第13話 ハジメと街の子供達との邂逅
2012/08/19 ご指摘のあった誤字を修正しました。
2012/9/10 指摘のあった誤字脱字を修正しました。
入学から3か月程経ったある休日、ハジメは学園の中央にある広場で人を待っていた。始まりは前日のヒルナンの提案から始まる。
「明日さ、試験の時に泊まった宿屋に挨拶しに行こうぜ! 入学したら顔見せろって言ってたろ?」
ハジメ、エルレアに異論はなく、その場に居たラニアンも明日は暇だという事で付いて行くことになった。新入生は入学後3か月は事情がない限り外出できない決まりだったのでこれが初の外出となる。ついでにその後に街の散策をするという事になった。
ハジメが広場についてすぐにエルレアが来た。
「おはようエルレア」
「おはよう、ヒルナンとラニアンは?」
「まだだな、ヒルナンの奴自分が言い出しておいて寝坊か」
そんな事を言っているとラニアンがフラフラ歩くヒルナンを連れて歩いてきた。こちらに向かって手を振ってるラニアンの困った顔で事情はすぐに分かった。ハジメの予想通りヒルナンを起こして来たのだろう。
「遅くなってごめん」
「ラニアンが謝る必要ないさ。どうせコイツのせいだろ?」
ハジメは後ろで寝ぼけた顔をしたヒルナンを指さす。
「アハハ・・・」
「いやぁ、わりぃわりぃ。ちょっと夜更かししちまって・・・ふぁぁ」
「夜更かしって何してたんだよ?」
「街散策するのが楽しみでさぁ。ワクワクしすぎて目が冴えちゃったんで素振りしてたんだよ」
「お前は子供かっ!」と思わずツッコミそうになったのをグッと堪えるハジメ。
(いかんいかん、オレ達子供だった・・・)
「はぁ・・・とりあえず目を覚まさないとな。エルレアよろしく」
「わかった」
エルレアはヒルナンに近づき平手打ちをする為に手を振り上げる。そのふり幅は目を覚まさせようというより意識を刈り取ろうとする距離だった。それを見たヒルナンがすぐに慌てて制止する。
「うわっ! 待った! 起きた! 起きましたっ! 完全に目が覚めましたっ!」
「よし」
エルレアはスッと手を下ろし元の位置に戻る。
「エルレアの平手はマジでシャレにならないからな・・・」
エルレアは狙っているのか不明だが顎のあたりにフルスイングしてくるので、前に平手打ちをされた時に軽く意識が飛びかけたヒルナンは必死でエルレアを止めた。ちなみにエルレアの平手打ちはヒルナン以外は受けた事がないのでこの恐ろしさはヒルナンしか知らない。
「よ、よし! それじゃ宿屋に行こうぜ! 場所ってわかるか?」
「ああ、大通りに面してたからすぐわかるよ」
「よし、じゃあ出発!」
「寝坊したお前が仕切るなよ・・・」
4人は学園を出て王都の中央にある広場に向かう。そこから王都の正門に向かう大通りを通るとすぐに宿屋は見つかった。道中で露店などに寄ったりしていたので宿屋に着いたのは昼前になっていた。全体を薄い黄色に塗られた建物で看板には〔黄天亭〕と書かれていた。周りの地味な色合いの建物に比べたら特徴的な建物なので間違えようもない。4人は店内に入る。2階建ての建物で1階の半分は食堂になっていた。受付に居た恰幅のいい女性がこちらに気付き近づいてきた。
「おや、アンタらは学園の試験の時に来た子達だね」
「覚えてくれてたんですか?」
「そりゃ、商売柄顔を覚えるのは得意さね。一人は見たことない子だけどお友達かい?」
「は、はい。はじめまして、ラニアンって言います」
「あらあら、これはご丁寧に。私はカシル。ここの女将をやってるよ」
女将のカシルとラニアンの挨拶が済んだところでハジメが再び話を始める。
「それで今日は入学したら顔を見せるって言ってたので来ました。もっと早く来たかったんですが、入学から3ヶ月は外出許可がでなくて」
「気にする事ないさ、ありがとうよ。ここはこの通り食堂もやってるからね。暇なときはいつ来てくれても構わないよ。学生価格でサービスするさ」
「マジで!? カシルさん!!」
女将の話にヒルナンが食いついた。これを見て女将は豪快に笑う。
