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ジュエル!  作者: asobito
バスティア学園編
23/67

第18話 闘技大会学生部門と裏での悪巧み

2012/3/17 総合ユニークアクセス11000を突破することができました。読んでくれた皆様本当にありがとうございます。

2012/03/25 サブタイトルを変更しました。

 早朝、寮が並ぶ区域の端にある空地で自主訓練をするヒルナンに付き合うのが日課になっているハジメはこの日も一緒に模擬戦をして汗を流していた。


「・・・ふう、今日はこの辺にしておくか」

「おお、わかった!」


 近くの芝生に腰を下ろし休憩する2人。練習を離れてみていたパルもパタパタと飛んできてハジメの肩に止まった。それを見たヒルナンがパルを指さしてハジメに聞く。


「そういやパルってなんかできる事あるのか? 核人って事はラウさんやクロみたいに能力あったりするのか?」

「そういやどうなんだろうな。パル、なにかできるか?」


 ハジメが聞くとパルは「キュルルル!」と鳴いて首を伸ばし口を大きく開ける。次の瞬間口からボゥっと火を吐き出した。


「おおっ!」

「火吐いた!? すげぇな!」

「キュイィィィ!」


 ヒルナンに褒められて自慢げな顔をするパル。


(うーん、オレがイメージしたドラゴン通りだな。やっぱりあの時のイメージがパルの元になってるのか)


 そんな事を考えているとヒルナンがワクワクしながら更に注文をしてくる。


「じゃあさ、他に何かできる事あるか?」

「キュルル!」


 そう鳴くとパルはハジメの肩から地面に降りる。何事かと見守る2人。


「キュルルル!!」


 いつもより大きく鳴くと体がほんのりと紫色に光り出す。そして見る見るうちに大きくなっていった。


「え?」

「うおっ! でかくなった!!」


 光が消えた時には全長4m程まで大きくなったパルが嬉しそうにハジメ達を見ていた。


「グァルルル!!」

「声も凄くなってるな・・・」

「これがパルの能力って訳か・・・」


 感心しているとすぐにパルの体は元の掌サイズに戻ってしまった。そしてハジメの肩に乗ると口を開けて魔力の催促をする。


「そっか、大きくなるのは消費が激しいんだなぁ」

「元々の魔晶石があれだけ小さいんだから蓄えられる量も少ないだろうしな」


 指先で魔力の塊を作りパルに食べさせる。パルはおいしそうにその塊をかぶりついていた。


「ずっと魔力をあげ続ければあの大きさを維持できるって訳だ。パルに乗って村とか行けるんじゃないか?」

「おおおお! いいなそれ!!」

「キュルルル!」


 普段魔力を塊にして食べさせているが、パルの体に触れて魔力を送り込んでも問題はなかった。ただパルが食べる方が好きだという理由でこの形になっていた。

 パルの話も一通り終わり話題はヒルナンの話になる。


「それにしてもお前もだいぶ騎士というか戦士っぽくなったよなぁ。オレの体力だともう魔法無しで普通に模擬戦したら勝てないぞ」


 ハジメは先程の模擬戦を振り返りながら話す。ヒルナンは筋肉が付き体格がハジメより一回り多くなっている。以前は魔人魔法の<魔力塗装(コーティング)>や<魔法の縄(ロープ)>を駆使して勝てていたが、最近はそれでも剣の技術、体力の差で勝てなくなっていた。


「まぁ、騎士科は年中剣の訓練ばかりやってるからな! 接近戦で魔法科に負けてられないだろ」

「そうなんだけど、それでもちょっと悔しいものはあるぞ。また色々対策考えなきゃいけないな」

「はっはっは! 返り討ちにしてくれるわ!!」


 考え込むハジメを見てヒルナンは声高らかに笑っていた。


「騎士科といえば今年は闘技大会があるんだよな? ヒルナンも出るんだろ?」

「おう! 各学年の代表は出場決定だな。あとそれ以外にも各学年数人づつ出るって話だけどそれはまだ決まってねぇな」


 今年は4年に1度国が主催する闘技大会が開かれる。場所は学園のグランドで現在街の大工達が総出で大会の準備をしている。騎士団も国王を含む国の要人達が観戦に来るので当日の警備の打ち合わせなどする為に学園に出入りする姿も多かった。普段はグランドで朝の自主訓練をしていたハジメ達も立ち入り禁止の為に今の空き地を使っていた。

