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私、ただの料理人なんですけど、どうやら世界を救ってしまったらしいです  作者: 時雨
第二部:英雄達は創世のレシピを求める

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閑話休題 その八:英雄たちのささやかな休日


 獣人王国での賑やかな宴を終え、『ラ・キュイジーヌ・シュプリーム号』は次なる目的地ドワーフ王国を目指し、穏やかな海の上を進んでいた。

 戦いの日々から解放され、船の上には久しぶりにゆったりとした時間が流れている。


 その日の午後、甲板でハーブの手入れをしていたアリアが、ふと仲間たちを見回して呟いた。


「――そういえば、皆さん。わたしたちはこうして長い時間を共に過ごしておりますけど、お互いの趣味についてはあまり存じ上げませんわね」


 アリアの唐突な問いに対し、近くで筋トレをしていたガルムが汗を拭いながら答えた。

「趣味だぁ?そんなもん、俺は鍛えることと美味い飯を食うことくらいしかねえぞ!」

「はっはっは!ガルムらしい答えですね!」

レオンが楽しそうに笑った。アリアはそのレオンに微笑みかけた。


「では、レオンさんは何か趣味はおありかしら?」


 レオンは少しだけ考える素振りを見せた。

「そうですね……。やはり、本を読んでいる時が一番落ち着きます。特に、古い歴史書や戦術書はいくら読んでも飽きません」


 レオンの真面目な答えに、ガルムが呆れたように言った。

「うへぇ……。相変わらず堅苦しい趣味だなぁ、お前は。そんな小難しい本ばっかり読んでて楽しいのかよ」

 ガルムの言葉にレオンは少しだけむきになる。

「楽しいですよ?過去の歴史から学ぶことは多い。教養は、騎士にとって剣の腕と同じくらい大事なことなのです」

「その通りだ、ガルム殿」

 ラウンジから顔を出したクラウスも同意した。

「力だけに頼る者は、いつか知恵に足元をすくわれる。歴史がそれを証明している」


「あら、クラウスさんは古文書集めがご趣味でしたわね」

 アリアが思い出したように言う。

「ええ。新しい町に立ち寄るたびに、古本屋を巡るのが何よりの楽しみでしてな」


 クラウスは嬉しそうに語り始めた。そこから話はそれぞれの趣味の話へと広がっていった。

 アリアは竪琴を奏でること。

 シオリは人形の洋服を作ること。

 スミレはもちろんお絵描き。

 そして、コノハは新しいお菓子のレシピを考えること。

 仲間たちは互いの意外な一面を知り、その絆をさらに深めていく。


 そして、最後に話題は福音団のリーダーへと向けられた。

「それで、アイ殿は何かご趣味は?」

 レオンが尋ねる。

 アイはふんと尊大に髪をかき上げた。

「フン。我の趣味を知りたいか愚民どもよ。……良いだろう。特別に教えてやる。我が趣味は深淵のポエムを書きためることと、この身を包むゴシック衣装のデザインである!」


 彼女らしい答えに、仲間たちはくすくすと笑った。

 だが、その中で一人だけガルムが真剣な顔で、彼女のその黒いドレスをじーっと見つめていた。


 そして、彼はぽつりと言ったのだ。

 意外なことに、ガルムが彼女の服を褒めた。

「……なあアイ。お前のその服いつも思うんだけどよ」

「……なんですの、脳筋戦士」

「……その黒いレースの使い方とか腰のリボンの形とか。……なんだか分かんねえけどすげえ格好良いよな」


 ガルムの純粋で真っ直ぐな賞賛の言葉に、アイは完全に予想外のことだったのか一瞬固まった。そして、次の瞬間顔を真っ赤にした。

「なっ……!き、貴様のような脳筋戦士に、わたくしの深淵の美学が分かってたまるものですか!」

 彼女は必死に照れ隠しをした。

 だが、そのあまりにも分かりやすい動揺を親友が見逃すはずもなかった。


 シオリがくすくすと笑いながら、そっと皆に教えてしまう。

「あらあら。アイったら。……本当はすごく嬉しいくせに。……照れ隠しですわ」

「シオリ―――っ!!」

 アイの悲痛な叫びが、船の上に響き渡る。

 仲間たちはその微笑ましい光景に腹を抱えて笑い転げた。


 英雄たちの賑やかな船旅はまだまだ続いていく。


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