第十九話:古海図が示す先
すっかり自分たちの城となった『ラ・キュイジーヌ・シュプリーム号』の船長室で、一行は今後の進路について話し合っていた。
「海竜の涙は手に入れたし、海賊も退治した。さて、次は何をしようか」
ガルムが腕を組む。
その時、クラウスが一枚の古びた羊皮紙をテーブルに広げた。
「海賊王ヴォルフガングの部屋から押収した資料の中に、こんなものが混じっていた」
それは、既存のどの地図とも異なる、未知の海域が描かれた海図だった。そして、その中央には、巨大な大陸が描かれている。
古代文字で、こう記されていた。
『エデン――万物の始まりの地』
「エデン……始祖の地……」
レオンが息を呑む。
その言葉に、誰よりも早く反応したのはコノハだった。
「始祖の地!きっと、まだ誰も食べたことのない、伝説の食材や、神話の時代の生き物がいるに違いありません!行きましょう!エデンへ!」
彼女の瞳は、これまでにないほど爛々と輝いていた。
未知の大陸、伝説の食材。その響きは、他の三人の冒険心にも火をつけた。
「面白そうだ。誰も見たことのない大陸か」
「真実かどうか、この目で確かめてみる価値はあるな」
「ええ、行きましょう。我々の船で」
全員の意見が一致した。次の目的地は、古海図が示す、遥か彼方の大陸『エデン』に決まった。
出航の日。ポルト・ソレイユの港は、前回を上回る数の人々で埋め尽くされていた。彼らは、英雄たちの新たなる旅立ちを、心からの感謝と共に見送りに来たのだ。
ギルドマスターが、大きく手を振っている。牢の中から、ヴォルフガングも静かにこちらを見つめていた。彼は罪を償った後、帝国に戻り、国を正すために戦うことを決めたという。
「錨を上げろ!帆を張れ!」
船長役のレオンが、高らかに号令をかける。
生まれ変わった『ラ・キュイジーヌ・シュプリーム号』は、人々の歓声を浴びながら、ゆっくりと港を離れていく。
甲板に立つ四人の胸には、新たな冒険への希望が満ち溢れていた。
「皆さん、お腹は空いていませんか?エデンに着くまでの間も、最高の料理をお作りしますからね!」
コノハが満面の笑みで振り返る。
その笑顔に、仲間たちも笑みを返した。
どんな困難が待ち受けていようと、この仲間と、この船と、そして最高の料理があれば、乗り越えられないものはない。
『至高の一皿』を乗せた白亜の船は、太陽の光を浴びて輝きながら、誰も見たことのない、新たなる大海原へとその帆を向けた。




