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ジュエル!  作者: asobito
バスティア学園編
19/67

第15話 ヒルエの幸せはみんなの願い

2012/2/5 誤字を修正しました。

学園生活1年目が終わりを迎えようとしていた。その日、ハジメ達は休日という事で〔黄天亭〕に集まって昼食を食べていた。楽しく雑談を交わす中、ヒルナンが難しい顔をしている。


「さっきから何考えてんだ?」

「あぁ、姉ちゃんのことでなぁ」

「ヒルエさん?」

「ヨークソンさんと手紙のやり取りしてるけどさ。村からラウさんとか来た時しか渡せないだろ? もっといい方法ないかなぁと思ってさ」

「そういや前から言ってたなぁ」


 手紙のやり取りは3ヶ月に1回ほどの割合で村からくるラウ達村の住人を通して行われていた。ハジメ達もそれぞれ家族に手紙を出すのが習慣になっていて、ヨークソンはそのついでだった。


(数か月に1回の手紙のやり取りだけでよく続くなぁ。日本じゃまずないよな。電話にメールもあるし)


 そんな事を考えてるハジメの横でヒルナンはずっと唸っている。


「オレが村に届けに行くか・・・いや、オレもそれなりに忙しいしな・・・うーむ」

「お前そんなに忙しいか? っていうか、もういっそのことヒルエさんが街に来ればいいんじゃないか?」

「・・・・・・それだ!!」


 いきなり大声で立ち上がるのでハジメ達はもちろん周りに居た他の客も驚いてヒルナンを見る。周囲の視線に気付き慌てて座り直す。


「えー・・・ゴホン、その手があったな。街で働けばいつでもヨークソンさんに会えるじゃん」

「可哀そうだからあえて触れないでやるとして、ヒルエさんが働ける場所探さなきゃいけないな」

「可哀そう言うな!」

「住む場所も探さないとね」

「街で住む場所探すなら住民区に詳しい人に頼まなきゃいけないね。相談に乗ってくれる人いるかな」


 話が逸れそうな2人の軌道を直すようにエルレアとラニアンがさらに問題点を上げた。


「あ~、それもあるのか・・・どうしたもんだろうな」

「どうしたんだいみんなして考え込んで」

「あ、カシルさん」


 どうしたものかと考えているハジメ達に女将のカシルが声を掛けてきた。


「ヒルナンの姉の事で・・・実は――――」


 ハジメはヒルエとヨークソンの事、ヒルエに街で暮らすことを勧めようかと考えていて働く場所や住む場所をどうするか悩んでいる事を話した。


「へぇ、あの仕事しか頭にないと思ってたヨークソン様にそんな人がいたとはねぇ」

「ヨークソンさんってそんな風に見られてるんですか?」

「そりゃ、容姿もいいし真面目で人柄もいい、騎士としても優秀だからね。街での人気は高いよ。でも浮いた話がまったくなくて仕事と結婚してんだなんて噂されてるくらいさね」

「そうなんですか」

「で、そのヒルエちゃんって子の事だったね。まぁ、本人の意思を聞かないと話が進まないだろうけど・・・」

「けど?」

「もし、街で働く気があるならウチで働くってのはどうだい?」

「ええっ!?」


 ヒルナンを含め皆がカシルの提案に驚いた。


「住む場所も住み込みって事にすればいいしね。部屋ならいくらでもあるさ」


 そう言ってカシルは笑った。


「そ、それは申し分ないけどいいんですか?」

「ああ、ウチも忙しくなってきてね人手が欲しいと思ってたところなんだ。採用するかは一度ちゃんと会ってからになるけど、ヨークソン様が惚れる子ならいい子だろうしね。それにヒルナン君のお姉ちゃんだしね」

「お、おお! 姉ちゃんは働き者で村でも有名だぜ!」


 思いがけない提案で気分が高ぶったのか普段にも増して声が大きくなるヒルナン。


「よし! そうと決まれば村へ行って姉ちゃんに話さないとな!」

「ああ、・・・でも今からどうやって行くんだ?」


 走って〔黄天亭〕を出ようとするヒルナンをそう言って引き留める。


「あ、しまった。ラウさん達が来るまで待たなきゃか。くそ~待ち遠しいぜ!!」


 悔しがるヒルナンを見て笑うハジメ達だった。





 それから1年の課程が修了して、村からラウが迎えに来た。ラニアンは港町に向かう馬車に乗せてもらいそこから自分の村に戻るという事だった。ラニアンと別れクロフレイアの引く馬車で村へ戻る。

