第10話 国立バスティア学園初等部入学試験
2012/1/4 改行ミスを直しました。
2012/9/10 指摘のあった誤字脱字を修正しました。
シャワル達の事件の後、ハジメ、ヒルナン、エルレアの3人は半年後にある王都の学園の入学試験に向けて勉強をしていた。3人の受験手続はオルタスがしてくれていた。試験を受けられるのは10歳からで3人とも今年10歳になるので丁度良かった。
試験内容は筆記試験と選択科目別の試験だった。選択科目は騎士、魔法、学術で分かれており、それぞれ剣術試験、魔法試験、研究発表といった内容だった。筆記試験は街にいる10歳位の子供が勉強するレベルだったがハジメとエルレアは数年前にやっていた事だったのでまったく問題はなかった。ヒルナンは今までまったく勉強をしていなかったがクラウ、ハジメ、エルレアのスパルタ教育でなんとかなりそうだった。
選択科目の試験もシャワル達を送って王都に行った際に試験のレベルを調べていたラウからお墨付きをもらっていたのでヒルナンとハジメは今まで通りの訓練をしていた。研究発表があるエルレアは発表内容を決めたり、色々調べていた物を纏めていたりしていた。ちなみにラウは王都の本屋で『学園入試の傾向と対策』という本を見つけたが、内容がハジメ達がとっくに習得していた事だったので買わなかった。
ハジメはこの間に『魔人魔法』を1つ作っていた。名前は<眼色偽装>。眼の表面に膜を作り、魔法使用時に輝く眼を隠す効果があった。前世にあったカラーコンタクトレンズをイメージして作った魔法だった。これは無意識でも維持できるようにする為にハジメは常時この魔法を使うようにしている。魔人と気付かれず人前で魔法を使う対策だった。
あっという間に半年が過ぎ、試験2日前になった。早朝、村の入り口にハジメ達3人と保護者として付いて行くラウ、馬車を引いたクロフレイア、4人を見送る為に集まったオルタス達がいた。村から王都までは馬車で1日半で着くので朝に出発することになっていた。
「それじゃ! みんながんばってくるんだよ。いつも通りやればまず問題ないだろうからね。」
「はい、父上。」
「まかせといてくれよ村長!」
「がんばります。」
笑顔のオルタスの言葉に3人も笑顔で答える。
「ヒルナン、初めての王都だからってはしゃぐなよ。」
「うん、ハジメとエルレアは大丈夫だろうけどヒルナンはそれが心配だね。」
「兄さん、あまり浮かれて試験失敗しないでね。」
「だ、大丈夫だって!ちゃんと試験に集中するさ。まかせておけって!」
レットン、トナイ、ヒルダから心配されるヒルナン。「たしかに浮かれそうだなコイツ」とハジメも思った。
「よし、お前等!今までの訓練通りやれば何の問題もない!ぶっ倒してこい!」
「師匠、ぶっ倒す試験じゃないです。」
「・・・ま、まぁそういう気持ちで挑めって事だな。ダッハッハッハ!!」
ハジメのツッコミに笑ってごまかすドルガン。皆も一斉に笑う。
「坊ちゃん、そろそろ出発の時間です。」
「うん、それじゃみんな馬車に乗ろう。」
3人が馬車に乗るのを確認してラウはオルタス達の方を向く。
「それでは行ってまいります。」
「ああ、気を付けて!」
進みだした馬車から手を振る3人に村人皆見えなくなるまで手を振って応えていた。
道中は特に何もなく順調に進んでいった。モンスターの襲撃があるかと思ったが周辺のモンスターより格段に強いクロフレイアを恐れて何も近づいて来なかった。おかげで野宿も安全にできた。食事もラウの<異空間収納>のおかげで普段通りの暖かい料理が食べられて馬車で寝る事以外特に変わらなかった。そして予定通り1日半で王都まで着くことができた。
国内では皆王都と呼んでいるがバスティアという名前があった。『王都バスティア』は4方向を壁に囲まれておりハジメ一行は北にある正門の検問の列に並んだ。ラウに聞くと出入口は正門の他に東門もあるとの事だった。そちらは貴族など身分の高い者達が主に使っている門で一般人が使う事はあまり無いとも言っていた。検問はすぐ順番が来て、入学試験を受けに来た事を伝え、受験申込み時に貰っていた受験票を見せるとすぐに通れた。