 大会は学園生徒が競う学生部門と一般部門の2つがあった。もちろんメインは一般部門でこの国の腕自慢の他に他国からの参加者も交えて大いに盛り上がる国の一大イベントだった。学生部門は高等部の各学年から数名づつ参加する。学年関係無しのトーナメント方式なので普通に考えれば上級生有利なのだが、「実際の戦いで年齢の上下など関係ない」という騎士科の方針に沿った事なので不満を言う者はいなかった。


「3学年も上級生がいるし優勝は無理だとしても、上級生に1勝くらいはしたいな! 胸を借りるつもりで全力で行くぜ!」

「おう。オレ達も応援するからがんばれよ」

「まかせろ! よし、それじゃもう一回模擬戦やろうぜ!」

「まだやるのか・・・」


 ゲンナリした顔を見せながらも最後まで訓練に付き合うハジメだった。





 それから数か月後、闘技大会開催の日がやってきた。大会は2日間行われ、1日目は学生部門と一般部門予選。2日目は一般部門本戦が行われる。ハジメはラニアンと闘技場前に来ていた。


「どんなものが出来るのかと思ったけどちゃんとした闘技場だなぁ」


 ハジメは出来上がった闘技場を見て感嘆の声を上げる。数か月前にはただのグランドだった場所には石でできた円形のリングとそれを囲うように観客席ができていた。観客席4分の1が王家と貴族用の席で、その中央にある王家の席は他よりも1m程高くなっており装飾のされた屋根が付いていた。その王家と貴族席の左右に選手の入場する通路があり、通路で隔たれた残りの4分の3は一般用の席となっている。貴族側、一般側共に後方の列になるにつれて位置が高くなっているのでそれぞれ入場口は外側から階段を上るようになっている。王家と貴族席の入場口は常に兵士が立っているので一般人は入れないようになっていた。観客席の外側では街の各店舗が出店を出し、観客席に向かう観客達で賑わっている。選手の入場口付近には左右それぞれいくつかテントが張られ、事前に割り振られた入場口前に並ぶテントで待つようになっている。


「それにしても人一杯だね・・・」

「街の人ほとんど来てそうだもんな。他の町や村からもきてるだろうしな」

「こんなに人が沢山いるのは僕初めてだよ。席空いてるかな?」

「早めに入っておくか」


 出店も気になったがまずは席を確保しようという訳で入場口に向かう。中に入るとリングに近い席はほとんど埋まっていた。席を探してキョロキョロしていると最前列で数人がこちらに手を振っているのが見えた。エルレア、ラミィ、リニスの3人だった。エルレア達の横に2つ席が空いているのが見えた。


