第八話:船上の推論
アークランドの港を出てから、数日が過ぎた。
四人を乗せた船は、熟練の船乗りに導かれ、順調に南へと航路を進んでいた。紺碧の海はどこまでも穏やかで、空には見たこともない鳥が飛び、夜には星々が宝石のように煌めいている。
船上での日々は、意外にも平和だった。ガルムは船乗りたちと腕相撲に興じ、レオンとクラウスは交代で見張りをしながら剣の稽古に励む。そしてコノハは、厨房を借りては釣り上げた珍しい魚を調理し、乗組員全員の胃袋を掴んでいた。
ある日の午後、甲板に集まった四人は、今回の旅の目的である『海竜の涙』について語り合っていた。
「『どんな料理も至高の味に変える』……一体どんなものなんでしょうね?」
手すりに寄りかかり、海を眺めながらコノハが言う。
「私の予想では、きっと究極のお塩か、魔法の万能だし醤油みたいなものだと思うんです!それさえあれば、どんな食材も最高の味に……じゅるり」
想像だけで幸せそうになるコノハを見て、レオンが苦笑する。
「君の発想はいつも食材に行き着くな。私は、古代文明が遺した魔法のアーティファクトの一種ではないかと考えている。味を変えるというのは比喩で、素材の持つ力を最大限に引き出すような効果があるのかもしれない」
「すげえ力が手に入るアイテムかもしれねえな!それを食ったら、俺はもっと強くなれるか!?」
ガルムが筋肉を盛り上がらせながら言うと、クラウスが冷静に口を挟んだ。
「帝国に残るごく僅かな文献によれば、『海の魔力を凝縮した青い結晶体』という記述があった。だが、その生態や入手方法については一切が謎に包まれている。正直、伝説の域を出ない話だと思っていたが……」
クラウスは、ドラゴンと渡り合ったというこの仲間たちとなら、その伝説も現実になるかもしれない、と静かな期待を瞳に宿していた。
「結晶体、ですか……。宝石みたいなら、食べられないかもしれませんね」
コノハが少ししょんぼりすると、ガルムがその背中をばんばんと叩いた。
「まあ、行ってからのお楽しみだ!どんなもんが出てきても、俺たちがぶっ飛ばして手に入れてやるさ!」
「そうですね。まずは、海竜とやらに会わなければ始まりません」
レオンが頷く。四人の間には、これからの冒険への期待と、仲間への信頼が満ちていた。