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ジュエル!  作者: asobito
バスティア学園編
15/67

第11話 入学式での新たな出会い良し悪し

「さぁ! 王都に着いたぞ!!」


 ヒルナンが王都正門を潜った所で叫ぶ。周りの人がこちらを見てクスクス笑っているのでハジメ達は他人の振り決め込むと、ヒルナンが恥ずかしさをごまかすようにハジメ達に突っかかっていた。

 今日はこのまま学園へ行き、入寮手続を済ませれば今日から寮での生活が始まる。入学式は明日の朝からとなっていた。

 学園に入って案内の看板に従い職員棟で入寮手続を済ませる。寮は石と木で造られた3階建ての建物で1つの棟に約50人入れるようになっている。男子寮が3棟、女子寮が3棟の計6棟に学園の寮生がすべて住んでいる。男子寮と女子寮の間に職員棟が建っており、許可なくお互いの寮を行き来してはいけない規則になっていた。

 とりあえず荷物を置いてこようという事で、まずエルレアの荷物を置きにエルレアとラウが女子寮に向かった。ラウは保護者という事になっているので入っても問題ないが、ハジメ達は「同年代の男子が行ったら他の女子が嫌がるかもしれない」と遠慮しておいた。こちらが恥ずかしいというのが本音なのだが。

 寮はすべて個室でベッドと机は備え付けだった。ハジメとヒルナンはそれほど大きな荷物を持ってきていないが、エルレアは大量の本―ちなみに本棚ごと―と研究資料―こちらも棚ごと―など村の自分の部屋に置いてあった勉強に必要な物をほとんどを持って来ていた。3人とも荷物をラウの<異空間収納>に入れてきたので手ぶらだったから手続をした職員が不思議がっていた。

 3人の荷物の搬入も終わり、ラウは村へ帰るので3人は王都の正門まで見送りに行く事にした。


「それでは坊ちゃん、ヒルナン君、エルレアさん頑張って下さい。私を始め村人全員応援しております」

「ありがとうラウ、気を付けて帰ってね」

「ありがとラウさん! 連休に入ったら村に戻るぜ!」

「お土産買って帰ります」

「楽しみにしております」


 ニッコリ微笑んでお辞儀をするとクロフレイアを連れて出発した。3人はラウ達が見えなくなるまで正門に居た。

 見送りを終えて学園に戻った3人は各自の部屋に戻って行った。ハジメは荷物を片づけてる途中から部屋にやってきたヒルナンと話をしていると日が沈んできたので食堂で夕食にする事にした。食堂は職員棟の隣にあり男女共通だった。夕食時という事もあり寮に住んでいる生徒達で賑わっていた。今日入寮した生徒達は雰囲気に圧倒されてオドオドしながら各自空いている席に着き食事を取っていた。ハジメとヒルナンもエルレアと合流して食事を取った。


「ふう、食った食った。結構うまかったな。村で食う飯より劣るけど」


 食べ終えたヒルナンが食事の感想を言う。


「そりゃ自分の家で食べるのが一番だろうさ」

「ちょっと心配だったんだよな寮の飯って。これから何年も食べる飯だから、不味かったら寮生活の楽しさ7割減だろ」

「7割って・・・まぁ、わからないでもないけどな」


 たしかに食事の良し悪しは結構響くものがあるとハジメは思った。食堂の料理は思っていたよりも豪華だった。これは、学生の中に貴族などの上流階級の人間がいるので、あまり質素な料理は出せないという事が理由だった。一般生徒からすれば十分満足できるものになっている。


「それにしてもどの建物もでっかいよなぁ。全部石と木で出来てんだろ? よく潰れないよな」

「それは魔法で補強されてるから」

「へぇ、エルレアそんな事まで知ってんのか。さすがだな!」


 ヒルナンに褒められてエルレアは少し照れているようだった。

 建物は石と木で出来ていたがそれだけでは強度が足りないので魔法で補強されていた。魔法は3重に掛けられていてどれか一つが効果が切れてもいきなり崩れる事はなかった。


(困ったことは魔法で解決。この世界って魔法のおかげでなんでもアリだな)