 村に到着するとオルタス達が出迎えてくれた。村人達に笑顔で迎えられハジメ達は笑顔で皆に手を振った。


(やっぱり自分の生まれ育った場所ってのは落ち着くなぁ)


 村を見ながらそんな事を考えているとオルタスが笑顔で声を掛ける。


「やぁ! おかえりみんな。お! みんな背が結構伸びてるね!」


 オルタスが3人を見てそう言った。1年前に比べたらそれなりに背が伸びていたのだろうがいつも顔を合わせている3人はあまりわからない事だった。


「ただいま帰りました父上」

「ただいまです」

「ただいま!!」

「うん、元気で何より。さ、みんなまずは家族の所に行っておいで」


 オルタスに促さられ3人はそれぞれ自分の家に戻って行った。ハジメもオルタス達と自分の家へ向かった。


「ハジメ、おかえりなさい」


 家ではクラウが笑顔で迎えてくれた。


「ただいま戻りました母上」

「さ、とりあえず荷物を部屋に置いておいで」

「はい」


 持ってきた荷物を部屋に置きに行く。ハジメの部屋は村を出る前と全く同じでちゃんと掃除もされていた。ベッドに腰を下ろし一息つく。部屋を見渡していると自分の家に帰ってきたという実感が湧いくる。

 荷物を置いて居間に戻るとクラウがお茶を用意してくれていた。お茶を飲みながらハジメは1年間にあった色々な事を両親に話した。途中からラウも交えて家族団欒を満喫し、その日はグッスリと眠った。





 次の日ハジメは胸あたりに違和感を感じて目を覚ます。


 ――――トクン、トクン


 小さな鼓動が胸のあたりからしているのに気付き、胸元を見るといつも首から掛けている魔晶石が鼓動に合わせて淡く光っていた。ハジメは慌てて飛び起きて魔晶石を手で持ったまま居間に走っていく。


「おはようハジメ。慌てちゃってどうかしたの?」

「おや、おはようハジメ。どうしたんだい?」

「えっと・・・あ、おはようございます父上母上。あ、あの! 魔晶石が!」


 ハジメはオルタスに魔晶石を見せた。


「お! これは自我が目覚めたかな」

「自我、ですか?」

「うん、核人の第1段階ってところかな。もうこの魔晶石は自分の意志を持っているよ。と言っても何もできないけどね。周りから魔力を吸うようになるからちょっと魔力を上げてごらん。指先にちょっと魔力を貯めて魔晶石に近づけるだけでいいよ」

「は、はい」


 ハジメは指先に少しだけ魔力を貯めた。直径1cmほどの魔力の塊を魔晶石に近づけると塊は魔晶石に吸い込まれていってしまった。


「す、吸い込まれました」

「うん、魔晶石が吸収したんだね。小動物にエサを上げる感覚でこまめにあげるといいよ。核人はそれまで吸った魔力の質が姿形や能力に影響するからハジメの魔力を吸って成長したらどんな核人になるのか楽しみだね」