王都内は広場を中心に北と東西に大きな通りがあり南半分には城とその周りに貴族の住む地区、その周りに住民地区があった。城、貴族地区と住民地区の間には内壁と門があり門番が常に立っていた。北半分の東側は宿屋や酒場や娯楽施設などあり、西は武器屋や防具屋など様々な店が並ぶ商業地区だった。所狭しと店が並んでいて、どちらも見て回るのにかなり時間がかかりそうだった。
馬車は王都に入る前にラウが<異空間収納>で仕舞ってしまった。門付近に馬車を停めておく場所あるが、お金を取られるからという事だった。クロフレイアは正門近くにある馬小屋に預けることになった。預けるのはよかったが他の馬がクロフレイアを怖がって落ち着かない様子だった。当の本人は全く気にしてない様子だったが。
城下町の賑やかさにヒルナンとエルレアはキョロキョロ落ち着かない様子だった。前世の記憶があり、2人よりは人混みには慣れているハジメでも人の多さと活気の良さに圧倒されていた。村から出る事がなかった3人には見るものすべてが新鮮だった。
何度も来ているラウに必死に付いて行き、目的の宿屋に到着する。この宿屋は事前の下調べで見つけた場所だった。ラウが手に入れていた本『王都のオススメ宿屋百選』から得た情報によるものだった。
「あら、いらっしゃい。4人でいいかい?」
宿屋に入ると恰幅のいい40歳ほどの女性が笑顔で問いかける。女性の問いにラウが答える。
「ええ、できれば1人部屋を4つ用意していただきたいのですがよろしいですか?」
「ああ、空いてるから構わないけど子供も1人づつなんて珍しいね。」
「学園の入学試験で来てまして。1人の方が集中できると思いましてね。」
「なるほど、それなら納得だね。この時期は国中から試験を受けに来るからねぇ。ウチにも何人か泊まってるよ。他の客にも騒がないように言っておくから安心しな。」
「ありがとうございます。」
丁寧にお辞儀するラウ達に「よしとくれ。」と笑顔で答える女性。後で聞いた所この宿の女将だった。
試験を受けに子供達が王都に集まるという事で宿屋で部屋が取れるか心配していたが、子供達のほとんどが保護者同伴だったので、数人泊まれる部屋を借りていて1人部屋は逆に空いていた。街も気になったが、試験を明日に控えていたので3人ともその日は宿で時間を過ごした。
次の日の朝、3人共寝坊する事無く荷物を纏めて食堂に集まる。朝食を食べ、忘れ物がないか再確認してラウと女将に見送られ宿を出た。
「よっしゃ! それじゃやってやりますか!!」
ヒルナンが自分の緊張を解す為気合を入れる。そんなヒルナンを見て2人も緊張が少し解ける。こういう時のヒルナンはありがたいとハジメは思った。2人とも顔には出ていないが緊張していたからだった。
学園の正式名称は『国立バスティア学園』と言い、王都の西側に隣接していた。入口は王都の西門のみで学園も四方を壁に囲まれていた。学園は『初等部』『騎士科』『魔法科』『学術科』に分かれていて、入学して最初に入るのは『初等部』だった。『初等部』で2年学んだ後、進級試験を受けて合格すれば『騎士科』『魔法科』『学術科』に入れる。それぞれの科でさらに専門的な事を5年学ぶというシステムになっていた。どの科に行くかは入学試験の選択科目の時に決めるので途中で変えるという生徒はほぼ皆無だった。
入学試験は3日間で行われ、1日目は筆記試験、2日目は選択科目試験、3日目には合否が出るというものだった。高校受験を経験しているハジメにはかなりスピーディに感じた。なぜそれほど早く合否を出せるかというと審査をするのが学園の教員だけでなく、各科最上級生から選抜された優等生も審査を手伝うからだとラウから教えてもらった。
学園内に入ると上級生らしい人が案内をしていて迷う事なく試験会場の初等部棟に入れた。受験票に書かれた番号の席に座り、試験開始を待つ。独特の緊張感が支配する部屋に「こういうのは初めてじゃないけど慣れる事はないな」と苦笑する。
筆記試験は1時間程で終わったので昼前には宿に戻れた。ハジメが手応えはどうだったか聞くと、エルレアは全く問題ないようでヒルナンは「な、何とかなったと思う。」と何とも言えない顔をしていた。だがヒルナンは勉強が嫌いなだけで全然できない訳ではなかったので、ハジメやエルレアもそれほど心配してはいなかった。
午後からは選択科目試験の為ハジメとヒルナンは宿の庭で軽く体を動かしたりした。エルレアは部屋で研究発表を最終チェックをしていた。
