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ジュエル!  作者: asobito
バスティア学園編
24/67

第19話 大会予選と異国から来た人達の思惑

「よし、学生部門終わったし、オレはパルを連れてくる」

「あ、そうだね。寂しがってるだろうし。僕も一旦外に出ようかな。出店とか見てまわりたいし」


 学生部門は騎士科は勿論、全学科の生徒参加の学園行事だった。観戦だけとはいえ授業の扱いなのでパルを連れているのが見つかると注意を受ける。仕方がないので部屋で留守番をしてもらっていた。


「私達も出店の方行ってみよっか」

「うん、そろそろお昼だし何か食べよ」

「それじゃ広場でハジメを待って皆で出店を回りましょう」

「わかった。それじゃ行ってくる」


 闘技場を出て寮へと急ぐ。寮へ入り自分の部屋のドアを開けるとパルが胸元に飛びついてきた。


「うわっ」

「キュルルル!」

「パル、いい子にしてたか?」

「キュルル!」


 ハジメが顎のあたりを撫でると嬉しそうにしている。


「午後からは学校行事じゃないからパルも一緒に出掛けるぞ」

「キュルルル!」


 そう鳴くとハジメの肩に移動する。肩に乗ったのを確認すると部屋を出て広場へ向かった。


「お待たせ」

「おかえり。パルはこんにちわかな」

「おかえり、パル、こんにちわ」

「パルちゃん、こんにちわ」

「今日も元気そうだねパルちゃん」

「キュルル!」


 皆に声を掛けてもらいパルも嬉しそうに返事をする。女の子達は初めて見るドラゴンに最初は戸惑っていたが、すぐに慣れて今では人気者になっていた。そんな光景を見て「可愛いし人気が出ても仕方がない」と若干親バカな気持ちになるハジメだった。


「さて、それじゃ出店の方に―――」

「あれ、ボスじゃないっスか」


 声を掛けられた方を見るとシアン達元ハジメ団のメンバーがこちらに来ていた。


「あ、シアン達も来てたのか?」

「ウス、オレ達は午前中まで仕事だったんで。みんな鍛冶関係だから予選ギリギリまで仕事があるんスよ。さすがに予選始まったら仕事も一段落つくんで観戦しに来たんス」

「また予選終わったら明日までに点検とかしないといけないんですけどね」

「使う武器って決まってるんだっけ?」

「一応試合用の武器ってのがあるッス。数種類の武器から選んで戦うんスけど、それ用意するのがウチらってわけで」

「しかもその間自分の武器を修理に出す人がほとんどなんで仕事が山積みで・・・」


 そう言うとシアン達は深い溜息を吐く。ハジメは苦笑しながら励ます。


「まぁまぁ、仕事がある事はいい事なんだから。腕を磨くチャンスと思えばさ」

「まぁ、それはそうなんスけど」

「そうだ。シアン達昼食はまだか?」

「え、まだッスけど?」

「よし、それじゃシアン達も出店回って息抜きしよう。昼食はオレが奢る」

「マジッスか!」

「おおおお! さすがボス!」

「やった! 奢りだってリニスちゃん!」

「え、いいの? やったー!」

「さすがハジメ、太っ腹」

「なんか悪いねハジメ君」


(・・・全員に奢るとは言ってないのだけどな)


 尋常じゃない盛り上がりに引くに引けなくなったハジメは引き攣った笑顔をするしかなかった。


「この場にヒルナンが居なくてよかった。アイツ遠慮ってものを知らないからな・・・」

「呼んだか?」


 ハジメが振り返ると満面の笑顔でヒルナンが立っていた。


「あ、ヒルナン君」

「おつかれさま、ヒルナン」

「おつかれさまー」


 皆がヒルナンへ労いの声を掛ける中、一人落胆の顔をしている者がいた。


「・・・なんでお前がいるんだよ」

「いや、明日の表彰式の話終わったし、お前等と合流しようと思って歩いてたら奢りだとかいう話と歓声が聞こえたから来てみたってところだな」

「お前の直感にオレは少し恐怖を覚えたぞ」

「おぉ、お前に恐怖を与えれるとはオレもなかなかだな! それじゃ出店見て回るか! オレもまだ見てないし楽しみだな!」


 先陣を切って歩き出すヒルナンに続いて出店に向かう皆を後ろから見ているハジメ。


「はぁ・・・、結構な出費になるな」

「だ、大丈夫だった?」


 戻ってきたラニアンが心配そうに声を掛けてきた。


「まぁ、最近はそんなに使ってないから貯まっていく一方だったしな。こういうものは使う時には惜しんじゃいけないし、いいんじゃないか。大盤振る舞いしてやろうじゃないか」