 核人にとって貴重なエネルギー源である魔力。魔人族であるハジメの魔力は核人にとって最上級と言ってよかった。


「はい! がんばって育てます」

「ああ! 生き物を育てるのはいい事だね!」

「がんばってねハジメ」

「お話は御済みでございますか?」


 3人が笑っているとラウが話しかけてきた。


「核人の誕生の1歩は実に喜ばしい事ではありますが。とりあえず坊ちゃん、寝間着のままうろつくのは関心致しません。すぐにお着替えを済ませてくださいませ」

「え? あ、そうだった・・・」


 自分の恰好に今気づき慌てて自室に戻る。オルタス達も微笑んでそれを見ていた。





 朝食を食べ終え、村へ行くとヒルナン、ヒルダ、エルレア、トナイがいた。


「おはよう、みんな」

「オッス!」

「おはよ~」

「おはよう」

「ハジメ、おはよう」

「みんな揃って何してたんだ?」

「ああ、ヒルエさんの事をヒルナンから聞いてたところだよ」

「ああ、その事か。で、どうなった?」

「それが・・・」


 ヒルナンがもったいぶっているとヒルダが先に喋り出した。


「お母さんから許しが出たの! 姉さんも街に行くって!」

「おいヒルダ! オレが言おうとしてたのに!」

「兄さんが無駄にもったいぶるからよ」

「まぁまぁ、それよりもよくモルヒラさんから許しが出たね。僕は反対するかと思ってたのに」


 トナイが自分の予想を話す。ハジメも同じような予想だった。娘が好きな男性に会いに行くため街に行くのだから反対すると考えていた。


「まぁ、実はオレもそう思ってたんだけどさ」


 ヒルナンが真面目な顔をして話し始める。


「ほら、ウチって父親いないだろ? 母ちゃん一人でオレ達育ててくれてさ、姉ちゃんもその手伝いをずっとやってくれてた。オレとヒルダも大きくなったし姉ちゃんも自分の幸せを考えなきゃダメだってさ」


 ヒルナン達の父親はヒルダが生まれてすぐ病で亡くなっている。生まれたばかりだったヒルダはもちろんヒルナンもあまり父親の記憶がなかった。母親とヒルエに2人は育ててもらったと言っても過言ではなかった。もちろん村人達の助けもあった。


「でも、ヨークソンさんに会いたいからって理由なの知ってるのかい?」

「ああ、最初はあまりヨークソンさんを信用してないっていうかさ、一時的なものだろうと思ってたんだって。でもずっと手紙のやり取りしてるの知って、お互い真剣なんだなって。姉ちゃんも必死で説得したしな」

「そっか、とりあえず最初の難関は突破だな」

「次はカシルさんね」

「ヒルエさんもオレ達と一緒に行くのか?」

「おう! もう姉ちゃんはその気だぜ」


 ヒルナンは自分の家の方を指さす。ヒルナンの家の前ではヒルエが家事をしていたがいつにもまして顔が生き生きしていた。


「なるほどね」


 それを見てハジメ達も納得した。

 村での滞在は10日程で、その間は子供達で遊んだり、ドルガンと道場で鍛えたり、狩りに行ったりと前に村に居た頃と同じ様に過ごした。それぞれの成長を見れてとても楽しい時間を過ごすことができた。

 そして10日はあっという間に過ぎ、街に戻る日が来た。


「それじゃ、お母さん行ってきます」

「ああ、気を付けてね。手紙書きなよ!」

「うん、ありがとうお母さん」


 ヒルエは目に涙を浮かべてモルヒラに抱きつく。モルヒラはヒルエの頭を優しく撫でた。


「姉ちゃん! そろそろ行こうぜ!」

「うん」


 ハジメ達も家族と挨拶を済ませ馬車に乗り込んでいた。馬車からヒルナンに促されたヒルエは馬車に乗り笑顔で村人達に手を振る。村人達も皆笑顔で手を振っていた。


「それじゃみんな、行ってきます!」

「がんばれよヒルエちゃん! 騎士様ものにしろよ!」

「美人なんだから街では気をつけなきゃだめよ!」

「そのうち会いに行くからなー!」

「たまには戻ってこいよー!」


 村人たちからの様々な声を聴きながら馬車は王都へと出発して行った。





 王都に着くとすぐに〔黄天亭〕に向かった。カシルが気に入らなければヒルエは他に住む場所を探さなければいけないし、最悪村に戻ることになってしまうので皆ヒルエを最優先にすることに反対しなかった。


「アンタ達戻ってきたのかい? おや、綺麗な娘さんもいるってことはその子がヒルエちゃんかい?」

「は、はじめましてヒルエと申します」


 ヒルエは緊張した面持ちで頭を下げる。するとカシルは笑顔で応えてくれた。


「アッハッハ。そう緊張しなくてもいいさね。それじゃちょっとヒルエちゃんとお話しするからアンタ達はそっちで何か食べてな」

「あ、わかりました」

「姉ちゃん! がんばれよ!」


 カシルに言われてハジメ達は席について食事を取ることにした。結果を聞くまでは待つという事でラウも同席していた。


「ヒルエ嬢ならば問題なく採用されるでしょう」

「うん、ラウさんがそう言ってくれるなら間違いないだろうな」

「そうだな」

「うん、大丈夫だよきっと」


 みんなソワソワしながら食事をしているとカシルとヒルエが戻ってきた。それを見つけたヒルナンが真っ先に声を掛ける。


「どうだった!?」

「アッハッハッハ。安心しな、ヒルエちゃんはウチで働くことになったよ。いやぁ、すごいいい子じゃないか。ウチにはもったいないくらいだよ。間違いなく看板娘になってくれるね!」