「あっはっはっは! ああ、常連客が増えるのはこちらもありがたいからね」
「んじゃ、さっそくここで飯食って行こうぜ! 街の散策はそれからだな!」
ヒルナンの提案に3人も頷く。4人はちょっと早めの昼食にすることにした。カシルに席に案内されオススメのランチメニューを食べた。値段も安く、サービスで大盛りになっていたのでヒルナンは大満足だった。エルレアとラニアンはちょっと量が多く完食するのが大変そうだったのを見て「次からは普通の量にするね」とカシルが苦笑いしていた。
ハジメを含め皆満腹状態だったので少しそこで雑談をしてから街の探索に出かけた。宿屋を出て大通りを挟んだ反対側が商業区になっていて様々な店が並んでいた。大通りに面する店は勿論、路地を少し入ったところにある店も見て回っていたらすぐに門限になったので急いで学園に戻った。
この日から休日にはそれぞれ街に出かけるようになるが、休憩場所は必ず〔黄天亭〕になった。ハジメ達がよく使うせいか、他の学生もたまに見かけるようになり、客が増えカシルも大喜びだった。
それから1ヶ月程したある日、ハジメは一人で〔黄天亭〕で昼食を食べていた。窓際の席がお気に入りでそこから大通りを眺めながら食事をしているとエルレアが入ってきた。後ろには女子生徒が1人付いて来ている。小柄の可愛らしい女の子で紺色の髪を後ろで2つに纏めていた。顔を見て「同じ2組の生徒だな」と気付いたが話をした事がない子だった。エルレアは席にハジメしかいない事に気づき、ハジメに問いかける。
「ハジメだけ?」
「ああ、ラニアンはヒルナンの宿題の手伝い。明日提出なのに全く手を付けてなくてな」
「ハジメは手伝わないの?」
「手伝ってばかりいてもアイツの為にならないだろ? ラニアンにもそう言ったんだけどヒルナンに泣きつかれて断れなかったんだな」
「ラニアンは優しいからね」
エルレアはニッコリと微笑む。ハジメも「そうだな」と苦笑を浮かべる。
「ま、とりあえず座ったら? そっちの子もさ」
「え? あ、はい!」
突然話しかけらてた女子生徒は慌てて目の前の席に座る。エルレアもその隣の席に座った。
「で、なにか用事だった? ヒルナン達も呼んできた方がいいか?」
「ううん。ハジメだけで大丈夫、だと思う」
エルレアはそう言うと隣の女子生徒を見る。ハジメもそちらに視線を移すと、女子生徒は緊張した面持ちで話す。
「あ、あの、私ラミィって言います。ハジメ君とは同じクラスです」
「ああ、それは知ってるよ。ちゃんと話をしたことはなかったよね」
「う、うん。 えっと、あの、実は・・・」
ラミィは言い辛いのか俯いてモジモジとしている。オレは「何なんだ?」とエルレアを見る。
「ラミィ、ちゃんと言わないとわからないよ」
「・・・うん、実はハジメ君に取り戻してほしいものがあるの!」
「えっと・・・どういうこと?」
「実は昨日、どうしても買っておきたい物があって街に来たんだけど」
学生が基本休日以外に街を出歩く事はしないように言われている。出るときは届け出を出して許可を取らなければいけない。
「女子に人気のカバンがあって、それが欲しくてお小遣いを貯めてやっと買えると思ったら入荷日が昨日で。それですぐ売り切れるって聞いてたから昨日コッソリ学園抜け出してカバンを買ったの。それで急いで戻ろうとしたら学園の前で同い年くらいの男の子達に呼び止められて・・・」
「カバン取られちゃったと?」
ハジメが聞くとラミィは俯いたまま頷く。
「調子に乗るなよ金持ちの学生とか言って突き飛ばされて、カバン取ってどこかに行っちゃって・・・。先生達に言おうと思ったけど無断で外出した事がばれちゃうしどうしようかと思ってたらエルレアちゃんが相談に乗ってくれて・・・」
泣き出しそうな声で話すラミィに困惑気味のハジメ。
「そうしたらハジメ君達にお願いしようってエルレアちゃんが・・・」
「なんでオレ達なんだよ?」
これはエルレアに向けられた疑問だった。
「街の子供達くらいならハジメ達だけで問題ないと思って」
「自分でやろうと思わないのか?」
「私は女の子だから」
(女王様が何を言ってる!!)
