第7話 草原での事件と出会い
2012/9/10 指摘のあった誤字脱字を修正しました。
「うおりゃーーー!」
ヒルナンは木剣を振り上げハジメの頭を目掛けて振り下ろす。ハジメは横に避けて左手に持っていた木剣でヒルナンの首に向かって振るうが、素早くしゃがんで避けられる。そのまま転がり距離を取るヒルナン。ハジメは体勢を整えようとするヒルナンに向かって木剣を投げつける。
「うおっ!」
まだ立ち上がっていなかったヒルナンは顔に向かって飛んでくる木剣を上半身を反らして躱す。後ろで地面突き刺さる木剣。だが引っ張られるようにまたハジメの手元に戻っていく、よく見ると木剣とハジメの手には紫色に光る縄のようなものが見えた。
「おい! 魔法使うのはズルいだろっ!!」
「全力でかかってこいって言ったのはお前だろ。」
「そうか、ならしょうがないな。ってなるわけねぇだろうがぁぁ!!」
「ノリツッコミご苦労様です。」
ヒルナンがツッコミながら斬りかかってくるのを木剣を両手で持ち受けとめる。
バキィ!!
ヒルナンの木剣が真ん中で折れて切っ先の方が飛んで行った。ハジメの木剣には傷一つなかった。よく見るとハジメの木剣は紫がかった透明な薄い膜に覆われていた。
「木剣を強化までしてやがるとは・・・。」
「こうでもしないとまともに受け続けられないからな。」
「チッ、しょうがねぇここまでだな。」
そう言ってヒルナンは力を抜き、飛んで行った切っ先を拾いに行った。ハジメは痺れている両手を見て苦笑いをしていた。ヒルナンの剣の腕前は同年代ではダントツで6歳離れたレットンとも対等に戦え、たまに勝っていたりした。愛用していたのは大き目の木剣で、ハジメは小さ目の木剣。普通に受けていたらハジメの方が先に折れるのだがハジメは魔法で武器を強化してそれを防いでいた。
ハジメは魔人特有の魔法『魔人魔法』を2つ覚えていた。正確には編み出していた。『魔人魔法』に決まった形はなく自分で好きなように魔法を作れた。ハジメが作った魔法は<魔力塗装>と<魔法の縄>。<魔力塗装>は身に着けているものや武器を魔力で強化する魔法。格段に頑丈になり、刃物などは刃こぼれもしにくくなる。<魔法の縄>は手から魔力でできた縄を出す魔法。先ほどの様に剣などにも繋げられるし、伸縮も自在。魔力が縄のようになっているだけなので結ぶ必要はなく念じれば繋がるし、先端を曲げれば輪になる。強度も込めた魔力によるので普通のロープより頑丈にできた。狩りや日常生活で重宝するので使い勝手のいい魔法だった。
「子供達の中でヒルナンと対等に戦えるのはもうレットンさんとハジメくらいなものだね。」
広場の端に行くと、そう言ってトナイが話しかけてきた。ヒルダも後ろに付いてきていた。
「トナイも兄さんの相手できるじゃない。」
「いやいや、まともに戦えないよ。アイツの上達っぷりは異常だよ。それについていくハジメもね。」
苦笑いしながらトナイが言う。ヒルダは納得してないのか頬を膨らませていたが、何か思い出したのかすぐに顔が元に戻った。
「そういえば兄さん、騎士に憧れているみたい。この前ドルガンさんと話してて騎士の事聞いてたみたいだから。」
「へぇ、アイツ騎士になりたいのか。」
「あ~ヒルナンくらい才能あればなれるのかもね。」
驚くハジメにトナイがそう答える。
「みんな将来に向かって頑張ってるわけだ。」
「なにおじさん臭い事いってるんだハジメ。」
トナイは呆れた顔をしてハジメを見る。トナイとレットンは目標通り狩人としての技術を着実に身に着けている。レットンは狩猟団の見習いとして狩りに付いて行くようになった。トナイもすぐ見習いとして参加するようになるだろうとハジメは考えていた。
ヒルダは相変わらず恋に生きる乙女でいつもトナイの傍にいた。最初はトナイがまったく気付かず周りがもどかしく思っていたが、鈍感なトナイもいい加減気が付いたのか最近は2人でいる所をよく見かけるようになった。今では村公認のカップルになっている。
