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私、ただの料理人なんですけど、どうやら世界を救ってしまったらしいです  作者: 時雨
第一部:能ある料理人は爪を隠したいけど隠せない

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第十七話:深淵の首領

 船長室の重厚な扉を蹴破ると、そこには一人の大男が、玉座のような椅子に悠然と腰かけていた。齢五十がらみ、顔には深い傷跡が刻まれ、その眼光は百戦錬磨の戦士だけが持つ鋭さを宿している。全身を、黒光りする無骨な魔導鎧で固めていた。



「ようやく来たか、招かれざる客よ。ギルドが送り込んだ犬にしては、骨がありそうだ」

 男はゆっくりと立ち上がる。その体躯はガルムにも劣らない。


「貴方が『深淵の牙』の首領か」

 レオンが剣を構える。


 男は鼻で笑った。「いかにも。俺は"鉄腕"のヴォルフガング。貴様らのような若造に、我が牙城を荒らされて黙っているほど、耄碌してはいない」


 クラウスが、その名を聞いて目を見開いた。

「"鉄腕"のヴォルフガング……!?まさか、あの帝国海軍北方艦隊の元提督……!貴方は十年前、軍の機密を敵国に売り渡した罪で処刑されたはず……!」


「ふん、詳しいじゃないか、坊主。その制服、帝国の騎士か。俺は売ってなどいない。軍上層部の腐敗を告発しようとして、逆にハメられただけだ。帝国と世界に絶望し、俺は俺のやり方で生きることを決めた。それが海賊という道だっただけの話よ」


 ヴォルフガングの言葉には、深い絶望と諦念が滲んでいた。


「問答無用!」

 ガルムが突進するが、ヴォルフガングは巨大な体躯に似合わぬ俊敏さでそれをかわし、魔導鎧の腕でガルムを殴り飛ばした。


「ぐっ……!なんてパワーだ!」

「俺の『リヴァイアサン』は、ただの鎧ではない。喰らった魔力を力に変換する、ドワーフ製の逸品だ!」

 ヴォルフガングは一人で、レオンとクラウスの猛攻さえも捌き切る。その実力は、これまで出会った誰よりも強大だった。


「彼の鎧、胸部の魔石が動力炉のようだ!そこを狙う!」

クラウスが叫ぶ。

「コノハさん!」

「はい!」


 コノハがヴォルフガングの足元にバリアを展開して一瞬動きを封じる。そのコンマ数秒の隙を、レオンは見逃さなかった。


「はあああっ!」

 渾身の突きが、魔導鎧の胸部装甲に突き刺さる。しかし、硬い装甲に阻まれ、魔石までは届かない。

「甘い!」

 ヴォルフガングがレオンを弾き飛ばそうとした、その時。


「――まだです」

 クラウスが、ヴォルフガングの背後に回り込んでいた。


「ヴォルフガング提督。私の父、アレクサンダー・フォン・リンドバーグをご記憶か」

「リンドバーグ……?ああ、あの石頭の憲兵総監か。奴も俺を陥れた一人だったな」


「違う!」クラウスが叫ぶ。

「父は、あなたの無実を信じ、最後まで調査を続けていた!そして、そのために軍の上層部に疎まれ、不審な死を遂げた!私は、父の遺志を継いで、帝国の闇を正すためにここにいる!」


 クラウスの魂の叫びに、ヴォルフガングの動きが一瞬止まった。


 その隙を、レオンとガルムが逃すはずがない。二人の渾身の一撃が、再び魔導鎧の胸部を捉え、ついに魔石に深い亀裂が入った。魔力を失った鎧が、けたたましい音を立てて機能を停止する。


「……そうか。アレクサンダーが……」

 ヴォルフガングは、もはや抵抗しなかった。彼は膝をつき、天を仰いだ。

「帝国には腐りきってはいなかった、というわけか……」

 彼は静かに両手を差し出し、捕縛に応じた。長きにわたる深淵の支配は、こうして終わりを告げた。



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