木枯らしに、君の明日を探した
木枯らしが吹くとき、いつも胸の奥に残していた“言えなかった気持ち”だけが、ふいに呼び起こされる気がします。そんな気持ちで書いてみました。
チャイムの余韻――
僕と彼女はいつものように放課後の校門を出た。
並んで歩く距離も、交わる白い息も、全部変わらないはずなのに――
「今日、めちゃくちゃ寒いな」
「木枯らし一号だって。さっきニュースで言ってた」
そう言うと、彼女はマフラーに顔をうずめて笑った。
角を曲がる手前、ふいに彼女が立ち止まる。
「ねえ、もしさ。明日、私がいなくなったらどうする?」
冗談みたいな声だった。だから、ちゃんと聞き返さなかった。
「は? 急に何それ。どっか行くの?」
「……さあ。どうだろうね」
風が強くなって、言葉の続きは木枯らしにさらわれた。
「じゃ、また明日」
いつもの合図みたいに手を振って、僕らは別れた。その“また明日”が最後になるなんて、思いもしないで。
◆
翌朝、僕はいつもの角で立ち止まる。息が白くほどけていく。十分過ぎても、彼女は来なかった。
既読のつかないトーク画面が冷たく光る。
教室に行くと、彼女の席には誰もいなかった。担任がホームルーム前のざわめきの中で、あっさりと言う。
「えー、昨日付けで三組の春川が転校になりました。家庭の事情だそうです」
なんでちゃんと聞かなかったんだ。僕の胸の奥で、遅すぎる問いだけが渦を巻く。
◆
それから僕は、放課後になるたび、あの日と同じ道を歩いている。木枯らしが吹くたび、彼女のマフラーの端と、「ねえ、もしさ」の声を思い出す。
風が吹く。ポケットの中でスマホを握りしめる。通知のつかないトークルームが、画面の中でじっと沈んでいた。
言えばよかった。“いなくならないで”って。せめて、“どこ行くの”って。あのとき、風の音より大きな声で。
◆
冬が深くなったある日、僕は帰り道の角で立ち止まる。あの日と同じように、木枯らしが頬を刺した。
ひゅう、と風が抜ける。その音に紛れて、聞こえた気がした。
『……本当は、行きたくなんてなかったよ』
振り返っても、誰もいない。コンビニの看板が、変わらず明滅しているだけだ。
それでも、その一言だけが、胸のどこかに静かに落ちた。あの日、風にさらわれた続きを、やっと拾えたみたいに。
“また明日”はもう来ない。彼女の明日は、きっと別の街にある。それでも僕は、木枯らしの吹くたび、この道を少しだけ前を向いて歩こうと思う。
読んでいただきありがとうございます。
なろうデビュー作です。10代-20代の人に読んでもらえたら嬉しいです。
なろうラジオ大賞初めて出します!
よろしくお願いいたします。




