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ジュエル!  作者: asobito
幼少期編
12/67

第9話 村長オルタスの交渉術とシャワル達との別れ

「あの村か?」

「ああ、間違いねぇ。この辺には村なんてここしかないって話だしな。」


 ボルザの問いに仲間の一人が答える。森に隣接する村の規模は小さく、ボルザ達が集めた数で十分依頼をこなせる様に見えた。


「よし、行くぞ! テメェ等!!」


 手にした剣を掲げ、ボルザがそう叫ぶと「ウォォォォォォォ!!!」と仲間達が応え、それぞれが武器を手に取り走り出す。そしてその勢いで村への進攻を開始する。先頭を走るボルザも今度こそ成功させようと剣を持つ手に力が入る。

 しかし、村から馬に乗った1人の男がこちらに向かって歩いて来るのに気付き、ボルザ達は速度を落としてしまう。「命乞いか?」とボルザは考えた。依頼としては標的さえ殺せばよかったので村を襲う必要はない。だがこの地点でボルザ達は村を襲ってすべてを奪ってしまおうと考えていた。


(どうせ「標的達と引き換えに自分達は助けてくれ」と交渉してくるのだろう。交渉してきたらそれに応えるフリをして村に近づき襲えばさらに楽に仕事ができるな。)


 とボルザは考え、男が来るのを待つ事にした。男が来るまでに仲間達にもその事を伝えたので仲間たちはニヤリと笑いボルザに従った。

 男がボルザ達の前に来て男の表情が分かるとボルザ達の顔に疑問が浮かんだ。今まさに命の危機だというのに男はニコニコと笑顔でこちらを見ていた。男は馬から降りるとボルザ達に話しかけた。


「いや~、こんな所までよく来たね。周りに何もない所だから迷わなかったかい? あ、それとも場所はもう知っていたのかな?」

「な、なんだテメェ!何者だ!!」

「あ、これは失礼したね。オレはあの村の村長でオルタス・アメジストって言うんだ。そんな事よりちょっと君達にお願いがあってね。」


(平然としてるが結局命乞いか。)


 ニヤリと顔を歪めかけたボルザだが、次のオルタスの言葉に表情が固まってしまう。


「悪いんだけど彼らの事は諦めてくれないかな?」

「は?」


 ボルザを含む全員がポカンと同じ表情を浮かべる。そんな中ボルザがいち早く立ち直り怒声をあげる。


「ふ、ふざけてんのかテメェ!! 諦める訳ねぇだろ!!」


 その声に我に返った仲間達も一斉にオルタスを殺気の籠った目で睨む。それにまったく臆することなくオルタスは「まいったな」という顔をする。


「うーん、そうなると君達を皆殺しにしなきゃいけなくなるのだけど・・・。」

「皆殺しだと? テメェ頭おかしいんじゃねぇのか? この状況でなんでそうなるんだ!! もういい! テメェ殺して村も潰してやるよ!!」


 完全に交渉が決裂した事にオルタスは残念そうな顔を浮かべる。だがそれは一瞬で、すぐ普段の表情に戻る。


「それじゃ仕方がないね。村を危険に晒すわけにいかないからね。でも馬に罪はないし・・・クロフレイア頼むよ。」

「ヒヒィン。」


 クロフレイアは返事をするように鳴くとボルザ達が乗っている馬達を睨む。すると馬達は急に落ち着かなくなる。


「な、なんだ!? どうした!!」


 ボルザ達も何事かと馬を宥めようとするが全く言う事を聞く気配がない。そしてクロフレイアが前足で地面を強く叩くと馬達は一斉に暴れだし、乗っていたボルザ達を振り落して逃げて行ってしまった。受け身も取れず地面に落下する男達にオルタスは申し訳ないように言った。


「馬はさすがに可哀そうだからね。逃げてもらったよ。悪いね。」


 その声を聴いてボルザ達は殺気をさらに膨らませオルタスを睨みながら立ち上がる。すぐにでも斬りかかるという感じだった。


「テメェ、ぜってぇ殺してやる!!」

「そっか、みんな殺る気マンマンだね。あ、でも途中で逃げようとされると困るし、村の連中には刺激が強いだろうからもうちょっと待ってね。クロフレイア。」

「ヒヒィィィィン!」


 クロフレイアは嘶くとクロフレイアの周りに黒い炎が上がる。炎は2mほどの壁になりオルタス達とボルザ達を囲って外からは見えないようになった。それにボルザ達は驚き狼狽える。