試験2日目、試験会場が選択科目毎で違ったので3人は別れ、ハジメは魔法科棟に行った。魔法試験は部屋で自分の使える魔法を試験官達に披露するというものだった。試験を受ける子供も多いので3つの部屋で同時に試験を行っている様だった。ハジメは案内された部屋の前の長椅子に座って順番を待つ。ふと、自分の隣の少年を見ると獣人族のハーフなのか頭に犬の耳が付いていた。ハジメは村にも獣人族がいたので珍しいわけでもなかったが、他の子供は珍しいのかその少年をチラチラ見ていた。だが、その少年はそれすら気付かない程緊張していて、ずっと小声でブツブツ何かを言いながら手元を見つめて座っていた。恐らく詠唱を練習してるんだろうなとハジメは思った。
「次、ラニアン君。部屋に入って下さい。」
部屋から試験官が次の受験者を呼ぶ。だが、その声に誰も反応がない。
「ラニアン君、いませんか?」
ハジメはもしやと思い、隣の少年に声をかける。
「君、ラニアンじゃない? 呼ばれてるけど。」
「え? ・・・あ、ひゃい!!」
突然声をかけられた上に自分の出番が来た緊張で噛んでしまった少年は真っ赤になりながら部屋に早足で入っていった。それを見ていた子供達もドアが閉まった後クスクス笑っている。
「なんか悪い事しちゃったかな・・・。失敗しなきゃいいけど。」
少年が部屋から出てそのまま外に歩いて行った。顔を見たが脱力感は見えたがどうなのか分りかねた。そのあとすぐにハジメが呼ばれ部屋に入った。
「え~、ハジメ・アメジスト君でいいかな?」
「はい。」
試験官の質問に答える。試験官は書類を一通り見て質問を続ける。
「扱える属性はなんですか?」
「火と風です。」
「ほぉ、2属性使えるとは。それではまず火の方から見せてもらおうかな。攻撃系の場合は横にある的に向かって魔法を撃って貰えればいいからね。結界が張ってあるから力一杯やってもらって大丈夫です。」
「はい、分りました。」
ハジメは的に向かって詠唱を始める。『精霊魔法』(一般の人が使う魔法。ハジメは『魔人魔法』と区別するためこう呼んでいる)は一通り練習していたので詠唱は問題なくできた。前に出していた手に火の塊ができる。
「炎の矢!」
そう叫ぶと手にあった火の塊が的に向かって飛んで行った。着弾してボワッと炎を上げると的のあたりが黒く焦げた。
「うん、上出来だね。次は風魔法を見せて下さい。」
「はい。」
ハジメは詠唱を始める。するとハジメの足元を風が渦巻きだす。
「風の壁!」
そう叫ぶとハジメを包むように高さ2m程の竜巻ができる。しばらくすると竜巻は消えた。
「素晴らしいね。問題も無さそうだ。では試験はこれで終わりなのでこのまま帰ってもらって大丈夫です。お疲れ様でした。」
「ありがとうございました。」
ハジメはお辞儀をして退室する。
学園の入り口で待っているとすぐにヒルナンが来る。それからしばらくするとエルレアも来て一緒に宿に戻る。宿に戻ると丁度昼食時だったので宿で待機していたラウと4人で食堂で昼食を取ることにした。食事が始まると早速話題は先程の試験の事になる。
「で、2人共どうだったよ?」
「ん? オレは特に問題なさそうだな。」
「私も。」
「おお! いいね。オレも問題なさそうだったしな。なんか驚いてたみたいだけど。」
「驚いてた?」
ハジメは首を傾げる。ヒルナンの試験は『騎士科』の上級生との模擬試合だった。軽く相手をするつもりだった上級生はヒルナンの気合の入った攻撃に驚いた。とても10歳の子供とは思えない鋭い攻撃に油断してた上級生は危うく負けそうになった。すぐ気を取り直し負ける事はなかったが。その様子を試験官達は感嘆の表情を浮かべて見ていた。試合時間が過ぎ、ヒルナンは引き分けで終わった。大事なのは内容で試合結果が判断基準ではなかったが、他の受験生は皆負けていたのでヒルナンは飛び抜けていた事が解かる。
「私も驚かれた。」
「エルレアも?」
エルレアは研究発表で自分の住む村周辺の動植物の生態研究結果を発表した。その中には森の動植物も入っており、国が森を危険地区としているので解明されていなかった事まで書かれた内容に試験官達が試験どころじゃなくなるという珍事が起きた。そしてなにより子供とは思えない調査の徹底ぶりに驚かされていた。エルレアの順番は最初の方で3人の中では一番早く終わるはずだったが、試験官達の質疑応答にすべて答えていたので他の受験生の4倍ほど時間が掛かってしまっていた。
