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完璧すぎて断罪された悪役令嬢、間違えることにしたら人が助かりました 〜完璧だった私が、間違いを選んだ理由〜  作者: はねださら


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12/35

第12話 だからこそ、この国は終わる

 誰も、すぐには動かなかった。


 時間が、止まったように感じる。


 視線だけが、私に集まっている。


 疑念。

 困惑。

 そして――恐怖。


 それらが、混ざり合っている。


 だが。


 それでいい。


 むしろ、そのためにここに立っている。


「……リリアーナ」


 王太子の声が、低く響いた。


 先ほどまでとは違う。


 明確に。


 感情が乗っている。


「その発言は、取り消せ」


 命令。


 だが、それは形式ではない。


 本気の。


 “止め”だ。


 私は、わずかに目を細めた。


「なぜですか」


 静かに問う。


「それ以上は、踏み込んではならない領域だ」


 はっきりと。


 断言する。


 その言葉で、理解する。


 ――やはり。


 この男は、知っている。


 すべてではないにしても。


 この構造の一部を。


「……そう」


 私は、小さく頷いた。


「なら、なおさらです」


「リリアーナ」


 声が、強くなる。


 珍しい。


 この男が、ここまで露骨に感情を出すのは。


「やめろ」


 短い言葉。


 だが、その中に込められたものは重い。


 警告。


 懇願。


 そして。


 ――後悔。


 私は、それを見た。


 ほんの一瞬だけ。


 その瞳の奥に。


 だが。


「……いいえ」


 私は、首を振る。


 ゆっくりと。


 はっきりと。


「ここで止まる意味はありません」


 もう、遅い。


 すでに。


 ここまで来ている。


「……どうして」


 今度は、セラフィナだった。


 震える声。


 だが、必死に。


「どうして、そこまで……」


 私は、彼女を見る。


 真っ直ぐに。


 そして。


 ほんの少しだけ。


 優しく。


「あなたは、分からなくていいわ」


 そう言った。


「え……」


「これは」


 私は続ける。


「あなたの役割ではない」


 その言葉に。


 彼女は、何も言えなくなる。


 当然だ。


 これは。


 “正しさ”の話ではない。


 もっと。


 別の。


 深いところの話だ。


「……では」


 王太子が、低く問う。


「お前の役割は何だ」


 いい問いだ。


 私は、少しだけ笑った。


「簡単です」


 そして。


 はっきりと。


「終わらせること」


 沈黙。


 その言葉の意味が、ゆっくりと広がる。


「……何を」


「すべてを」


 短く答える。


 そして。


 一歩。


 前に出る。


 壇上の、中心へ。


 完全に。


 “その位置”へ。


「この構造を」


 私は言う。


「この儀式を」


 さらに。


「この国の、歪みを」


 視線が、揺れる。


 誰もが、感じている。


 何かが。


 取り返しのつかない方向へ進んでいることを。


「……リリアーナ」


 王太子の声。


 今度は、明確に焦りがあった。


「それ以上は――」


「ええ」


 私は遮る。


 穏やかに。


「分かっています」


 そして。


 ほんの少しだけ。


 微笑む。


 完璧に。


 けれど。


 その奥に、別のものを滲ませて。


「だからこそ」


 息を吸う。


 静かに。


 ゆっくりと。


 そして。


 ――言った。


「この国は、終わるのです」


 ――。


 その瞬間。


 空気が、崩れた。


 誰かが息を呑み。


 誰かが声を上げ。


 誰かが一歩、後ずさる。


 静かに保たれていた均衡が。


 音もなく。


 崩れていく。


「……馬鹿な」


「何を言っている……」


「止めろ……!」


 ざわめきが広がる。


 抑えきれない。


 当然だ。


 これは。


 “言ってはいけない言葉”だから。


「……リリアーナ!!」


 王太子が、ついに声を荒げた。


 その声は。


 これまでのどの瞬間よりも、人間らしかった。


「それが何を意味するか、分かっているのか!」


 私は、静かに頷いた。


「ええ」


 すべて。


 理解している。


 その先にあるものも。


 代償も。


 結果も。


「すべて、崩れます」


 秩序も。


 権威も。


 信頼も。


 何もかも。


「だが」


 私は、視線を上げる。


 まっすぐに。


 誰にも逸らさずに。


「それでいい」


 その言葉は。


 強く。


 揺るがなかった。


 沈黙。


 完全な。


 沈黙。


 誰も、動けない。


 誰も、言葉を持たない。


 ただ。


 一つだけ。


 確かなことがある。


 それは。


 ――もう、戻れないということ。


「……ああ」


 カインの声が、背後で聞こえた。


 小さく。


 だが、はっきりと。


「最高だ」


 楽しそうに。


 心から。


「君、本当に壊す気だね」


 私は、答えない。


 ただ。


 静かに立っている。


 中心に。


 その位置に。


 ――最初から用意されていた場所に。


 だが。


 その意味は、もう違う。


 与えられた役割ではない。


 自分で選んだ位置。


「……これで」


 小さく呟く。


「ようやく、始まる」


 終わりではない。


 これは。


 始まりだ。


 すべてが。


 崩れる。


 その先で。


 初めて。


 何かが。


 ――始まる。

第1章、ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。


この物語はここで一区切りですが、「悪役令嬢が断罪される話」はここで終わりません。

むしろここからが本編です。


ここまでの12話はすべて、“何が起きているのか”を理解するための助走です。


次章では舞台が一変し、主人公が「役割の外」に出た世界が描かれます。

そして初めて、“選んだ悪役”として動き始めます。


もし少しでも「続きが見たい」と思っていただけたなら、ブックマークしてもらえるととても嬉しいです。

ここから先は、もっと大きく崩れていきます。

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