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私、ただの料理人なんですけど、どうやら世界を救ってしまったらしいです  作者: 時雨
第一部:能ある料理人は爪を隠したいけど隠せない

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第十五話:霧の海、牙の巣窟

 依頼を受諾してから数日後。


 海竜の素材の査定はまだ終わらないが、一行は既に出航の準備を終えていた。ギルドが総力を挙げて用意したのは、海軍でも使われている最新鋭の高速船だった。


 ポルト・ソレイユの港は、彼らの出航を見送る人々でごった返していた。海竜を倒し、今度は忌まわしき海賊の討伐に向かうという一行は、既にこの街の英雄だった。


「コノハさん、頑張ってー!」

「海の英雄、万歳!」

 歓声に送られ、一行は船に乗り込む。


「すごい熱気ですね」

「当然だ。街の皆の期待を背負っているんだからな」

レオンとクラウスが感慨深げに話す隣で、ガルムは「早く暴れたいぜ!」と拳を握りしめている。


 そしてコノハは、水平線の彼方を見つめ、期待に胸を膨らませていた。

(霧の諸島……霧が深いということは、湿気を好む珍しいキノコがたくさん生えているかもしれませんね。海賊の食料庫も楽しみです……!)


 それぞれの決意(と食欲)を胸に、四人の英雄は新たな航海へと旅立つ。

 船がゆっくりと港を離れ、太陽の光が降り注ぐ広大な海原へと進みだす。


 目指すは、霧に閉ざされた海賊たちの巣窟。

「至高の一皿」の次なる食卓は、一体どんな味なのだろうか。物語は、新たな波乱の海へと舵を切った。



 ポルト・ソレイユの喧騒を背に、ギルドが用意した最新鋭の高速船は、一路『霧の諸島』を目指していた。甲板では、「至高の一皿」のメンバーたちが、海図を囲んで最後の作戦会議を開いている。


「ギルドの情報によれば、『霧の諸島』は一年中深い霧に覆われ、無数の岩礁が迷路のように入り組んでいる。視界が悪い上に潮流も複雑で、並の船では近づくことすらできない、と」


 クラウスが、指で海図上の危険地帯をなぞりながら説明する。

「つまり、奴らにとっては天然の要塞というわけか。真正面から突っ込んでも、岩礁の餌食になるのがオチだな」

 ガルムが唸る。


「霧を利用しましょう」

 静かに聞いていたレオンが口を開いた。

「我々が乗っているのは海軍の高速船。小回りが利きます。霧に紛れて岩礁地帯を突破し、夜陰に乗じてアジトに潜入する。電光石火の急襲こそが最善手です。」


「だが、その霧の中でどうやってアジトの位置を正確に探る?下手に動き回れば、こちらの存在を知らせるだけだ」

 クラウスの的確な指摘に、レオンが少し考え込む。その時、コノハが「あのー」と遠慮がちに手を挙げた。


「私、少しだけ風の魔法も使えるんです。船の周りの風の流れを読んで、空気のよどんでいる場所…つまり、大きな洞窟や入り江がある場所を探せるかもしれません。あと、故郷には霧の中でも香りで獲物を見つける獣がいましたから、その原理で……」


「香りで?」

「はい。敵意とか、血の匂いとか、そういう『悪い匂い』を辿るんです。私の鼻、結構利くんですよ?」


 にこりと笑うコノハに、三人は顔を見合わせた。彼女の突拍子もない提案は、いつだって彼らの常識を超えてくる。だが、その規格外の感覚こそが、幾度も彼らの窮地を救ってきた。


「……試す価値はありそうだな」

クラウスが最初に頷き、レオンとガルムも同意した。


 数日後、船は目的の海域に到達した。そこは、まるで世界から色が失われたかのような、乳白色の霧に支配された世界だった。視界は数メートル先も覚束ず、不気味な岩礁が、亡霊のように霧の中から時折姿を現す。


「コノハさん、お願いできますか?」

 レオンの言葉に、コノハは甲板の先端に立ち、深く目を閉じた。集中すると、彼女の長い黒髪がふわりと風に舞う。


「……こっちです。風が、大きな岩にぶつかって渦を巻いています。そして……鉄と、お酒と、汗の匂い。たくさんの人がいる匂いがします」


 コノハが指さす方向へ、船は慎重に進路を取る。彼女の驚異的なナビゲーションにより、高速船は複雑な岩礁地帯を縫うように進み、やがて巨大な岩山に穿たれた、巨大な洞窟の入り口を発見した。


 洞窟の中には、ドクロの旗を掲げた数隻の海賊船が停泊しているのが見えた。間違いなく、ここが『深淵の牙』のアジトだ。


「見つけたな。今夜、決着をつける」

 レオンの瞳に闘志の炎が宿った。

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