「なんかオレが一番普通だったんだな。」
「ハジメが? そんな訳ねぇよ。2属性使えるのって珍しいんだろ? それでお前が落ちたら他の奴も皆落ちるだろ。他の奴がどんな奴かは知らないけど。」
2人に比べて普通の試験結果だったハジメはその事を口にするとヒルナンがフォローになってない事を言ってきた。本人はフォローのつもりなのだろう。「たしかにな。」とハジメが苦笑すると「だろ?」とヒルナンは満面の笑みを浮かべていた。
たしかにすべての人間が魔法を使えるわけではない。生まれ持った精霊との相性が影響するので魔法がちゃんと使えるのは5人に1人という割合だった。その中でも2属性を使えるのは極めて珍しいと前にオルタスから聞いていた。
3日目の朝、今まで以上に緊張した面持ちで3人は学園へ向かう。学園中央の広場にある大きな掲示板に合否の結果が張り出されていた。掲示板に貼られた紙には受験番号が並んでおり、その横に合否が書かれている。3人は緊張の面持ちで自分の番号を探す。
「よっしゃぁぁあああああ!!! 合格だぁぁぁぁああああ!!!」
ヒルナンが歓喜の声を上げる。あまりの大声に周りの人も振り返り苦笑を浮かべていた。それに気付いたヒルナンは気まずそうに身を縮めていた。
「私も合格。」
エルレアは2人にだけ聞こえる声でそう言った。トーンはいつもと同じだが顔はとても嬉しそうだった。ちなみに2人は申込み時に奨学金制度を使いたいと学園側に伝えているので合格が決まった時点で奨学金制度も許可が下りたという事になっている。
ハジメも自分の番号を見つけて合否を見る。番号の横には合格と書かれていた。掲示板をざっと見渡すとほとんどの受験生が合格していた。学費が高い上に受験料もそれなりだったので「試しに受けてみよう」と軽く考えてる人がいないのと本当に篩いにかけるのは各科に進学する試験からだった。必要最低限の学力とスキルがあれば『初等科』はまず落ちないという事は王都に住んでいる者は知っていたが、3人がそれを知る事は無かった。ちなみにその事をラウは知っていたが、あえて口にはしなかった。
「うん、オレも合格だ。」
「3人とも無事合格だな!! よし、ラウさんに伝えてこようぜ!!」
宿に引き返そうと走り出すヒルナンを慌てて止める2人。ヒルナンが「なんだ?」という顔をしているので呆れながらハジメは説明する。
「合格者は入学説明があるから講堂に集まれってさっきから案内の人が言ってるぞ?」
「あ、ホントだ。あぶねぇあぶねぇ。」
慌てて2人の元に戻るヒルナン。2人と共に講堂へと向かう。講堂にはイスが並んでおり、自分の受験番号が書かれたイスに各自座った。合格者が座り終わると係員が受験票を回収する。それと交換する形で合格通知書が配られる。
「これは入学時に必要になるから決して無くさないように。」
そう言いながら各自に配る。その後入学の日程などの説明を30分ほどして説明会は終わった。
すぐに宿に戻りラウに合格を伝える。ラウは笑顔で賛辞の言葉を送ると3人も喜んだ。その様子を見ていた女将も来て3人共合格だと知ると「今日晩御飯はサービスするよ。」と言ってくれた。夜から来た客も事情を女将から聞くと皆「おめでとう」と声を掛けて来てくれて食堂にいた客達が合格を祝った。その日の晩御飯はすごく楽しいものだった。
次の日、午前中は村にいる親や友人達への土産を買い、昼から王都を出発する事になった。街を見て回りたかったが早く合格を伝えたいという気持ちが強かったので諦める事にした。土産を買い一度宿に戻る。荷物を纏め、女将にお礼を言って正門へ向かう。女将は玄関まで出て見送ってくれた。「入学したらまた顔出しなよ~。」と手を振ってくれたのでハジメ達も笑顔で手を振って応えた。
クロフレイアと合流して王都の外に出る。少し進んだところでラウが馬車を出してクロフレイアと繋げる。4人は馬車に乗り来た時と同じ道を通って村へ戻って行った。クロフレイアがペースを上げてくれたおかげで村には次の日の夕方には着く事ができた。
「たっだいまー!」
ヒルナンの声に村の皆が集まってくる。オルタスも丁度村にいて馬車の方へ来る。
「やあ、その明るさから察して試験はうまくいったのかな?」