「お! 最前列の席確保しといてくれたみたいだぞ」

「あ、ホントだ。助かったね!」


 ハジメ達はすぐにエルレア達の元へ向かった。


「2人とも遅かったね」

「悪いな。助かったよ」

「ありがとうエルレアさん」

「お礼はリニスちゃんに言って。朝早く席取ってくれたから」

「え? リニスさん!?」


 思いがけない事に驚くラニアン。リニスは顔を真っ赤にして俯いている。


「あ、えっと・・・みんなできるだけ前の方で観たいかなと思って。あ、早起きはいつものことだから全然苦じゃないし・・」

「ラニアン君の為って素直に言えばいいのに」

「ちょ、ちょっと! ラミィちゃん!?」


 慌ててラミィちゃんの口を塞ごうとするが、時既に遅くラニアンは顔を真っ赤にして固まってしまっていた。


「ま、とにかくリニスとラニアンのおかげでこうして最前列で観れるわけだ」

「そういうこと」

「恋する2人のおかげだね」


 真っ赤になって俯いている2人を余所にハジメ、エルレア、ラミィがウンウンと頷いていた。

 そんな事をしていると会場内に大きな声が聞こえた。


『まもなく闘技大会が始まりますので皆様ご着席ください』


「わっ、ビックリした。どこから聞こえたのかな」


 アナウンスに驚くラミィ。リニスも驚いたようで周りをキョロキョロしていた。


「今のはたぶんあそこの人の声だよ」


 ハジメは貴族席の最前列を指差す。そこには大会の進行役が座っていた。


「え? どうやってあんな大声出せたの?」

「あの人の前に木の棒が立ってるだろ? あそこに魔法陣が書いてあるんだよ。そして会場の四隅にも同じように魔法陣が書かれてるんだ」


 ハジメは会場の4ヶ所を指差す。そこには柱が立っていて魔法陣が描かれていた。


「木の棒の魔法陣に向かってしゃべるとあの4ヶ所の魔法陣から声が出るって仕組みさ。出る声の大きさは魔法陣で調整できるしね」

「へぇ・・・便利だねぇ」

「学園での集会とかも同じような事してるの?」

「ああ、じゃなきゃ全生徒に聞こえないだろ?」

「たしかに・・・。全然気にしてなかったぁ」

「エルレアは知ってたか?」

「魔法を使ってるって事くらいは」

「さすがエルレアちゃん」


 ラミィが感心している間に会場も静かになりアナウンスが聞こえてくる。


『それではこれよりグァロキフス闘技大会を開催いたします。まずは国王陛下から祝辞を頂戴します』


 王家の席を見ると国王がゆっくり立ち上がっていた。その左右には王妃とシャワルの姿が見えた。


「シャワルも来てるんだな」

「さっきちらっとこちらを見てた気がするからたぶん気付いてるんじゃないかな」

「こっち見たら手を振ってやるか」

「ふふ、いいね」


 国王が挨拶をしている途中シャワルがハジメ達の方を見たのでここぞとばかりに皆で手を振ると笑顔で小さく手を振りかえしてきた。


『陛下ありがとうございます。それでは闘技大会学生部門を始めます。全学年合同の勝ち抜き戦となります。対戦表は入場口にて係がお配りしておりますのでご確認をしたい方はそちらの方へどうぞ。試合準備が出来次第、1回戦第1試合を始めたいと思います』


 ハジメは入場口で貰った対戦表に目を通す。ヒルナンは第3試合で相手は下級生とだった。


「お、すぐヒルナンの出番みたいだな」

「相手は下級生だしまず大丈夫そうだね」

「油断は禁物。ヒルナン気を緩めなきゃいいけど」

「たしかにな。でもそういう所はしっかりした奴だからなアイツ」


 そんな心配をしていると第1試合が始まった。選手が入場すると割れんばかりの拍手と歓声でガチガチに緊張している生徒もいた。


「・・・ヒルナン君も緊張するかな」

「進学式の時はガッチガチだったけどどうだろう」

「ん~、アイツ剣術の試合の時は緊張してるとこ見たことないな」

「得意分野は大丈夫ってことかな」


 第1試合が終わり続いて第2試合が始まる。入場してくる選手を見てラニアンが声を掛けてきた。


「ハジメ君、あの人」

「ああ、対戦表見てどっかで聞いた事ある名前だと思った。でももっと丸かった気がしたけどな」


 ハジメ達の視線の先に居たのは入学当初ラニアンにちょっかいを出し、ハジメに食って掛かり、シャワルに驚いて一目散に消えてしまったクチアージ・ホーウズだった。昔に比べ背も伸びたおかげかだいぶスマートな体型になっていた。ハジメ達は直接関わることはなかったので太っていた入学当時の記憶しか残っていなかった。ハジメ達の会話にラミィが入ってきた。


「クチアージ? たしかヒルナン君の次くらいに強いって言われてるよね」

「へぇ、アイツそんなに強いのか。というかクチアージは君付けないんだな」

「アイツ結構嫌われてるんだよ。なにかというと自分は貴族っていうの持ち出していつも偉そうなの。他の学科にまで噂が来るもの」

「そりゃ相当だな」


 嫌な顔をするラミィに思わず苦笑するハジメとラニアンだった。


 クチアージの対戦相手もリングに上がって来たが足取りがおかしい事にハジメ達は気付く。試合が始まると動きがぎこちない相手に余裕の動きで圧倒。すぐに試合に決着がついた。


「うーん、相手の選手緊張してたのかな」

「同級生だけど実力はクチアージ君の方が上みたいだしね」

「それにしても緊張しすぎだったな」

「あ、次だよヒルナン君!」


 第2試合の選手達が退場してすぐヒルナン達が入場してきた。ハジメ達はヒルナンに向かって声援を送る。


「ヒルナーーーン! がんばれよ!」

「がんばれーー! ヒルナンくーん!」

「あ、ヒルナン君こっちに手を振ってる!」

「お! 緊張してないみたいだな」

「これならいけそうだね!」


 リラックスしている様子のヒルナンは安定した試合運びで難なく勝利することができた。

 その後1回戦目がすべて終わり2回戦目が始まった。再びクチアージの試合になったのだが、次の対戦相手も動きがぎこちなく足取りがおかしかった。


「クチアージの対戦相手・・・上級生だよな」

「うん、1年先輩だねそれがどうかした?」

「いや・・・」

(何か変だな・・・)


