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私、ただの料理人なんですけど、どうやら世界を救ってしまったらしいです  作者: 時雨
第一部:能ある料理人は爪を隠したいけど隠せない

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第二十八話:火山地帯への旅路

 世界樹を救うという壮大な使命を背負い、「至高の一皿」の一行は、エルフの集落にしばしの別れを告げた。最初の目的地は、大陸の東方にそびえる『灼熱の火山群』。そこに眠るという、『火の精霊の祭壇』を目指しての旅路である。


 パーティは五人になっていた。コノハ、レオン、ガルム、クラウス、そして案内役として正式に同行することになったエルフの戦士、アリア。彼女の存在は、この未知の大陸を旅する上で、何よりも心強い羅針盤となった。


「この先、森を抜けると『嘆きの荒野』と呼ばれる岩場に出る。そこから火山地帯までは三日の道のりだ。水場はほとんどない。各自、水筒の残量には常に気を配れ」 


 アリアの的確な指示が飛ぶ。彼女はエデンの自然に関する生き字引であり、食べられる植物、毒を持つ生物、安全な野営地の見つけ方など、その知識は一行の生存率を飛躍的に高めていた。


 旅ではエデンの多様な顔を見せてくれた。生命力に満ちた豊かな森を抜けると、景色は一変し、風化した奇岩が立ち並ぶ荒涼とした大地が広がった。

 昼は灼熱の太陽が照りつけ、夜は凍えるほどに気温が下がる。厳しい環境だったが、一行の雰囲気は明るかった。


「アリアさん、この赤いサボテンは食べられますか?」

「それは『竜の涙』と呼ばれるサボテンだ、コノハ。果肉は水分豊富で甘いが、棘に猛毒がある。私が処理しよう」

アリアが慣れた手つきでサボテンを捌き、コノハがそれを冷たいデザートに変える。ガルムは巨大な岩を担いでトレーニングに励み、レオンとクラウスはアリアからエデンの歴史や地理について熱心に学んでいた。五人の間には、既に強固な信頼関係が築かれつつあった。


 火山地帯が近づくにつれ、空気は熱気を帯び、地面には硫黄の匂いが立ち込めるようになった。そんな時、地響きと共に一体の魔物が姿を現した。

 猪のような姿形だが、その体は黒く冷え固まった溶岩のような皮膚で覆われ、背中からは灼熱の蒸気を噴き出している。火山地帯の固有種、『マグマ・ボア』だ。


「来たか!今日の晩飯!」

 ガルムが真っ先にハルバードを構えて突進する。だが、渾身の一撃はマグマ・ボアの硬い皮膚に甲高い音を立てて弾かれた。


「ちっ、硬えな、こいつ!」

「ガルム、闇雲に攻撃するな!」アリアが叫ぶ。

「奴の弱点は、喉元にある冷却器官だ!そこを狙え!」


 マグマ・ボアが突進してくる。レオンが盾で巧みにその牙を受け流し、体勢を崩した。その一瞬の隙を、クラウスは見逃さない。

氷槍アイスランス!」


 鋭い氷の槍が、マグマ・ボアの喉元に突き刺さる。弱点を突かれた魔物は苦悶の声を上げ、動きが鈍った。

「今だ!」

 アリアの矢と、レオンの剣閃が、同時にその喉元を貫いた。巨体はゆっくりと傾き、やがて動かなくなった。


 見事な連携での勝利。しかし、コノハはその亡骸を真剣な顔で見つめていた。

「このお肉……すごく硬そうです。普通の火で焼いただけでは、ゴムみたいになっちゃいますね。相当な高火力で、一気に火を通さないと……」

彼女の頭の中は、既にこの未知の食材をどう調理するか、そのことでいっぱいだった。


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