「テ、テメェ! なにしやがった!?」

「この炎は熱くないから安心していいよ。でも触れると燃えるから。」

「ふ、ふざけ・・・や・が・・・。」


 叫ぼうとしたボルザの声が途中で止まってしまった。ボルザはオルタスの目を見てしまった。紫色に輝く目を。するとオルタスの足元に黒い影ができていた。丸い円形をした影はどんどん広がり直径10m程に広がる。影の中から人の形をした黒い塊が次々出てきた。全身黒一色で表情などはなかったが手にはそれぞれ武器を持ち、形だけだが鎧を着ているように見えた。それが40体ほど出てきたところでオルタスは話しかける。ボルザ達は完全に思考が止まりまったく動けなかった。だが次のオルタスの言葉で表情は恐怖に染まる。


「殺そうとしているところ悪いけどここからは一方的な虐殺だ。君達は王族を殺そうとしたんだ。誰一人生かしては置けない。生かして捕まえてもどうせ死罪だしね。」


 言い終わるとオルタスの周りにいた黒い人達が次々ボルザ達に襲いかかった。ボルザ達は応戦しようとしたが、黒い塊のどこに攻撃してもすべて弾かれ、向こうからの攻撃を防ぐしかできなかった。終わることのない怒涛の攻撃を防ぎきれるはずもなく、オルタスの言った通り一方的な虐殺になっていく。攻撃が効かずそのまま切り捨てられる者、逃げようとして黒い炎に焼かれる者、中には武器を捨て命乞いする者もいたが、黒い人はそれを聞く事もせず剣を突き刺す。阿鼻叫喚の中、黒い人は淡々と殺していく。そんな中ボルザは離れて立っているオルタスに気付きオルタスに向かって走り出す。


「死ねぇぇぇぇぇ!!!!」


 ボルザが剣を振り下ろす瞬間ボルザの体が黒い炎に包まれる。クロフレイアがボルザを睨んでいた。


「グギャァァァァァァ!!」


 黒い炎に包まれ絶叫するボルザ。すると後ろからドスッドスッと衝撃が伝わる。黒い人2人がボルザの背中に剣を突き刺していた。絶叫も止まり、血を吐きながらそのまま崩れ落ちるボルザ。周りを見るともう黒い人以外誰も立ってはいなかった。それを確認するとオルタスは「ふう。」と息を吐く。それと同時に黒い人は霧のように消えてしまった。紫色に輝いていた目も黒色に戻っていた。


「さてと、後はこの死体だな。このまま残すのも不味いし燃やしておいてくれるかい?」

「ヒヒィン。」


 すると、死体がすべて黒い炎に包まれた。着ていた鎧も持っていた武器もすべて消えてなくなった。囲っていた炎の壁も死体が無くなるのと同時に消え、残ったのはオルタスとクロフレイアだけだった。オルタスが周りを見渡すと遠くの方で馬に乗った人影が走って行くのが見えた。


「あれが依頼人かな・・・今から追うのは無理かな。またすぐ襲うって事はたぶんないか。さて、戻ろうかクロフレイア。」


 そう言うとクロフレイアに乗って村に戻って行った。村では様々な声に迎えられたが歓喜の声(主に村人)に笑顔で答え、驚嘆の声(主に騎士達)に笑って流した。





 次の日「村にこれ以上迷惑をかけたくない。」との事でシャワル達は王都に戻る事になった。怪我をした騎士は動くのに支障はなかったが、念の為ドルガンとラウが付いて行く事になった。


「それではお世話になりました。皆さん。」

「いやいや、気にする程の事じゃないよ。気を付けてね。」

「気を付けてくださいね。」


 シャワルがお辞儀をするのに対してオルタスとクラウが返す。


「今回は私達騎士にも落ち度がございました。二度とこんな失態を犯さぬ様さらに精進を重ねます。本当にありがとうございました。」


 ヨークソン達騎士の言葉に笑って答えるオルタス。ヨークソンとオルタスが話をしているとシャワルがハジメの方へ来る。


「ハジメ昨日言ってた事覚えてるかい?」

「ん?ああ、学園の事か?」

「ああ、是非考えておいてくれ。」

「わかったよ。でも期待するなよ?」

「わかった。じゃあハジメ、元気で。」

「ああ、シャワルもな。」


 シャワルが馬車に乗り窓から顔を出したのでハジメや村の子供達は笑顔で手を振る。シャワルも嬉しそうに手を振って応えた。村人達が見送る中、馬車は王都に向かって走って行った。