ハジメは心の中でツッコんだ。その辺の子供相手ならエルレアだけでも十分だとわかっていたが、ここまで聞いて女の子に任せるわけにもいかないとハジメは溜息を吐く。
「で、ソイツらが居そうなとこってどこ?」
「やってくれるの?」
俯いていたラミィが頭を上げてハジメを見つめる。眼が涙ぐんでいた。
「絶対見つかるって保障はないけどやってみるよ」
「うん! ありがとう! 男の子達は住民区の方に走って行ったから街の子だと思うの」
「住民区ね。じゃあ、その辺から探してみるかな」
「よろしくねハジメ」
「よろしくハジメ君!」
食事の会計を済ませて2人と別れたハジメは学園側の住民区に向かう。大通りから住民区に入ってそれっぽい子供達を探していると後ろから声をかけられる。
「おい! 金持ちのボンボンがこんなとこでなにしてんだ!?」
振り返ると3人の少年と1人の少女が立っていた。少年達は敵意むき出しでこちらを睨んでいるが、少女の方は困ったような顔をしていた。リーダー格なのか一番前で腕を組んでいる少年が口を開く。
「お前学園の生徒だよな? ちょっと金貸してくれよ。どうせ小遣い沢山もらってんだろ?」
(うーん、こういうワルガキってのはどこにでもいるんだろうか。後ろの女の子は論外として、他の3人も普通の子供っぽいし・・・どうしたもんかなぁ)
そんな事を考えながらじっと見ていると、イライラしだした少年が怒鳴る。
「おい! 聞いてんのか!? はやく金出せよ!」
「あ、悪い悪い。それよりさ、君達昨日女子生徒がカバン取られたんだけど知らないかな? 何か知ってたら教えてほしいんだけど」
それを聞いた後ろの少女が明らかに動揺してリーダーらしい少年を見た。「アタリだな」とハジメは確信した。
「あ? お前あの女の知り合いかよ! 取り返しに来たのかよっ!?」
「あ、認めちゃうんだ。シラを切るかと思ったのに」
「う、うるせぇ! このシヤン団に楯突くとはいい度胸だ。返してほしけりゃ力ずく取り返してみろよ!」
(シヤン団ってなんだよ・・・)
リーダーの少年はハジメより背が高く体格も良かった。自信満々で挑発してきた少年にハジメは溜息を吐き条件を確認する。
「それじゃ、勝ったらカバンを返してくれるって事でいいんだな?」
「ああ! やれるもんならやってみろ。軟弱なボンボン!」
少年達はどうやら学生が皆育ちのいい金持ちの子供だと思ってるようだった。ハジメはまた大きくため息を吐く。
「馬鹿にしやがって!」
「これでもくらえっ!」
リーダーの隣にいた2人の少年が殴りかかってくる。顔に向かってくる拳を横に躱すとさらにもう1人の拳を屈んで避ける。その後も少年2人が必死で殴り掛かるも当たることはなくすべて避けられてしまう。それを見ていたリーダーの怒声が少年達に掛かる。
「おい! なに遊んでんだ!」
「ご、ごめんシヤン」
「こ、こいつ全然あたんねぇよ!」
「チッ! どけっ! オレがやってやる!!」
シヤンと呼ばれた少年がハジメに殴り掛かる。だがそれもスルリと躱されてしまう。シヤンは頭に血が上りがむしゃらに殴るが当たることはなかった。しばらくすると3人とも息切れをしてフラフラになっていたが、ハジメはまったく息が乱れることはなく平然としていた。
「な、なんでこんなタフなんだよ・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・もうダメだ」
最初に殴り掛かってきた2人はその場に座り込んでしまった。シヤンは他の2人より体力があったようだがなんとか立っている状態だった。
「くっそ・・・ふざけやがって・・・」
「もう負けを認めたらどうだ?」
「まだ負けてねぇ!!」
シヤンは最後の力を振り絞って殴り掛かるが、躱されてそのまま倒れこんでしまう。ハジメは仰向けに倒れているシヤンの頭に近づいて足を振り上げるとそのままシヤンの顔目掛けて振り下ろした。
「ひっ!」
シヤンは思わず目を閉じる。
ゴォン!