「そういえばエルレアも学者になりたいって言ってなかったかな。」
「あ~エルレアなら納得な気もする。」
トナイがそう言って弓の練習をしているエルレアを指さす。ハジメも納得した顔でエルレアを見る。薄緑色のウェーブの掛った髪を後ろで束ね、真剣な表情で弓の練習をしていた。エルレアは益々美に磨きがかかっていて、今の練習風景も1枚の絵のようだった。本人はまったく美に無関心だったが。昔から自分の知りたいことをとことん追求する性分でその知識量は子供達の中では飛びぬけていた。
「ハジメはなにかしたい事見つかってるのかい?」
トナイの問いにハジメは悩んでしまう。ハジメはまだ具体的な夢がまだはっきり決まっていなかった。ただ楽しく毎日を過ごしていてはっきりとした将来を考えていなかった。
(高校生の頃と変わらないなオレって・・・。)
「うーん、まだ見つかってない・・・かな。」
「そっか、やりたい事見つかるといいね。」
「ああ。」
(やりたい事かぁ・・・。)
「ねぇねぇ! 私の将来の夢聞かないの!?」
ヒルダが待ちくたびれたように問いかけてきた。それにハジメは呆れながら答える。
「だって、お前どうせトナイのお嫁さんだろ?」
「どうせって言わないでっ!」
プンプン怒るヒルダを見てトナイは「アハハハ・・・。」と苦笑い。ハジメも「やれやれ」と怒るヒルダを宥めた。
将来の夢ははっきり決まっていなかったが、ハジメはやりたいことが1つあった。
(世界を見てみたい。)
冒険者だったオルタスやドルガンの話を聞くと、今住んでいる所は大陸というよりは島に近い。世界はとても広くいくつも大陸があり、その中には様々な国があるらしい。世界がどれほど広いのか正確には分からなかったが、2人の冒険者の話はとても興味深いものだった。話を聞きながらハジメは自分でも見てみたいと思うようになっていた。
それから数日後、ドルガン、トナイ、ヒルナン、エルレア、ハジメの5人は草原に狩りに来ていた。この辺りのモンスターは格下になっていたので特に問題はなく、必要な量の獲物が獲れて戻ろうとしていた時だった。最初に異変に気付いたのはトナイだった。
「ん? なんだろアレ・・・。」
トナイの言葉に全員がトナイの視線の先を見る。100m程離れたところを馬車と騎士を乗せた馬数頭が大急ぎで走っていた。その後ろを十頭近くの馬が追いかけている。
「む、あれは盗賊か!?」
ドルガンの声に子供たちは緊張する。子供達は盗賊を見るのは初めてだった。盗賊と思しき一行は見る見るうちに馬車に近づき一人が馬車を引く馬に向かって矢を射る。2頭の内の1頭に刺さり転倒する。それに驚いたもう1頭も驚き止まってしまった。馬車の周りを盗賊が囲う。周りを走っていた騎士達が馬車を守るように盗賊を威嚇する。騎士が5人に対して盗賊は10人程だった。
「いかん! ヒルナンとハジメはオレについてこい!トナイとエルレアは弓で援護してくれ。いいか、無理に倒そうとするな追い払うことを考えろ!」
「わかりました師匠!」
「よっしゃ!まかせろっ!」
トナイとヒルナンが返事をする。
「ちょっと待ってください。」
そう言うとハジメはドルガンとヒルナンの武器と服に触れる。紫がかった透明な薄い膜が武器と服を覆う。<魔力塗装>を2人にしたのだった。<魔力塗装>は自分以外にもできるが今のハジメでは15分ほどしか効果がなかった。
「これでよしと。」
「お、すまんなハジメ。よし、いくぞ!」
3人は急いで馬車の方へ向かう。その後ろをエルレアとトナイが追う。騎士と盗賊は戦闘を始めていた。
「うおおおおおおお!」
ヒルナンは騎士とにらみ合っている盗賊の後頭部目掛けてドロップキックをお見舞いする。「ふぐおっ!?」と吹っ飛ぶ盗賊、向き合っていた騎士も急にこちらに突っ込んでくる盗賊を慌てて躱す。他の盗賊や騎士達は何が起きたのかと一瞬止まる。
((((あのバカ・・・。))))
