未来人、部屋に現れる
ものすごく久しぶりの投稿です
夜遅くの話である。仕事から帰ってきて、家にいた。なんとなく、テレビをつけようとした。すると、未来人が私の部屋に現れた。
壁の前にいた。自分よりも少し若いであろう22、3歳ぐらいの男が立っていた。明らかに日本人ではなかった。欧米人だった。
「なんだ、いきなり。」私は言った。
「突然現れて申し訳ありません。」男は日本語で答えた。
「誰だ、君は。」
「未来人です。」その男は答えた。
「なんだって。」
「本当です。嘘ではありません。」
「冗談を言うな。未来っていつからやってきたんだ。」
「それは、答えられません。」
未来人は、一見、白人だけど、アジア系の顔つきをしていた。おそらく混血なのだろう。髪の毛は金髪だった。長髪だった。身長は私よりはるかに高く180センチはあった。
「うんと未来です。はるか未来です。タイムマシンが実現しています。」
「俺はどうなっているんだよ。」
「亡くなっていますよ。」
「何で知っているんだ。俺が死んだことを。俺のことを知っているのか。」未来人はさらに続けた。「いいえ?」
「どういうことなんだ。」
「だって、21世紀初頭を生きていた人間は一人も生き残っていませんもの。それくらいの未来です。」
「どういうことなんだ。なんのために、そんな未来からこの時代に来たんだ。」私は聞いた。
「この時代やあなたに用があったわけではありません。タイムトラベルの最中に、タイムマシンがちょっとした不調が起きてしまいました。一時的にタイムマシンが止まって、この時代に来てしまったのです。」
「そんなバカな。嘘をつかないでくれ。おかしいじゃないか。どうして、未来人が現代の日本語を話せるんだ。」
未来人は現代の日本語を正確に話していた。未来人は答えた。
「機械を使っています。もうこの時代に実現している技術ではないですか。」
その通りだった。しかし、ただ単に音を発しているのではなく、口も、話している日本語に合わせて動いていた。私にはその原理がよくわからなかった。
私はさらに聞いた。
「でも、おかしい。未来人がそんな服装なのか。未来人って言ったって、その格好しておいて、信じられる訳ないだろう。」
未来人は白い長袖のワイシャツと黒いチノパンをきていた。どうみても、現代の日本の大型のスーパーに行けば、買えるものである。うんと未来からやってきたのに、ファッションが現代のまま、変わっていないわけがない。
「これはたった今作ったものです。この時代に合わせました。まだそういう技術はまだ普及していない段階らしいですね。」
私は黙ってしまった。それでも、何も言わないでいられなかった。
「タイムトラベルをしてきたっていうのなら、タイムマシンはどこにあるんだ。」
「後ろです。」そう言って、未来人は後ろにある壁を指差した。タイムマシンではなく、壁である。
「どこに。」
「壁ですよ。そこにあります。」
「どういうことだ。」
「しまっているのです。どういう原理かは、説明できません。未来の技術を使っています。」
その通りだった。しかし、私は、聞いた。
「タイムマシンがしまえるのなら、なんで自分だけ出てきたんだ。」
「生きているものをしまえる技術はまだできていないのです。」そして、未来人は続けた。「どうやらまだ信じていないようですね。それなら、そこにペンがありますね。それをこっちに投げてみてください。」
未来人のいう通り、目の前のちゃぶ台にペンが置いてあった。2色のボールペンである。白いプラスチック製である。
「思いっきり私に投げつけてください。」言われた通り、投げてみた。
ペンは空中を飛んだ。未来人の方に飛んでいた。そして、空中で突然向きを変え、自分の方向へと向きを変えて戻ってきた。こっちに飛んできた。そして、床に落ちた。
「もう一度。」未来人は言った。もう一度投げてみた。すると、やはり、ペンは自分の方に向きを変えて飛んできた。テーブルの上に、落ちて、跳ねて、床に落ちた。
「信じられない。」
「だからと言って、これは未来人である証拠にはなりません。信じてもらえましたか。」
私は何も答えられなかった。「そろそろ、タイムマシンが直る時間なので、帰ることにします。騒がせて申し訳ありませんでした。せっかく来たんだから、すこしだけ、教えてあげましょう。私たちが未来から来た証拠として、未来のことを一つだけ教えてあげましょう。」
「どういうことだ。」
未来人は何も言わずに続けた。
「明後日の夕方、青森を震源とした地震が起こります。大地震ではありません。死者や怪我人が出るほどの規模ではないので、騒ぐ必要はありません。ただ、鉄道が止まったりします。未来からやってきた証拠として教えます。」
「本当なのか。」
「本当かどうかは明後日になればわかるでしょう。ただ、今はどうやっても証明できないです。」
その通りだった。は未来から、1990年にタイムトラベルをして、そこで一つだけ歴史の改変を行ったのです。そこから元の時代に帰る途中にタイムマシンに不調が起きて、2026年、つまり今、あなたの部屋に来てしまったのです。1990年は、あなたが生まれるより前の時代のようですね。そこでほんの少しだけ歴史を変えました。あなたが生きている今この時代は改変が行われた世界です。改変が行われる前の世界とはわずかながら違いが生じています。歴史に大きな変動が起こるほどの違いではないですが、改変される前の世界では」