 なんでもアリな魔人の自分を棚に上げ、魔法が浸透している社会に呆れるハジメだった。

 それから雑談を適当にして各自の部屋に戻った。ハジメは明日に備えて早めに寝ることにした。





 入学式当日、ハジメ達は学園中央にある広場で集合して3人で講堂に向かう。講堂の入り口で出席確認をすると腕章を渡された。学園には制服が無く、私服に校章の入った腕章を付けるようになっている。『初等部』は緑、『騎士科』は赤、『魔法科』は青、『学術科』は黄と色分けされていて、1年生は金のラインが横に1本入っており、学年が上がるとラインの数が増える。

 腕章を身に着け講堂に入る。席は決まっていなかったので3人は並んで席に着く。式は学園長の挨拶から始まり、上級生代表の祝辞、新入生代表の答辞などあったが途中ヒルナンが小声で話し掛けてきた。


「おい、来賓席に座ってるのってシャワルじゃね?」

「え?」


 ヒルナンの言う方を見ると確かにシャワルが来賓席にいた。驚いているハジメ達を余所に進行役が式を進める。


「では、次に来賓を代表しましてシャワル殿下から挨拶を頂戴したいと思います」


 その言葉で会場がざわつく。紹介されたシャワルがスッと立ち上がり檀上に上るとザワついていた会場はシンと静まり返った。


「皆さん、入学おめでとうございます。本日は私と同年代の皆さんが入学するという事で挨拶をさせていただきます。まだ右も左もわからなく、戸惑う事はこの先沢山あると思いますが、充実した学園生活を過ごし持っている才能を十分開花させてください。同い年の皆さんの頑張りを知るのは私にとってもとても励まされることです。皆さんに負けないように私も一層精進しようと思います」


 スタートからとても10歳の挨拶には思えなかったが、シャワルの堂々とした挨拶が終わると会場中割れんばかりの拍手が響いた。

 入学式は昼前に終わり、3人は食堂が開くまで広場で休んでいる事にした。広場は整地され、テーブルとイスがいくつか置いてあり新入生のグループがそのいくつかを使っていた。3人は空いてる席に着くと雑談しながら時間を過ごす。すると3人に声がかけられる。振り向くとシャワルとヨークソンが立っていた。それに気づいた周りの生徒達はザワつき出すがヨークソンが周りを見渡すとすぐ静まり返った。


「3人共入学おめでとう」

「お、シャワルじゃん! ひさしぶり!」

「ひさしぶりだな」

「ひさしぶり、シャワル」


 シャワルの言葉にヒルナン、ハジメ、エルレアがそれぞれ応える。周りに居た生徒達は王子と対等に話すハジメ達をチラチラ見ているが気にしないことにした。シャワルの後にヨークソンもお祝いの言葉を送る。


「入学おめでとう。3人共がんばってくれ。話に聞いた所3人共とても優秀らしいから心配はいらないか」

「話?」


 ヨークソンの言葉にハジメは首を傾げる。


「入試を担当した職員の中に知り合いがいてな。ちょっと話を聞く機会があったのだ。3人共入学生の中ではトップクラスらしいぞ。だが、あくまで入学生の中でというだけだ。これからもっと精進して学園トップを目指したまえ」

「ふふ、ヨークソンは気が早すぎますね」

「それくらいの心構えを待たないといけません」


 入学早々学園トップを目指せと真顔で言うヨークソンにシャワル達は笑い出した。


「それにしてもシャワルが来賓で来るとは思わなかったな」

「ああ、それは挨拶の時に言った事と久しぶりに君達に会いたかったという理由があったからなんだ」

「顔見に来るだけでも大変そうだもんな」


 ハジメがそう言うと「まぁね」とシャワルは困ったように笑った。するとヒルナンが何か思い出したように「ちょっと待っててくれ」と言って寮へ戻って行った。すぐ戻ってきたヒルナンの手には封筒に入った手紙が入っていた。


