨークソン。周りの男達もやっと状況を理解したのか武器を構えだす。


「全員生かして帰さんと言いたいところだがお前たちにはまだ聴きたい事があるからな。お前も殺さないようにしろ」

「まぁできるだけ気を付けるわ」


 ノマージは面倒くさそうに答えて武器を構える。


「なめやがって! 殺してやる! 行くぞテメェら!」


 男達は一斉に斬りかかってきた。だが男たちの攻撃はまったく当たらず。腕や足を斬りつけられ次々と戦闘不能になって行った。


「く、やってられるか!」


 その状況を見ていたリーダー格の男は塞がれた入場口とは反対の入場口に走り出そうとする。だが自分の足元に矢が突き刺さりその場で尻餅をつく。慌てて飛んできた先を見ると弓を構えたエルレアとナイフを持ったウェーナがいた。


「逃がすわけないでしょう? 大人しくそこでじっとしていなさい」

「・・・・・・クソッ!」


 リングに居た男達がすべて倒された頃ようやく騎士団が闘技場にやってきた。リーダー格の男を始め、次々と連れて行かれた。


「ヨークソン様!」


 騎士団と一緒に戻ってきたヒルエがヨークソンに駆け寄る。


「ヒルエ殿」

「御怪我ございませんか?」

「ああ、大丈夫だ。それよりすまない、危険な目に合わせてしまった」


 ヒルエに頭を下げるヨークソン。ヒルエは慌てて頭を上げさせる。


「や、やめてください。私は大丈夫ですから」

「金輪際こんな危険な目には絶対あわせない。今ここで君に誓おう」

「ヨークソン様・・・」


 手を取り合い真剣に見つめあう2人の周りから話し声が聞こえる。


「完全に2人の世界行っちゃってるな」

「まぁこれで一件落着って事かな」

「よかった」

「みんな無事でよかったねぇ」

「私泣きそうになっちゃった」

「私も」


 ハジメ達がワイワイと騒ぎだしてヨークソン達も我に返る。


「お前たち! 今回は怪我がなかったからよかったものの危険な事に子供が首を突っ込むんじゃない!」

「うわ、なんか怒りだしたぞ」

「なんで怒られるんだよ! みんな逃げるぞ!」


 思いがけないヨークソンからの説教が始まりかけたのでハジメ達は慌てて逃げ出す。それを見ていた周りの騎士団から笑い声が聞こえてきた。


「いやぁ、なかなかやるじゃない。この国の子供達は」


 ノマージがヨークソンに話しかける。ヨークソンも苦笑いで答える。


「あの子供達は特別だ。学園でもトップクラスだしな。だからこそ過信させないようにしないといけない」

「なるほどねぇ。っと、そろそろオレ達も宿に戻るかな」

「お前達も城に来てもらうぞ」

「マジか!?」


 ノマージが驚くのを見て後ろに居たウェーナが頭を抱える。


「あたりまえじゃない。元はアイツらの仲間だったんだから御咎め無しなわけないでしょう」

「うわ~、マジかぁ。さっさと逃げればよかったぁ」

「ふ、まぁお前達には話を聞きたいだけだ。明日の朝城に来てくれればいい」

「なんだよ、脅かすなよ。でも勝手にそんな事していいのか?」

「今回の件を不問にするのはヒルエ殿を助けてくれた礼だ。オレから無関係だと報告する」

「なんか悪いな。よし、じゃあ明日朝一で城行くって事で」


 そう言ってノマージとウェーナは宿へ戻って行った。


「ヒルエ殿、〔黄天亭〕へ送ろう」

「え、ヨークソン様はまだやることが・・・私一人でも大丈夫ですよ」

「いや、私がそうしたいんだ。私の我儘だと思ってもらっていい。許してくれるか? ヒルエ」

「・・・はい」


 2人は寄り添いながら闘技場を後にした。

3分割のつもりが最後が長くなっちゃいました。とにかく闘技大会の話はこれで終わりです。ノマージの武器の事や依頼主関連の話は次回以降になる予定です。

そんなわけで次回もよろしくお願いします。

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