「若干ヤケになってる気がするけど・・・」

「ハッハッハ。それはたぶん気のせいじゃないぞ」


 苦笑いのラニアンと共に覚悟を決めたハジメはヒルナン達の元に向かった。

 出店で昼食やら闘技大会の記念品、気になる物、どうでもいい物まで色々買った(買わされた)後、広場に再び戻り皆で昼食を食べる。大会の事など色々な雑談をしていたが話題はこれからの事になった。


「で、昼からはどうする? 予選観るにも席空いてないだろうし」

「立ち見でもオレは全然構わないぜ。ヨークソンさん応援したいしな」

「私達も立ち見でいい」

「うん、平気だよ」

「オレ達は初めから立ち見のつもりだったんで問題ないッス」

「それじゃあ、立ち見で応援しようか」


 立ち見での観戦という事で話がまとまった直後、ヒルナンに声を掛けられる。


「ヒルナン」

「ん? あ、姉ちゃん」


 そこにはヒルナンの姉ヒルエとバトマス家の執事スカリーが立っていた。


「スカリーさんまで連れてどうしたんだ?」

「ヒルナンにちょっとお願いがあって。ヒルナンは午後から何か用事ある?」

「ハジメ達と観戦する予定だけど何かあった?」

「あ、じゃあ坊ちゃん達も一緒って事で・・・いいですか? スカリーさん」

「ええ、問題ございません。賑やかな方が奥様も喜ばれると思いますので」

「えっと・・・ヒルエさん。何の話?」


 話が見えないハジメ達の視線に気付き慌てて説明するヒルエ。


「あのですね、シヨナ様から貴族席で一緒に観戦しましょうと誘われまして。せっかくなんでヒルナンも誘いに来たんです」

「・・・一人じゃ心細いから?」

「うっ・・・」


 ニヤリとしながらハジメが聞くと明らかに動揺するヒルエを見てどっと笑いが起きた。


「いいんじゃねぇか。こんな機会が無けりゃ貴族席なんてまず行く事ないからな」

「オ、オレ達もいいんスかね・・・」

「いいんじゃないか? ね? スカリーさん」

「ええ、構いませんとも皆様でお越しください」


 街出身のシアン達はさすがに戸惑っていたが、スカリーから許可がでて全員一緒に行く事になった。

 貴族席の入場口へ行き、警備の兵にスカリーが説明するとすぐに中に入ることができた。貴族席は一般席とは違い席の間隔にゆとりがあった。椅子も背もたれがあり小さなテーブルが置いてあるところもあった。貴族達がズラリと座っている中、最前列の一部が空席になっているのに気付いた。そこにただ1人シヨナが座っていたのだが、こちらに気付きニッコリと微笑んでこちらに手招きをする。


「まぁまぁ、たくさん来てくれたのね」

「すみません、私が無理言って・・・」

「いいのよ、席は沢山あるから。それに賑やかな方が楽しいじゃない」

「こんにちわ、シヨナ様」

「お久しぶりですシヨナ様」


 ヒルエの後に続いてハジメとヒルナンが挨拶をする。他の面々は初対面な上に貴族に囲まれている状況で緊張しているのか2人の後ろで一緒にお辞儀をしている。


「こんにちわ。ヒルナン君は準優勝おめでとう。後ろの子達も遠慮しないで座って頂戴ね」


 シヨナに促され皆席に着く。ハジメはシヨナの周りだけ空いている事が気になったので本人に聞く事にした。


「それにしてもなんでこんないい席がこれだけ空いてるんですか?」

「それはここがバトマス家に割り当てられた席だからよ。貴族席は各家に決まった席が割り当てられるの。私の子供達は港町の管理をしてて街に観戦に来る事がないからこんなにいらないと毎回言ってるのだけど」