次の瞬間、未来人は消えていた。自分だけが部屋にいた。壁があった。
私はかべのところまで駆け寄って、壁を撫でてみた。そこにタイムマシンはなかった。なにかがある気配もしなかった。しまってあったタイムマシンごと未来人は帰ってしまったのだ。
部屋の中を見渡しても、自分しかいなかった。ボールペンだけが床に置いていた。
その後、なんの考えもなしに、外に飛び出した。夜遅かったので、外には、誰もいなかった。未来人がいた痕跡を探してみた。辺りを見渡しても、未来人はいなかった。そんなものが見つかるわけがなかった。静かだった。夜遅くだったので、急に外に飛び出して、隣人からはうるさいと思われたかもしれなかった。
部屋に戻ったら、ボールペンが床に落ちていた。さっき投げたボールペンだった。私は拾うことができなかった。
それから3日たった。私は未来人が部屋に現れたとは誰にも言わなかった。言ったところで誰も信じないだろう。頭がおかしくなったとすら思われず、ふざけていると思われるだろう。証拠は何も残っていない。そして、もうすぐ、地震が起こるとも言わなかった。いうこともできたが、言わなかった。そういう選択をした。
誰にも言わないまま、未来人が予言した昨日の午後から夕方にかけて、私は仕事がまだ終わっていなかったが、何回も何回もスマートフォンを立ち上げて、地震の速報が流れないか何回も何回もチェックした。執拗にスマフォを見ていた。周りから見たら、不自然な印象を与えていたのだろうけれど、職場の周りから、どうかしたのかと突っ込まれることはなかった。
そこまで切迫している職場というわけでもない。
地震の速報が流れたのは、仕事が終わった後だった。仕事が終わって、駅に向かって歩いていたら、18時になる前に、そばにいた男性のスマートフォンが大きな音を立て始めた。緊急地震速報だった。私はすぐスマフォを開いた。青森を震源とする最大震度5弱の地震が起きたと速報が流れてきた。津波も来なかった。しかし、すぐ終わった。青森で、鉄道が一時的に止まって、運転を見合わせたが、すぐ再開したらしい。その程度のニュースだった。震源から離れたこの地域の人間がいちいち気にするような話題ではなかった。
未来人が言った通りになった。地震予知は現代の技術では実現していない。しかし、未来人はそれができた。ただ、未来人は予知をしたわけではない。未来人からしてみたら、起こったことを話しただけである。
私は今、駅から降りて自宅に帰る途中のドラッグストアの前にいる。
未来人は歴史の改変が行ったと言った。確かにそう言った。そして、未来人が言っていたことが正しかったとすれば、私が今生きているこの世界は「改変が行われた世界」らしい。何がどう変わったのか、その結果どのように変わったのか、本当に改変がおこなわれたのかどうか、私には確かめようがない。確かめる技術が実現する頃には私は死んでいるはずである。おそらく。1990年に行って、何をしたのか、何を変えたのかはわからない。調べる方法はない。
ただ、改変が行われる前の「本当の世界」とは違うはずである。つまり、私が眺めている風景も、変わっているのかもしれない。もしかしたら、その変化の結果、目の前のドラッグストアは存在しないかもしれない。
世界全体がかわるような、大規模な変化は起こしていないと未来人は言った。しかし、私の人生にも何らかの変化が起きているのかもしれない。そう思った。もしかしたら、いまのように、2階建てのアパートに住みながら、電車に乗って、会社に通う人生を送っていないかもしれない。この街に住んでいないかもしれないと思えてきた。
そして、そもそも、私が存在しないのではないかと考えてしまった。どうやら未来人が改変したことに対して、私の存在は全く関わっていないようである。しかし、その改変の結果、私が誕生したのかもしれない。本当の歴史には私が生まれていない、つまり、存在しないと思えてきた。
そう考えると、目の前にあるものは何なんだろうと思えてきた。
目の前のドラッグストアから出てきて、入り口のそばに並べられている棚に、トイレットペーパーを補充している女性の店員、彼女も存在しないのかもしれない。全く別の人生を送っている可能性もある。
あのボールペンはいまだに拾えていない。家に帰ったら、床の上に落ちているはずである。未来人がやってきた唯一の証拠である。もし拾ったら、未来人がやってきた事実も消えてしまうのではないだろうか。もちろん、他人からしてみたら、証拠にも何にもならない。
私はドラッグストアの壁を見た。その壁の中に、何か入っているのではないだろうか。未来人がやってきて、タイムマシンや現代人には想像もつかないような機械がしまわれているのかもしれないと思った。未来にはそういう技術が実現しているのは確実だからだ。ただ、それも馬鹿げた妄想である。