「そんな、看板娘だなんて・・・」


 カシルに太鼓判を押され真っ赤になって否定するヒルエ。


「やった! 姉ちゃんおめでとう!」

「おめでとうございますヒルエさん。がんばってね」

「おめでとう」

「おめでとうございます、ヒルエ嬢。これで私も吉報を村に伝えられます」


 みんなから祝われさらに恥ずかしそうにしているヒルエだった。

 ヒルエが新たに働く様になり〔黄天亭〕はさらに人気店になった。宿屋と食堂での仕事もすぐに覚え、カシルの予想通りヒルエは看板娘として街でもすぐに有名になった。ハジメ達も休日には〔黄天亭〕に食事をしにきて様子を見ているが楽しそうに仕事をしているヒルエを見て嬉しく思っていた。

 そんなある日、〔黄天亭〕の前にヨークソンが立っていた。


「まったく、手紙受け取りにここに来いとはどういうことだ。私も暇ではないというのに」


 ブツブツ文句を言いながら店に入る。すると看板娘の明るい声が聞こえてきた。


「いらっしゃ・・・・・・ヨークソン様!」

「なっ・・・ヒルエ殿!?」


 突然の事に頭が真っ白になる2人。先に我に返ったのはヨークソンだった。


「ヒルエ殿! なんで王都に!?」

「あ、あの・・・ヒルナン達に街で働いたらどうだと勧められて・・」

「ヒルナン? なるほど、ここに来いとはそういう・・・」

「あの、なにか問題ありましたか?」


 不安そうに聞くヒルエにヨークソンは慌てて首を振る。


「いやいやいや! 全く問題ない! むしろ喜ばしい出来事というか・・・あ、いや、何と言ったらいいか」


 ヨークソンがあたふたしていると後ろから声がかかる。


「おや! ヨークソン様が本当に来たよ! 半信半疑だったんだけどねぇ」

「む、女将殿」

「いやだよ、女将殿だなんて。そんなことより食事しに来なさったのかい?」

「む・・・そ、そうだな何か食べさせてもらおう」

「あいよ! それじゃヒルエちゃんも昼休憩にしちゃいな」

「え!? でも・・・」

「せっかく来てくれたんだ。こういう時は言葉に甘えるもんだよ。それとも2人共話すことなんてないのかい?」

「そんなことないです!」

「それは断じてない!」


 2人して必死で否定するのを見てカシルはニッコリと笑う。2人は顔を真っ赤にしていた。


「それならさっさと席に着きな! 周りの事は気にしないでいいからね! アタシが邪魔させないからさ」


 そう言われ2人は席に着き一緒に食事を取ることになった。2人は手紙だけではできなかった色々な話をした。初めは緊張していたが、それも次第に解れ楽しそうに食事をしている2人を見て周りの客も騒がしくなる。


「おいおい、あれってヨークソン様じゃねぇか。ヒルエちゃんと知り合いだったのかよ」

「っていうかえらい楽しそうじゃねぇか。もしかして恋人とかか?」

「マジか! 全然そんな噂なかったのにな!」

「ちょっと聞いてこようぜ!」

「バカ、空気読めよ!」


 止めに入るのを余所に男が立ち上がってヨークソン達に近づく。だがその前にカシルが立ちはだかる。


「人の恋路を邪魔する様なすっとこどっこいはこのアタシが許さないよ! さっさと席に戻って飯食いなっ!!」


 すごい剣幕で怒られ男はすぐに席に戻って行った。その光景を見た他の客もこれ以上ヨークソン達の噂をしなくなった。当の本人達は会話に夢中で聞いてなかったようだった。

 2人の噂はすぐに街中に広がった。そのうち王都のベストカップルという扱いを受けるのだが、それは少し先の話になる。

村の子供達のお姉さん的存在ヒルエと騎士ヨークソンのお話でした。

この2人のその後もハジメが学生の内にまた書く予定です。

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