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私、ただの料理人なんですけど、どうやら世界を救ってしまったらしいです  作者: 時雨
第一部:能ある料理人は爪を隠したいけど隠せない

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閑話休題 その二:コノハの家族の強さ

 ナンバー2議論が一件落着(?)した、また別の夜。


 一行は、次の目的地である『火の精霊の祭壇』についての情報を、エルフの長老から聞いていた。険しい火山地帯にあるという話を聞き、皆、気を引き締めている。

 そんな中、アリアがふと、純粋な興味からコノハに尋ねた。


「コノハ。あなたは、あれほどの力を持つが、あなたの故郷『オアシス連邦』では、それが普通のことなのか?例えば、あなたの家族も、あなたのように強いのか?」


 その問いに、パーティの全員が聞き耳を立てた。コノハの家族。それは、誰もが興味を持ちつつも、聞くに聞けなかった聖域だった。

 コノハは、うーん、と少し首を傾げた後、あっけらかんと言った。

「どうでしょう?人それぞれですよ。でも、お姉ちゃんなら、たぶん私よりずっと強いですよ?」


 その瞬間、レオンが飲んでいたお茶を噴き出し、ガルムは口に含んだ干し肉を喉に詰まらせ、クラウスは持っていた書物を落とし、アリアは石像のように固まった。


「「「「えええええええええええっ!?」」」」


 四人の驚愕の叫びが、エデンの静かな夜に響き渡った。

「き、君より強い……だと……?」

 レオンが咳き込みながら、信じられないといった表情で聞き返す。


「はい。お姉ちゃんの名前はカエデって言うんですけど」

 コノハは、仲間たちの衝撃など全く意に介さず、にこやかに姉の紹介を始めた。


「まず、魔法なんですけど、光、火、水、風、雷、土の六属性は、全部上級まで使えるんです。それだけじゃなくて、私が使えない闇魔法も、お姉ちゃんは普通に使えるんですよ」

「全属性適性……だと……?それも上級まで……?」

 クラウスが震える声で呟く。それは、千年に一人の天才レベルの話だった。


「それだけじゃないんです。お姉ちゃんの固有魔法は『空間転移テレポート』で、自分が見たことのある場所とか、記憶の中にある場所なら、どこへでも一瞬で行けちゃうんです。便利ですよねー」

「テレポート!?そりゃ反則だろうが!戦いになったら、捕まえることすらできねえじゃねえか!」

 ガルムが頭を抱えて叫ぶ。


「そんなすごいお方が、国でどんな要職に……?さぞかし、騎士団長や魔導師団長として、国を守っておられるのだろうな」

 クラウスが尊敬の念を込めて尋ねると、コノハは少し困ったように笑った。


「いえ、本人は『一生働かずに、不労所得でダラダラ暮らしたい』っていつも言ってるんです。でも、優秀すぎるのが災いして、国の役人に無理やりさせられちゃって。『公務員なら楽だと思ったのに、なんでこんなに激務なんだ!話が違う!』って、この前も手紙で嘆いてました」

「国家戦略級の能力者を、事務仕事で酷使しているというのか!?オアシス連邦の人材活用は、どうなっているんだ……!?」

 クラウスの胃が、キリキリと痛み始めた。


「それにしても、コノハ……。それほど偉大なお姉さんがいて、なぜ君は、自分のことを『強くない』などと謙遜するんだ?君の実力も、十分に規格外だと思うが」レオンが真剣な顔で尋ねる。


「え?だってお姉ちゃんの方が強いですから。それに、お姉ちゃんも言ってましたけど、お父さんとお母さんには、二人とも敵わないと思いますよ」


しん……、と。

焚き火の音だけが響く。四人は、今、自分たちが聞いた言葉を理解できなかった。いや、理解したくなかった。


「……あの、コノハさん」レオンがおそるおそる尋ねる。「今、なんと言いましたか……?」

「ですから、お父さんとお母さんの方が、もっと強いってことです」


 コノハは、まるで「1+1は2ですよ」とでも言うかのように、平然と繰り返した。


「お父さんの固有魔法は『隠密』で、完全に姿と気配を消せるんです。お母さんの固有魔法は『未来予知』で、未来が見えるんですよ。だから、二人に攻撃を当てるのは、多分無理だと思います」


「お、隠密と、未来予知……」

アリアの顔から、血の気が引いていく。それは、暗殺者と預言者の、神がかった組み合わせだった。


「あ、そういえば、二人が若い頃、伝説の白金級冒険者だったって、私が旅に出る前に、お酒の勢いでうっかり白状してましたっけ」

 コノハが、とどめの一言を放った。


 ガルムは、口をあんぐりと開けたまま、完全にフリーズしている。

 クラウスは、額を押さえてぶつぶつと呟き始めた。「白金級冒険者夫婦……その娘が、全属性+空間転移と、治癒+バリア+万能魔法……?これはもう、一つの王家、いや、神々の血筋なのでは……?私の歴史知識が、根底から覆される……」

 アリアは、ただただ遠い目をして、夜空の星を見つめていた。


 仲間たちが魂の抜け殻のようになっている中、当のコノハは、一人だけ満足げに頷いていた。

「まあ、でも、料理の腕なら、私が家族の中で一番ですよ!そこだけは、自信あります!」


 その誇らしげな一言が、ようやく四人を現実へと引き戻した。

 もう、駄目だ。この少女の物差しの基準は、我々が生きる世界のものとは、根本的に違うのだ。そう、全員が悟った。


「さあ、皆さん!お夜食の第二弾、熱々の焼きリンゴに、特製のカスタードソースをかけたものですよー!どうぞ!」

 差し出された甘くて美味しいデザートを、四人は無心で食べた。


 コノハ・シズキという存在の、その計り知れない背景について考えるのは、もうやめよう。ただ、彼女が作る美味しいご飯を食べていればきっと幸せなのだ。

四人の心は一つになっていた。



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