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断罪された悪役令嬢ですが、正しい世界を壊してみたら人が助かりました 〜正しさを積み上げても救えなかったので、“間違いを選ぶ”ことにしました〜  作者: 白石アリア


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第7話 祝祭の裏側

 祝祭の準備は、静かに進んでいた。


 誰もが浮き足立っているわけではない。

 むしろ逆だ。


 廊下はいつも通り整えられ、会話も穏やかで、笑顔も自然。

 だが、その“自然さ”が、どこか作られているように見える。


「……妙ね」


 私は窓際に立ち、下庭を見下ろしていた。


 装飾の配置。

 人の流れ。

 使用人の動き。


 すべてが、あまりにも無駄がない。


 まるで――


「舞台装置みたいだ」


 背後から声がした。


 振り返るまでもない。


「同じことを考えていたの?」


「君ほどじゃないけどね」


 カインが肩をすくめる。


「でも、確かに綺麗すぎる」


 “綺麗すぎる”。


 その言葉に、私はわずかに目を細めた。


 そう。


 綺麗すぎるのだ。


 本来、こういう場には必ず“歪み”が出る。


 人は感情で動く。

 焦りや不安が、行動のズレになる。


 だが、今回は違う。


 誰もが。


 まるで。


 決められた通りに動いている。


「……あそこ」


 私は指で一点を示した。


 中庭の端。


 一人の令嬢が、微妙な位置に立っている。


「何?」


 カインが目を細める。


「あの位置、本来は空くはずなのよ」


「どういう意味?」


「動線よ」


 私は淡々と説明する。


「人の流れから考えて、そこは自然に空白になる。なのに、わざわざ一人置かれている」


「へえ」


 カインが小さく笑う。


「気づくの、君くらいじゃない?」


「そうでもないわ」


 私は首を振る。


「気づかないように作られているだけ」


 沈黙。


 カインは、しばらくその令嬢を見ていた。


「……なるほど」


 やがて、ぽつりと呟く。


「確かに、浮いてる」


「でしょう?」


 私は視線を戻す。


 そして、ゆっくりと考える。


 なぜ、あの位置に置かれているのか。


 誰が。


 何のために。


 ――簡単だ。


「見せるためよ」


「何を?」


「“そこにいる”という事実を」


 カインが軽く眉を上げる。


「誰に?」


「全員に」


 私は静かに言った。


「そして、“何かが起きた時に”、すぐ目につく位置」


 沈黙。


 その意味を、カインはすぐに理解した。


「……なるほどね」


 楽しそうに笑う。


「候補か」


「ええ」


 私は頷く。


 候補。


 “選ばれる側”。


 断罪の。


「で?」


 カインが続ける。


「どうする?」


「何が?」


「その子」


 短い問い。


 だが、意味は明確だ。


 放置するか。


 動かすか。


 私は、ほんの一瞬だけ考えた。


 そして。


「……動かすわ」


 そう答えた。


 カインの目が、わずかに輝く。


「へえ」


「ただし」


 私は付け加える。


「完全には助けない」


「中途半端だね」


「いいえ」


 首を振る。


「確認よ」


 この構造が、どこまで固定されているのか。


 それを知るために。


「面白い」


 カインは笑った。


 本当に楽しそうに。


「じゃあ、どうやる?」


「簡単よ」


 私は踵を返す。


「“自然に”位置を変えるだけ」


 その言葉の意味を、彼は理解している。


 だから、何も言わない。


 ただ、ついてくる。


 ――数分後。


「ねえ、あなた」


 私は、その令嬢に声をかけた。


 彼女は驚いたように振り返る。


「リ、リリアーナ様……!」


 動揺が見える。


 当然だ。


 この距離で、私から話しかけることはほとんどない。


「少し、お願いがあるのだけれど」


 穏やかに言う。


 威圧は使わない。


 必要ないから。


「は、はい……!」


「その位置、少しだけずれてくれるかしら」


「え……?」


 戸惑う。


 無理もない。


「動線の問題よ」


 私は軽く説明する。


「この後、人の流れが集中する。ここにいると危ないわ」


「そ、そうなのですか……?」


「ええ」


 迷いなく言う。


 疑わせないために。


 彼女は少し考えた後、頷いた。


「分かりました」


 そして、数歩だけ位置をずらす。


 ほんの少し。


 だが、それで十分だ。


「ありがとう」


 私は微笑む。


 完璧に。


 彼女はほっとしたように頭を下げた。


 何も知らずに。


 何も気づかずに。


 ――これで。


「さて」


 私は元の位置に戻る。


「どうなるかしらね」


「結果待ち?」


 カインが笑う。


「ええ」


 私は静かに頷く。


 そして。


 時間は、進む。


 ゆっくりと。


 確実に。


 ――やがて。


 小さなざわめきが起きた。


「……あれ?」


 誰かの声。


 視線が集まる。


 本来、あの位置にいるはずだった令嬢が、いない。


 代わりに。


 別の位置で。


 別の令嬢が。


 ――“目立っている”。


「……そういうこと」


 私は、ゆっくりと目を細めた。


 理解する。


 完全に。


 これは。


 個人ではない。


 配置だ。


 役割だ。


 誰がそこにいるかは、問題ではない。


 そこに“誰かがいること”が重要なのだ。


「……なるほど」


 カインも気づいたらしい。


 低く呟く。


「入れ替わるだけか」


「ええ」


 私は答える。


「誰でもいいのよ」


 その位置に。


 その役割に。


 当てはまるなら。


「……面白いどころじゃないね」


 カインの声が、少しだけ低くなる。


 珍しい。


 ほんの少しだけ、本気の響き。


「ええ」


 私は同意する。


 そして。


 ゆっくりと息を吐く。


「これは……」


 言葉を選ぶ。


 正確に。


「個人の問題じゃない」


 完全に。


 構造だ。


 逃げ場はない。


 最初から。


 どこにも。


「……ああ」


 カインが、小さく笑う。


「やっぱり来たね」


「何が?」


「“そういう話”」


 軽い言葉。


 だが、その中身は重い。


 私は答えない。


 ただ、前を見る。


 整えられた舞台。


 整えられた人間。


 整えられた役割。


 そして。


 そこに立たされる誰か。


「……ああ」


 小さく、呟く。


 理解した。


 完全に。


「そういう並びなのね」


 最初から。


 すべて。


 決まっている。


 誰が。


 どこで。


 どう動くか。


 ――その中で。


 私は。


 どこに立っているのか。


 まだ。


 分からない。

第7話まで読んでいただきありがとうございます。


ここでようやく、「個人ではなく構造の問題」というのがはっきり見えてきたと思います。


そして主人公も、初めて“流れを読んで動く”ことに成功しました。

ただし、それでも大きな流れは変わらない――というのが今回のポイントです。


次話では、さらに一歩踏み込み、「善意」がどのようにこの構造に組み込まれているのかが描かれます。


もしここまでで少しでも面白いと感じていただけたら、ブックマークして続きを追っていただけると嬉しいです。

感想もとても励みになります。

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