シヤンがゆっくり目を開けると足は顔の横にあった。石畳の地面にヒビが入っているのを見て顔を真っ青にさせる。他の子供達も同じような表情になっていた。
ハジメは振り下ろす直前に靴に<魔力塗装>を掛けていた。<魔力塗装>は掛けた物の強度を上げるので靴底を強化することで石畳にヒビを入れられるほど頑丈になった。ちなみに衝撃を緩和できるわけではないのでそれなりの衝撃が足に来る。
「ま、参った・・・」
「よし、それじゃカバン返してくれ」
ハジメが後ろに下がるとシヤンはゆっくり起き上がる。
「約束だからな・・・。おいリニス、カバン持ってきてくれ」
「う、うん」
リニスと呼ばれた少女はどこかに走って行った。
「まったく、何が気に入らないのか知らんがこれに懲りたら学生に絡むのやめろよ?」
「お、お前らが金持ちだからって偉そうにしやがるからだ!」
「学生が皆金持ちの子供ってわけじゃないぞ?」
「え?」
それを聞いてシヤンが驚く。他の2人も同じように驚いていた。
「学生の中には奨学金を使って勉強しに来てるやつもいるんだ。オレだってここからずっと離れた村の子供だしな。お前等がカバン取った女の子もやっと小遣い貯めてあのカバン買ったんだぞ?」
「え・・・でも、この前会った奴が・・・」
「会った奴?」
「ああ、オレ達が大通りを歩いてたら、貧乏で学園にも行けないヤツ等ってバカにしてきやがったんだ。売られた喧嘩は買ってやろうと思って殴ろうとしたら周りの大人に止められてな。後で聞いたらソイツ貴族の子供だったらしいんだ。それでムシャクシャしてたらその貴族と同じ腕章をつけてる女が高そうなカバン持ってたから・・・」
「腹いせに取ったと?」
「ああ・・・」
そこまで聞いてハジメは少し心当たりのある事を聞いてみることにした。
「その貴族の子供って手下っぽいやつ2人くらい連れた太ったやつじゃなかったか?」
「ああ! なんで知ってんだ?」
「そんなバカに心当たりあってな。アレで生徒を判断しないほうがいいぞ」
「そ、そっか・・・勘違いしてたんだな。すまねぇ」
「謝るならオレじゃなくてラミィにだな。たぶんまだ〔黄天亭〕にいるだろうから一緒に行くぞ」
「あ、ああ」
カバンを取りに行ってたリニスと合流した後4人で〔黄天亭〕に戻った。エルレアとラミィは食堂で待っていてハジメはカバンをラミィに返し、シヤン達の事を説明した後にシヤン達が謝った。事情を聞いたラミィはカバンも無事戻ってきたのでシヤン達を許して学園に戻って行った。
「さて、それじゃあオレ達も帰るかな」
「待ってくれ!」
帰ろうとするハジメとエルレアをシヤンが呼び止める。まだ何かあるのかと振り返ると意を決したようにシヤンが口を開く。
「アンタにお願いがあるんだ」
「お願い?」
「オレ達のボスになってくれないか?」
「・・・・・・はぁ?」
あまりに唐突な事に素っ頓狂な声を出してしまうハジメ。エルレアは「何か面白い事になった」と隣で黙って聞いていた。
「シヤン団のボスは一番強い奴って決まってんだ。アンタはオレより強いから是非ボスになってくれ!」
「いやいやいや、意味わかんないんだけど」
「頼む! アンタ、いやボスしかいないんだ!」
「お願いしますボス!」
「ボス!」
3人に頭を下げられて困惑するハジメ。エルレアがハジメの肩を叩く。
「なってあげたら?」
「いや、簡単に言うなよ。大体なんの集団なんだよ?」
「なんの・・・オレ達いつもなにしてっかな・・・」
「集まって遊ぶくらいかな・・・」
「それくらいですね」
それを聞いて頭が痛くなってきたハジメ。
「あのさ、オレは学生だから街にずっといるわけじゃないんだよ。お前等だけで遊んでいればいいじゃん」
「いや、街にはいくつかグループがあってたまに喧嘩になるんだよ。強いボスがいるってわかれば他のグループも簡単に喧嘩を吹っかけてきたりしないだろ?」
必死で頼む3人を見てハジメはしばらく悩むが、溜息を吐き承諾することにした。
「はぁ・・・じゃあ名前を貸すだけだからな」
「おお! ありがとうボス! さすがオレを倒した男だ! じゃあ今日からシアン団改め、ハジメ団だ!」
「ハジメ団万歳!」
「ボス万歳!」
「ちょ、ちょっと待て! なんだその名前はっ!! というか大声で騒ぐな!!」
食堂で大声で喜ぶ3人を必死で止めるハジメを見てエルレアはクスクスと笑っていた。
タイトルは邂逅って言葉が使いたかっただけです。
自分でつけといてなんですがハジメ団ってダサいですね。でもそれがいい。