 見送りも終わり、いつもの生活に戻る。家に帰りリビングでお茶を飲んでいる両親に話しかける。


「あの、ちょっといいですか?」

「ん? なんだいハジメ。」


 オルタスとクラウがハジメを見る。ハジメはイスに座り話を切り出す。


「あの・・・シャワルから王都の学園に行ってみないか?って誘われて。」

「ふむ、でハジメは行きたいのかい?」

「興味はありますが、学費もかかると思うし、父上と母上に迷惑がかかるんじゃないかと・・・。」


 そう言うとオルタスとクラウは笑い出す。ハジメは何事かと2人を見つめる。それに気付いてオルタスが謝る。


「ゴメンゴメン。あまりに大人な事を言うからつい笑っちゃったよ。あと学園の事はシャワル王子からも相談を受けたんだ。」

「え?シャワルから?」

「うん、ハジメは魔法の才能がある。学園で学べばもっと伸びるはずだってね。もしお金の問題があるなら奨学金制度もある。と、真剣だったよ。」

「そんなこと言ってたんですか・・・。」

「あとヒルナンとエルレアが学園に行きたがってる事もね。」

「そうですか。」

「オレ達としてはハジメが行きたいなら応援するよ。お金に関しては全然気にしないでいいよ。ハジメの学費払うくらい全然問題ないからね。」

「ヒルナンとエルレアは?奨学金制度を使うんですか?」


 オルタスの話でハジメは大丈夫だというのはわかったが、2人は村の普通の家庭の子供。王都の学園の学費を払える余裕などあるわけがなかった。


「2人は奨学金制度を使うみたいだね。オレが払うって案もあったのだけど奨学金の方が頑張れる気がするって言うからそれ以上は何も言わなかったよ。もし、奨学金が受けれなかったらオレが出すつもりだけどね。」


 それを聞いてハジメは自分も奨学金制度にするべきじゃないのかと考えた。それが顔に出ていたのかオルタスが真剣な顔で話しかける。


「もし、自分だけ学費を出してもらえるのが申し訳なくて2人に合わせて奨学金にしようと思ってるならやめときなよ? それは何の意味もない事だし2人も喜ばない。親が子供の学費を出せるのだからそれは出さなきゃね。親は子供の望む事の力になりたいって思うものなんだ。何より学費が奨学金だろうと親のお金だろうと頑張らなきゃいけない事に変わりはないんだからね。」

「・・・・・・はい。」


 オルタスの言葉を聞いてハジメは自分が両親や友人の事をちゃんと考えてないと気付いた。両親は自分の事をすごく考えてくれて、遠慮なんかしてほしくない。友人達はそれぞれが夢の為に一生懸命頑張っている。自分が恵まれているからと言って2人に合わせるという事自体失礼な事だと気付いた。反省しているハジメの顔を見て微笑みながら話を続けるオルタス。


「うん、それじゃ学園に行くって事で話を進めようかな。2人にも話しておかなきゃね。」

「はい! よろしくお願いします!」

「ああ! 任せておいてくれ。ハジメもがんばらなきゃね!」

「がんばってねハジメ。」

「はい! 母上。」


 笑顔で応援する両親にハジメも元気よく笑顔で返した。





[ある屋敷の一室]




「で、結局失敗したと?」

「も、申し訳ありません。」


 イスに座っている男が話し掛ける。見るからに高価な服を身に纏った男の怒りの混じった声にローブを着た男は謝る。傭兵達に襲撃を依頼した男だった。今はフードは被っておらず、ギョロリとした目の細身の男が必死に頭を下げていた。それに対して男は溜息を吐く。


「せっかくの機会を無駄にしおって。しかも城で聞いた話によると盗賊団の襲撃という偽装もばれているそうではないか。シャワル達も当分警戒するだろうな。」

「お、恐らくはそうなるかと・・・。」

「チッ、使えん傭兵などに頼るのではなかった! そんな奴らを選んだ貴様も含めてな!!」

「申し訳ございません!!」


 男の怒声にローブの男は只々謝るだけだった。


「しばらく様子を見ているしかないか・・・。」


 怒りを浮かべた顔のまま窓をの外を見る。男は窓から見える城をずっと睨み続けていた。

あけましておめでとうございます。

新年一発目で残酷描写が来ました。たぶん残酷描写です。オルタスさんは結構容赦ない人です。怖いですね。というか交渉してないですね。怖いですね。

幼少期編はこれで終わりの予定です。短い昔話を入れて新章に入っていこうかなと思います。

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