 1回戦同様にクチアージの圧勝で終わった。クチアージは上級生に勝ったことで大歓声を受けているが、相手選手の納得のいかない様子を見てハジメは席を立つ。


「どうしたの?」

「ちょっと気になる事があってな」

「次ヒルナン君の試合だよ?」

「アイツが勝つから大丈夫だろ。ちょっと行ってくる」


 そう言うとハジメは闘技場を出てヒルナン達が居るテントに向かう。テントに入ると他の生徒達が先程の選手を慰めている所だった。


「たまには負けることだってあるよ」

「今日は調子が悪かったんだよ。気にするなって」

「ああ・・・」

「あの~」

「ん? 君は?」


 声を掛けられた生徒とその周りの視線がハジメに向く。ハジメはまったく気にせずに話を進めた。


「あ、オレ魔法科2年のハジメ・アメジストって言います。ちょっと気になる事があって。さっきの試合の事なんですが、何か変な事ってありませんでした?」

「変な事・・・特に何もなかったな。急に調子が狂ったことぐらいだ。1回戦の時は調子がよかったのに・・・。いきなり眩暈がしだして・・・いや、言い訳にしか聞こえないな」

「眩暈・・・会場に入る前に誰か話しかけてきませんでした? 手で触れてきたり」

「手で? 入り口付近で何人か応援してくれた生徒がいたな。握手したりもしたが・・・」

「それだ」

「???」

「その生徒の顔覚えてます?」

「いや、どうだったかな・・・太ってた気がするが。よく考えたら顔見知りでもないのに握手するってのも変だな・・・」

「なるほど・・・ありがとうございました」


 聞くだけ聞くとハジメはテントを出た。残された生徒達はポカンとした顔をしていた。


「どうも魔法が原因っぽいな。触れて行動不能にする魔法の下位ってとこか。加減してるのか技術不足かわかんないけど高等部の生徒か・・・。1回戦のクチアージの対戦相手もたぶん同じだろうな。ってことはクチアージの関係者か・・・顔を知らないから探しようがないな」


 外で考え込んでいると闘技場内から歓声が聞こえてきた。


「お、ヒルナンの試合終わったか。一度戻ってラニアン達に聞いてみるか」


 ハジメは再び観客席に戻って行った。


「あ、おかえりハジメ君。ヒルナン君勝ったよ!」

「まぁ当然だな。ラニアン、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「え? なにかな?」

「クチアージって兄弟とかいたりするか?」

「兄弟・・・どうかな」

「あ! 私知ってるよ!」


 ラニアンが考え込んでいるとラミィが話に入ってきた。


「たしか魔法科に1つ上の兄がいるんだって。入学したてのクチアージをそのまま大きくした感じでかなり太ってるらしいよ」

「それだ! ありがとうラミィ!」

「え? あ、うん」


 お礼を言われて驚くラミィを余所にハジメはまた外に向かって行ってしまった。


「・・・なんだったのかな?」

「なにかやってるみたいだね。一人で大丈夫かな?」

「魔法関係みたいだからハジメに任せておけば大丈夫。後で結果だけ聞きましょ」

「そう? じゃあ私達は試合観戦してよっか」


 ハジメが去った後、ラニアン達は始まった試合に歓声を上げていた。






「次の対戦相手はヒルナンだからきっとこっちの入場口に来るはず」


 再び闘技場を出て選手の入場口の付近を見渡していると、太った生徒が少し離れた所でキョロキョロ様子を伺っているのが見えた。


「よし! ビンゴ!」


 太った生徒の背後から近づいて声を掛ける。


「何キョロキョロしてんですか?」

「うわ!」


 声を掛けられ慌てて振り返る生徒。ラミィが言っていた通りクチアージと瓜二つの顔をしていた。


「誰か探してます?」

「え・・・あ・・・弟が試合に出ていてな。激励しに・・・」

「クチアージ君なら反対の入場口ですよね?」

「!!!!」

「探してるのはヒルナンじゃないんですか?」

「お、お前・・・誰だ! オ、オレが誰だかわかってるのか! ホーウズ家のフーバルだぞ!」

「うわ、言う事まで弟と同じなんだな。あ、自己紹介まだだったな。オレは魔法科2年のハジメ・アメジスト。一応弟君と同級生って事になるかな」

「お前が2年代表の・・・。後輩が偉そうな口を利くな! オレは貴族だぞ!」

「うるさい。剣術の試合を魔法使って邪魔する奴が偉そうに先輩面するな。貴族だったらなおさらだろ」

「へ、平民の癖に調子に乗るな!」


 そう叫ぶと自分の右手に向かってボソボソと何かを言い、フーバルはハジメに掴み掛ってきた。右手が靄のような物に包まれているのを見てハジメはサッと横に躱す。


「手口知ってんだから触らせるわけないだろ。っていうかその魔法戦闘中にあまり使うもんじゃないだろ。魔法使いは接近戦しないんだから・・・」


(なんてオレが言えないけど)


