第十六話:電光石火の急襲
夜の闇と深い霧が、最強の隠れ蓑となった。
一行は小舟に乗り移り、音もなく海賊船団へと近づいていく。一番大きな旗艦――『アビス・クラーケン』と船首に刻まれた船が、彼らの最初の目標だった。
「まず、船上の見張りを無力化します」
小声で指示を出すレオン。ロープを巧みに使い、四人は次々と甲板へと侵入した。
退屈そうにあくびをしていた見張りの背後に、影のように忍び寄る。レオンとクラウスが寸分違わぬ動きで首筋に手刀を叩き込み、音もなく昏倒させた。
「よし、次は船内にいる連中です」
コノハが懐から小さな香炉を取り出し、中に特殊な薬草を入れると、ふぅっと息を吹きかけた。無色透明で、ほとんど匂いのしない煙が、船室の換気口からゆっくりと流れ込んでいく。
「これは、吸い込むと泥のように眠くなるお香です。故郷では、興奮した動物を落ち着かせるのに使うんですよ」
やがて、船内から聞こえていた騒がしい声やいびきが、ぴたりと止んだ。
「効果てきめん、だな」
ガルムが感心する。一行は船内へと踏み込み、眠りこけている海賊たちを手際よくロープで縛り上げていく。作戦は順調に進んでいるかに見えた。
しかし、洞窟の奥に停泊していた別の船の見張りが、偶然アビス・クラーケン号の異変に気付いた。
「て、敵襲だァーッ!起きろ、てめえら!」
けたたましい鐘の音が、洞窟内に響き渡る。
眠っていた海賊たちが、次々と目を覚まし、武器を手に甲板へと飛び出してきた。
「ちっ、気づかれたか!」
「仕方ありません!ここからは力尽くです!」
レオンの号令と共に、四人は戦闘態勢に入った。
「うおおおっ!」
ガルムがハルバードを振り回し、甲板に殺到する海賊たちをまとめて吹き飛ばす。狭い船上は、彼の独壇場だった。
「邪魔だ、どきな!」
「ぐわああ!」
レオンとクラウスは、船のマストやロープを利用して立体的に立ち回り、的確な剣技で敵の武器だけを弾き飛ばし、無力化していく。
「コノハさん、援護を!」
「はい!」
コノハは後方で回復魔法を使いつつ、敵の足元に土魔法で落とし穴を作ったり、水魔法で甲板を凍らせて転ばせたりと、多彩な魔法で戦場をかく乱する。
彼女の支援は、単なる回復に留まらず、戦局そのものを有利に導いていた。
パーティの連携は完璧だった。まるで一つの生き物のように動き、圧倒的な実力差で海賊たちを制圧していく。
「な、なんだこいつら……化け物か……!」
海賊たちは戦意を喪失し、武器を捨てて降伏し始めた。
「残るは、船長室の大将首だけだな」
ガルムがアビス・クラーケン号の最も豪華な扉を睨みつけた。