「おう! 3人共無事合格だぜ!!」
ヒルナンの答えに歓喜の声が上がる。それに3人共照れた顔をする。子供達が3人の所に駆けつけワイワイと話しているとオルタスが大きな声で村人に話しかける。
「よし、それじゃ今日は3人のお祝いをしよう!! 広場でパーティって事でいいかな?」
オルタスの提案に村人達は盛り上がる。すぐにパーティの準備が始まり、女性陣は料理を作る。男性陣はテーブルや酒樽などの用意や、狩っていた獲物を捌いたり力仕事をしていた。ハジメ達3人はそれぞれ一旦家に帰ったが、パーティの準備の間子供達はする事がないので道場の方で集まり、お喋りをしながら時間を潰していた。そして日も暮れて準備も終わり、皆広場に集まった。
「さ、みんな集まったようだし乾杯しようか。それじゃ! 3人の試験合格を祝って! 乾杯!!」
「「「「「乾杯っ!!」」」」
それを皮切りにパーティは大いに盛り上がった。パーティは夜中まで続いて、子供達が寝てしまった後も大人達はしばらく広場で盛り上がっていた。
入学日までの村での生活はあっという間に過ぎ、村を出発する日の前日となった。その日の夜。
「よし、これでいいかな。」
ハジメは自室で荷物を纏めていた。学園に入学すれば寮生活が待っている。衣類や日用品を纏め鞄に詰め込んでいるとオルタスとクラウが部屋に入ってきた。
「ハジメ、ちょっといいかい?。」
「はい、何でしょう父上、母上。」
オルタスはニコリと笑い、手にしていた物を渡す。直径1cm程の黒い石のついたネックレスだった。
「これは?」
「魔晶石だよ。ハジメにプレゼントしようと前々から探してたんだけどなかなか手に入らなくてね。昨日やっと森で見つけたんだ。いやぁ、ハジメが出発する前に用意出来てよかったよ。」
「これが・・・。」
ハジメは渡された石をじっと見る。核人の本体であり命の源の魔晶石をハジメは初めて見た。見た目は黒い結晶で特に珍しそうな感じはしなかった。
「これも生き物になるのですか?」
「いや、その石はまだ眠っているようでね。目覚めてから魔力を吸い出して自我が芽生える。そしてさらに魔力を貯めて生き物の姿になるって感じかな。いつ目覚めるかわからないからハジメはいつも身に着けているだけでいいよ。自我が芽生えだしたらハジメにもすぐわかると思うから。ラウとか人型になる程の魔晶石は持ち主との相性って問題点があるけど、それくらいの石ならまず問題ないだろうしね。」
「わかりました。ありがとうございます。父上、母上。」」
オルタスの説明を受け、ハジメはまた石を見つめた。見つめているとクラウが前に来てハジメと目線を合わせる為にしゃがむ。ハジメの目をじっと見つめ、ハジメに話しかける。
「学園に行ったら寂しくなるかもしれないけど、ハジメは強い子だからきっと大丈夫。頑張ってね。」
そう言うとハジメをギュッと抱きしめる。オルタスもハジメの頭を優しく撫でる。最初は恥ずかしくて硬直していたが、2人の優しさに包まれてハジメもクラウに抱きついていた。
出発の日、村の入り口には見送る為に村人全員が集まっていた。今回もラウが付き添いでクロフレイアが引く馬車で行く事になっていた。
「それじゃハジメ、ヒルナン、エルレア。がんばれよ。」
「体に気を付けてね。たまには帰ってきなよ。」
「頑張ってね3人共。兄さん、遊んでばっかいちゃだめだよ。」
「だ、大丈夫だって! 何しに行くと思ってんだ!」
レットン、トナイ、ヒルダの3人がそれぞれハジメ達を応援する。ヒルダはヒルナンの心配の方が多かったが。
「元気でやれよお前等。向こうでも訓練はやるんだぞ!」
「大丈夫だって師匠! さらに腕を磨いてあっと驚かせてやるぜ!」
「おう、楽しみにしてるぞ!!」
ドルガンの激励にヒルナンが返しガシッと握手をする。ハジメとエルレアもその後に続いて握手をした。その後3人それぞれ家族とお別れをして馬車に乗った。
「それじゃ! 3人共頑張ってきなよ!!」
「はい! 行ってきます!!」
「行ってくるぜ!!」
「行ってきます。」
オルタスの言葉に馬車から身を乗り出して返事をする。村人が手を振るのに笑顔で手を振り返しながら王都へ出発して行った。
新章突入です。
いきなり結構駆け足気味で入学まで行っちゃった気がしないでもないです。
次から学園生活スタートです。