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私、ただの料理人なんですけど、どうやら世界を救ってしまったらしいです  作者: 時雨
第二部:英雄達は創世のレシピを求める

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第六話:至高の一皿 vs 深淵の福音団 三本勝負 後編

 二連敗。しかも、どちらも味方のうっかりミスによる自滅。

 リーダーであるアイの顔は青くなっていた。

 レオンの冷静な勝利宣言。

 誰もがこれで勝負は決したと思った。


 だが、アイは諦めなかった。

「ま、待てぃ!」


彼女は苦し紛れに叫んだ。

「……こ、古来より、勝負とは、大将の首を取った方が、勝ちと相場が決まっているであろう!」


「アイ!」

「アイさん!」

シオリとスミレが、その、あまりにも見苦しい言い分に、同時に非難の声を上げた。

「アイ、それはどうなのかしら……?」

「アイさん、ちょっと見苦しいと思うな!」

「う、うるさいわよ!そもそも、貴方たち二人が、ちゃんと勝っていれば、私はこんな恥ずかしいこと言わなくて済んだのよ!!」

 アイは素で叫んでいた。


 彼女は咳払いを一つすると、尊大な態度を取り繕った。

「……と、いうわけで、最終決戦、大将戦といく!この戦いで、わたくしが勝てば、一発逆転、我らの勝利よ!もちろん、殺生は禁止!相手に『降参』と言わせれば、勝ち!それで文句はないわね!」


 その、あまりにも理不尽なルール変更。

 だが、『至高の一皿』のメンバーは、顔を見合わせた。

(……まあ、こうなるだろうとは、思っていた)

彼らはアイの性格を既に見抜いていた。


「さて、どうする?誰が行く?」

 ガルムが、腕を鳴らす。


「相手は、黒の一族、最強クラスの魔法使いだ。一筋縄ではいかんぞ」

クラウスが、分析する。


 レオンは静かに、パーティの本当の意味での「頭脳」に問いかけた。

「コノハさん。あのリーダーの相手は、我々の中では誰が最も適任だと思われますか?」


 コノハはうーん、と少しだけ考えた。

そして、にっこりと完璧な答えを仲間たちに告げた。


「アイさんは、魔法の力も、魔力量も、多分ここにいる誰よりも強いです。だから、戦って勝つのはすごく難しいと思います。」

彼女はまず、相手への敬意を示した。


「でも、アイさんが本当にしたいことは、戦って誰かを力でねじ伏せることじゃないんだと思います。彼女はただ、『闇魔法って、こんなに格好良くて、すごいんだよ!』って、皆に認めてほしいだけなんです。だから……」


 彼女が仲間たちにだけ、そっと、耳打ちした「おもてなし大作戦」。

 それを聞いた仲間たちは、一瞬、きょとんとし、そして、全員が最高の笑顔で頷いた。


 代表として、レオンが一歩前に進み出た。

「よかろう、アイ殿。その勝負、このレオン・クラインが、お受けしよう」


 レオンとアイの、最後の戦いは、壮絶を極めた(ように見えた)。

 アイが、漆黒の雷や闇の剣を次々と放つが、レオンは、ただ、ひたすらに、その全てを盾と剣で完璧に受け流し続ける。


 そして、アイの魔力が尽きかけた、その時。

 後方で、仲間たちがいつの間にか、優雅なティーパーティーの準備を整えていた。

 その、あまりにも美味しそうな焼きたてのスコーンの香りに、アイのお腹が、ぐぅ、と鳴った。


 その瞬間、レオンは剣を収め、騎士の礼をとった。

「……降参だ、アイ殿。あなたの力、見事だった」

「えっ?」


 呆気にとられるアイに、レオンは優雅にティーテーブルを示した。

「あなたの、その偉大なる力に、敬意を表したい。我々流の、最高のおもてなしです。一息つきませんか?」


 アイはその申し出を断れなかった。

 そして、コノハが淹れた完璧な紅茶とスコーンを一口。

「……おい……しい……」


 あまりの美味しさに、彼女は戦いのことなどすっかり忘れて、夢中になっていた。


 その時だった。

「……アイ」

「アイさん」

 シオリとスミレが、呆れたような、しかし、どこか優しい目で彼女を見ていた。


「黙って見てましたけど、完全に誤魔化されてるわよ?」

「ハッ!?」アイは我に返った。

「そ、そうだわ!この勝負、大将のわたくしが勝った(相手が降参した)のだから、コノハには我らのメンバーになって……」


 クラウスが、静かに割って入る。

「待った。ですが、それだと、やはりこちらが二勝しているのに、総合で負けるというのは、論理的におかしい。……良くて、『引き分け』というのが、妥当な落としどころではありませんか?」


スミレが援護射撃をする。

「そ、そうだよ!そもそも、私たちは負けちゃったし、アイさんもちゃんと戦えば勝てそうだったのに、お菓子食べちゃったもんね!」


「くっ……!」

 味方にまで、正論で追い詰められ、アイは顔を真っ赤にした。


「……わ、分かったわよ!今日のところは、引き分け、ということにしておいてあげるわ!」

 彼女は負け惜しみを叫んだ。


「だから、コノハをメンバーにするのは、また今度よ!それと、この『深淵の食材地図』は、渡せないわ!コノハが我らの仲間になった時に、見せてあげる!……その代わり、これをくれてやるわ!」

彼女が、悔し紛れに投げつけてきたのは、非常に希少な魔獣の素材だった。


 こうして、コノハを巡る、長い、長い、勧誘合戦は、『引き分け』という形で、幕を閉じた。

『至高の一皿』は、コノハを守り抜き、ついでに、希少な素材まで手に入れた。


 そして、『深淵の福音団』は、コノハを仲間にすることはできなかったが、美味しいグラタンとスコーンをお腹いっぱい食べることができた。


 ある意味、全員が満足する最高の結末だったのかもしれない。

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