ふ:✝︎ フルコース
執事の鴨居が、オレに尋ねた。
“今年の誕生日プレゼントは何がよろしいですか?”
オレは考えた。
誕生日に欲しいのは、勿論あの子だ。
あの子と過ごす一日。
あの子の全てを手に入れる一日。
✞ まず、前菜。
両手を括って拘束したあの子の怯える顔。とてもいい。でもそれだけじゃ足りない。
オレは刃渡りの大きなお気に入りのナイフを手にする。
あの子は息を呑むだろう。恐怖に見開かれる瞳。
最高の前菜だ。
✞ 次に、スープ。
オレはあの子が挙げる筈の悲鳴を閉じ込める様に、あの子の口を手で塞ぐ。
それから、ナイフの刃をあの子の肌に押し当てる。少し開かせた胸元にね。
軽く、好きな女の子にそうそう痛い事をしたくはない。
僅かな血が滲む程度でいい。舐め取れるだけの、僅かな血さえ現れる傷であれば。
芳醇なスープを、オレはぺろりとひと舐めする。
✞ 続いて、魚料理。
ここは静かに目の保養。兼、次への下準備。
オレはあの子の服に手を掛ける。暴れようとするあの子の可愛い抵抗が、実に嗜虐心を煽ってくれる。
全部を脱がせてしまうのなんて、あっという間だ。一糸纏わず顕わになった綺麗なあの子の肌に、オレはそっと手を這わす。
初めは威勢よく嫌だとか離してだとか叫んでたのに、羞恥と諦めにあの子はもう震えるだけ。
そういういじらしさが、堪らない。
✞ 口直しの冷菓、ソルベ。
当然甘い唇だ。
あの子の強張った硬い唇が緩む迄。シャーベットは溶けるもの。
あの子の頑なで恥ずかしがり屋の唇も、やがて溶ける。
✞ メインだ。肉料理。
メインだからね。あの子自身をいただこう。
ようやく、待ちに待ったあの子の中に。
全てを味わいながら。
あらゆる感触を。
……ああ、いいね。初めてなんだね。どこで息をすればいいのかも分からないんだ?
ああ、最高だ。最高だよ……。
何度も堪能して。
サラダを食する様に、オレはあの子の甘い肌を食む。隅から隅迄。
ともすれば立てそうになってしまう歯を、頑張ってオレはしまわないと。そこはオレの忍耐が試される。
甘噛み、じゃ済まなくなる事必至だからね。
✞ さあ、デザートが残ってる。
充実した後の、味わい深い甘さに。オレから与えるんじゃなくて、今度はあの子からのご奉仕で。
うん、初めてだろうからね。そこ迄高望みはしないけど。でもさ、もう少し頑張ってみようか。
ああ、歯はたてない様にね。もうちょっと、頑張って奥迄……出来るかな?
今日しかないんだ。出来れば、暖かいあの子の口の中で。
発射に至れたなら、それは正にデザート。
✞ そのまま、最後のコーヒーになだれこもう。
〆のコーヒーには、苦味が欲しい。とびきり熱くて濃いやつが。
オレはそばに置いてたナイフを手に取る。ぐったりしたあの子は、そんなオレの動きなんて見ちゃいないだろう。
オレはあの子の名前を呼ぶ。キスだって何回もしてやろう。
好きだからね。好きだからこその今迄だからさ。
オレはそうして、お気に入りナイフをあの子の目前にかざす。今更脅しなんか、ってあの子はオレを睨むかな。傷付けるつもりなの、って怯えるかな。どっちにしても、可愛い反応だろう。
ああ、それはそれは可愛いらしいだろう。オレの大好きなナイフに映るあの子の姿は。それこそ芸術品の様に。
もうオレは我慢出来ないだろう。あの子の啼く声、あの子の悶える震える身体。
オレは信頼するオレのナイフをあの子の肌にあてがう。一番に活きのいい血を溢れさせる、首筋に。
叫ぶかな。叫んで欲しいな。ナイフを持つ指先に感じる肉の抵抗、途端にいちどに迸る血液、オレは急いで傷口に口を当てて熱い奔流を飲み下す。
やっぱりあの子の叫び声は欲しいところだな。触覚、視覚、味覚、出来れば聴覚も欲しいから。
オレは熱くあの子の中を流れていたそれを、心いく迄堪能する。初めに味わった舐めるだけの僅かな血とは違う。汗を含んだ、「生きた」味。
苦くて、濃くて、でもとびきりに甘い。これこそ食後のコーヒーに相応しい――
……ご馳走さま。
二度と味わえない、一度だけのフルコース。
充分に、あの子を味わい尽くしたよ。
実に、存分に。
想像を切り上げて、オレは執事の鴨居にこう答えた。
“あの子が欲しい”
そして、鴨居は仕事一筋だ。
……ああ、誕生日が待ち遠しい。