「ヨークソンさん、これ姉ちゃんから」

「え? あ、う、うむ、すまないな」


 笑顔で手紙を渡すヒルナンに明らかに挙動がおかしくなったヨークソン。手紙をサッと受け取るとすぐに仕舞ってしまった。


「ヨークソン、今のは・・・」

「す、すみません王子、こればかりは王子にもお答えしかねます」


 頭を下げるヨークソンにシャワルもこれ以上聞かなかった。ハジメ達に対しても「何も聞くなよ」といった視線を送ってきたのでハジメは何も聞けなかったが、ヒルナンを見ると笑顔になっているのでそれほど問題があるわけではなさそうだと思った。


(ヨークソンさんがいない時にヒルナンに聞いてみるか)


 この件はそれで終わり再び雑談を再開する。





「おい! こんなところに犬がいるぞ。 おらよっ!!」

「うわっ!!」


 5人で雑談をしてると、そんな声が聞こえた。聞こえたと思ったらハジメの背中に何かがぶつかる。ハジメが振り向くとぶつかったのは小柄な少年だった。頭に付いた犬の耳を見てハジメは試験の時の少年だと気付く。


「すみません! すみません!」


 少年はハジメに向かってひたすら頭を下げる。その後ろには3人の少年がこちらをニヤニヤしながら見ていた。腕章からハジメ達と同じ新入生だとわかる。すこし太っていて「裕福な家のお坊ちゃん」と言った服装の少年が2人の子分を引き連れているように見えて「ワルガキの典型」だなとハジメは思った。


「あぁ、別に謝らなくてもいいよ。押されたんだろ?」

「え? ・・・あ、はい。いや、えっと・・・」


 少年がどう答えるべきか悩んでいる様子だったので押されたと判断したハジメ。


「押されたのなら謝るのは君じゃなくてアイツだな」

「え?」



 少年が驚いていると、その会話を聞いていた太った少年はハジメに標的を変えたのかこちらに歩いてきた。高慢な態度で座っているハジメを見下している。


「あぁ? なんだ、文句でもあるのか?」

「文句以外に何もないくらいなんだけどな」

「オレにそんな口を利くとはお前田舎者か? オレがホーウズ家のクチアージ様だとわかってんのか?」

「たしかに田舎者ってのは否定できないけどな。シャワル、コイツ知ってる?」


 おそらく貴族かなにかだと判断したハジメはクチアージと名乗った少年を指さしてシャワルに聞いてみる。子分らしき2人はシャワルに今気づいたのか顔を真っ青にしてクチアージを止めようとしたが、当の本人は未だにシャワルが誰か気づいてないらしい。


「ふむ、ホーウズ家という名は聞いた事ある。たしか貴族だったと思う・・・」

「貴族であっております、王子。よほどの名家でなければ面会する事はないでしょうから覚えてなくても仕方ありません」


 記憶が曖昧なシャワルにヨークソンがフォローをする。そこまで聞いてハジメしか見ていなかったクチアージはシャワルとヨークソンの存在に気付く。見る見るうちにクチアージの顔から血の気が引く。


「お、王子!? なんでこんなところに!?」

「入学式で挨拶してたろ」


 驚くクチアージに冷静にツッコミを入れるハジメ。周りの生徒も笑いそうになっているのがわかる。


「ぐ・・・し、失礼しました。おい! 行くぞ!」


 そう言ってシャワルにお辞儀をすると子分の2人を連れてすぐどこかへ走り去ってしまった。


「なんだったんだアイツ」

「ま、ああいうのがいるって分ってよかったじゃん」


 ハジメの言葉にヒルナンが返す。


(ああいうのに目を付けられるとめんどくさいんだよなぁきっと・・・)