ドロップキックをした後そのまま地面に落ち、慌てて起き上がるヒルナンを見て助けに入ったメンバーは同じ感想を思った。だがその行動で呆気に取られている間にドルガンは盗賊の1人の両足を斬りつけ行動不能にする。トナイとエルレアも1人づつ射て行動不能にする。致命傷は避けていたので死んではいなかった。
「これ以上怪我したくなければさっさと去れ!命までは取らない!!」
ドルガンが叫ぶと盗賊のリーダーらしき男が「チッ!」と舌打ちして撤退の合図をした。それに合わせて他のメンバーは怪我をした者を馬に乗せ、早々に撤退していった。
「あれ、呆気ねぇな。これで終わりか?」
ヒルナンがつまらなさそうに呟く。
「馬鹿野郎!! 敵が複数いる所であんなことするんじゃねぇ! あんな無防備な状態さらせば殺してくださいって言ってるもんだぞ!!」
ドルガンの怒声が飛びヒルナンはシュンと落ち込む。ヒルナンが怒られている間に離れていたトナイとエルレアも集まる。騎士達は様子を伺っていたが、ドルガンの怒声が止んだあたりで声をかけてくる。
「すまない、何処の何方か知らないが助かった。」
「いや、たまたま見かけただけだ。気にすることはない。」
「あのまま襲われていれば命はなかっただろう。数人怪我をしていたしな。」
騎士の中には矢が刺さって怪我をしている者がいた。たしかにあのまま騎士だけで戦っていても危なかったかもしれない。とドルガンは思った。身に着けている装備の良さ、撤退する決断の速さなど盗賊に違和感を感じたからだった。
(今のはただの盗賊というわけではなさそうだ。)
「すまないがどこか休めるような場所はないだろうか。危険な場所にいつまでもいるわけにはいかなくてな。」
そう言うと騎士は馬車の方に目をやる。それを見てドルガンは「貴族でも乗ってるのか。」と考えた。
「それなら村に来るといい。怪我の治療くらいならできるだろう。」
「ふむ、それはありがたいが・・・この辺に村があるなど聞いたことがないが・・・。」
「普段滅多に人がくることない村だからな。」
ドルガンは笑いながらそう答えた。一部始終を聞いていた子供達にドルガンは説明をする。
「と、まぁ聞いた通りだ。この人たちを村まで案内する。エルレアとトナイは一足先に村に戻ってこの事を伝えてきてくれ。」
「「はい。」」
2人はすぐ村に向かって走り出した。残り3人は騎士達と怪我人の応急処置や死んでしまっていた馬を馬車から切り離したりするのを手伝って村へ出発した。その様子を遠くから伺う者がいたがハジメ達は気付くことはなかった。
村に近づくにつれて騎士達は驚きの声を上げた。
「まさかこの森に住む者がいるとはな・・・。それなら子供達のあの勇敢さも納得だ。」
聞くところによるとこの森は『不帰の森』や『魔物の森』などと言われ普段誰も近づかない危険地区に指定されていた。他の地域に比べたら格段にモンスターが凶暴との事だった。ハジメ達は危険なのは分かるがここが基準だから実感がわかなかった。
森に隣接する村に到着すると騎士達もやっと安堵の顔を見せる。村では事前にトナイ達から事情を聞いていたオルタスが待っていた。ドルガンからオルタスが村長だと説明を受けた騎士はオルタスに感謝を述べて一礼する。馬車を村の中に入れると村人は「なんだなんだ。」と集まってくる。馬車の扉が開き中から1人の少年が降りてくる。金髪で整った顔立ち、見るからに利発そうな少年が降りると周りの騎士達は少年に向かって頭を下げる。少年はオルタスに向かって話しかけてくる。
「危ない所を助けて下さりありがとうございます。私はグァロキフス王オルティダの息子シャワルと申します。」
「へぇ王子ですか。」
この大陸を治めるグァロキフス国の王子と知り、村人は驚いてざわつく。オルタスは特に慌てる様子もなく平然としている。
「まぁここで話すのも何なんでオレの家に向かいましょう。」
自分の家に案内するオルタス。ヒルナン達と別れハジメとドルガンもオルタスに付いて行った。
この話を考えるのに時間かかってしまった。王子登場させるどうか最後まで悩みましたが出すことにしました。