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完璧すぎて断罪された悪役令嬢、間違えることにしたら人が助かりました 〜完璧だった私が、間違いを選んだ理由〜  作者: はねださら


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第10話 公開断罪

 空気が、変わる。


 それは音でも、光でもない。


 ただ。


 “圧”だった。


 人の気配が、一斉に収束する。


 ざわめきは消え、笑い声も止まり、すべてが一つの方向へ向く。


 ――壇上。


 そこに、すべての視線が集まっていた。


「……見事ね」


 私は小さく呟く。


 完璧な配置。


 完璧な動線。


 そして。


 完璧な“期待”。


 誰もが知っている。


 これから何が起こるのか。


 それでも。


 誰も、それを“疑わない”。


 それが、この儀式の本質だ。


「緊張してる?」


 隣で、カインが軽く聞く。


「いいえ」


 私は即答する。


「もう終わっているもの」


「……怖いこと言うね」


 彼は笑う。


 だが、視線は前から外さない。


「でも、同意かな」


 同じだ。


 すべて、予定通り。


 ここまでは。


 ――ゆっくりと。


 人が動き始める。


 中央に、道が開く。


 そして。


 その先に、現れる。


 金の髪。


 揺るがない歩み。


 圧倒的な存在感。


 エルドリック・ヴァルディア。


 王太子。


 そして――


 断罪を執行する者。


 誰もが頭を垂れる。


 その中で。


 私は、顔を上げたまま、彼を見る。


 視線が、合う。


 ほんの一瞬。


 だが、それで十分だった。


 ――やはり。


 変わらない。


 その瞳は、冷静で、揺るがない。


 だが。


 ほんのわずかに。


 奥に、何かがある。


 それが何かは、まだ分からない。


 けれど。


 確かにある。


「……始まるわね」


 私は小さく呟く。


 その言葉を合図にしたかのように。


 王太子が、口を開いた。


「本日、この場において――」


 低く、よく通る声。


 すべてを支配する響き。


「リリアーナ・フォン・クラウゼンの行いについて、審議する」


 ざわめきが、広がる。


 だが、それもすぐに収まる。


 誰もが、この流れを知っている。


 だから。


 驚かない。


 ただ。


 “確認する”だけ。


「彼女はこれまで、複数の不正行為を行い、学園の秩序を乱した」


 一つ一つ。


 言葉が積み重なる。


 すべて。


 事実だ。


 否定はしない。


 する必要もない。


「さらに、他の生徒に対し不当な圧力をかけ、排除を行った疑いがある」


 疑い。


 だが、それで十分だ。


 この場では。


 疑いは、事実と同じ意味を持つ。


「これらの行為により――」


 言葉が、続く。


 だが。


 私は、もう聞いていなかった。


 必要な部分は、すでに終わっている。


 ここからは。


 “儀式”だ。


 確認の。


 共有の。


 そして。


 納得の。


 ための。


「……見事ね」


 もう一度、呟く。


 本当に。


 よくできている。


 誰もが納得する形で。


 誰もが疑わない形で。


 結論へと導く。


 ――完璧だ。


「リリアーナ」


 名を呼ばれる。


 私は、一歩前に出る。


 視線が集まる。


 すべてが、私に向く。


 中心。


 まさに、その位置。


「これらの件について、弁明はあるか」


 形式的な問い。


 だが。


 ここが、唯一の分岐点。


 普通なら。


 ここで。


 抗う。


 否定する。


 証明する。


 ――だが。


 私は。


「……」


 一瞬だけ、目を閉じた。


 考える必要はない。


 すでに、決まっている。


 私の中で。


 答えは。


 ずっと前から。


 ――そして。


 目を開ける。


「……いいえ」


 静かに、答える。


 その一言で。


 空気が、わずかに揺れる。


「弁明はいたしません」


 ざわめき。


 小さな動揺。


 だが、それはまだ序章に過ぎない。


「……理由は?」


 王太子が問う。


 私は、わずかに笑った。


「必要がないからです」


 はっきりと。


 迷いなく。


 その言葉に。


 周囲がざわつく。


 予想外。


 想定外。


 ――流れが、少しだけ乱れる。


「……リリアーナ様!」


 その時。


 別の声が響いた。


 セラフィナ。


 彼女が一歩、前に出る。


「違います! 彼女は――」


「セラフィナ」


 王太子が、低く制する。


 だが。


 彼女は止まらない。


「彼女の行動には理由があります! すべてが悪意ではありません!」


 真っ直ぐな言葉。


 迷いのない声。


 その“正しさ”が。


 場に、波紋を広げる。


 ――だが。


 それは。


 逆効果だ。


「……ありがとう」


 私は、静かに言った。


 セラフィナが、こちらを見る。


 驚いたように。


「でも」


 私は続ける。


「必要ないわ」


「……え?」


「その言葉は」


 私は、ゆっくりと首を振る。


「この場には、必要ない」


 沈黙。


 彼女は、言葉を失う。


 当然だ。


 理解できないのだから。


「……リリアーナ」


 王太子が、もう一度名を呼ぶ。


 その声は。


 ほんのわずかに。


 揺れていた。


「最終確認だ」


 低く、しかし確実に。


「すべてを認めるのか」


 ――来た。


 最後の問い。


 そして。


 最後の選択。


 私は。


 ゆっくりと息を吐く。


 そして。


 口を開いた。


「ええ」


 静かに。


 はっきりと。


「私が、悪役令嬢です」


 ――その瞬間。


 空気が、止まった。


 誰もが。


 理解できなかった。


 この選択を。


 この言葉を。


 そして。


 ――その意味を。


「……なぜ」


 誰かが、呟く。


 だが。


 その答えは。


 まだ。


 ここでは。


 語られない。


 私は、ただ。


 静かに立っていた。


 すべての視線を受けながら。


 中心に。


 その位置に。


 ――最初から。


 用意されていた場所に。

第10話まで読んでいただきありがとうございます。


ここでついに断罪が始まり、主人公が“否定せず受け入れる”という選択をしました。


本来であれば逆転や弁明が来る場面で、それをしないことがこの物語の大きな分岐になります。


次話では、この選択の意味が少しずつ明らかになります。

そして、王太子や聖女の反応も大きく動きます。


ここまで読んで続きが気になると思っていただけたら、ブックマークして追っていただけると嬉しいです。

感想もとても励みになります。

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