「う、うるさい!!」


 その後も必死で掴み掛るが余裕の顔で躱すハジメ。フーバルはすぐに息があがり動きが遅くなった。


「はぁ・・・こんなのに邪魔されたと知ったら選手達どう思うか・・・。でも見逃すわけにもいかないしな」


 ハジメは右手に少量の魔力を貯めて電気に変換する。フーバルの背後に回り込み首元に電気を流す。


「ギャッ・・・」


 その場で倒れこむフーバル。それを見てハジメは「あ!」と声を上げた。


「やべ、これどうやって運ぶんだ・・・」

「ハジメ、何やってんだ?」


 後ろから声を掛けられて振り返るとヒルナンが不思議そうな顔をして立っていた。


「お、ヒルナン。どうした?」

「いや、ちょっと早めに会場向かっておこうと思って歩いてたらお前が見えたからな。っていうかお前こそどうした? 誰だソイツ」

「あぁ、コイツか。まぁ、説明は運びながらするから医務室運ぶのちょっと手伝え」

「ん? ああ、よくわからんがいいぞ!」


 医務室へ運ぶ道中に説明を受けたヒルナンは怒りに満ちた顔をしていたがすぐにいつも通りに戻った。


「さて、それじゃオレは観客席戻るから。試合頑張れよヒルナン」

「おう、次の試合は徹底的にぶちのめさせてもらうぜ!」

「クチアージがちょっとかわいそうになるな」


 そう言いながらもニヤリと笑っているハジメを見てヒルナンもニヤリと笑っていた。






「あ、おかえり。遅かったね何かあった?」

「ただいま。まぁ大したことじゃないんだがな」


 ハジメは気になって調べて来た事とフーバルのした事を説明した。


「―――って訳。たぶん弟に勝たせて自分達の家名を上げようと思ったんだろうな」

「なにそれ!! ひどい!」

「負けた選手達可哀そう・・・」

「先生に言ってどうにかできないかな?」

「うーん、魔法って証拠が残らないんだよなぁ。フーバルが白を切ったらおしまいだしな」

「そんなぁ・・・」

「まぁ、一応先生には言っておいたけどフーバルは今後どうなるかわからないな。とりあえずクチアージは早速罰が当たると思うぞ」

「???」


 皆が不思議そうにハジメを見る。ハジメはこれから始まる試合を指差してニヤリと笑った。

 リングにはクチアージとヒルナン試合開始の合図を待って向かい合っていた。ヒルナンはわざとフラフラしながら歩いてきたのでクチアージは今回も相手に魔法が掛かっていると思いニヤニヤしている。そんなクチアージにヒルナンは満面の笑顔で声を掛ける。


「よう、相手がフラフラで嬉しそうだな。残念ながら魔法には掛かってないし、お前の兄貴は医務室でお休み中だぞ」

「なっ・・・」


 見る見る内に真っ青になるクチアージを見て。スッと真顔になるヒルナン。


「わりぃけど今回は徹底的にやらせてもらうぞ。今、相当ムカついてるからな。お前に」

「ヒ、ヒィ・・・」


 始まる前から腰が引けてしまったクチアージはボロ雑巾のようにコテンパンにされ実に悲惨な負け方をして医務室へ担がれて行った。

 その後ヒルナンは準決勝で目標だった上級生に勝利するも決勝で負けてしまい準優勝だった。だが、2年生で準優勝は闘技大会始まって以来の快挙でヒルナンにはしばらく観客からの賞賛の声が鳴り止まなかった。そしてアナウンスが響き渡る。


『それではこれで学生部門を終了します。表彰式は一般部門と一緒に明日行います。午後からは一般部門予選を行いますので是非ご観戦ください』

というわけで闘技大会編前半部の学生部門でした。ホーウズは兄弟揃って小物ですね。いい感じです。

次回は後半部です。こちらも新キャラ登場予定です。

次回もよろしくお願いします。

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