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私、ただの料理人なんですけど、どうやら世界を救ってしまったらしいです  作者: 時雨
第一部:能ある料理人は爪を隠したいけど隠せない

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第十二話:太陽の港と新たな波紋

 数日間の航海の末、一行の船はついに南の大陸が見える場所までたどり着いた。

遠くに見えるのは、白い壁とオレンジ色の屋根が陽光に輝く、美しい港町だった。


「あれが、南大陸最大の交易都市、『ポルト・ソレイユ』だ」

 船長が指さす先には、活気に満ちた巨大な港が広がっていた。


 無事に港へ着くと、一行は多大な感謝と共に船長たちと別れ、まずは情報収集と休息のために街へと足を踏み入れた。


 ポルト・ソレイユは、様々な人種が行き交う陽気な街だった。見たこともない果物や香辛料の匂いが漂い、開放的な服装の人々が明るい音楽に合わせて踊っている。


「わあ……!ここにも美味しそうなものがたくさんありそうです!」

 コノハの目は、早速露店に並ぶ料理に釘付けだ。


「まずはギルドの支部を探そう。我々が持ち帰った素材をどうするか、相談しなければ」

 レオンが一行を促す。海竜の肉はほとんど船で消費してしまったが、それでも山のように残った鱗、牙、骨、そして何よりも『海竜の涙』は、個人で管理するにはあまりにも価値が高すぎた。


 ポルト・ソレイユのギルド支部は、街の中心部にあった。一行が中に入り、受付で海竜の素材の査定を依頼すると、最初は気だるげに対応していた受付嬢の顔が、素材の一部を見せた途端に凍りついた。


「こ、これは……まさか……!ギルドマスター!ギルドマスターをお呼びして!」

 支部内が瞬く間に騒然となる。奥から出てきた恰幅の良いギルドマスターは、素材を一目見るなり、震える手で鑑定用のルーペを構えた。 


「本物だ……伝説の海竜の素材に間違いない……。これほどのものは、この支部では査定しきれん!本部への照会が必要だ!」


 その価値は、金級冒険者のパーティが一生かかっても稼げないほどの金額になるだろう、とギルドマスターは言う。正式な査定と換金には数日かかるため、一行は街で待つことになった。


 その日の夕方。

 宿屋に戻るため、人通りの少なくなった裏路地を歩いていた時だった。

クラウスが、ふと足を止めた。


「……気をつけろ。つけられている」

 彼の鋭い一言に、全員に緊張が走る。

 言われてみれば、ギルドを出てからずっと、複数の粘つくような視線を感じていた。海竜の素材という、途方もないお宝の話は、彼らが思うよりもずっと速く、街のハイエナたちの耳に届いてしまったらしい。


 角を曲がった瞬間、前後を屈強な男たちに塞がれた。その目には、あからさまな強欲が浮かんでいる。


「よう、兄ちゃんたち。いいモン持ってるんだってな?穏便に済ませたいなら、それを置いていきな」

 リーダー格の男が、下卑た笑みを浮かべる。


 レオンは静かに剣の柄に手をかけ、ガルムは好戦的に口の端を吊り上げた。

「やれやれ、どこの世界にも面倒な輩はいるものだな」


 クラウスは冷静に敵の数を分析する。

 そしてコノハは、そんな物騒な雰囲気の中、一人だけ違うことを考えていた。


「……皆さん、お腹が空きませんか?夕食の前に、少しだけ運動するのもいいかもしれませんね」

 そう言って、彼女は腰の短刀にそっと手を添えた。


 太陽の港に、新たな波紋が広がり始めていた。それは、これから始まる騒動のほんの序曲に過ぎなかった。

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