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木枯らしに、君の明日を探した

作者: 緋室井茜音
掲載日:2025/12/04

木枯らしが吹くとき、いつも胸の奥に残していた“言えなかった気持ち”だけが、ふいに呼び起こされる気がします。そんな気持ちで書いてみました。

 チャイムの余韻――

 僕と彼女はいつものように放課後の校門を出た。

 並んで歩く距離も、交わる白い息も、全部変わらないはずなのに――

 

「今日、めちゃくちゃ寒いな」

「木枯らし一号だって。さっきニュースで言ってた」


 そう言うと、彼女はマフラーに顔をうずめて笑った。

 角を曲がる手前、ふいに彼女が立ち止まる。


「ねえ、もしさ。明日、私がいなくなったらどうする?」


 冗談みたいな声だった。だから、ちゃんと聞き返さなかった。


「は? 急に何それ。どっか行くの?」

「……さあ。どうだろうね」

 

 風が強くなって、言葉の続きは木枯らしにさらわれた。


「じゃ、また明日」


 いつもの合図みたいに手を振って、僕らは別れた。その“また明日”が最後になるなんて、思いもしないで。



 翌朝、僕はいつもの角で立ち止まる。息が白くほどけていく。十分過ぎても、彼女は来なかった。

 既読のつかないトーク画面が冷たく光る。

 教室に行くと、彼女の席には誰もいなかった。担任がホームルーム前のざわめきの中で、あっさりと言う。


「えー、昨日付けで三組の春川が転校になりました。家庭の事情だそうです」


 なんでちゃんと聞かなかったんだ。僕の胸の奥で、遅すぎる問いだけが渦を巻く。



 それから僕は、放課後になるたび、あの日と同じ道を歩いている。木枯らしが吹くたび、彼女のマフラーの端と、「ねえ、もしさ」の声を思い出す。

 風が吹く。ポケットの中でスマホを握りしめる。通知のつかないトークルームが、画面の中でじっと沈んでいた。

 言えばよかった。“いなくならないで”って。せめて、“どこ行くの”って。あのとき、風の音より大きな声で。



 冬が深くなったある日、僕は帰り道の角で立ち止まる。あの日と同じように、木枯らしが頬を刺した。

 ひゅう、と風が抜ける。その音に紛れて、聞こえた気がした。


『……本当は、行きたくなんてなかったよ』


 振り返っても、誰もいない。コンビニの看板が、変わらず明滅しているだけだ。

 それでも、その一言だけが、胸のどこかに静かに落ちた。あの日、風にさらわれた続きを、やっと拾えたみたいに。

 “また明日”はもう来ない。彼女の明日は、きっと別の街にある。それでも僕は、木枯らしの吹くたび、この道を少しだけ前を向いて歩こうと思う。



読んでいただきありがとうございます。

なろうデビュー作です。10代-20代の人に読んでもらえたら嬉しいです。

なろうラジオ大賞初めて出します!

よろしくお願いいたします。

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