屈辱の長男 松岡良佑
母がクモ膜下出血で倒れ、天に召された。
この期間内に起きた私への屈辱の物語を、母、松岡睦月(仮名)に捧ぐ。
母が倒れ頭の手術をして、リハビリを始めた頃の話である。
正確な日にちは忘れたが、1回目の緊急手術後のICUに居る期間内の出来事だ。
俺の母は若い。
とは言え、歳は71歳だし、喉や手などには老人性のシワがあるが、顔はとにかく若い。
40代は当然、化粧次第では30代でも通用するかもしれない。
ずいぶん前、母と一緒に昼食に行った時、俺は何か違和感を感じた事がある。
(これ、もしかして夫婦の食事と見られているか?)
そんな風に思ってしまうほど、母が若い、或いは俺が老けているのか。
店員にそんな事を聞けないので答えは分らず終いだったが、とうとうその答えがわかる時が来た。
母が倒れて以来、ICUで治療を受けている。
だから必然的に見舞いはICUに行くのだが、ICUへの入室は原則一人ずつである。
その日は父と俺で行ったのだが、先に俺が入室すると中にいる看護師さんが言った。
「ご主人ですか?」
gosyujindesukaゴシュジンデスカごしゅじんですか……ご主人ですか!?
心の中で瞬間的に言われた事を整理する。
「む、息子、です……」
「あッ!? ご、ごめんなさい! お部屋に案内します!」
衝撃の言葉だったが、これで疑問が確信に変わった。
母との昼食は夫婦に見られていたのだ。
71歳の母の夫に見えるぐらいに老けているのだ。
俺はよろめきながら病室に向かって、意識の無い母に苦情を言った。
「もうちょっと年相応になってよ!?」
なお後で知ったことだが、父も娘の見舞いに来たと勘違いされていたらしい。
病気で倒れてなお恐ろしい母の美貌とでも言うべきで、喜ぶべきなのか、血縁者としては困るべきなのか迷う話であり、どうにも納得ができない話だ――
見ているか母よ!!
長男がこんな侮辱を受けたんだからな!
あの世で小説の応援してくれよな!?