 ハジメはそう思い溜息を吐く。


「あ、あの、ありがとうございました」


 犬耳の少年がハジメ達に向かって頭を下げる。


「ん? ああ、気にする事ないさ。君も変なのに引っかかっちゃったね」


 ハジメは笑顔で答える。ヒルナン達も笑顔で少年を見ていた。そうするとヒルナンが少年の腕章を見て話し掛ける。


「お! オレ達と同じ新入生じゃん。ヒマしてんなら一緒に話そうぜ!」

「え? いや、でも・・・」


 そう言ってシャワルとヨークソンを見るがシャワル達も「どうぞ」とイスを勧めるので少年はオドオド席に着いた。


「よっしゃ! じゃあ自己紹介だな。オレはヒルナン。騎士になりたくて入学してきたんだ。よろしくな!」

「私はエルレア。『学術科』希望。よろしくね」

「僕はシャワル。と、僕は自己紹介する必要ないのかな。学生ではないし」

「まぁ、いいんじゃね? というか王子知らない奴なんていないか」

「さっきいた気がするけどな。あれは見えてなかっただけか」


 シャワル、ヒルナン、ハジメが脱線しかけるのをヨークソンが遮って自分の自己紹介をする。


「私はヨークソン。親衛隊に所属する騎士だ。王子の護衛隊隊長でもある。よろしく頼む」

「へぇ、ヨークソンさん親衛隊なんですか?」


 騎士というのは知っていたが詳しくは知らなかったのでハジメが聞く。それに対してヨークソンが詳しく説明をする。


「うむ、騎士団の精鋭である親衛隊は王の護衛を主にするのだが、若い隊員達で王子の護衛をする事になっている」

「その護衛隊長は親衛隊の隊長候補でもあるんだよ」


 ヨークソンの説明にシャワルが付け足す。するとヒルナンが目を輝かせる。


「すげぇ! んじゃ、ヨークソンさん次期隊長候補じゃん!」

「いや、候補はあくまで候補だからな。現に私は今の隊長には遠く及ばない。私が隊長などまだまださ。それよりもまだ自己紹介が途中だったな。すまない私が脱線させてしまったな」

「オレが質問したんだし気にしないで下さい。んじゃ、次はオレだな。オレはハジメ・アメジスト。『魔法科』へ進学希望だな。よろしく」


 ハジメ達が自己紹介し終わると少年は席を立ち自己紹介を始める。明らかに緊張していて眼が泳いでいた。


「ぼ、僕はラニアンと言います。僕もハジメ君と同じ『魔法科』希望です。よろしくお願いします」


 そう言ってラニアンは頭を下げる。それに対してハジメ達は拍手で答えた。





「おや、シャワル王子ではないか。こんなところで何をしているのかね」


 ラニアンも参加してさらに雑談をしようとした矢先シャワルに声がかかる。声の方を見ると高級そうな服装の40歳程の男とその後ろにギョロリとした目でこちらを見るローブの男がいた。前に立っている男を見るとシャワルとヨークソンはすぐ立ち上がる。


「これは叔父上。今からお帰りですか?」

「うむ、入学式も終わったのでな。シャワル王子もあまり道草をせぬようにな。父上が心配なさるぞ」


 そう言ってハジメ達を一瞬見るがすぐシャワルの方に視線を戻す。


「はい、わかりました。叔父上もお気をつけて」


 シャワル達が頭を下げるのを確認すると叔父と呼ばれた男達はそのまま王都の方へ歩いて行った。その後ろ姿をヨークソンが険しい表情で見つめている事にハジメは気付いたが、子供が聞く事ではない気がしたので黙っていることにした。

学園入学です。

今回からセリフ最後の「。」をなくしてみました。執筆中はあったりなかったりしてるので無しの方向で統一して行こうかなと思います。

他のところも今後色々変えていくことになりそうです。括弧の使い分けとか。

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