昔話 王の頼みとオルタスの条件
[グァロキフス城 王の私室]
窓際にある椅子に腰を下ろしている国王オルバスタは窓の外を見る。城の中も城下町も活気に溢れていた。大陸の平定して数十年、やっと国らしい姿になってきた。長かった戦乱も終わり人々の顔も生き生きとしていた。この景色こそがオルバスタの人生であり誇りだった。そんな景色を眺めているとドアをノックする音が聞こえる。
「オルバスタ様、お客様がお見えになりました。」
「うむ、通せ。」
イスから立ち上がりそう返すと扉が開き、使用人の後ろから30歳ほどの男女が入ってくる。案内をしてきた使用人はお辞儀をして部屋を出る。部屋にはオルバスタと男女の3人だけになった。
「やあ! オルバスタ、元気そうだね!!」
「お久しぶりです。オルバスタさん」
男は笑顔で手を上げて挨拶をし、女はその後ろから丁寧に頭を下げる。その2人を見てオルバスタも笑顔で答える。
「ふふ、オルタスにクラウ、相変わらずだな2人とも。本当に・・・40年前と何一つ変わってないな。」
「いやいや、オルバスタも相変わらず元気そうで安心したよ。」
「私はもう60をとっくに過ぎた年寄さ。同い年とは誰も信じてくれんだろうな。」
オルバスタは苦笑を浮かべる。「まぁ、座ってくれ。」とオルバスタは2人をイスへ促し、自分もテーブルを挟んだ向かいのイスに腰を掛ける。
「で、わざわざ話ってなんなんだい?」
「ああ、今日はオルタスに頼み事をしたいと思い呼んだのだ。」
「頼み事? 先に言っておくけど国に仕えろとかは無しだぞ? オレ達が手伝うのは平定するまでって約束だったからね。その後の事は国王であるオルバスタと臣下のみんなの仕事だろ? オレは今の村での生活をやめる気はないよ。」
「わかっている。ただ私が死んだ後の事で頼みたいのだ。」
「死んだ後?」
「もし私の死後、私の子孫達に何かあったら助けてやってほしい。これは王としてでは無く、友としての頼みだ。」
オルバスタの心配は王となれば命を狙われる事があるという事だった。今はその心配はなくても代を重ねれば王の座を狙う者が必ず出てくると考えていた。戦乱の時代を生きたオルバスタはそんな話をいくつも知っている。その事を話すとオルタスは少し考えた後に口を開く。
「まぁ、助けるくらいはいいけど期待はするなよ? 村に居て気付かない事だってあるんだから。あと・・・」
オルタスはさらに条件を付けた。
「そいつが助ける価値もないようなヤツだったらオレは見捨てるから。それはお前の子孫でもだ。」
「ああ、それで構わない。君が見捨てるようなヤツに国を任せられんしな。」
そこまで話すと笑顔に戻り他愛もない雑談になった。ずっと黙って聞いていたクラウもそれには参加して3人の話は大いに盛り上がった。話に夢中になるオルバスタは40年前に戻ったように生き生きとした表情だった。
[現在 オルタスの家]
「まさかあの時の約束が今更出てくるとはねぇ。」
リビングで寛ぎながら呟くオルタスにクラウは笑顔で応え、そして気になった事を聞く。
「もしシャワル王子が王に相応しくなかったら見捨てました?」
「まぁ、そういう約束だったからね。でも彼はいい王になると思うよ。賢そうだし真面目なところはオルバスタにも似てると思う。さすがアイツの子孫だね。助けた理由は他にもあるけど・・・」
「他に?」
「ハジメの友達を見捨てるわけにもいかないしね。」
「ふふ、そうですね。」
オルタスの答えに微笑むクラウ。オルタスはそんなクラウを見て照れたのか頭を掻きながら笑った。
短い昔話ですが王とオルタスの話を入れたかったので。
次回から新章にはいると思います。