「ナディーユはこの国の玄関口ですもんね」

「そんな街の領主が留守にするわけにもいかないのよ。だから観戦には私だけ来るという訳ね。毎回退屈だったけど今回は楽しくなりそうね」


 シヨナは嬉しそうに微笑んでいる。初対面だった子供達もそんなシヨナを見てホッとしたのか次第に喋るようになっていった。

 予選開始を待って雑談をしているとヒルナンが真面目な顔で話しかけてきた。


「おいハジメ、アレ」


 ハジメが指を指す方には王家の席があった。その王家の席のすぐ横に座っている男にハジメは見え覚えがあった。


「ルビカスか」

「ここ数年見なかったのにな。何してたんだ?」

「あら? ルビカス様とお知り合い?」


 2人の会話を聞いてシヨナが話しかけてきた。


「あ、いえ。このところ全然見なかったんで何してたのかなぁと・・・」

「ああ、ルビカス様は外交が仕事だからずっと国外に居たのよ。特にここ数年は行ったきりだったようだけど戻ってきたようね」

「そうなんですか」

「国務としての務め以外にも個人的に何かしてるらしいけど・・・あら、やだ子供に話す事ではないわね。忘れて頂戴」


 そう言ってニコリと微笑むとその話は終わってしまった。国外に行くにはナディーユからしかない。領主であるバトマス家がルビカスの行動で気になる事があるのだなとその時ハジメは考えた。


『大変長らくお待たせしました。それではこれより一般部門予選を始めたいと思います』


 アナウンスが聞こえると会場中からドッと歓声が上がる。それが鳴り止むのを待って予選の説明が始まった。


『一般部門は学生部門同様に1本勝負。相手が降参もしくは戦闘不能になったら試合終了です。防具の装備は自由ですが、武器はこちらが用意した物を使用していただきます。どの武器も殺傷能力が低くなってますが、相手を殺めてしまいますと反則負けとなります。今回の予選に勝ちますと、明日の勝ち抜き戦に参加できます。それでは第1試合を始めたいと思います。選手入場して下さい』


 選手が現れると歓声が響き渡る。学生部門よりも大きな歓声に初めて闘技大会を見たハジメ達は圧倒されてしまった。


「すげぇな・・・。学生の時とはやっぱり違うかぁ」

「戦いの内容もかなり違うんだろうな。楽しみだな」


 様々な戦闘スタイルを持つ選手たちがぶつかり合う一般部門ではどんなアクシデントが起こるかわからないというハラハラ感もあり観客の興奮も一入だった。

 試合が次々と進む中、到頭ヨークソンが姿を現した。ヨークソンが入場した瞬間会場から大声援が巻き起こる。


「うわぁ、やっぱヨークソンさんの人気ってすげぇな」

「ヒルエさんも声掛けてみたら?」

「え? ここからじゃ聞こえないですよ坊ちゃん」

「そう言わねぇで試しにやってみりゃいいじゃん」


 ハジメとヒルナンに言われ少し躊躇したが、ヒルエは大きく息を吸ってヨークソンを応援した。


「ヨークソンさまー! がんばってくださーーい!」

「やっぱり周りの歓声がでかすぎるか・・・」

「いや、あれ見ろよ!」


 大歓声の中に消えたと思われたヒルエの声援が聞こえたのかヨークソンがこちらに向かって手を振っていた。


「・・・聞こえたみたい」

「・・・すごいな」

「ふふ、これが愛の力かしらね」

「か、からかわないで下さいシヨナ様!」

「お、始まるぞ姉ちゃん」


 ヒルナンに言われ、真っ赤な顔をしていたヒルエがすぐにリング上のヨークソンを見つめる。相手は同じ騎士のようだったが、ヨークソンが1枚も2枚も上手で決着もすぐに着いた。


「やっぱ強いわ、ヨークソンさん」

「さすがヒルナンが目標にする騎士だな」

「今回の大会でも優勝候補だからね」

「会場も味方につけてるしな。相手が可哀そうだ」


 それぞれがあれこれ言っていると次の試合がすぐに始まる。そして何試合か進んだ後ハジメがある選手に注目する。


「あの選手・・・」

「ん? お、なんだあの服変わってんな」

「あら、この国じゃ見ない服装ね。他国からの参加者かしら」


 刺繍の入った鮮やかな緑の道着に下は裾の絞った黒のズボン。左側だけ金属の肩当と胸当てを付けた選手だった。


「槍を使うみたいだな。動きも軽そうだ」

「ああ・・・」


(あの服装、アジアっぽいんだよな・・・)


