第二話:初任務と実力の片鱗
受付の女性がすごく上機嫌な様子で説明をする。
「ランクは最初は鉄級からになります。その後、実力に応じて銅級、銀級、金級、白金級と昇格していきます。黒曜の民の方ならすぐに銀級、もしかしたら金級になれるかもしれませんね!」
「コノハさんは治癒の魔法を使えるのですね?!治癒魔法を使える方はなかなかいらっしゃらないので重宝されますよ!」
「いえ、そんなにランクは上がらなくても……」
登録を終えたコノハに、レオンが声をかけた。
「レオンさん、もしよろしければ、私の依頼を手伝っていただけませんか?簡単な薬草採取の依頼なのですが」
「わかりました。コノハさんはここに来たばかりですもんね。私で良ければお手伝いしますよ。」
二人は早速ギルドの掲示板で依頼を受け、近くの森へと向かった。
森に向かう道中、コノハが話しかける。
「そういえばレオンさんのランクはなんですか?」
「私は銀級ですよ。元々は帝国で騎士をしていましたが、今は諸事情で冒険者をしています。」
「なるほど。色々事情はありますもんね!」
「詳細を訊かないでくださるのは助かります。」
森に入ると、コノハは水を得た魚のようだった。
「あ、これは『月光草』ですね。解熱作用があります。こっちの『太陽茸』は滋養強壮に。少し手を加えれば、もっと効果の高い薬になりますよ」
腰の短刀を抜き、慣れた手つきで次々と薬草を採取していく。その知識の深さと手際の良さに、レオンは舌を巻いた。
「コノハさんは薬草に詳しいのですね?」
「はい!薬膳料理によく使いますので!」
「そうなのですね……?」
レオンはよくわかってない様子。
昼食には、コノハが持参した食材と森で採れたキノコで手早くスープを作ってくれたが、その味はレオンが今まで食べたどんな料理よりも美味しかった。
「美味しいですね……。それに疲れが吹き飛ぶような、活力が湧くような不思議な感覚があります。あなたは本当に何者なんですか……?」
「私は料理人ですよ!お口に合ったようで何よりです!」
にっこりと笑うコノハに、レオンはただ感心するばかりだった。
ここでレオンは気になっていたことを質問する。
「薬膳料理とはこういうものなのですね。故郷ではお店を経営されていたのですか?」
「えっ?私は両親と住んでいましたけどお店はやってませんよ?ただ料理が好きなだけですよ。」
「家庭料理でこのレベルのものが出てくるとは……」
レオンは驚いてばかりだった。
ギルドに戻り、依頼完了の報告をしていると、不意に屈強な大男が近づいてきた。
「よう、そこの嬢ちゃん。あんた、黒曜の民だろ?」
赤髪短髪に緑の瞳。身長は190センチはあろうかという巨漢で、背中には巨大なハルバードを背負っている。
「黒曜の民が強いってのは有名な話だ。俺はガルム。ウルク連邦から来た。俺と組んで、いっちょデカいのを狩りに行かねえか?」
初対面にもかかわらず、ガルムは豪快に笑う。
「いえ、私はそんなに強くないですよ?」
コノハが謙遜すると、レオンが間に割って入った。
「ガルム、彼女は新人だ。それに見世物ではないぞ。」
「いいじゃねえか、減るもんじゃなし!ちょうどそこにブラッディウルフの群れの討伐依頼がある。腕試しにはもってこいだろ!」
ガルムは強引に依頼書を掴み、半ば無理やり二人を巻き込む形になった。
レオンはため息をつき、「仕方ないですね……コノハさん、申し訳ないのですが、手伝ってもらえますか?」と尋ねた。
「はい、いいですよ!ブラッディウルフなら良い毛皮になりそうですね!」
コノハはニコニコしながら笑顔で快諾した。
レオンは彼女の発言に違和感を感じたが、特に何も言わなかった。
道中、コノハはレオンにした質問と同じことをガルムに訊く。
「ガルムさんのランクは高いのですか?」
「ん?俺は銀級だ!すぐに白金級になるからな!」
「彼は私と同じですね。何かあったら私がコノハさんを守りますよ。」
「レオンさんありがとうございます!」
森の奥、狼の群れはすぐに見つかった。
「行くぞ!」
ガルムが雄叫びを上げて突撃し、ハルバードを嵐のように振り回す。レオンも盾で的確に攻撃を防ぎながら、剣で着実に数を減らしていく。二人の銀級冒険者の実力は確かだった。コノハは後方で、負傷した二人に回復魔法をかけながら戦況を見守っていた。
その時だった。茂みの中から、一際大きな銀色の狼――ブラッディウルフの親玉であるシルバーウルフが、コノハ目がけて一直線に飛び出してきた。
「コノハさん、危ない!」
レオンの叫びが響く。レオンとガルムの立ち位置からは距離があり、とても間に合う距離では無かった。
しかし、コノハは驚きつつも、その動きは冷静そのものだった。
シルバーウルフの爪がコノハの顔に迫るが、ひらりとかわして奇襲を避ける。その直後にコノハ右手を前に出し、眩い光が手の平に集束する。
「光よ!」
強力な光魔法がシルバーウルフの目を眩ませ、一瞬動きが止まる。
その隙を逃さず、コノハは次の詠唱を完了させていた。
「穿て、雷!」
一条の雷がシルバーウルフを直撃し、黒焦げになった巨体が地面に倒れ伏す。
まだ息のあるのを確認すると、コノハは素早く駆け寄り、腰の短刀を抜き放つと、躊躇なくその急所に突き立てた。あまりにも速く、正確で、無駄のない一連の動きだった。
あっけにとられて固まっていたレオンとガルムは、我に返って顔を見合わせた。
「……おい、見たか今の?」
「ええ、恐ろしく速く、正確に仕留めましたね。もしかしたら私たち二人よりも、強いのでは……?」
「ああ、俺も勝てる気がしねえ……」
当のコノハはというと、そんな二人の様子にも気づかず、にこやかに手を振っていた。
「あー、ビックリしました!あ、レオンさん、ガルムさん!親玉を狩りましたので、解体して素材にしましょう!」
ギルドへの報告は、当然ながら驚きをもって迎えられた。
「みなさん、速かったですね!」と受付の女性が言うと、レオンが力なく答える。
「コノハさんがあっさり親玉を倒したからですね……」
「えっ?私は大したことしてませんよ?ああいった急襲してくる魔物は、故郷には多いですから!」
悪びれもなく言うコノハに、レオンとガルムはもはや言葉もなかった。
二人は受付の女性に頼み込み、ギルドマスターへの推薦状を書いた。二人の銀級冒険者からの強い推薦があり、コノハは特例として鉄級から銅級へと昇格することになった。
登録初日からいきなり銅級になったこと黒髪の少女はこれから有名人になっていく。