 ハジメは前世で見たことのある映画やゲームを思い出していた。うろ覚えなのではっきりとは言えないがあきらかに周りとは異質なその選手に興味を惹かれた。

 試合が始まると終始相手を翻弄。素早い身のこなしで掠らせもせず槍で脚を叩き、動きが鈍くなってきたら武器を持つ手首を叩きつけ武器を手放させると相手から降参の声が上がった。その瞬間歓声が沸き起こる。


「すげぇな・・・」

「踊りを踊ってるみたいだった」

「槍って突く事以外にもあんな使い方するんだね」

「・・・・・・」


(あれってカンフー映画とかでよく見る動きだよな。中国拳法ってやつか・・・。偶々似てるだけなのか?)


「どうしたの? ハジメ君」


 ラニアンに声を掛けられふと我に返る。


「あ、いや、変わった動きするなぁと思ってな」

「それにしても思わぬ強敵だな。ヨークソンさんも苦戦するかもなぁ」

「本戦でぶつかるかな」

「そりゃ期待だな」


 その後も数試合続き予選の全試合が終了した。シヨナから明日も貴族席で見る事を勧められたのでハジメ達は言葉に甘えそうする事にした。シヤン達は仕事があるという事でそのまま街へ戻った。シヨナ達と別れたハジメ達はヒルエを〔黄天亭〕へ送ったついでに早めに夕食を済ませ、学園に戻って行った。





[ある宿屋での2人の会話]





「まったく信じられない・・・」


 宿屋にある食堂で女は深い溜息を吐き頭を抱えている。長い黒髪にスラッとした細身の美女で全身を革の装備で固め、腰や太腿に何本もナイフが収められていた。頭を抱える姿でさえ絵になる程だったが、テーブルを挟み向かいで座る男は気にもしない様子でガツガツと食事を勧めていた。


「これから仕事があるのになんで闘技大会なんて出るの! ちょっと聞いてるの!? ノマージ!」

「ああ、聞いてるってウェーナ。仕事は大会後なんだから別に問題ないだろ」


 ノマージはしれっとした顔でそう言うとウェーナはまた溜息を吐いた。


「目立たないようにって言われてたじゃない。ただでさえ今回の依頼は怪しいのに・・・」

「怪しいか?」

「怪しすぎるわよ! 顔合わせで見たあの面々、どうみても冒険者崩れの荒くれ者よ? 犯罪の匂いでむせ返りそうだったわ」

「初対面の奴らに失礼すぎるだろ。まぁたしかにちょっと失敗しちゃったかなとは思ったけどな」

「だったら・・・」

「まぁ犯罪の片棒担ぐって事なら投げ出しちまえばいいし」

「か、簡単に言うわね・・・」

「とりあえず数年に1度の大会らしいし、それ楽しんでからだな。武器も点検に出して手元にないわけだしな」


 鮮やかな緑の道着を着た男ノマージはニッと笑うとあきれ顔のウェーナを余所に再び食事に没頭した。





[酒場での男達の会話]





「で、今回の標的がアイツってわけだ」

「こんな田舎での仕事なんざさっさと済ませたいぜ」

「まぁそうぼやくな。金はたんまりもらえるんだしな」

「そういやあの2人組はどうした?」

「別行動だとよ」

「けっ、つまんねぇな。あの姉ちゃんと一杯やりたかったのによぉ」

「そりゃオレだってさ。娯楽もなさそうなつまんねぇ国だしな」

「それで依頼の話の続きだけどよ。大会後って事でいいんだよな?」

「ああ、それまでは大人しく身を潜めてろって依頼主様からの命令だ」

「あの話だとアイツ相当な悪人なんだろ? なんかこっちが悪い事してるみてぇだな」

「良いか悪いかなんて関係ねぇさ、やる事やって金を貰う。いつも通りだろ?」

「へへっ、たしかにな」


 酒場の一角に集まった十数人の男達の笑い声が店中に響き渡っていた。

そんなわけで闘技大会1日目終了でございます。異国から来た人達の目的とはいったい何なのか。

次回で闘技大会編は終わる予定です。次回もよろしくお願いします。

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